Ⅳ 字
大野露井
開け胡麻
ひらけごま
文字は護摩
その名を刻む
印ひとつで
岩戸は開き
僕は君を手に入れる
開け仮名
ひらけかな
平仮名は夢
借りてきた文字で
仮の名をあげよう
この詩が終わるまで
待っていられるかな
多久良万加無の砂漠を越えて
僕は君の国の人間に化けよう
はじめに声を真似してみせる
つぎには姿もやつして御覧に入れる
しまいにゃ土地の男たちをよそに
誰よりも君の心をありのままに歌う
まるで君が僕だったかのように
ありがたう
またやらう
がんばつてきたかひもなく
くわいぐわはやぶられてしまつた
ゑひにのまれたわうさまは
なんにもしてくれやしない
ただいぎたなくころがつてゐるだけ
亂れた息遣いと筆遣い
晝となく夜となく
畫中の影を追い索め
書き綴る夥しい文
舊い學びの眞実と孤獨
體内をめぐる涙の跡
廿卋紀の遥かなる思い出
めまぐるしい旅に発ったばかり
陽はそろそろ昇るところ
あるいはそろそろ沈む頃
たそかれかはたれ朝ぼらけ
文字に寄り添い文字を裏切り
意味と音とが格闘する
終わりのない幻灯機の芝居の中で
さあ直線と曲線よ
君の背骨と肋骨よ
偏る僕の旁らで
糸で吊られた鎌首もたげ
啓蒙の道を照らし出せ
滑車と歯車のよく似合う
僕の未来の花嫁よ
有象無象一切合切万事帰水泡
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■ 予測できない天災に備えておきませうね ■