世界は変わりつつある。最初の変化はどこに現れるのか。社会か、経済か。しかし詩の想念こそがそれをいち早く捉え得る。直観によって。今、出現しているものはわずかだが、見紛うことはない。Currency。時の流れがかたちづくる、自然そのものに似た想念の流れ。抽象であり具象であるもの。詩でしか捉え得ない流れをもって、世界の見方を創出する。小原眞紀子の新・連作詩篇。
by 小原眞紀子
回
其方らに教える
最も重要なことは
回ること
ゆっくりと
ときに素早く
猫を真似て
回るときには
中心を見る
空虚で詰まった
心のありか
さもなくば
四つの角を踏み
顔つきを変えてゆく
上がって横ばい
ロープを伝って
片足で立つ
下がって横ばい
ロープを滑って
坐り込む
次に重要なことは
待つこと
花が萎み
ほろほろ落ち
季節がめぐり
鳥が鳴き
また花開くまで
待ちつづける
ただ待つことなく
鳥とともに
果実をつつく
ときどき振り返る
忘れることはない
もう一つ
実をむすぶまで
それは君にあげよう
構いはしない
実が一つむすぶ間には
十も二十も成る
僕んちの裏山に
三つ目に重要なことは
感じること
兆してきた影を
ふと横切る湿った風を
見過ごせばすなわち
黒雲がわき
大雨になる
濡れながら空を見て
口を開けて雨をうけ
感じること
微かな光を
遠雷と思うか
白い晴れ間と見るか
それともあなたが
微笑んだのか
感じれば記憶となり
事実として積もる
感じなければ起きない
何事も
実に成らない
四つ目に重要なことは
待たないこと
機会を
影の兆しを
光の訪れを
あなたを
待ちながら柱に
自ら縛られて
時の歌声にさらされる
老人のごとく
耳は遠くなり
目はかすむ
若い者ほど待ちたがる
待ちながら柱に
背を刻んで
何を期待する
誰もお前など
あてにしないものを
歳を経たところで
つける薬はないものを
最後に重要なことは
抜けること
めぐる季節から
足を抜き
もはやぐるぐる回らない
猫は鼠を
犬は猫を
少女は猫を
男は少女を
追っかけるのを
眺めている
ぐるぐるめぐる
中心で
自分の尻尾をくわえてる
くわえてるのは鰯の頭
並んでいるのは其方らの頭
重要なことは
抜けていく
頭から尻尾へ
左右に首を振りながら
* 連作詩篇『Currency』は毎月09日に更新されます。
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