音楽プロデューサーYANAGIMAN氏が主催する「カバー動画選手権」がyoutubeチャンネル「桜坂ちゃんねる」で開催されている。YANAGIMAN氏監修のレコーディング権を賭けた、全国のストリートミュージシャンを対象とする企画だ。面白いのはその審査基準で、予選にエントリーするミュージシャンはカバー曲を歌った動画を同チャンネルにアップロードし、動画に寄せられた再生数、コメント数、いいね数によって審査される。動画を視聴したオーディエンスの反応がミュージシャンを決勝の舞台(ライブ形式)へと押し上げる仕組みである。執筆時点で7人がエンントリーしている。
いまのところ動画再生数が多いとはいえない。「桜坂ちゃんねる」のチャンネル登録者は約1万2千人にのぼるが、彼らの関心を集めて再生数が突出しているのはプロ野球関連の動画なので、「カバー動画選手権」ではジャンルが大きく異なる。そのために選手権の参加者はチャンネルの外から視聴者を引っ張ってくる力を問われることになる。再生数を稼ぐだけならSNS等を駆使した発信能力の高いミュージシャンに分があるかもしれない。しかしコメントやいいねの数を稼ぐのは容易ではないだろう。ネットを渉猟する視聴者の足を止めてレスポンスをもらうには、街頭のライブで通行人の足を止めるのと同じ力がいる。実際にエントリー動画に付されたコメントには、路上ライブで知って動画へたどり着いた人の残したものが見受けられる。偶然通りかかった人々をオーディエンスに変えるストリートミュージシャン本来の力量が、彼らを動画まで牽引するというかたちで企画上の評価に直結する。動画再生回数がそうした現場における生のレスポンスを反映しているのなら、桁数などはさほど意味を為さない。むしろネットのマジックを介さない、バズらない数字に価値があるのではないか。ベッドルームから一歩も出ずとも楽曲製作からパフォーマンスまで完結して大衆に訴えられる時代だ。それでも路上に出るミュージシャンを正当に評価する数字を模索することに、この企画の美徳があるように思われる。
現在アップロードされている動画はスタジオ録音と思われるものが2編、残りは街頭ライブの録画だ。参加者のひとりひとりにYANAGIMAN氏がアドバイスをする別立ての動画もアップされている。主に技術向上に向けたコメントなので、それだけでもミュージシャンには参加の意義があるだろう。しかし本当に評価されてほしいのは、街頭ライブを切り取ったカメラアングルの後ろにきっと立ちすくんでいるであろうオーディエンスの足を止めた、訴求というのか共振というのか、私にはうまく名指せない不思議な連帯なのだ。路上で歌う彼らのそばを通りすがって、そのオーディエンス同士の「縁もゆかりもなさ」を目にすると、私は足を止めてしまう。たとえ遠まきに疎らであっても、世代も性別もばらばらな他者をつなぎとめて連帯をなす、差し支えなればストリートミュージシャンの「グルーヴ」とでも言いたいそれが、youtubeの画面上に再現され、評価されるものあってほしい。動き出しはゆっくりと、しかし健全に。企画はまだはじまったばかりだ。
星隆弘
■ 金魚屋の本 ■