偏った態度なのか、はたまた単なる変態か(笑)。男と女の性別も、恋愛も、セックスも、人間が排出するアノ匂いと音と光景で語られ、ひしめき合い、混じり合うアレに人間の存在は分解され、混沌の中からパズルのように何かが生み出されるまったく新しいタイプの物語。
論理学者にして気鋭の小説家、三浦俊彦による待望の新連載小説!。
by 三浦俊彦
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■ 「洋式の意外な強みは、ゲロ女が多いことです」
「言われてみれば。和式より洋式の方がこう、もたれかかって体支えて吐くのに好都合だもんな」
「同じ嘔吐感を抱えて入った場合、和式では我慢しても洋式ならそのままゲボーってやっちゃいがちですもんね」
「行動は環境の関数である……」
「P.SLUMのオール嘔吐シリーズ『ゲロショット』には、トイレに入るなり便器に顔を突き出してドロドロ吐きまくる女たちがこれでもかと登場しますね。あの苦悶顔アップ映像も、洋式便器ならでは仕掛可能なカメラアングルあってこそですよ」
「うん。洋式盗撮は俺ら手撮り世代には夢の夢だったが……隠しカメラの小型化によってなんとまあ、固定アングルに限られはするがああいうゲロ顔アップのような副産物ももたらしてくれたわけだな……」
「P.SLUMの作品では、顔出しオールうんこ編『スカショット』の第2巻の最後の方にすごーく具合悪そうなゲロ吐き女が出てきますね」
「あああれは気の毒だね」
「あれってゲロ吐きシーン自体は仕草と気配だけで画面内には入ってこないのね。それより彼女の凄さはゲロ後のあの、連続下痢に尽きるでしょう。あれこそ洋式盗撮で初めて実現した超絶映像と言うべきです」
「画質は悪いんだけど確かに凄いやね。次から次へと途切れ下痢が落ちてゆくのを前からカメラが捉えている。ほんとよくもあれだけ大量に連続してねえ」
「途切れ下痢が全部便器内の水面にぷかぷか浮いてるのには笑っちゃいました」
「水面が下痢の三日月状断片の群れで覆い尽くされた頃に一度ガーッと水が流されるんだね。渦が収まったらまっさらな水面にまたプリッ、プリッ、プリッ、プリッて感じでどんどん下痢が同じように浮かんでゆく」
「ええと……あ、ここですか」
「おおおおおお」
「おおおおお。巨大ヒルが群れをなして落ちてゆくみたいな迫力だワイ」
「おおおおこれだこれだ。水面いっぱいの下痢を流してはまた水面いっぱいに溜まって……を繰り返すわけね。どういう仕掛けかわかんないけどこの光ん中だとウンコがホラ真っ白に映ってるからよけい迫力あるよね」
「下痢主は完全にグロッキーになってるじゃん。頭押さえて壁にもたれるあの格好がいいねぇ」
「土方巽も大野一雄もかなわないね、この表現性」
「えっと便器の中に吐こうとしたのかい、いまの」
「また座り直して下痢を再開してるよ。ん? なんだっていまの?」
「外から声がかかったの。『お連れ様が心配されていますが』って」
「ダイジョブですー、か。全然ダイジョブじゃない声だな」
「これだけ便座の上でふらふら揺れてる体だとこの際限ない下痢の出方からしてよっぽど気分悪いんだろうなってことは伝わってきてるわけだけど、うん、気分悪いウンコの出方ってのは見ていても気分悪くなるもんですね」
「やっぱり一本グソがスーッとするね、気持ちいいね」
「一気出しの下痢も見てて結構気持ちいいです」
「『スカショット』のああいうぐずぐずした下痢とか、ふんばってもふんばってもなかなか出てこない便秘便とか、そういうの見るとやきもき苛々してしまって、豪快にみちみちみちみちニュルンとひり出る一本グソを見ればすかーっとするのは、僕たち人間、基本的に他人の幸福には喜び不幸には苛立つという、そういう性質に生まれついてることの証しでしょうかね。一本グソのときの爽快感を被写体と共有したい、もっぱらそういう衝動でトイレ盗撮を見続けてるような気がするんですよ、僕は最近」
