偏った態度なのか、はたまた単なる変態か(笑)。男と女の性別も、恋愛も、セックスも、人間が排出するアノ匂いと音と光景で語られ、ひしめき合い、混じり合うアレに人間の存在は分解され、混沌の中からパズルのように何かが生み出されるまったく新しいタイプの物語。
論理学者にして気鋭の小説家、三浦俊彦による待望の新連載小説!。
by 三浦俊彦
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■ で、どうかな?
さあ、改めて解答、書いてくれたかな。「MS哲学基礎論」。
とにもかくにもバナナでってことですよ、健康バナナですよ。健康バナナ便のもうひとつのメリットといえば……、いや、ここらあたりで穴埋め問題の正解、一括呈示しとくのがよいだろうね。答え合せをしてから先に進めるからね。はい、これ。カッコ内はもうひとつの正解。△は正解から一点減点ね。
きみらの気合はどの程度だ?
解答
1・黄金 2・ウンコ 3・食べ 4・排便 5・出産 6・料理(△授乳)
7・醗酵食品(料理) 8・御馳走 9・汚い 10・飲み込(△望)(△含) 11・食わ 12・内臓(△行為) 13・さらけ出 14・羞恥(△かくれ) 15・尻 16・敷 17・肉(△赤ちゃん)18・食 19・カニバリズム 20・体内 21・肉棒(ペニス) 22・挿入 23・反転図 24・口(穴) 25・バナナ(△ペニス) 26・肛門(括約筋) 27・出 28・〔これはまだ解説してない部分だからあとでね。〕 29・タブー
さあ何点とれただろう。
ちなみに自分がさ、和式便器にしゃがんだ姿勢で脱糞するところをつぶさに人に見られてるって状況を想像してみてよ。しかもその人の顔が自分の肛門の真下にあって、さらには手でお尻をすべすべ触られたりしている状態をね。内臓の芯からイメージしてみてほしいよ。そういう状態で、肛門をじっと開きっぱなしにして、長く連なったバナナ便をなめらか~に放出するなんて、相当難しいと思わないかい。スカトロAVに何度も出演している女優ですら、視線にさらされて自然排便する瞬間は全身に鳥肌が立つと証言してるんだってさ。便意と羞恥と無防備感とが混ざり合ったこのサムケに抵抗して肛門括約筋を全開に保ち続けるには、そりゃよほどの精神力か、たくましい腸か、破滅志向か、相手への信頼か、自意識を消し去る恍惚が必要でしょ。SM愛の神髄としてのスカトロジーにとってさしあたり重要なのは、今言ったうちの最後の二つだね。至近距離の顔への信頼。羞恥を消す恍惚。精神不安定な状態にあると肛門が微妙に痙攣して、ブツ切れのウンコを、ちょぼ、チョボと垂らしつづける体たらくになってしまう。これじゃあ、トップ女性がボトム男性の愛を信頼できていない不安というか情けない脆い関係を暴露しているようなもの。自分の糞肉の聖なる香しさと美味しさを信じて、一気に大量の黄土色を相手の口に直立させてやれる恍惚こそ、女の愛の証しになるってもんでしょ。
しかし女の方だけなのか? 男の方にも何か外見的にはっきり表われる恍惚力の証しが要求されるべきじゃないのか? もちろんその通りだよ。そこで、さっきお預けにした「問28」を埋めるべき潮時となるわけだ。
第七段落を正解込みで読むことにするよ。
同様に男は、彼女のウンコを食べる最中、一貫して(勃起)していなければなりません。副交感神経の励起に発する(勃起)状態はこれまた心身の安定を示す兆候であり、これが起こっていないようならば男は、女に対する愛を公言する資格など永遠に持てないと言うべきでしょうから。
……納得?
そ、「勃起」だね。複雑な概念だが。
相手の体内から最も臭気激烈な内臓を飲み込むわけだからね、それが自分にとって最高に嬉しい美味であることをアピールできるのはそりゃ、ペニスの勃起以外にないでしょう。しかもただ勃起するだけじゃダメなんだな。手を使わずに勃起するんじゃなきゃ。男は「自然勃起」しながら女の自然大便を食べ尽くさなきゃいかん。女だって浣腸無しでバナナ便フンバるんだから、男だって手使わずにバナナ勃起しなきゃ。自然には自然。上向き下向き双方のペニスがね、愛と信頼と恍惚に包まれてね、体の内側からの熱力だけによって男女が同時に怒張するというわけなんだなあ!
