ストリート・ミュージシャンのパフォーマンスに対し、第一線で活躍する音楽プロデューサー・YANAGIMAN氏がアドバイスを与える――。そんな魅力的な企画がYouTubeチャンネル「桜坂ちゃんねる」の「カバー曲動画No.1選手権」。
参加者たちはYouTubeでのコメント数や「いいね」で競い合い、勝ち抜けば有名レコード会社も来場するライブ形式での「決勝大会」に出場し、そこで優勝を勝ち取れば「レコーディング」という大きな特典を手に入れることができる。
海外ではバスカー(busker)と呼ばれるストリート・ミュージシャン。全世界で一億枚のシングルを売り上げ、興行収益と動員数の面でソロ・アーティスト史上一位に輝いたシンガーソングライター、エド・シーランもバスカー出身だ。
また国内に目を向ければ、ゆず、コブクロ、いきものがかり……等々、今や国民的な人気を誇るアーティストが路上ライブをきっかけに誕生している。
どれだけ技術が進化し、暮らしが便利になり、コストらしいコストをかけず世界とコミュニケートできるようになったとしても、その場にいて生/ライブで音楽を聴く、という体験が魅力的であるという一番の証拠だろう。
もちろんストリート・ミュージシャンは十人十色。当然、差が出る。或る者は一瞬で多くの人々の耳目を集め、あっという間に人だかりを作ってしまう。或る者は透明人間の気分をじっくり味わえるほど、長時間人々に無視され続けてしまう。そう、現場の評価はとてもシビアで残酷だ。
八十年代後半、原宿の歩行者天国、通称「ホコ天」(1998年閉鎖)で路上ライブを行なっていたTHE BOOM(2014年解散)のヴォーカリスト・宮沢和史は、とにかく人を立ち止まらせる為、単純な旋律を前面に押し出したという。
良い結果を求めるなら、それなりの計画が必要になる可能性は高い。この「カバー曲動画No. 1選手権」と普段の路上ライブ、評価されるポイントが違うことは素人目/耳にも想像しやすい。
例えば「カバー曲を1曲」という条件。これは諸刃の剣になり得る。楽曲のクオリティーはある程度保証されるが、オリジナルと比較される運命からはなかなか抜け出しづらいだろう。やはり、それなりの計画は必要だ。
ただ、だからこそいつも透明人間気分を味わっている者が、とてつもないミラクルを起こせるのかもしれない。
出場者たちの音楽、それに対するアドバイス、そして優勝者を決めるまでの道程――。
この企画の楽しみ方は決してひとつではない。
寅間心閑
■ 金魚屋の本 ■