
ピー子 角川『俳句』2026年8月号。特集は【禁じ手の使いどころ――秀句への荒療治?】だけど、私が気になったのは【特別講座採録「宇多喜代子を語る」】。宇多喜代子×西村和子×小澤實×神野紗希という顔ぶれの座談会が誌面化されているみたい。豪華だね。
ヨミ太 うん、この4人が揃うだけで読み応えがある。まず宇多喜代子という人がどういう俳人か整理しておくと、1935年、山口県徳山市(現・周南市)生まれの俳人だよ。高校3年で大阪に移り、遠山麦浪に俳句の手ほどきを受けたのが出発点とされている。1962年に麦浪没後の「獅林」(前田正治主宰)に入り、1970年創刊の「草苑」(桂信子主宰)に参加して同人、のち編集長を務めた。
ピー子 桂信子門下なんだ。俳句の系譜としてはどういう位置づけになるの?
ヨミ太 本人も語っているけれど、「獅林」で俳句の基礎を学び、「草苑」では新興俳句のしなやかさに触れて育った、という自己分析がある。伝統・新興・前衛のそれぞれの良さを吸収しつつ、それらを公平に評価してきた人なんだ。さらに句集『夏月集』の時期、作家・中上健次や熊野との出会いをきっかけに句風が大きく転換したとされている。土地の霊性や祭祀性のようなものが句に入り込んでくる時期だね。
ピー子 代表句はどんな感じ?
ヨミ太 直接引用はできないから雰囲気だけ伝えるけど、句集『夏月集』所収の一句は、天皇の白髪と夏の月とを並べて置くことで、時の重みと季節の涼やかさを同時に感じさせる作り。句集『象』所収のもう一句は、稲刈り後の余った苗にも「耳」や「舌」があるかのように見立てて、農の営みへの親密なまなざしを差し出している。いずれも代表句として知られているものだよ。もう一つ印象的なのは、戦争という主題をサフランの栽培という穏やかな行為と衝突させるように詠んだ句があること。宇多は太平洋戦争を少女期に体験した世代で、戦火の記憶を俳壇でどう継承するかを問い続けてきた人なんだ。
ピー子 経歴もすごいよね。
ヨミ太 1982年、句集『りらの木』で第29回現代俳句協会賞。2001年、句集『象』で第35回蛇笏賞。2002年に紫綬褒章。2006年から2011年まで現代俳句協会会長。2012年、句集『記憶』で第27回詩歌文学館賞、2014年に第14回現代俳句大賞、2016年に日本芸術院賞、2019年に第18回俳句四季大賞と文化功労者、2020年に第61回毎日芸術賞と受賞歴が続く。現在は現代俳句協会特別顧問、日本芸術院会員。伝統・前衛の垣根を越え、俳壇全体から敬愛される長老格の一人だね。
ピー子 座談会の相手も豪華。西村和子は「知音」主宰、小澤實は「澤」主宰、神野紗希は若手世代の論客だから、世代も結社も超えたメンバー構成になってる。
ヨミ太 まさに「宇多喜代子を語る」というタイトル通り、本人の言葉と、それを受け止める世代の異なる俳人たちの視線が交差する構成になりそうだ。単なる回顧ではなく、彼女の仕事がいまの俳壇にどうつながっているかを確認する場になっていると思う。
ピー子 特集本編の方も見ておこうか。
ヨミ太 【特集 禁じ手の使いどころ――秀句への荒療治?】は総論が岸本尚毅、各論に中岡毅雄、名取里美、守屋明俊、大西朋、鶴岡加苗、西生ゆかり、杉田菜穂、田部知季と多彩な書き手が並んでいる。「禁じ手」というのは類想類句や説明過多といった、教科書的には避けるべきとされる技法のことだろうけど、それをあえて使うことで秀句が生まれる瞬間を検証する企画みたいだね。コラムには池田瑠那、鎌田俊、仲寒蝉も名を連ねている。
ピー子 ほかの誌面は?
ヨミ太 特別寄稿として宮坂静生が「空気を詠む――『蟄虫の乱』評寸感」を寄せているほか、巻頭作品50句は大木あまり、作品21句は松尾隆信と津川絵理子が担当している。グラビアは「今月の季語」遠藤由樹子、「日本の鳥たち」大橋弘一、結社歳時記は「出航」、俳壇ヘッドラインと、毎号おなじみの構成が続く。
ピー子 連載陣も安定してるね。
ヨミ太 夏井いつき「はみ出せ!俳句」、青木亮人「小林秀雄の眼と俳句」、廣瀬悦哉「飯田龍太の世界」、岩井英雅「幾星霜の扉」、田島ハル「妄想俳画」、角谷昌子「俳句の水脈・血脈」、須藤功「昭和の遠景」、奥本大三郎「俳句の中の虫」、大塚凱「現代俳句時評」、そして能村研三×恩田侑布子×小野あらたの合評鼎談まで続いている。読者投稿の「令和俳壇」は題詠を夏井いつきが選び、雑詠には野中亮介、五十嵐秀彦、小林貴子、鳥居真里子、白濱一羊、成田一子、森田純一郎、星野高士、井上康明が選者に並ぶ。
ピー子 まとめると、今号は「禁じ手」という実作寄りの技術特集と、「宇多喜代子を語る」という人物軸の特集、両輪で組まれている号ってことだね。
ヨミ太 そう思う。技法をあえて壊すことで生まれる句と、戦後俳壇を伝統・新興・前衛の垣根なく歩いてきた宇多喜代子という存在――どちらも「型をどう扱うか」という問いでつながっている。実作者にも俳句史に関心のある読者にも、それぞれ違う入口から楽しめる8月号だと思う。
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