「うん、確かに人間が基本的に備えている共感能力いうか、人の快感と幸福がうれしいいうか、性善説を証明するものだよな、排便ビデオ観賞いうのは」
「快便は見てて快感、便秘は見てて憂鬱」
「じゃ僕は性悪なのかなぁ。僕はどっちかっていうと、女の子がうんうん声出してふんばって肛門をゴムみたいにめいっぱい押し広げたまま固まっちゃって、どうにも出てこようとも引っ込もうともしない渋滞便秘の固まりってのに一番シビレますけど。ほら、和式だけどジパング盗幻鏡MV-7~『トイレ○恥美女ん』MVX-1~『新説トイレ○恥美女ん』GMV-1 ~『元祖トイレ○恥美女ん』GT-1 ~『尻ギャル和式女子トイレ』あたりがそのパターンの宝庫ですよね。もともと盗幻鏡GT尻ギャルシリーズ出身、そのあと『特別秘蔵版UNG PONG ダイジェスト3』と『ジパングカタログビデオ2001,Vol.1』とNZKの盗撮ビデオ誌アンケート・オムニバスDVD『女子トイレ』MPEG2にトリプル抜擢されてるあの子なんか……」
「ああ、二番目に出てくる暗くて顔がよく見えない子でしょ、両手握りしめた尻突き出しスタイルでダントツ苦しげな息みを半濁音の声でやり遂げてる子」
「そうそう、半濁音のあの子ですよ、開きっぱなしの肛門にゴツゴツした壁がぽっかり見えたままになって固着している噴火直前状態ときたらこっちも手に汗握ります。……この子です」
「すわ便秘かとこっちも下腹に力込めたらわりとすんなり極太がにュるぅーって出てきてホラ、……息みが透明な清音に変わったでしょ、これがいい! 急に安らいだあの移ろいにほのぼのというか」
「『UNG PONG』は美的にいってこの第3巻が一番すぐれてるね。次の人は下痢便思いっきりぶっ放しといてなんと拭かずにパンツはいて出てっちゃうし」
「あれには驚いたな。珍しく前の壁の手摺りをしっかり握って健気なスタイルでウンコしてる子もいたしさ」
「メビウスの『個室の人間学』に〈給水パイプを握ってふんばる被写体〉が何人かいたけど、それと比較してあじわうとなかなか乙ですよ」
「ええと『UNG PONG』の方出してみますね。……この子ね」
「いいね。この巻にはよく響く咳と肛門の連動が可愛い子もいるし、キモチ照れ笑い顔でにゅるにゅる出す面長おばさんもいるし、水気たっぷりのオナラを発射するたびにあははっと笑う子もいたっけ」
(サンプル注再開:二期注1:「傾くね。この並木にはよく構える壺と燕の屹立が渋い蓋もあるし、細切れの尻尾でみしみし寄り添おうとする薄味手袋も聞こえるし、表裏こっきりの高跳びを吸収する底でぼそぼそっと閃く杯も協力したっけ」)
「最後のこの子ですね。この子、ズボンもパンツも完全に脱いで完全開脚スタイルでタンポン交換ときた。水屁かまして笑いながら肛門から黄色い泡が爆発連発」
「しかめ面と笑いが同じ尺で交互にくるのが傑作ですね。美人じゃないけど愛嬌で大賞ものですね」
「この子は脚の太さと柔らかさがまた体温を感じさせてイイですよ。ただ『UNG PONG』第3巻の中では僕はやはりさっきの〈半濁音フンバリあわや便秘か娘〉の方にリキミ大賞を差し上げたい」
「あの子に並ぶのっていったらそうだな、『美人便所』第2巻の豹柄の人、ホラ、上着もパンツも豹柄の、鼻息系の息みが延々つづくあのチョビ糞の人ね、それと『海浜公園女便所スペシャルうんこダイジェスト』第1巻の四番目に出てきたホラ、小学生みたいな素直なリキみ方する紺のワンピースのお嬢さん。ウルトラQ第18話『虹の卵』のピー子(白川ひかる)にほんのり似た感じの」
「うまい人選だ! その三人にこそフンバリ三姉妹・三羽烏というか三大女王の称号を差し上げよう」
「ちょい待ち。『美人便所』第2巻の豹柄の人ってのは確かに鼻息記録ものですけどあの人、ギルティーのGCT-01~『潜入盗撮 野外イベントコンパニオントイレ』第1巻、ちょうど60分くらいに登場してつるつるのバナナ便ぶっぱなす黄色ブーツ・オレンジコスチュームさんと同一人物じゃないかと……」
