偏った態度なのか、はたまた単なる変態か(笑)。男と女の性別も、恋愛も、セックスも、人間が排出するアノ匂いと音と光景で語られ、ひしめき合い、混じり合うアレに人間の存在は分解され、混沌の中からパズルのように何かが生み出されるまったく新しいタイプの物語。
論理学者にして気鋭の小説家、三浦俊彦による待望の新連載小説!。
by 三浦俊彦
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■ 「まあ素材がスッチーってだけで、なにをどう編集しても傑作っぽくなっちゃうんですけど」
「ほんとはあんまりそういうのもね」
「AV業界はだいぶ前からコスプレで持ってるようなもんですからねえ。軽いコスプレはどこのブランドもちょっとはこだわっていて、『便所壺』は「オールスカートの若い女の子だけ」をターゲットにしてたし、ブブカ・スナイパーには「厚底靴」「ハイヒール」にこだわった作品がやたらあったよね。まあ本格コスチュームものとしてはざっと数え上げてもスチュワーデス、セーラー服、看護婦、バニーガール、チアガール、レースクイーン、モーターショーキャンギャル、コンパニオン、バスガイド、バドガール、ミニスカポリス、それから水着とか制服社員とかもコスチューム系に入るだろうな。女教師ものってのもずいぶんあるけど、教師はコスプレとしちゃ漠然としてますかね。その漠然ぶりがかえって無意識層にウケて効果的というか」
「教師というか、眼鏡マニアってのは多いみたいね。アロマ企画のARM-080~『眼鏡の女 じっと見つめられたい』シリーズ見た?「教育テレビに出てきそうな理想のお姉さんタイプの眼鏡美人」が「眼鏡越しに見つめながら優しく微笑んで」「強烈な隠語満載のエロ体験小説を朗読」したりしてくれるんだけど、「最後まで眼鏡は外しません」が売り文句になってるあたり、分野は違えどわかるような気がするなァというか、スカトロが究極なんて言ってられないフェチ百花繚乱大文化のこの頃ですよね、ほんとに」
「子どもの頃女の先生に叱られたりしたノスタルジーがこういう文化支えてるんだな。幼児体験でいうと、AVでバスガイドが案外人気なのも、遠足とか修学旅行とか学校の行事の記憶がものをいってるんだと思うよ。バスガイドのおもらしビデオってすげえ種類多いじゃない」
「おもらしはなぜかバスガイドが一番人気ですね。小学校の遠足のバスの中でおしっこ我慢した思い出にアピールするのかな」
「バスって言えば僕はむしろゲロだけど。クラスで一番可愛い女の子がビニール袋にゲロゲロやってんのを見て勃起してたっけ」
「そのへんの誰もが持ってる記憶の迫真性ですね、ギルティーのGBT-01~『盗撮バスガイド便所』がトイレ盗撮の究極コスプレとして君臨してるのは。名実ともに真打です」
■ 「あの苦労して脱ぎ脱ぎホッと一排泄、て構図は、『盗撮和式便所完全制覇 オールうんこ編』に時々出てくるスキューバダイビング・スーツの子たちの奮闘を思い起こさせますよね。一生懸命引っぺがすようにして剥いて脱いで、やっと間に合った的ドバドバ排便に専念する健気安堵感の波動がじぃんとあったかく伝わってきますよ」
「第1巻の40分あたりに出てくる虹色パンツの子を見ろよ。ダイビングスーツを苦労して脱ぎおろしてひとしきり下痢をして拭いて立って再びよいしょよいしょ着終えたと思いきや、また脱ぎ脱ぎして下痢を再開するのね。そうそうこれこれ。これほど苦労して脱ぎ直さなきゃならないほどのものなんだなあ、便意とは人間にとってー、ってしみじみしますョ」
「ダイビングスーツ脱いだり着たりの時のこの力み感が排便の力みにも通じてます」
「しかもこれほどの奮闘をこの子、トイレ出たらすぐ忘れちゃうんだろうね」
「われわれも日常、トイレ中のあれこれなんてすぐ忘れちまうからねぇ」
「記憶に値するあれこれがあったはずなのにね」