ひところ新宿歌舞伎町の某ホストクラブに、お金持ちの五十代の未亡人がよく来店して、二十代前半のホストを指名しては、彼女のひり出す黄金を食べきることができたら一回二百万円のチップをはずんでいたんだって。もしこの女性が自分の魅力と男の誠意を本当に試したいと思ったならばだ、食って飲み込んでる最中に手ェ使わずに勃起してたら百万上乗せ、さらに自然射精できたらまた百万追加、なんて工夫も思いついたことだろうね。
(手とか穴とか物理的な刺激を直接加えることなしで、恍惚だけで射精するってのは不可能じゃないよ。北伸一ってスカトロマニアは、『素人OL・マニア訪問 柔肌に教えて!』ってシネマジックのデビューAVで、主演女優志方まみのウンコを顔面に受けた瞬間に自然射精して、真正スカトロジストとしての評価を勝ち取っているよ。肝腎のウンコの方は鑑賞に耐えぬショボショボの浣腸便だったんだけどね)。フェティシズムと並んでSMが最もメンタルな変態というか、そのメンタルっぽさの極限に純愛が潜んでるのだとすれば、まあ、勃起バナナ状黄金プレイこそが恋愛の究極を表わしていると言えるよな。一見この上なくアンチ精神的なモノ崇拝って感じのウンコ崇拝が、こうして最高度に純粋な精神主義・理想主義を輝かせるんだなあ。
てわけで、トップ=女、ボトム=男の場合にしぼって話してきたけど、もちろんさっきも言ったように、男が出して女が食べるってパターンもないわけじゃない。少なくともビデオや写真の形で流通していたりする。しかしだ、セックスでの出し入れ役割の逆転とかウンコペニスの反転とか、象徴的な含みに関してやっぱ男女の位置が逆だと解釈の余地が乏しいのよ。象徴ってものはとかく形というか図式というか、現場意識の自発的衝動とは無縁みたいに考えられがちだけどそれは違う。バナナペニスウンコみたいな、ずっと考えてきた大雑把な象徴って決して侮れるものじゃないんだ。形のはっきりした構造はいまだ形の定まらない無意識にこそ深い刻印をきざむというかね。M←→S、男←→女、後←→前、上←→下、闘←→和、などなどね、図式構造の反転対応がこうして一目瞭然に成立してるってことはさ、当事者内部の無意識に必ずや響いているはずなんだよ。正しいスカトロプレイは間違いなく、ノーマルな性愛にたいするアンチテーゼと補遺的テーゼを突きつきけるものなんだよ。そこんとこ、トップ=男、ボトム=女にしちゃうとスカトロプレイも象徴的意義を見出しがたいのよ、わかるかな? もちろん部分的にはね、こっちのバージョンにも解釈の見込みは皆無じゃないだろうさ。たとえばだ、男には永遠に不可能な「出産」という大経験の代理としての大モノ排泄。性欲を抑圧しがちな女ゆえ肥大しがちな「食欲」なる俗衝動の究極的飽和。とかなんとかね、〈出す男と食べる女〉を象徴仕立てにする手はいろいろあるかもしんない。でも〈出す女と食べる男〉のアンチセックス的象徴作用にゃぁかなわないやね。
プライベートなプレイのことをずっと話してきたから、商品化されたスカトロ表現のことを付け加えておこうね。きみら自身がただの商品にならないためにも。
性愛じゃなくて性的商品としてのウンコってのは、実はいろいろ考えとくべきことが満載なんだ。前の方の局部についてはいろいろビデ倫的規制のモザイクやボカシの相場があるのに、アヌスや排泄物のビジュアルについちゃそういう基準が存在しないんだよね。だから文字通りの自主規制が求められているって複雑な現状がね。どうもね。そうした公の基準がないのは建前上スカトロって趣味がマイナーだってことになってるからだけど、現在氾濫しているスカトロ雑誌・スカトロビデオの多様さを見ると全然マイナーなんかじゃなくてさ。その矛盾ね。まあいろいろネタがあるんだよまだまだ。いったいスカトロジーってのは現場や市場でどう理解されてるのか、真正SMとしての愛のメカニズムの表現だってことがどれほど認識されているのか。
実際にもまあ、スカトロジーは趣味としてはともかく文化としちゃいまだマイナーなんだろうな。「スカトロ」って呼び名だけが流布しながら、誰一人としてその真価を把握しちゃいないのさ。肛門と口を、そのあいだの空間を切れずに極太円筒ウンコが繋いでいく形でのクラシック黄金プレイね、そういうのにこだわったビジュアルの創り手は、かつてのアブランド、のちのキューブって会社だけどね、そういう稀な例外を除いて存在しないんだよ。ほとんどが標準SMの気付け薬としてスカトロを使ってるだけ。単なる猟奇趣味・マニア趣味・露悪スラップスティック趣味の大道具として、なさけない下痢便や便秘便を安易に利用してるのが大半だな。どれもこれも尻の穴が窄まりきって、男女双方の不信、不安をもろに垂れ流す映像ばっかりさ。ああいうのはほんとにもう。
