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ピー子 角川『短歌』2026年10月号。目玉は【特集 不快は誰のものか――実作・鑑賞・研究の視点から】。タイトルがもう挑発的だよね。
ヨミ太 うん、今号でいちばん目を引く企画だと思う。執筆者は糸川雅子、林あまり、吉川宏志、田中綾、堀田季何、染野太朗、岩内敏行、上川涼子、菅原百合絵、難波優輝の10人。歌人だけじゃなくて、美学を専門にする難波優輝が入っているのが面白い。副題の「実作・鑑賞・研究の視点から」どおり、作る側、読む側、論じる側と立場を分けて考えさせる設計だね。
ピー子 「不快」って短歌だと何を指すんだろう。
ヨミ太 「不快」の主語が揺れているのがポイントだと思う。歌の内容が不快なのか、読む側の受け止めが不快なのか、歌会や批評の場の空気が不快なのか。「誰のものか」という問いは、不快を訴える権利と、不快を引き受けて読む責任の両方を考えさせる。短歌は「私」の感情を詠む形式だから、他者を傷つける表現と、傷つくことを恐れて萎縮する表現の境目を実作者が避けて通れない。そこに美学の視点が加わると、不快さが作品の価値にどう働くのかを、感情論ではなく概念として整理してもらえそうだよ。
ピー子 執筆陣の顔ぶれも、立場がバラバラで読み比べが楽しそう。
ヨミ太 そうだね。実作の最前線にいる人、評論や研究で歌を読み続けてきた人、俳句も短歌も手がける人もいる。一つの答えに収束するより、意見が割れること自体が見どころになりそうだね。
ピー子 巻頭作品は?
ヨミ太 28首が馬場あき子・時田則雄・東直子の3人。馬場あき子は1928年生まれで、この大ベテランが巻頭に立ち続けているのが頼もしい。時田則雄は北海道の大地に根ざした作風で知られていて、東直子は歌集に加えて小説やエッセイも書く人。三者三様の文体が並ぶだけでも読み応えがあると思う。10首のほうは村山美恵子、小黒世茂、真中朋久、山川築。コラム「うたの名言」は高野公彦だよ。
ピー子 若手の企画もあったよね。
ヨミ太 【第71回角川短歌賞受賞から1年 30首】は船田愛子。新人賞のあと30首を読めるのは、受賞後の歩みを確かめる意味でも貴重だね。そして【第5回U-25短歌選手権 優勝記念 20首】が吉田帆花。8月号で優勝作品と選考座談会が載っていたから、その続きとして優勝者の新作を読めるわけだ。8月号の「過去と未来の往復」に対して、10月号は「受賞後の新作を読む号」という側面もあるね。
ピー子 講演録もある。
ヨミ太 川野里子の【講演録「戦争」から「家族」へ】。これは特集の「不快」とは違う角度から、短歌が時代や共同体とどう向き合うかを考えさせる一本になりそう。タイトルの「戦争」から「家族」への移り方が気になる。連載のカン・ハンナ「家族の歌」ともゆるやかに響き合うかもしれないね。
ピー子 作品欄は?
ヨミ太 作品12首が石田照子、池谷しげみ、三川博、水上比呂美、風早康惠、桜井健司、社領美穂、生沼義朗、今橋愛、平岡直子の10人。作品7首も入江曜子、柚木新、樫井礼子、森田香津美、高橋照葉、行方祐美、藤井柊太、片岡絢、千葉優作、榊原紘と10人。ここは結社の枠を超えて、作風の違う歌人が一冊に同居するのが総合誌の楽しみだね。
ピー子 連載と書評も教えて。
ヨミ太 連載は栗木京子「京子の居間」、中津昌子「永井陽子論」、カン・ハンナ「家族の歌」、荻原裕幸「短歌万華鏡」、山田航「ぼくは散文が書けない」、光森裕樹「はるかなる言の葉」、大塚秀行「嗜好品のささやき」。歌壇時評は和嶋勝利、月評は清水正人。書評は雁部貞夫『歌集 骨酒』を恒成美代子、柳澤美晴『並行世界にも朝』を藤野早苗、田村穂隆『霧に貌』を後藤由紀恵、頼松京子『丹波橋通りを抜けて』を林田恒浩が担当している。注目は荻原裕幸『アヲハリズム 荻原裕幸初期短歌選集』を吉田隼人が評すること。初期作品を選集で読み直す本を、後の世代の歌人がどう受け止めるのか楽しみだよ。
ピー子 付録もあるんだよね。
ヨミ太 【ふろく】は短歌手帖2027。もう来年の手帖の季節なんだなと実感するね。読者投稿の角川歌壇は千々和久幸、田村広志、古谷智子、谷岡亜紀、中沢直人が選者で、題詠は小島なお。巻頭のグラビアには「速報!角川短歌賞」の文字もあって、11月号の賞発表につながる流れを感じるね。
ピー子 全体の印象は?
ヨミ太 先月までの人物特集と違って、今号は「いま短歌が直面している問い」に正面から向き合う号だと思う。「不快は誰のものか」という議論の場があり、受賞後や優勝後の新作という実作の場があり、戦争と家族という大きな主題の講演がある。読み手に考えさせる材料が多い号だよ。まず特集を読んで、そのあと巻頭の馬場あき子や東直子の作品に戻ると、「不快」や「痛み」がどう歌になるのか実感できると思う。
ピー子 特集から読んで、作品に戻る。秋の夜長にぴったりだね。
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