「人生そのぶん損してますよね。こういう乙女の奮闘努力を見せられると俺たちも自戒を迫られるね。便所で自らいかに劇的な葛藤を演じていたかをたまには想起せよ、と」
「記憶のハカナサ。それだけに貴重な輝ける一コマを記録した大芸術と言えます、盗撮ビデオは」
「本人も記憶にとどめていない密かな生きる努力ですからねぇ」
「ダイビングスーツそのものはコスプレとしちゃ色気ないけど、確かにあの焦燥と安堵は細見玩味に値するね。値しまくりだね。そうか。コスプレ系vsカジュアル系って分類軸も忘れちゃいけなかったんだ」
「コスチューム洋式トイレものの一番手はなんといってもスチュワーデスでしょ。スーパートイレのST-15『美人スッチーを国際線の機内トイレでGET』はほんと芸術的だったっけね。すぐDVD化されたのも当然だ。背景ノイズからしてほんとに機内トイレらしいんだけど、5人くらいのスチュワーデスが次々完全顔出しで便器前に立って見下ろして向きを変えて座る、肛門ドアップ、という1サイクルを便器内仰角映像が延々繰り返す流れは、まさにミニマルミュージックじゃないかと。スティーブ・ライヒの『バイオリン・フェイズ』とかBGMにすりゃピッタリっすよ。制服姿と、その上にJALのロゴつきエプロンをつけた姿の二通りで登場する反復排尿排便、ほんと恍惚」
「ミニマルだね。うん、これね。この立って見下ろして背向けて腰降ろしての繰り返しね。この編集でノンストップ観賞してると、なんかこう、単調な同じ動作を延々繰り返す幼稚園児のお遊戯の練習風景みたいな感じに見えてくるよね」
「けど各フェイズの後半はお毛毛も生えたおとなの熟れた巨尻。ドデカ肛門アップ」
「オシッコのときのBGMは『ピアノ・フェイズ』で、ウンコのときだけ『バイオリン・フェイズ』に切り替えてくれるといいと思うな」
「微細排泄音マニアには忌々しいBGMだろうが、たまにはそういう〈イライラ系芸術〉があってもいいですよね。せっかく収集できた音データをあえて消してしまう演出」
「演出というか、編集?」
「金妙合評会的にはそのへんの区別に敏感なぶん言葉遣いは自由かな」
「編集の部分も演出って言った方がこう、現場レベルから狙ってた感じでエッジが効くというか」
「モザイク編集前提のというか、考慮に入れた演出は普通ですしね」
「BGMで音消しとか、ロゴでブツ消しとか」
「実際ロゴが邪魔は邪魔だけどねえ。肝心なとこに被さったり。盗幻鏡みたいにロゴの位置臨機応変に移動させてくれるレーベルもあったけど」
「そういう演出可能性を考えると、あれですね、逆に盗撮って芸術がいかに微妙な細部によって支えられているデリケートなジャンルであるかが浮き彫りになりますね」
「高級なジャンルですよ」
「続編のST-16『フライト30分前の羽○空港スッチー専用トイレの実態!』の方はどんなもんだろう。被写体が鏡で顔直したりしてるとこに時間とったりしてミニマル性がちょっと弱いし、完全顔出しと書いてあるわりには顔モザイクが何人もいるのが不思議でしょう。顔出しの人と顔モザイクの人の選択基準はどうなってるのか、いまいちわかんなかったな」
「大脱糞ぶりからしてさぞかし超ふんばり顔ってのに限ってモザイクだったりしましたからね、納得いかないですよ」
「それも貴重データ消去演出だな。本来見るべきでない光景を見させてもらっている有難味を鑑賞者に思い出させるというか」
「桜映像のSA-1~『潜入! 某専門学校女子便所』でも一見意図不明の選択モザイクやってました。そういう意味ですかね、あれ」
「〈ババァーとブスはカットしてありますので安心です〉ってさっきから話に出てるじゃない、なにわ書店のNWO-01~『盗撮 新女風呂 夢幻』シリーズはその線で選択モザイクやってますよ。若い娘中心に撮っててオバサンたちの姿にはモザイクがしてありました。親切ですね」
