【文学金魚新人賞受賞作家 新春対談】寅間心閑×松岡里奈『男の小説と女の小説』
新春企画として、文学金魚で『助平ども』を連載中の寅間心閑さん(第二回金魚屋新人賞受賞)と、『スーパーヒーローズ』を連載中の松岡里奈さん(第八回金魚屋新人賞受賞)に対談していただいた。『助平ども』と『スーパーヒーローズ』は、小説の世界では大きく分類すると私小説になる。が、書き方やテーマの処理方法が大きく異なる。それは作家のタイプの違いなのか、はたまた男女の作家の違いなのか。お互いの小説を読んだ上で、ストレートなお考えを闘わせていただいた。
文学金魚編集部
■小説のリズムについて■
金魚 寅間さんに登場していただくのはこれで三回目ですね。原里実さんの『佐藤くん、大好き』の討議に参加してもらって、鶴山裕司さんの『夏目漱石論―現代文学の創出』出版記念の対談をやっていただきました。
寅間 そうですね。
金魚 新人賞を受賞した同士って、相手のことを意識したりするものなんですか。
寅間 どんな人かなっていう興味はあります。
金魚 年齢も比較的近いんでしたっけ。
寅間 僕はそろそろ大台が見えて来ました。
金魚 ああそうでしたっけ、どうりで筆力があるわけだ。松岡さんは確かミ・ソ・ジですよね。
松岡 この間三十歳になったんですよ。勘弁してほしいです。
金魚 ティーンエージャーの頃は、三十歳まで生きているって思ってなかったでしょ。
松岡 ええ、三十までに死ぬと思ってました。死んでないのが驚きです。あと六時間くらいで三十になる時に、あーどうしよう、もう死ぬしかないかぁって思いましたもの(笑)。
金魚 そういうタイプですよね。でもなかなか死ねないですよ(笑)。
松岡 三十超えたら、このあとなかなか死ねないってわかってます。
金魚 連載の途中ですが、お互いの作品は読んでいますよね。そこから始めましょうか。最初はほめ合うしかないでしょうけど(笑)。
松岡 寅間さんの『助平ども』はすごく読みやすいです。今三十六回目でかなり長いんですが、二日くらいでスルスル読めてしまいました。わたしにはできない書き方です。
寅間 松岡さんの『スーパーヒーローズ』は、僕の好きな書き方に似ていると思いました。だから割とすぐに小説の世界に入れました。内容や主題という意味ではなく、表側の話ですが、音楽でいうとアレンジの仕方が似ているように思います。言葉遣いとか間の取り方だと思いますが、似てると感じました。連載途中なので、全部は読んでいないんですが。
松岡 『助平ども』は何枚くらいになる予定ですか?
寅間 もうとっくに完結してなくちゃならないんですけどね(笑)。ベースはあるんですが、文学金魚でアップしてもらってそれをスマホで見たりするうちに、さっきの音楽のアレンジの話と通じますが、もう少しこうしたら面白いかなとか考え始めて、時間軸が伸びてきている感じです。こういうことをやってみたいな、あんなこともやってみたいなと、いろいろ試し始めちゃったんですね。もちろん最後に落とし込むところは一つなんですが、それまでにまだ色々やってみたいんです。扱っている題材が題材ですから、一人の人間が書いていると変化をつけにくいところがあるんですが、それをあえて咀嚼し過ぎないで吐き出すように書ければいいなと思います。小説を書いている時間自体は短いんですけどね。
松岡 悩んでいる跡がないから、読みやすいんですね。
寅間 リズム感ということで言うと、松岡さんもリズムが悪くなるのを避けておられるのかなと思います。ガクガクして、読んでいてリズムが悪い文章は採用しておられない。
松岡 寅間さんはスーッとお書きになっている感じが文章から伝わってきます。初稿と完成稿にあまり差がないんでしょうね。それに比べるとわたしの文章は修正が多いかもしれない。後からかなり手を入れていますから。
■書き始めたきっかけ■
寅間 リズム感が悪い文章がダメとは思いませんが、内容がともなってないとダメですよね。内容がリズムを否定してないと。松岡さんは好きな作家はいますか?
