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「文学金魚」でYouTubeレビューを書いていると、ありがたいことに著者仲間から「これどう?」と薦められることがある。今回がそれで、登山や山岳遭難をテーマにしたYouTubeチャンネルだ。文化や芸術を論じる身としては、一見かなり縁遠いジャンルだが、人の薦めをきっかけに覗いてみるのも楽しみの一つだ。自分の関心の外側にある世界ほど、案外、栄養になる。
白状すると、険しい山にわざわざ登る趣味が、私にはどうしても腹の底から理解できない。なぜ自分から苦しみを背負い込んでまで、山頂を目指したがるのか。苦しいことを、お金と時間をかけてまで選ぶ。その心理は、私の想像力の外にある。昔の人が「女人禁制」の枠を作ったのは、ひょっとして過酷な目に遭わせまいという親切心だったのでは、との考えが頭をよぎる。
今回取り上げられている動画は、江戸時代後期にあたる1832年、当時の厳格な「女人禁制」の掟や過酷な環境の壁を破り、富士山への初登頂を果たした一人の女性・高山たつの挑戦の軌跡をアニメーションと詳細な資料で紐解く歴史的な回である。彼女が「頂上まで登りとうございます」と強い意志を抱き、前髪をそり落として髷(まげ)を結い、小谷三志らの導きを得ながら命がけで山頂を目指したそのドラマチックな足取りが丁寧に再現されている。

ただ不思議なもので、見終わる頃には、その山に挑む者たちの情熱や切実な思いが少しだけ分かったような感覚が残っている。「そこに山があるから」とはよく言ったもので、人を動かす根源的な衝動は、理屈の外にある。見ているだけの私にさえ届くのだから、実際に登る人の胸の内は、推して知るべしだろう。しかも今は、ネットやSNSで現地の情報や美しい写真がいくらでも手に入る。かつての登山者は、未知の領域へ手探りで踏み出していたのだから、その願いの重みも違ったはずだ。
このチャンネルは、普段は登山者への注意喚起を込めた「山岳事故の記録」を中心に扱っているようだ。その中で今回の動画は、警鐘を鳴らすいつものトーンから少し離れて、歴史的な側面や背景に光を当てている。悲惨な遭難の記録とはまたひと味違う、先人たちが切り拓いた歴史の重みとドラマに触れることができ、山という存在が持つ別の側面を深く味わえる見事な一本であった。
水野翼
【レビュー対象動画】
・タイトル:「頂上まで登りとうございます」1832年富士山女性初登頂【アニメ解説】
・チャンネル名:生きて山から帰るには【山岳遭難解説】
・URL:https://youtu.be/DSt_pU7sdQU?si=LTiIgjgCLsDazEcM
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