世界(異界)を創造する作家、遠藤徹さんの連載小説『贄の王』(第13回)をアップしましたぁ。『贄の王』も大詰めに差しかかりつつあります。
一応の棲み分けができて、かつてほどの騒動はなくなった。それでも、北は絶えず西と東を食らった。北はなんでも食らうのだった。北に食われる腹いせに、西は東を食らった。東の人間たちは無力で、ただ食われるばかりだった。人間たちは、懸命に繁殖した。食われても食われても子を産み育てた。それでも北と西の両方に食われるので次第に数が減っていった。南はこれらすべてを優しく見つめていた。必要に応じて必要なものを産んでやるつもりだった。
『贄の王』の魅力は暴力的な汎神論的世界の描写にありますが、そこにはもちろん秩序があります。秩序は方角と穴によってバランスが保たれており、そのバランスを壊し、かつ再構築する要素として人間存在(登場人物)が必要とされているやうに思えます。引用した記述にあるやうに、ほとんど神話的世界ですね。人間が物語を動かすのではなく、地面(世界)がグラリと動いて物語が生じるようなタイプの小説であり、そこが遠藤文学最大の魅力かもしれません。
おやすみ遊斉。
よい眠りを。
死よりも長い眠りを。
こういった記述は残酷でいいなぁ。でもいわゆるホラーや残酷小説とは違う質の言い切りであり、ある真実の開示なのであります。小説の世界は本屋さんの書棚を見ても、意外ときっちりジャンル別に本が分類されています。でも遠藤さんはもしかすると、既成のジャンルをはみ出てしまう資質をお持ちの作家さんかもしれません。
■ 遠藤徹 連載小説 『贄の王』(第13回) テキスト版 ■