松岡 三島由紀夫ですね。寅間さんは誰ですか?
寅間 引っ越す時に何冊か持ってきちゃったのは村上龍ですかね。初期の頃の作品が好きです。図書館でも借りられるんですが、やっぱり持っていたい。三島さんのどの作品が好きなんですか?
松岡 『仮面の告白』ですね。十四歳の時に読んで、世界が変わっちゃったような気がしました。寅間さんはどんなきっかけて書き始めたんですか?
寅間 僕はずっとバンドをやっていて、音楽を演奏したり聞いたりするのがいまだに一番楽しいんです。ギターを弾いて歌うことも多いんですが、昔はちゃんとオリジナル曲なんかもやっていました。そうすると歌詞が必要になる。それで文章を書き始めたんですが、だんだんより長い文章を書いてみようと思い始めて、大学を出たくらいの頃ですかね、小説を書き始めました。で、書けるんですが、読んでみて面白くない。書いた本人だから、何を書きたいかわかっているのに面白くない(笑)。なぜなんだろう、どうにかしたいな、小説が上手くなったらいいなというのが、続けて書いていくきっかけですね。
松岡 音楽がお好きというのが、寅間さんの文章のリズム感になっているんでしょうね。
寅間 「小説、たいして読んでないんですよー」と言うとカッコつけてるみたいですが、ホントにあんまりたくさんの本を読んだことはないんです。一〇〇の名著とかのガイド本の目次を見て、ああ全然読んでないなと思ったりします(笑)。
松岡 わたしも読書通と言えるほど読んでませんね。お好きな音楽のジャンルはなんですか?
寅間 ダメな音楽はだいたい決まっていて、いまだに修行が足りなくてヘビーメタルなんかは苦手です。一番好きな音楽は、やっぱり中高生の頃に聞いていたパンクかなぁ。最近のパンクをよく聞いているわけではないですが。ヘビーメタルの人たちは、もしかすると格好があまり好きじゃないのかもしれません(笑)。ただ音楽で吸収したことは、なにかの形で書く時に出ちゃってるでしょうね。
松岡 わたしも音楽は好きですね。歌詞とかを聞いて、ああうまい表現だなと思うと、それに影響を受けたりしていると思います。
■日本語と英語表現について■
寅間 英語はだいじょうぶなんですよね。
松岡 ええ。
寅間 それはメチャメチャうらやましい(笑)。
松岡 自分ではそれはたいしたことだとは思っていなくて、アメリカなんかに行ったら、三言語、四言語話せる人がいっぱいいますからね。それよりか日本語をちゃんと書ける人の方がわたしはスゴイと思います。
寅間 誰でも母国語はあるわけですが、三つとか四つ、あるいは百とか言葉ができたりすると、それによって母国語が乱れてしまうところはあるかもしれません。でもそれは個性ですから、作家ならむしろいい特徴になるんじゃないでしょうか。
松岡 英語の表現を日本語に持ってきても、日本語の表現を英語に持っていってもうまくいかないことはありますねぇ。三島由紀夫の『仮面の告白』を英語版で読んだんですが、ぜんぜんダメなんです。訴えかけてこない。
寅間 野坂昭如さんが、友達のアメリカ人が「三島の作品はうちの子どもが大好きだよ。童話みたいだからね」と言ったので、ショックを受けたという話を書いていました。確かめてみると、英語では比喩表現が外されていて、肉がなくて骨だけになっていたそうです。
松岡 そういうこと、ホントにあります。英語では日本語表現にあった肉が削れちゃうんですよ。
寅間 逆に言うと、三島の小説は肉を削ると子どもが面白がるような話になるのかな、とも思いましたけどね。
■実体験と小説について■
松岡 ああそういう視点もありますね。また『助平ども』のお話しをしていいですか? わたしは読んだばかりなので、いろいろお話ししたくって。あの小説はなにがインスピレーションなんですか? 実体験でしょうか、想像で書いたものでしょうか。それをまずお聞きしたいです。
