偏った態度なのか、はたまた単なる変態か(笑)。男と女の性別も、恋愛も、セックスも、人間が排出するアノ匂いと音と光景で語られ、ひしめき合い、混じり合うアレに人間の存在は分解され、混沌の中からパズルのように何かが生み出されるまったく新しいタイプの物語。
論理学者にして気鋭の小説家、三浦俊彦による待望の新連載小説!。
by 三浦俊彦
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■ 印南哲治はもとよりこれまでに多彩な懺悔戦術を開発してきたが、どれもが金銭で契約した人為だった。朝鮮少女二名との恥辱的別れ方を気にしまくりつつその年流行のインフルエンザで高熱を発し寝込んだとき、ウィルスによる肉体的厭世憂鬱と生理的拒否感覚のどん底にいることを認めた印南は、
「……お、むしろ身体の憂鬱によって精神を浄化できるのではあるまいか?」
まことに単純な命題に思い当たり、全ての宿業の標しを拭い去るため、純愛路線を一時放棄し人為路線を臨時徹底することによる自己蒸留を試みんと、あえてプロを自室に呼んでベッドに横たわったまま高熱に火照る口中に単純脱糞してもらう、という方式でおろち魂の鍛錬に励んだ。
プロといえども当世出張SMクラブであるから携帯電話で事務所から呼び出された街行く少女たちにすぎず、印南流おろちプレイのスカウト対象とほぼ同じ層に他ならない。なので自然黄金と注文してあるにもかかわらずとことん行きずり的にいいかげんで十回に一度も出なかったのだが、ともかくひたすらリニアにのめりこむことによって煩悩を解消しようという策そのものは間違いではなかった。少なくとも短期的には正しいやり方だったようだ。曲がりなりにも名目がコンパニオンとなっていれば、アマ相手の純愛幻想に惑わされる余地もない【印南の未発表講義ノートより】。印南は、衰弱した体に脱愛おろちの臭気で活を入れながら(心身衰弱時をツボとして黄金魂を注入してゆくこの方式は印南自身によって後に〈瀉衰ノ行〉と名づけられた)次なる新戦略のプランを練っていたのである。
■ 当の朝は決まって、強度の嫌悪感に襲われるのだった。寝起きである。込み上げる、自発的修行とはいえ。寝起きは一般に、口の中が乾燥している。数年来就寝直前に十五分間歯磨きをしたあとデンタルフロスを使いさらに頬の内側と舌を専用ブラシでこそいでおく潔癖習慣を身につけている蔦崎公一にして朝のネバネバはかなり弱め傾向ではあったものの、筋骨起動時の粘膜に襲いくる直腸の湿気は強烈だった。そう、直腸直通の。
たとえば午前八時半にぼおっと目を覚ます。
「いくからねー!」
かん高くも優しいかけ声に両耳がぴくりと覚醒する。瞼をあけると視界全面、待ち構えていた焦茶ピンクに縁取られた巨大なギザギザ噴火花弁。いきなりの温泉卵硫黄臭。ドめくれ深紅。そのたびにあっと思う。そうなのだ。前夜、注文しておいたとおりのメニューを果たそうとしてくれている尻だ。同泊した出張SMヘルスのコンパニオンがしっかり便意を溜めて、目覚めとともに依頼主蔦崎の寝起きの口に職務忠実的黄金をどっさりジカ詰め込みするという〈モーニングコール・ボトム〉。その下位分類もしくは派生形としてひたすら起きがけに鼻先へ放屁をジカ噴霧してもらう〈モーニング・ミスト〉、中宮淑子の中からひと目選りすぐりの醜女に、大年増に濃厚放屁してもらう〈モーニング・リアルミスト〉(少しでも繋がりのあった女のうち「言いなりになる便利な素人女」を原体験風に「中宮淑子」という一般名詞で心中呼ぶ癖のついていた蔦崎だった。これは蔦崎の生涯を貫いた、過去の細部を単一の個性で一括することにより脱個性化して忘却せんとする衝動の逆説的表われと言えよう)。