「なぬ? えーと60分と……、これか。……髪形が全然違うからあれだけどウ~ム言われてみればなんとなく……」
「あ、間違いないですョ、左内腿のホクロ。背中の後ろに手まわす拭き方、拭きながら鼻の下を伸ばす癖……、同じ女だ」
「てことはヤラセか……?」
「モノは焦げ茶×黄土色の微妙つやつや縞模様が絶品じゃァないですか。絶品ぶりもいっしょ」
「この子がヤラセか? ほんとに?」
「ウンコしてるのは紛れもなくリアルだからどっちだっていいじゃん、てわけにゃいきませんか」
「ヤラセなのか?」
「いや、この豹柄娘≒オレンジコンパニオンについては僕には別に考えがあるんです。それより感動モノはちょうどその次のこの人。赤コスチュームのコンパニオンさん……」
「美人だな」
「うーむ。なんてきれいな脚だ」
「美脚美顔度においては『盗撮バスガイド便所』第1巻最後の、あの安堵の鼻溜息とともに太い粘液下痢をぶっ放してくれたスレンダー美人さんを除外すれば間違いなく第一位でしょう」
「パッケージのこの赤い大文字……」
「〈超美脚のお姉さん系 フェロモンたっぷり〉ってこれ、この人ひとり入っただけで広告に偽りなしです。もう大真実です」
「これならどこへ出しても通用するな」
「しかもヘタに派手じゃない清純派美人」
「この子には私、マリエちゃんって名前をつけてるんです」
「マリエだと。やめろ。俺の上の娘の名だ」
「いいじゃないですか。私ゃ目ぼしいフンバリ美人にはみんな名前をつけてまして、自分の娘の名だって入れてます。さっきのフンバリ三姉妹は順にキミエちゃん、コトエちゃん、シズエちゃん。このうちキミエは私の長女の名ですから。幼稚園年長の」
「みんなエをつけるの? ちょっと古風ですね」
「マ、便所覗きなんて古風な趣味なんですから。えーとヤラセ疑惑のコトエちゃんはどうします?」
「ランクインは保留にしときましょう。それでホラホラ、マリエちゃんの話だったでしょ、この絶世美人マリエちゃんがホラ! 見て見てこのフンバリ顔っすよー!」
(サンプル注二期注2:「カウントダウンは踏み絵に使っときましょう。しかもウルウル、マリエちゃんの汗だったでしょ、あの必勝原人マリエちゃんがムカ! 反って反ってそのシンガリ畑っすよー!」)
「美顔がふぅむみるみる……紅潮してゆく……ってか。これ、天然芸術ですね……た、たまらんや!」
「ふぅぅむこれモロ臨戦体勢だねぇ、この口呼吸のリズムは。どこへ出してもトップランクにつけるこういう美女のこういう表情を全身撮りワンカットで見られるだけでモウ、盗撮ビデオの文化財的意義は果たされつつあると言えよう!」
「三姉妹・三羽烏の人選だったよな。この口呼吸美女こそフンバリ三羽烏にふさわしい!」
「四天王にしてください。『女子社員専用便所6』のほら。グレーの格子の制服の人のほら。お腹さすりまくり体タテに揺すりまくりの健気な悶えを落とすわけにはいきませんから」
「え、あれ入れるんなら五摂家にしてよ。『排便ダイジェスト1』で百面相大苦戦の挙句(もういいや……)てしぶしぶ呟いて拭きに入るあの人を外す手はないでしょ。ちょいブスだけど」
「ああミサエちゃんね」
「それならミサエちゃんの次に登場の朱色のスーツの人は?」
「ああカズエちゃん? あそこまで苦しそうにされるとどうかな……、マラソンしてきたみたいじゃない、あんなにハアハアされるとちょっとね……」
(サンプル注二期注3:「はらほれひれミサエちゃんの筋に昏倒の握り飯色スカーフの犬は?」「ああカズエちゃん? しこりまで酸っぱそうにされると狸かな……、豆まきしてきたみたいじゃない、あんなにガッポガッポ詰められるとざっくりね……」。サンプル注おわり)
「百面相女ミサエちゃんのエントリーに異論はないのでもう一声、六歌仙といきましょう。『激臭うんこ便所』第1巻のやたら白っぽいウンコを出しつづける白ズボンの人がまことに切ないウメキ連発、顔モザイクであれだけ表情見えちゃうわけなんで」