今あるスカトロ映像・グラビアの類は、われわれ人間の愛の将来にとってはっきり有害だな。愛を感じさせない。インターネットにもなおさら期待できない。ただでさえスカトロジーを偏見が取り巻いてるってのに、その偏見を無自覚に拡大再生産してるって感じ。文化のにせのメジャー化ほど見るに耐えないものはないよね。何度でも言うけど、覚えといてくれよ、スカトロの神髄はあくまで、バナナ状黄金勃起プレイにこそあるんだからね。質の悪いプレイはしないようにね。人の顔に太長大便を盛り上げる気合のないやつ、大便を頬張りながら勃起する意気に欠けるやつは、一切スカトロプレイを慎むべきなんだ。愛も慎むべきだろうな、そういうやつらは。黄金愛ってのは、入れれば愛っぽさが成立するノーマルセックスよりも、数段困難で高尚な関係なんだからさ。入れて出せば、出して入れればそれでいいってもんじゃないんだからさ。スカトロは愛の修行なんだからさ。大部分の凡人には、バナナ状黄金勃起プレイなんて実行できるわけがない。だからこそ、専門家による理想愛の実演が正しく商品化されるべきなんだよね。ちょうど、一流のボクサーになれない一般人のために、マッチョなプロが究極の打撃技術をリング上で、テレビでビデオで披露してやるのと同じことだよ。鍛えてない体で殴りあっちゃ大怪我のもとだからね、だからといって拳の価値を忘れていていいわけじゃないだろ。スポーツほどくだらん文化はないと僕は思ってるけど、それでもスポーツに何らかの必要性があるとすれば、肉体に対する信頼を耐えず呼び醒まされることが人間にとって必要だからなんでしょ。それとおんなじで、いやそれ以上に、愛の可能性への希望をあらゆる方面から諭し続けられることが個人と社会にとって、水と食べ物くらいに必要なことなわけよ。日々やってる平凡な「食」と「排泄」って行為でそれをやってみせなくてどうする。スカトロジーはだね、正攻法の愛の描写じゃどうしても限界のある心身両性両極のMS哲学をだね、最も鋭く尖った形で露出させてくれるわけよ。それゆえにこそっていうか、この文化の価値を隠蔽したり矮小化したりする卑猥な商業的映像類に、僕ぁ深い危惧の念を覚えずにはいられないんだなあ。スカトロもそうだし、普通のカラミとかなおさらだし。そのへんはポルノを嫌う大多数の女性と僕はいっしょだよ。
バナナ黄金勃起プレイでどんどん表現してほしいね。愛を。
どれ、見せて。
だいぶ点数上がってそうだね。
そろそろ、どう? かな? 気合入ってきた? かな?
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◇悲しいんです
毎朝、ビルのトイレお掃除をしています。
オフィスが七つ入っているビルで、男子トイレで私がまだいるのに、個室に入るなり威勢よく大砲を鳴らされる方がいます。
顔見知りというほどではありませんが、よく見る社員の方が多いです。
大砲を聞くと、悲しくなります。
いえ、責めてるんじゃありません。
ただ、むやみに、自分のことが悲しくなるのです。
小樽市・パート、女39歳
Re:お掃除 うわ~ん。悲しいよう!
Re:お掃除 39歳が微妙で萌えるね…
(北海道新聞に載ってたと称して月刊宝島が紹介した投稿である。『VOW 現代下世話大全』p.169に引用されているが、原文とは大幅に異なっているらしいので、おろち考古関数を適用してここに(ありうべきBBS的レスとともに)再現しておいた。……ミクロなエピソードこそが蔦崎・印南型大事件を解決兼予防する鍵となる、というのがおろち気象学のカオスシミュレーション的教訓であってみれば、そのささやかな一貢献として……)。
(第27回 了)
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■ 三浦俊彦さんの本 ■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■