中宮淑子はそうそういつもいつも呼び立てはできない。そこで主となるプロ女の同泊プレイは相場一泊十万円である。蔦崎はそれだけの金を払って自ら注文したことながら目覚めるたびに愕然とする。朝の覚醒直後に口中粘度が高まり生理的拒否感覚が強くなるというほぼありふれた我が体質を利用して自己に課した試練への大いなる後悔。すでに始まっている。口腔鼻腔はじめ全身粘膜がまだ活動の湿りを帯びていない、乾いた生組織を無防備に曝け出し安心しきっている寝覚め、活力未発の薄明意識に他者のスカトール臭を浴びたときどれほどの鬱クオリアと危機感に襲われるものか。心身不活発なこの寝起きと同時に固形断行が成れば、腸肉拒食体質を金輪際克服できるのではないかと。飛躍できるのではないかと(印南哲治の〈瀉衰ノ行〉を想起せよ。おろち人の発想はやはりシンクロせずにはいない……)。また。幸いというべきか生憎というべきかコンパニオンもプロとはいえしばしば繊細な生理現象のこと時限爆弾設定は至難の業、結局一度も朝一番の黄金咀嚼という鍛錬中最大の一項目は実現せずにしまったが、肝心の固体抜きで黄金発射待機尻のヒクつきを寝起き一番の視界に受け止めるだけでも覚悟気力の大養成に資したことは一応確からしいとされている。
蔦崎公一の修業は多岐にわたった。そして深みに極まった。蔦崎的意図はどうあれ香坂美穂を結果的に裏切ったことの罪悪感はいつまでも尾を引き、彼女の可憐な粘膜的覚悟の胸を失望させた罰は、自ら幾重にも背負い込むべきものと捉えていたのである。距離も速度も関係なくこなせるにはこなせる贖罪だったにもかかわらずわざわざ全国をまわって試練に身を晒した。その蔦崎が香坂美穂と決別してクラブ『ξ』のアドホック派遣ホストとして〈S.W.の難題〉をクリアするに至るまでのおよそ四ヶ月半の間、彼がどこでどのくらい過酷な何を自らにどう課していたか、正確な記録が現存しないのではあるが、後の印南哲治への「懺悔的会話」から、断片的に再構成することは不可能ではない。
京都河原町のビジネスホテルでは、網タイツ正統ビザールコスチュームのSM嬢に朝一番、とろろ納豆臭の熱い屁束を鼻先に突き刺してもらい、指先がこわばった。
仙台のラブホテルでは、看護婦スタイルのコスプレ嬢に朝一番、ヤエヤマアオキ果実臭のぬるい屁を両眼に途切れなし45秒間持続シャワー、まぶた越しの酸味に爪先が攣った(最初に予約した店から来たコンパニオンが入室一番「看護師」なる自称を用いコスプレ風俗店としてC級以下であることを暴露したのでキャンセル、予約し直した店が当たりなのだった)。
札幌のビジネスホテルでは、スチュワーデススタイルのコスプレ嬢に朝一番、幼い頃嗅いだシロスジカミキリの死後三日腹を甦らせる冷たい屁を唇にひっかけてもらい、しゃっくりが逆流した。
三鷹のラブホテルでは、新体操レオタードスタイルのコスプレ嬢に朝一番、賞味期限後半年経過のブルガリアヨーグルト無糖プレーン臭そっくりの断続屁を顎にひっかけてもらい、目がかすんだ。
船橋のビジネスホテルでは、似合わぬところが逆にそそりまくる婦人警官スタイル・超痩身のニキビ童顔コスプレ嬢(自称三十五キロ)に朝一番、ザーサイ臭の長屁を眉間にひっかけてもらい、布団内で蔦崎自身ももらい屁が止まらなかった。
