
ピー子 角川『俳句』2026年10月号。特集は【遊びのすすめ】で、特別企画が「古典題詠ルネサンス――『六百番歌合』恋五十題競詠座談」。句集特集は山尾玉藻句集『くれぐれと』。俳句雑誌で「遊び」って、ちょっと不真面目な響きがない?
ヨミ太 そう思うよね。でも今年の特集の流れを見ると狙いが分かる。7月号が「おしゃれな句」、9月号が「濃い句、淡い句」、そして10月号が「遊びのすすめ」。句の味わいや感触を入口に俳句を考える企画が続いていて、その延長で「遊び」を真面目に論じる号なんだと思う。
ピー子 総論は高尾秀四郎、各論が山本素竹・秋尾敏・岡田一実・本井英の4人か。
ヨミ太 顔ぶれが面白いよ。秋尾敏さんは「軸」、岡田一実さんは「らん」、本井英さんは「夏潮」の人で、立ち位置がかなり違う。「遊び」を言葉遊びとするのか、句会という場の楽しみとするのか、写生の余裕とするのか。切り口がばらけるはずで、4本を読み比べるのが楽しみ方だと思う。
ピー子 「遊び」って、手を抜くことじゃないよね。
ヨミ太 むしろ逆だと思う。型や約束事が厳しいから成り立つのが遊びで、五七五も季語もそう。ただ、俳句が「生き方」や「社会」を背負わされがちな時代に、遊びを前面に出すのは一つの意思表示にもなる。総論がそこをどう整理するかが読みどころだね。
ピー子 もう一つの目玉、六百番歌合って何?
ヨミ太 平安末から鎌倉初期、1190年代前半に九条良経が主催した大規模な歌合で、十二人の歌人が百題を詠み、六百番=千二百首が競われた。判者は藤原俊成で、判詞が歌論として読めることでも有名なんだ。題は四季と恋が中心で、今回はその「恋五十題」が舞台だね。
ピー子 それを俳句の人がやるの?
ヨミ太 そこが企画の妙。座談の顔ぶれは高橋睦郎、高山れおな、岩田奎、望月とし江の4人。高橋睦郎さんは詩・短歌・俳句を横断してきた人で、古典の素養が厚い。高山れおなさんは古典や詩歌史への目配りが鋭い。岩田奎さんは21歳で角川俳句賞を取った最年少受賞者で、今の若手を代表する書き手だね。世代も出自も違う人が、同じ題で競い合う。
ピー子 題詠って、与えられたお題で詠むやつだよね。
ヨミ太 そう。実体験や感動を出発点にする近代以降の「写生」や「自己表現」とは逆向きの方法だね。たとえば「忍ぶ恋」「待つ恋」といった題を渡されたら、体験の有無に関係なく、言葉と想像力で場面を立ち上げるしかない。作者の「私」より作品の出来が問われる。これも立派な遊びで、特集との組み合わせに納得がいく。
ピー子 ルネサンスって付いてるのも気になる。
ヨミ太 復興という意味だよね。古典の枠組みを今の俳人が使ったら何が出るか、という実験でもあると思う。恋の句は現代俳句でも書かれるけど、五十もの題で恋のバリエーションを詠み分ける機会はまずない。出来上がった句そのものと、座談での評し合いと、両方が見どころになりそう。
ピー子 句集特集の山尾玉藻『くれぐれと』は?
ヨミ太 山尾さんは2024年10月号で作品21句を寄せていた人で、今回は句集刊行に合わせた特集だね。「くれぐれと」という題は、念押しの言葉でもあり、暮れゆく時間を思わせる響きもある。内容は誌面を読まないと言えないけど、題だけで想像が広がる句集だよ。この特集が「遊びのすすめ」の号に入っていることも、読むときの一つの手がかりになると思う。
ピー子 連載陣は?
ヨミ太 夏井いつきさんの「はみ出せ!俳句」、青木亮人さんの「小林秀雄の眼と俳句」、廣瀬悦哉さんの「飯田龍太の世界」、岩井英雅さんの「幾星霜の扉――近代俳人の肖像」、田島ハルさんの「妄想俳画」、角谷昌子さんの「俳句の水脈・血脈」、須藤功さんの「昭和の遠景」、奥本大三郎さんの「俳句の中の虫」。実作の楽しさ、批評、近代俳人の評伝、写真と民俗の記録、虫の文化誌と、幅がとても広いよね。
ピー子 読み方に迷いそう。
ヨミ太 特集の「遊び」を軸にすると繋がりが見えると思う。「妄想俳画」や「俳句の中の虫」は遊び心そのものだし、「はみ出せ!俳句」は型からの逸脱を楽しむ連載。「小林秀雄の眼と俳句」や「飯田龍太の世界」は、遊びの対極にある緊張感を教えてくれる。両方読むと、遊びの輪郭がはっきりするんじゃないかな。
ピー子 現代俳句時評は誰が書いてるの?
ヨミ太 今号は大塚凱さん。今年の2月号では井上泰至さんが担当していたから、書き手が替わったことになる。大塚さんは2024年10月号の特集「魔法の一音」にも論考を寄せていた若い世代の書き手で、時評の視点がどう変わるかも注目したい。
ピー子 作品欄も気になるな。
ヨミ太 12句の枠に朝吹英和、永井江美子、江見悦子、山田真砂年、西澤みず季、岡田耕治。7句の枠には大畑善昭、藤野律子、水野悦子、星野早苗、木村聡雄、乘田眞紀子、佐々木貴子、井上裕太、平野皓大らが並ぶ。8句の枠にも星野恒彦、中村克子、三輪初子、宮地瑛子といった名前がある。ベテランと中堅、若手が混ざっていて、同じ号で世代の違いをそのまま味わえる。
ピー子 まとめると、どんな号?
ヨミ太 三つの「遊び」が並んでいると思う。一つは特集の「遊びのすすめ」という理念としての遊び。二つ目は六百番歌合の競詠という、題詠と古典を使った形式としての遊び。三つ目は連載や作品欄にある、読み手が気軽に楽しめる遊び。秋の夜長に、まず特集の4本を読み比べて、次に恋の競詠座談、最後に連載で気分を変える、という順で読むのが良さそうだよ。
ピー子 そして、読んだ後は自分でも題詠に挑戦してみたくなる。
ヨミ太 うん。「忍ぶ恋」でも「待つ恋」でも、お題を一つ決めて一句詠んでみる。それがいちばんの「遊びのすすめ」かもしれないね。
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