偏った態度なのか、はたまた単なる変態か（笑）。男と女の性別も、恋愛も、セックスも、人間が排出するアノ匂いと音と光景で語られ、ひしめき合い、混じり合うアレに人間の存在は分解され、混沌の中からパズルのように何かが生み出されるまったく新しいタイプの物語。
論理学者にして気鋭の小説家、三浦俊彦による待望の新連載小説！。
by 三浦俊彦
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■ 146 ：名無しさん＠ベンキー ：02/12/22 22:13
二週間ほど前の話。夜中にマンションに帰って来て、エレベータを降りたら、出てすぐの床にベルベットのような水溜りが……とっさに糞汁とわかって（すげ～一瞬でわかるものなんだなあ……液体じゃなくて布みたいに最初見えたのに……と慌ただしく我が直感に感心しながら）「うひゃぅおい！」間一髪飛び越えた。
廊下の向こうに若い男女が向かい合っていて、ぽかーんとした顔でこっちを見ていた。女はスカートめくって裾を口にくわえて下半身裸の中腰姿勢。誰も見てないのにアートか？て感じのシュールな光景だった。
女は俺から目をそらして俺に背を向けるようにして男と両手繋いで小刻みに向きを変え、こっち向きになった男の腰に女が両腕でしがみついて、うう～っうっむ～～って唸ったというか呻いたというか喘いだと思ったら、いきなりバリビュッビチェビチュッって思いっきり尻から濁流が床を叩いて粘液溜まりが広がった。
何か思わず手を伸ばして二人を指さしてしまいながら見守る俺に、すぐに男が「後で片付けますから、ちゃんとしますから、すみません、すみません、すみません」とやたら低姿勢で謝ってきたが、女はドクドクと余韻の糞汁を垂れ流し男にしがみつきながらがたがた震えている。俺の家は反対方向なので「ちゃんときれいにしといてくださいよ」と言って帰宅した。「はい、それはもう、きれいにします、きれいにしますんで」男は俺が玄関を入るまで繰り返し謝り続け、女は依然として下向いて、ぼたぼたぼたぼたっと落下音が響くほどに水分９割強を再開し始めていた。まだ出るのかよ、なんちゅう腹ん中だよ……と一晩中呆れながら、なんだか眠れずに早朝、現場を見に行った。
「え？」と思った。
二人がいたところと、エレベーターの糞汁だまりのところに、なんと、見事な健康バナナグソが一本ずつ、ズッシリ横たわっていたのですね。あのキッタナイ糞汁もあれほどドロッドロだったタール便も痕跡はなく、からからに渇いた、一晩で清掃したとも思えないまっさらなコンクリ面に、それぞれ三百グラム以上はあるだろう40センチ×６センチのつるっつるの極太極長健康便が。
なるほどぉ、「きれいにしますんで」と繰り返していた男の言葉は「吸湿して整形してきれいな作品に整えときますんで」という意味だったんだなと納得しました。
それからしばらく、マンションは「サラ金嫌がらせ事件」として、ドア前にウンコされた人の噂話で持ち切りだった。あの切羽詰った真剣な表情は嫌がらせやイタズラには見えなかったが……？ ちゃんと「きれいに」していったのだし。
で……
あれっ、勝手に納得した俺って、吸湿整形ってどんなマジックですか？ って初めて首を傾げたのは、ついさっきでした。
■ 合評会から半年ほど後に〈逆説的な進展〉があった。高塚雅代と小熊誠子が、深筋忠征ほかの金妙塾男性塾生たちの勧誘兼説得にようやく応じ、性別格差是正論に重い腰を上げ、「男子トイレ盗撮ビデオ」制作に取りかかったのである。手撮り・固定カメラ設置とも女子トイレよりかなり容易で、塾活動の一環たる盗撮訓練としては物足りない仕事ではあったが、ＡＶ業界におけるミッシング・リンク充填の使命感に燃えるという建前で、全員がとりあえずの情熱をもって撮影・編集にあたった。
完成品は深筋のコネによってただちに商品化され、ＡＶショップ-通販ルートに乗って全国の小売店およびウェブに流通した。ＶＨＳ110分一万円。タイトルは『これがオトコの脱糞だ!! 颯爽たるエリート社員から紅顔の美少年まで』。パッケージ写真にかぶせるように全面に内容紹介文句がずらずらくどくど並ぶブブカ流デザインとなった。パッケージおよびパンフレットの文句は次のようなものである。