これら事例の奇跡性にはあえて目を瞠らなければならない。というのも、屁よりも大便のほうが物理的上位であるがゆえをもって「ああそうか、屁は出たけどウンコは出なかったんだな」と納得してしまいがちだからである。だが考えてみれば、定刻に放出するという意図的行為は、実際上、屁も大便もそう変わらないはずである。むしろ極端な努力さえあれば達成できるとは限らぬぶん、脱糞を伴わぬ単純空砲の方が難しいと言わねばなるまい。それが蔦崎修業一連の〈モーニングコール・ボトム〉では、定刻の放屁はほとんど達せられている。これはそのままでは不可解な現象であり、おそらく、蔦崎が自ら苛烈修業兼修行に身を投じておりながら無意識的黄金嫌悪の静電気を身にまとったゆえの拒否オーラがコスプレ嬢たちの粘膜に伝播した一種共振現象といえるだろう。
大宮の旅館風ラブホテルでは、ウェディングドレススタイルのコスプレ姫に朝一番、梅醤油臭の柔屁を額にひっかけてもらい、心拍が3つとんだ。しかしこのときは続いてポコッと黒い穴があいたかと思うと、黄土色の鎌首がムックリ縁を押し分け伸びてきて、括約筋の圧力を抜けると直ちに二倍の太さに膨らみつつみちみちみちみちみちっみちみち、と濃厚な臭気が両の鼻孔にねじ込まれてきたのである。くるっ、ついにくるっ、と思った。あまつさえ、まだナマ黄金を口にしたことのない要修行粘膜の朝。とめどもなく吐き気が。嘔吐が。けっきょく蔦崎はこのとき、飲み込むことはおろか、口中に受けることもおろか、黄金色の頭を見据えることすらできなかった。早い話がコスプレ嬢の肛門に
「すぽっ」
本能的に三本指で蓋してしまったのである。
「え……」
この「指で蓋」という逃避行為は象徴的であった。顔を背けたり女を押しのけたりわっと飛び出していったりしたのではない(清楚朝鮮尻にパニクってしまったあの印南哲治のように)。指で蓋ということは、いずれ指を抜かなければ埒があかないということ、つまりしばしの逃避のあと必ずや第二次奮起の指抜きに乗り出さねばならぬという積極的一時的逃避だったのである。その場では花嫁衣裳コスプレ嬢が「あ~あなによう、ご注文どおりにしてあげたのにぃ、いらないのぉ」的呟きを散らしながらトイレに入ったのだったが、蔦崎は生黄金じか食いのハードルの高さを思い知って打ちひしがれたのであった。
(一時的逃避の積極性は当人が気づいていないゆえにその価値を増している。なお、前述印南哲治の逃避法との対比のわりには、後述のごとく印南と蔦崎の末路がさほど対比的でなかったばかりか酷似すらしていたことは、世の中、象徴的行為どおりの文学的解釈をゆるさぬ偶然的の産物たることを私たちに教えているようだ)。
かくして暫定的後退を強いられた蔦崎は、その後邁進して朝の訓練のみならず、昼夜の粘膜絶好調時にも心置きない訓練の場を広げ、詳細は不明ながら少量の大便嚥下を段階的に達成していき、飲み込み方の工夫、飲み込み方次第で体内に腐熱を感じられるという体質的事実、せめてもの愛を温感する食べ方などに目覚めたようである。ただし、その実践に使われた糞は、人間の糞ではなかったようだ。『金妙塾訓練要項』第三版の第5章冒頭近くに、蔦崎独自の鍛錬努力が記録されている。
……【蔦崎氏が独自に当塾と同質の訓練法に到達されていたのは驚くべきである。逆に言えば、スカトロ道の王道は相対的な偶然性に晒されてはおらず、普遍的に決定されているという証でもある。当塾のプランにはスカトログラフィックによるマスターベーション、性感サロン・回春マッサージ店へのスカトログラフィック持ち込み等、オルガスムと視覚的該当刺激との連動を繰り返して脳内神経連結を図る等の初歩段階から条件反射修業プログラムが組まれていたが、蔦崎氏の一連の実践方法は当塾方式をなにがしかの「愛」にもとづくバージョンへ微細変更しているのが特色である。ただ一つの例外は、蔦崎氏が電線下で、落下してくる鳩の糞を口で受ける練習をしていたことであろう。そう、鳩糞の自然落下を待つ方法である。