https://www.youtube.com/channel/UClb7Z9Bc3nBpawctMmJqfvw
子供の憧れの職業は、たしかに時代を示唆する。少し前に、女の子の憧れの職業が看護婦や保母さんからキャパ嬢になったと聞いたときには世も末だと思った。が、医療や保育の現場の3Kぶりが実際以上に喧伝されれば、子供の方でもそれを受けとめた、というメッセージを出す。またそれを大人が喜ぶことを知っている。キャパ嬢になりたいも、かつてのスチュワーデスになりたいも、大人の無意識の羨望が言わせている。
だから憧れの職業などというのは喧伝の賜物で、何も驚くような変化はないのかもしれない。YouTuberになりたい、という若いコはつまり芸能人になりたいと思っていた層が変化したものだが、彼らの考えるYouTuberがYouTubeというメディアの本質を体現しているかどうかは別だ。新しくなった芸能人が体現するものは、新しくなったテレビに過ぎないかもしれない。
しかしYouTuberになりたい、というセリフに、芸能人になりたい、という言葉にはない異和感を覚えるのは、作家になりたい、というのに似ている。小説を書きたい、ならわかるが、作家になりたい、とは作家らしい風情を背負って歩く芸能人になりたい、というのと変わらない。若いコがテレビを観なくなっているのは知っているが、YouTuberと呼ばれる芸能人をぼんやり眺めて憧れているなら、やはり新しいことは何もない。
わたしはテレビを観る年寄りほどヒマではなく、さらに若いコほどもヒマでないので、YouTubeの登録チャンネルは明確な情報系になるが、同じテーマで山ほどあるチャンネルの優劣を決めるのは意外にも〝文学的価値観〟に拠っていい気がする。すなわち〝覚悟〟である。ただ録画ボタンを押して、好き勝手喋ってもYouTubeにアップすればYouTuberなのだから、当然といえば当然だが。
アンゴロウちゃん=アンゴロウ暗号資産研究ちゃんねるは、目下イチオシでお気に入りのYouTubeチャンネルだ。覚悟がどうとかは後付けで、観ていて気持ちがいい。もちろん文学金魚の連載エッセイ「詩人のための投資術」の参考チャンネルでもある。ロボットのアニメのアンゴロウは可愛くて、ときどき吹き出すようなおかしなことを言う。が、情報の分析は冷静、話し方もあくまで抑制がきいている。
顔の見えない主はSEだそうだけれど、デザインのセンスも抜群である。暗号資産(仮想通貨)はフィンテック(金融+テクノロジー)の最右翼であり、どうやら単なる技術系とは思えない。アンゴロウちゃんには社会性や知性、美意識が隅々まで行き渡っている。加えてなかなかステキな声だ。ときどき最後に歌をうたうが、その調子の外し方も止め方も見事である。いったい何者? とはいえ、終始ロボットのアニメが口をパクパクさせているだけで、一番面白いのはもちろん内容、特に詐欺と思しき案件を検証してゆくロジックである。
このチャンネルと連動するサイト(https://hajihaji-lemon.com/bitcoin/)は昨年11月にサイバー攻撃(DDos)を受け、18日間停止したという。都合の悪いことが書かれている誰かがいるということだし、なんとなく見当もつく。攻撃で一気にGoogle検索の圏外に吹っ飛んだそうだが、その顛末をも淡々と語るアンゴロウちゃんへの信頼と評価は、それを機に高まったように思う。
番組には、暗号資産(仮想通貨)を題材にした先の芥川賞受賞作の検証(?)も含まれている。アンゴロウちゃんはこれは専門外ではあるから、えぐるようなことはなく、さわやかな読後感を語っている。もちろん文学業界には、目新しいモノやデキゴトは必ず押さえなくてはならない事情がある。それ自体は文学とも社会とも関係ない、制度の都合だ。むしろアンゴロウちゃんの距離感のある正義の方が社会であり、そのたたずまいの方が文学に近い。
小原眞紀子
株は技術だ、一生モノ!
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