「真下から全身を撮り、ブリーフおろしドッカリ便器にしゃがんだ時の、シャープなイケメン顔に似合わぬゴワゴワ毛深いお尻超ドアップ、肛門ゆっくり開いてメリメリ音・太く長く固く割れ目豊かなのが次から次へと出てくる大便のオンパレード！」
「こんな真面目な顔した七三分けのエリート社員風が！ 顔引き歪め、髪掻き毟り、唾を吐き、何度も毒づいて壁をドンドン殴った挙句の大便秘大突破の極太脱糞です！」
「４カメ盗撮。背広をパリっと着こなしたビジネスマンのお尻の下にぼとぼとカタマリがたまってゆく天井撮りをお楽しみいただけます」
「見た目ヤクザ風のいい男。リーゼントの髪を手鏡で手入れしながら見事な一本グソ。必見！」
「かーっ、ペッ！ ウンコの後に、熟年男ならではの豪快な痰吐き映像がミモノ」
「滝のような下痢！ 噴火口になった肛門に山吹色の泡がはじけます！ ウンウンうめくサーファーボーイの美顔・超アップ。茶髪のさわやか青年が腹を押さえて唸りまくる！」
「長身のホスト風好男子が何度も神経質にお尻を拭きなおす恥かしい姿、バッチリ鮮明画像で見せちゃっていいですか！」
「エリート商社マン、うんこしながら携帯電話。スマートな英語で真剣な商談、お尻の下には汚い塊がモリモリと！」
「根本敬系イイ顔のオヤジファンにはたまりません、労務者系汚れズボンの奥には意外な美尻が！」
「勃起しちゃったァ……。秀才系男子校生、あまりに太いウンコに肛門が刺激され、気持ち良くなってしまってさあ大変。ピィンと上向いちゃったアレを一生懸命手で押し下げて前屈み、金隠しの中にギリギリおしっこを注ぎ込んだ安堵の表情をたっぷり見てください！ 見て、見て見て」
「おるるぅあ！ 体育会系硬派ナイスガイが憤怒フンバリの挙句、気合一発、大便塊を発射！ 肛門直下激撮。前撮りカメラでは鍛えぬいた腹筋の力強い上下運動をハッキリ堪能できます」
「ジャニーズ系細身少年の無言ウンコ。延々と続く苦しそうな水下痢なのに！ 表情に出さない意志の強さ！ けっして顔を歪めないプライドの高さ！」
「見た目ブサイクとジジィーとデブとハゲとオタクは間違いなく外してありますので安心してお楽しみください。またイケメンであってもニートまたはチャラ男と判断される男は除外しましたので一層安心です」
このビデオ『これがオトコの脱糞だ!! 颯爽たるエリート社員から紅顔の美少年まで』はインターネットの女性向けアダルトグッズ通販サイトに、実に五年間にわたってキャンペーン商品として掲載され続けたのである。
先ほど私はこのビデオの出現を〈逆説的な進展〉と呼んでおいた。これが逆説的であった所以については、後に述べることにしよう。またそのさい、このビデオがおろち時代の政治（比喩的な政治ではなく文字通りの国家的立法行政司法）に対して絶大なるプラスの影響を及ぼした一つのビジュアル運動の火付け役ともなったことにはこれも後に論及することになるだろう。
なお、『これがオトコの脱糞だ!! 颯爽たるエリート社員から紅顔の美少年まで』所収の連続男尻排便映像の中の一つ二つのシーンを通常女尻排便映像に取り替えておくとか、逆に普通の女尻排便映像にこのビデオから男尻排便を一つ二つ挿入しておくといった切り貼り編集の海賊版が一部出回り「紅一点黒一点モノ」「ロシアンルーレットモノ」などと呼ばれてマニア界・男色界で珍重された時期があったといわれる。ゲイバーでみんなマスターベーションしながら一斉観賞し、性別識別困難の尻アップ映像ひとコマひとコマごとに「イク」かイカぬか決断して、たまたまイッてしまったときの尻映像が紅一点女尻だったと判明（パッケージ番号で確認）したときは大凶、猛省を求められるという苛烈な占いゲームである。大凶に備えたいときは紅一点モノを、大吉に舞い上がりたいときは黒一点モノを試すのが論理的に通例だったというが、占いの実践成績記録はほとんど残っていない。興味おありの向きは各自治体の地下おろち資料館で調査を試みられるとよい。
（第40回 了）
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* 『偏態パズル』は毎月16日と29日に更新されます。
■ 三浦俊彦さんの本 ■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■