人間以外の糞を利用する訓練はきわめて独創的といわねばならない。かの『ピンク・フラミンゴ』における低俗女王ディバインの犬糞食いは有名だが、あれも彼女にして体系的に実行していたわけではなく、衝動的なアドリブであったにすぎない。ただし蔦崎氏の言では、中学校時代の二コ上の第二次初恋の相手が病室で鳩のぬいぐるみをいつも抱いていた映像が焼き付いており――中三のときに骨肉腫で死亡(引用者注:第15回参照);毎週のように見舞った病室で、最後連日、香ばしいアーモンド臭の下痢を垂れ流していた鮮明な印象あり;一度家族不在時に彼女の肛門探って掻き出した大便が鳩形をしていた――それゆえに鳩に特別な恋情が投影されているのだという。】
郊外各所のバス停近くなどで、口を開けて空を見上げつつ、あーん、などとしばしば有声音をあげ、数十分に二、三滴電線から落ちてくる鳩糞を口で受け止め続けた蔦崎公一の姿はしかるべく相当人数によって目撃され、きわめて異様な光景として記憶されたようである。
受け止めて口を閉じるたびに「ぱくっ」とこれも有声音で単独誇示していたというからなおさらである。
「あーん……ぱくっ」
「あああーーーん…………ぱくっ。あああーん……」
おろち元年以後に生きる私たちから見ると蔦崎のこの修練方法は愛とおろちが絡む交点においてはごく自然な自罰的向上心の発露と見なせるが、当時の価値観においてはいささか病的逸脱的な行動とも衆目には映ったはずだ。
ちなみに蔦崎は、袖村茂明のように「人間愛とセンチメンタリズムがスカトロ修業の障害になってしまう……」的ジレンマ(袖村の意外な内的試練については後述する)にはさほど煩わされはしなかった。ひたすら即物的に、物質の試練の度数をアップしてゆくことで、強引にステージ打開を図っていったのである。質を捨象し量に徹した戦略はおろち文化の未だ正道であろう。早朝顔前排便から鳩糞まで動員したその独創的な努力は全身粘膜血走るほどで、まもなく出会うことになる〈達人〉印南哲治の巨像に予め挑むかのような、助走とラストスパートを取り違えたかのごとき執念に満ちていた。
しかし量を重ねる経路積分には限界がある。鳩糞を飲み下すことは可能でも人糞ではなぜ不可能なのか。おそらく牛肉が食えても人肉はやはり誰でも大いに躊躇うだろう、内臓ごと牡蠣を食うのは平気でも人間の腸内は……つまりそういうことだ等々理屈をあてがいつつ、プロフェッショナルコスプレ嬢で何度試みても、姫里美沙子の周到調理黄金を食して以来一切あの物質を、ましてや生黄金をついぞ飲み込むことはできなかったのである(鳩糞訓練法の波紋については後に幾度か触れることにする)。
香坂美穂への贖罪の企てにことごとく失敗した蔦崎は挫折して目標を見失い、修業意識は修行意識へと化してゆき、最大の罰が死刑なのだとしたら美穂に誠意を見せるためには自殺しかない、と一時期SMクラブでの「黄金自殺」決行を企てるに至った【蔦崎日記より】。この黄金自殺という言葉は、前に引用した金妙塾ネオクソゲリラテキスト「黄金に魂覚めた朝」の「黄金死」と濃密に響きあっていることに注目せよ。ただし蔦崎がこの時点で石丸φのあの文章を読んでいたと判断するべきではない。しかも蔦崎の企てた黄金自殺というのは、石丸φのあれのような物量致死作戦とは程遠い、対極的かつ対照的な実質一本釣り戦法だったのである。すなわち蔦崎式では今や量より質、大塚の老舗SMクラブ『乙姫殿』のフロントで綿密にコンパニオンカタログを検討し、万札幾枚の特別の交渉ののち一週間かけて一人一人の出勤時に面会し、一人のSM嬢を選び出したのだった。