寅間 六対四くらいで、なんとなく景色として、経験としてあることを書いています。今だとスマホとかで写真をたくさん撮ったりして手軽に記録する手段がありますが、僕の十代二十代の頃は、あまり記録がないんですね。友達から昔の写真を見せられることもありますが、やっぱり見られたくないところは撮らせてないでしょう(笑)。そうすると自分の記憶を辿っていくしかない。でもだいぶ年月が経ってもいますから、どこかで他人事みたいにその記憶を眺めているんです。それを元にして、この出来事はどうなったんだろう、どうなれば良かったんだろうとか考えて、それらを束ねて書いているところがあります。『助平ども』は基本的には欲望――性欲の話なので、それはまあ作者が男ですから今に至るまで一貫していますよね(笑)。ただあまり嫌らしくならなければいいかな、と思って書いているところがあります。プラトニックな恋愛とかを書いても嫌らしくなることってありますから。その逆でどぎついことを書いていても嫌らしくならない書き方があるんじゃないかと思います。
松岡 さっきもう終わってなきゃならない小説だとおっしゃってましたが、今も連載中ですよね。プロットをキッチリ立てて書いているわけではないんですか?
寅間 最初立てていたプロットが、途中からグチャグチャっとなってます(笑)。
松岡 そういうこと、ありますね。その場合は書き続けた方がいいんでしょうね。プロットに忠実に書いて面白くなるとは限らないですから。もう一つお聞きしたいんですが、主人公は寅間さんの分身なんですか。それともまったく違う主人公を作っているんですか?
寅間 経験が六割くらいあるので、僕自身が投影されているでしょうね。でも「おいおいもっとうまくやれよ」という気持ちで物語を書いているかな。自分が投影されているからだいたいの未来の結末はわかっているけど、フィクションの要素を絡ませると未来もわからなくなってくる。そういう意味では楽しみながら現在進行形で書いています。
■お互いの書き方の違いについて■
金魚 だいたいジャブの応酬は終わったかな。
松岡 今まではジャブなんですか(笑)。
寅間 中盤戦だと思うんですが(笑)。
金魚 『助平ども』も『スーパーヒーローズ』も大きな括りで言えば私小説ですね。ただタイプが違う。『助平ども』は書き方に距離があるけど『スーパーヒーローズ』は距離がない。フィクションではありますが、告白体だから読者は主人公の実体験として読むと思います。小説のタイプが近いからこそ、違いを意識するところはないですか?
松岡 わたしの『スーパーヒーローズ』は、ちょっと近眼になっているところがあると思います。主人公は自分しか見えていないという書き方をしていますね。
金魚 寅間さんから見れば、『スーパーヒーローズ』は自己殺傷的に見えないですか?
寅間 主人公の日記を読んでいるような感覚はありますね。
金魚 寅間さんはある程度の実体験をベースにそれをフィクション化している。松岡さんは実体験的な手持ちの札を、細部まで書くことでフィクション化しているわけでしょう。小説のタイプは同じ私小説だけど手法がかなり違う。
寅間 手持ちの札は、全部掘り下げた方がいいかなとは思うんですね。使い切っちゃった方が、後々いいような気がします。
金魚 小説に限らないですけど、創作はもう何もネタがないと思ってからが勝負ですからね。ストレートかどうかを言えば、寅間さんの『助平ども』の方がストレートな性欲を描いていますね。
寅間 エロ小説というものを、昔からスゴイなとは思っていました。紙に字が書いてあるだけなのに、良質のエロ小説はこんなにフィジカルなところに訴えかけるのかと感心したことがあるんです(笑)。ただ単にエロを描くだけじゃバランスが悪い、面白くない。じゃあ自分なりのエロ小説とはなんだろうと考えて、『助平ども』を書いたところがあります。
松岡 『助平ども』のテーマは、それはもうエロなんでしょうけど、なぜエロなんですか?