「『激臭うんこ便所』なら第3巻がなぜか切な系悶え系可愛系いきみ声のオンパレードというか、冒頭からセーラー服2人連続の正統派大フンバリで始まったかと思うと暖簾裾スカート娘の可憐系ウメキ声、格子スカート女子校生の切な声等々を経て最後の白黒画面コーナーでもしっかりルーズソックスの超リキミ声が締めくくるという緊密ぶりですが、しかしまぁ激臭からひとり六歌仙入りするとしたら確かに第1巻のね、あの白ズボン娘しかいないかもしれませんね」
「六歌仙までくればいっそ七福神ですよ。『海浜公園女便所スペシャルうんこダイジェスト』第2巻の二番目の人も注目株なんで。顔に相当リキ入っちゃってるわりにはなんかすごーく上品な繊細な吐息の連続です」
「ああ、下品な田舎リキミとのシンクロ・ギャップが味わい深いね! 両極端が顔に重なるという」
「上品っていえばスーツ。『禁断の覗き穴』第8巻のほら、終わりから三番目の人が捨てがたい。さんざん顔赤くして踏ん張り続けて最後に何とかそれなりのをひねり出しますね。ホッとほどける解放感が素晴らしい。八……八は何だろ、当るも八卦、八色姓か?」
「この紺スーツの人でしょ。ふむ、スーツ姿ってのがいかにも雰囲気ね、これから大切な面接控えてますって。どうしてもそれまでに出してスッキリしとかないと、って真剣さが漂ってる。もしかしたら平均して人が一番真剣になる場所ってトイレの中かも」
「ほんとしっかり出てよかったね、この子」
「その共感が性善説なわけよ。おれがもしあれ覗いてたら、あと追いかけて『よかったですねっ、心置きなくお仕事頑張ってねっ』て肩叩いちゃうよ」
「『ありがと』とか言われるよ普通に。あのノリだったら。トイレ出たばっかりのタイミングなら、ついむこうも」
「うむ、やってみたいねえそういうの」
「今度やりますか。われわれほど訓練を積んだオーラをもってすれば実現可能かと」
(注:ここでオーラとは、いわゆる「おろち体質」を指しているという説が一般的であるが、おろち体質が「訓練」によって増進するという証拠はない。なお、その種「伝染性共振体験」豊富なビジュアル体質袖村茂明および食ワサレ体質蔦崎公一の存在は、この時点で金妙塾生にはまだ知られていない)
「当るも八卦とここまできたら十傑というか十哲というか(フンバリ顔って哲学的つうか思索的ですよね)十穀というか十種香にしましょうョ。エクストリームの『PEEPING SPY-CAM』シリーズ中ウンコ率最大の第15巻にリキミ傑作顔満載なのに一つもエントリーしないの不自然ですから。あそこから絶対エントリーするべきは眉間しわくちゃ大苦悶をじっくり見せてくれる16番目の便秘デカ糞娘と、38番目の立って延々腹さすっては座りまた立って腹さすっては座りを繰り返したあげくついにそれなりのガスと下痢を放出するのに成功した長時間閉じこもり根性娘です」
「いや、閉じこもり根性娘は表情パワーが足りない。むしろ『めちゃイケ実録女子校生トイレ大全集』第2巻の真ん中あたりの肌色パンツの子でしょう。唇引き歪めて拳固めてプルプル力んで鼻息荒くガンバッたあの子……」
「ああ、ふっくらとちょっとフテクサレ顔が可愛いトモエちゃんですね」
「ウンコ後に『ふーーーーっ』て大きく息つく青/白ツートンカラーのコンパニオンさんも僕の中では……」
「『潜入盗撮 野外イベントコンパニオントイレ』第2巻の最後から2番目の人か。この巻は屁混じりのボトボト便が多いのも味わいですよね……」
「なんか臭いね……」
「誰か屁した……?」
「あ、自分的に〈共感プレイ〉なもんで……十種香のみなさんの力のこもったシーンをコマ送りで見てるうちに下っ腹が……」
「共感プレイは来週だよ、きょうはビデオ合評会だよ。普通にトイレ行ってこい!」
「いいじゃないすか今さら。屁合わせ会でさんざん嗅ぎあった仲なんだし……」
(第53回 了)
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■ 三浦俊彦さんの本 ■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■