『蔦崎日記』の断片的記載によると、いかにも「黄金で死ねそうな」女を選んだとだけある。おろち考古学の進展に伴い、選ばれたM女「ユリカ」の顔映像が三次元的に復元されつつあるが、美形でも醜形でもないその顔色といい紫歯茎の腐艶といい白目の黄ばみといい鮫肌といい確かに典型的不健康以外の何物でもない。一見して「ヤクか病気か」を疑わせる系統である(ユリカがあの三谷恒明・袖村茂明経営「公衆トイレ式クリニック」終期の「ヤク漬け常連プロ女」の一人だったことが現在確認されている)。たしかにこんな生き物の内臓を食ったら一発でコロリだろうという視覚的見本のような嬢だ。なるほど石丸φ式絨毯爆撃法より信頼性高そうなピンポイント精密爆撃方式である。このような「いかにも人生捨てました」的宿主の体内黄金一気食いで、確実に死ねると蔦崎が本気で考えたのも無理はない(ユリカは翌年から行方不明、同居していたユリカの妹はおろち3年にHIVからの肺炎で死亡しており、四種類の性感染症の痕跡も確認されているが、本人に蔦崎黄金自殺当時その種の病が宿っていたかどうかは未調査。いずれにせよ蔦崎はユリカ黄金の嚥下即死を本気で期待していたので、遅効性ウイルスの類は想定外だった)。
ふんんっとひとつ息んでモリモリムリッと降りてきたユリカの腸内物質は、ガサガサささくれた尻皮膚とは対照的に見た目健康山吹色に輝いていた(間近直下の食ワサレ体質に感応したユリカの直腸とホルモンが微反応を急速に重ね、内容物を瞬間的に純化したものと思われる)。しかし通過物質と皮膚接触部とのこすれというか、乾いて擦りむけ零れた尻皮膚の細かい粉末様破片を表面にはらはら吸い付けながらむっくり降りてくる臭棒化学反応というか、たちまち輝かしい山吹色が一瞬七変化ののち焦茶と赤茶と黄土が墨流しのように混ざり合った依然結構美しい中太黄金をもぐもぐ決死なればこその勇気で、
「あぐっ、あぐっ、はぐっ、まぐっ」
苦くモロ苦く頬張りながら蔦崎は、ついに人間同朋の生糞を生まれて初めて口粘膜いっぱいに、感激を噛み締め始めるや否やふと、「!」自らが勃起していることに気づいたのである。
蔦崎はここで電撃的に思い当たる。香坂美穂への贖罪という観点から考えるならばむしろ、
(以後食糞だの飲尿だのを一切慎む、絶つというのが本道……)
だったのではないか。美穂の小便一滴すら飲めなかったこの自分が、他の素性知れずの女どもの黴菌だらけの小便ましてやウンコを飲み込んだり万一し遂げてしまおうものなら(しかも下半身的セカンド裏切りと言うべき大勃起つきかよ!)自分と美穂との粘膜的相性がどれだけ低いレベルへ貶められることになるはずか。ああ自分を責めるあまりに、自分を罰すべしという自前道徳に囚われるあまりひたすら無意味な苦行への道を突っ走ってしまった俺。とてつもない勘違いだった!
(ゲッ……)……
「……ゲッホボボォッ!」
蔦崎はひとかけらも飲み込まぬうちに一気に頬いっぱいのユリカ黄金を吹き出し、尻全体を茶色く染めたユリカを押しのけてプレイルームを駆け出していった。
こうして蔦崎公一の修業は悲惨な結末を迎えることになった、はずだったのだが、そう、この「ゲッホボボォッ!」のままではおそらく黄金自殺ならぬ本当の単純自殺を五、六回なさねば済まぬ心理的大損傷を蒙った蔦崎であったはずなのだが――このユリカ体験を機に修業は意外な方向へ進展していった。この夜蔦崎は――
(第33回 了)
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■ 三浦俊彦さんの本 ■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■