寅間 それは「男の子だから」としか言いようがないかもしれない。エロを選び取ったわけではなく、自分に昔からあるものだから(笑)。
■女性の描き方について■
金魚 松岡さんから見て、『助平ども』で描かれている女性たちはどう映りますか?
松岡 面白いです。ハッキリ言うと、もっと女の方を掘り下げてほしいです。すごい面倒くさい女がいっぱい出て来るじゃないですか。「いるいるこんな女」と思うんですが、そういう女たちの心の中を見たいですね。わたしが一番興味を持つのは、ちょっと頭のおかしい女の人たちです。主人公の俺はあんまりそこに興味を持ってくれませんから、おかしな女たちのショーウインドウを見てる感じですけど。主人公が内面に興味があるのは恋人のナオだけでしょう。いや、ナオの内面に対してもそんなに興味がないのかな。もちろんそれが悪いのかといえばそんなことはなくって、徹底して女の内面に興味がないから、リアルにおかしな女の存在が描けるのかなと思います。
寅間 昔の自分を叱りたいのはそこです。女性の内面に興味がないんですよね。自分のフィジカルな欲望にしか興味がない。でもそんな昔の自分を堅持しなければいけないな、と思っているんです。実際には僕は、『助平ども』の主人公よりもずっと年を取っているわけで、そうするとあの若かった頃のダメなところがどんどんなくなってくる。女性の中に人間性を見てしまうところがどんどん出て来るので、それをあえて排除して『助平ども』を書いているところがあります。昔の自分は女性の内面を、わからないし、わかろうともしていない。目の前にラッキーがあったら単にラッキーと思う。そういうところを書いておきたい(笑)。
金魚 スゴイこと言うなぁ(笑)。でもそれは男と女の最大の違いかもしれませんねぇ。
寅間 もちろん僕は女性に内面があることをわかっていますよ(笑)。それは小説には直で出しませんが、わかっている上で書くと、主人公の呆けた部分がより露わになると思うんです。
松岡 これからどう展開するんだろう。
寅間 『助平ども』の主人公くらいの年の男子は、元々考えがないから、考えが変わらないんですよ。そういうイノセントな、イグノラントなところは最後まで維持したいです。三十歳くらいの設定ですが、そのくらいの年齢までは、あまり十代の頃と変わらなかったような記憶があります(笑)。思考がシンプルなんですね。ただわかったようなことは言うわけです。女性の内面に気が回らなくても、それはマズイということはティーンエージャーでもわかっている。男女の気持ちがすべての始まりですからね。ただ仲のいい女友だちがいて、それでも肉体関係になっちゃったり、ならなかったのでずっと友達でいられるとか、そういう状態がけっこう長く続いた期間があるのが、僕は普通の男の子の在り方かなと思うんです。それが男の子の幼さかもしれませんが。もちろんこれと現代社会の女性の権利云々とは、まったく関係がない話です。
■小説と社会倫理■
金魚 その反社会性は徹底した方がいいですね。
寅間 反社会的なんですかね(笑)。
金魚 ある意味そうならざるを得ないでしょうね。でも小説は社会倫理とは無縁ですから。それに引っ張られると小説が中途半端になってしまう。女はとことん不幸になった方がいいし、そうすると男もとことん不幸になるでしょう(笑)。
寅間 中途半端に倫理を背負い込むと、小説が面白くなくなるだろうなという意識はあります。倫理とは関係のない男女の関係を、きちんと追求したいです。
金魚 小説はある程度実体験をベースにしていますが、フィクションですから(笑)。松岡さんの『スーパーヒーローズ』にも性的な描写が多いわけですが、ご自分でエロチックな小説を書いているという意識はありますか?