「親切? オバサンたちに?」
「見る人にだよ! 下手な漫才のツッコミやらせんなよ」
「親切な演出、演出的な親切ね」
「でも『潜入! 某専門学校女子便所』の第2巻はどう見てもドブスとしか言えない被写体が延々顔出ししてましたよ」
「そういやこれも風呂の盗撮だったと思うけど、〈ブスは顔モザイクになってますので安心です〉てキャプション書いてある盗撮ビデオ、たしか神保町の個室ビデオで見たことがあったな。湯船や脱衣所にたくさん裸体があるうちの顔モザイクかかってる女は、あ、これいい体してるな、胸でかいな、お尻きれー脚きれーだな、立ち居振る舞い上品だな、だな、だけどブスなのかー、ブスなのかー、世の中無情だなぁ、なんて見方ができて、すげー興奮するんですよ。感慨深いんですよ。映像的にもかなりシュールだったと思いますね。ほんとの芸術ですね。あれ探して買っときゃよかった」
「盗撮されてそのあと顔までツブされて、ブスは二重に人格否定されるわけね。そりゃ確かに興奮するわ。ブスの情緒をうまく利用したもんだ」
「スッチーの規格化された制服がモザイクと連動して情緒を強めてるね」
「だけどスッチーでしょ。温泉はともかくスッチーですよ。顔隠すほどのドブスがいるはずもないでしょ。『フライト30分前の羽○空港スッチー専用トイレの実態!』の選択的顔モザイクはやっぱ不明だよ。さっき言われた思わせぶりな効果を狙っただけかな」
「思わせぶりじゃなくて高級なジャンル的演出なんだってば」
■ 「静かなくみとり便所で〈入室からウンチングスタイル全身撮り〉と〈肛門直下映像〉とが交互にってパターンは『海浜公園女便所』や『禁断の覗き穴』『美人便所』と同じですが、僕は『盗撮バスガイド便所』が群を抜いてると判定します。コスプレ的に統一されてるってこと以外にも、まず全身撮りが真正面からなので顔の見え方が違う」
「『海浜公園女便所』と『禁断の覗き穴』は斜めアングルだからどうしても表情の見えが甘かったような」
「『禁断の覗き穴』も第7巻以降は『盗撮バスガイド便所』的ホボ正面アングルにバージョンアップしてますね。切磋琢磨激しいんだ」
「『禁断の覗き穴』は僕は第5、6巻が一番好きでしたけど。全身と便器の中が一望に見れるこのアングルは盗撮界広しといえどこの2本だけだし、超広角レンズだから全体ゆがみ気味に、顔がデカめに映るのがすごいかわいくて。クラブ系美人の頭でっかち映像ってソソられますよ。第7巻以降のホボ正面アングルは逆に顔が小さくなっちゃったんですよね、膝あたりに魚眼拡大の焦点がきて」
「『禁断の覗き穴』は第5巻以降ウンコ率を増強しましたね。これも『盗撮バスガイド便所』を意識したんだろうな。『盗撮バスガイド便所』は第1巻からウンコの確率が断然高い。いかにも勤務中の休憩って雰囲気で、走行中ずっと我慢しなきゃならなかったというバックグラウンドがたまらないね。やっと駐車場だ、ああひと安心、て安堵の表情がありありなのがこっちまでホッとして嬉しくなります。海浜公園でデート中の行きずりギャルに比べてウンコ率・ウンコ量が多いのも当然ですよ」
「ああそういう見方か。いい演出だなぁ」
「おおぉいそこに〈演出〉を持ち込まないこと。ヤラセ前提の議論になっちゃいそうで白けるよ」
「白けるというか萎えますわ」
「でもヤラセマニアってのもいるんですけどね。萎えるほど萌えるという」
「ちょっとちょっと、映像に集中しようよ」
「だよ。ヤラセ談義はあとにして、ほら」
「あ、なるほど。オナラのテンション高いですよね、『盗撮バスガイド便所』は」
「だね、高いね」
「そう。これでもかというくらいオナラぶっ放してるね。『女子社員専用便所』第8巻のあの人なみの大放屁が何度も聞けるのが嬉しい」
(第65回 了)
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