松岡 ぜんぜんありません。性を書いているという意識はないですね。
寅間 まだ第四回までしか読んでいないですが、エロチックなことを書いているんだけど、それが大人の共通言語であるセックスになっちゃうと、面白くないですよね。悪い意味でのフィクションになっちゃう。でも嫌らしいか嫌らしくないかと言えば、嫌らしい部分はあると思いますが(笑)。
金魚 それを計算できなければ小説家ではないですよね。ただ男は後先考えずに女に突進していって、内面というか観念があることを発見する。女は男にまず観念を見て、それが実は幻想だったとわかって絶望する。そういう違いが『助平ども』と『スーパーヒーローズ』にはあると思います。
松岡 『助平ども』で言うと、安藤さんの中のトウコさんが観念ですよね。それが一番わたしは知りたい! あの面倒くさい女の内面に何があるのか。主人公はそれを全然掘り下げてくれないんだから(笑)。
寅間 今の僕なら聞くと思うんですが、当時の、三十歳くらいの素直な男の子の僕は、興味がないんですね。あんな面白い内面を抱えている女の子がいても、それを見ない(笑)。
松岡 でも安藤さんはリアルですよね。面倒くさいんだけど、その面倒くさいところにその人の一番の本質が出る。
寅間 主人公が女性の内面に突っ込み過ぎないように気をつけているんです。気持ちとか内面で言うと、男と女が擦れ違う小説ですから。
松岡 それはわかるんですが、そんなイノセントに至るまでの経緯を主人公に聞きたい! どうしちゃったのって。なにがあってそんなになっちゃったのって。なにかありそうなんだけど、教えてくれないんだなぁ(笑)。
寅間 僕の思っている正解は一つで、多分『助平ども』の主人公の性格に裏側はないんですよ(笑)。
松岡 何もないんなら、どうして書く必要があるんですか?
寅間 対比をちゃんと見たい。こんなにいろいろストーリーを持っている女の人がいて、でも男は何も気づいていない、わかろうとしていないという対比を書きたい。
松岡 主人公があそこまで頽廃した理由はなんなんですか?
寅間 頽廃に見えるんですか?
松岡 見えますね。もしかしてあれが普通なんですか?
寅間 はい(笑)。
松岡 それは人によると思うなぁ(笑)。
寅間 あれは頽廃じゃなくて、健全な男の子の姿でしょう(笑)。
松岡 でも気をつけないと。病気移されますよ(爆笑)。
■内面描写について■
寅間 フィジカルにもいろいろあって、病気を移されずに朝を迎えて百点と思うか、宿の部屋までいっしょに来てくれたから、そこで正解と思うか。ホントはそこからスタートなんだけど、口説いた時点で満足してしまうというか、力尽きちゃう(笑)。
松岡 『助平ども』とは違う、今の自分が投影された小説は書きたいと思いますか?
寅間 意外と『助平ども』に今の自分が投影されていると思います。まどろっこしい言い方になりますが、今の自分を投影してああいう書き方になっています。今の自分だったら、いろんな女の子の内面を書きたくなっちゃうでしょうね。でも三十歳くらいの時は、それは大事ではなかったから、その当時の感覚というか状態を、大事にしようと思っています。
松岡 大事にしようと思った理由はなんですか?
寅間 僕の読書量の少なさかもしれませんが、『助平ども』の主人公のように、女性の内面にあまり立ち入らないというか、探りを入れない小説を、読んだことがなかったんですよ。女性が出て来るとみんなそれぞれドラマを持っているわけですが、それがわからずに、浮かれて泳いでいるような男を描きたいと思ったんですね。でも女性たちがドラマを持っていることは存分に匂わせなければいけない。匂わせるから、バカみたいに泳いでいることが浮き立つ。そういった構造は、十年前、二十年前は思いつかなかったような気がします。女性たちの内面を描くことを選ばなかったことに、今の自分が反映されていると思っています。タイトル通り、『助平ども』なわけですが、これはあまり声高には言いにくい。だったら書いておいた方がいいのかな、ということですね。あんまり文学的なテーマじゃないな、とは書き始めた時から思っていますけど(笑)。
金魚 『スーパーヒーローズ』の主人公が、男の子を好きになる基準はあるんですか?
松岡 顔、イケメン(笑)。
金魚 それでいいんだけど、顔は何を意味してるんですか? 『助平ども』とは質が違いますけど、内面が見えちゃいけないからイケメンじゃないとダメなわけでしょう(笑)。
松岡 そうかもしれませんね。男の内面が見えないというより、『スーパーヒーローズ』の主人公は見ようとしていないんですよ。自分の心の内面をうっとり撫で回しているだけなんです。自分の中で、男の内面に絶対深入りしてはいけないと思っている。深入りしちゃうと主人公の観念世界が崩れちゃうんです。好きになった男の内面に深入りした小説は、また別の形で書きたいんです。『スーパーヒーローズ』の場合は、主人公が本気で男に惚れて、本気で付き合っちゃうと、その観念が変わっちゃうんです。あの小説は、主人公が抱えている内面の観念をつかむことが目的です。
寅間 『助平ども』の主人公の目的はセックスだな。いや、朝までいっしょにいる確約を取り付けることか(笑)。
松岡 それでいいのかなぁ(笑)。
金魚 『助平ども』は男根主義小説ですから(笑)。でもその分、どこに落とすのかは難しいと言えば難しいですね。
松岡 『助平ども』で人間として生きているのは、アンタと冴子とナオだけですから、そのあたりがキーになるんでしょうね。
寅間 あの主人公の弱点、弱みですよね。それは活用したいと思います(笑)。
■小説の男女差について■
松岡 『助平ども』を書く上で、参考にした小説の文体とかはありますか?
寅間 特にないですが、スッと読める小説、主人公の目に見えるもの、理解できるものしか書かないようには気をつけています。説明っぽい小説の文体は避けていますね。主人公にとっては、女性たちが言っていることは小難しいことという感じなので、それに深入りはさせないということです。
松岡 わたしの『スーパーヒーローズ』と『助平ども』は、セックスが重要なファクターになっているでしょうけど、だいぶ違いますね。
金魚 男がいるようでいない小説と、女がいるようでいない小説だけど、小説というものにおける男女差が非常によく出ている二作品だと思います(笑)。似た題材を扱っている小説だからこそ、お互い相容れない部分もあるんじゃないですかね。
寅間 それは見せたくない、出し切っていない秘密の部分かもしれないですね(笑)。
松岡 自分が死ぬときのお土産みたいなつもりで『スーパーヒーローズ』を書いたので(笑)。
寅間 松岡さんが小説を書いていることは、周りのひとはみんな知っているんですか?
松岡 あまり言ってなかったんですが、今回、金魚屋新人賞を受賞してバレましたね。寅間さんは?
寅間 言ってないですねぇ。先日、父親が亡くなったんですが、父親には言ってませんでした。母親にも言ってない。週一で顔を合わせるような呑み仲間は知っています。でも学生時代の友達とかは知らないですね。
松岡 『助平ども』の完結、楽しみだなぁ。やっぱりどうなるか怖いって小説ですよ。
寅間 『スーパーヒーローズ』はまだまだ連載のとば口ですよね。五百枚だから。
松岡 わたしはプロットを立てた小説を書けるようにならないと、もうどうしようもないなって、ちょっと焦っています。
金魚 そこは寅間さんはできていますね。意外と柔軟にプロットを動かせる。
寅間 もしかすると、文学金魚で連載をさせてもらっていることに、甘えていることがあるかもしれません。連載が面白くて、最初のお尻を通り過ぎちゃって、新しいお尻を考えてそこに向かっているところです(笑)。
金魚 『スーパーヒーローズ』のお尻は最初から決まっていましたか?
松岡 決まっていました。あそこに向けて一直線ですね。
金魚 そういう意味では五百枚の短編小説ですね。
松岡 いろいろ模索したあげくに、やっぱり最初のお尻になっちゃったというか(笑)。
金魚 じゃあ対談はこのくらいにして、一休みして動画を撮りましょう。今日はありがとうございました。
(2020/12/15)
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