こんちわーわんわん。りょんさんですー。
ちょっとだけ春めいてきたねー。春は嬉しいけど、何かと騒がしい。花粉は飛ぶわ、確定申告はあるわ、転勤、退職。春闘って言葉もあったね。桜の下の進学・卒業はなにかのステップアップが約束されてるからいいけど、われわれ大人も、あれこれ落ち着かない。春のこころはのどけからまし。
そんでもって、この2023年は、特別な春を迎えるそうな。誰にとって「特別」かというと、学者さんや研究機関の研究者、大学で教育にあたってる語学の先生方とか、そういう日本を支えるインテリジェンスの方々にとって、らしい。りょんさんがなんでそんなこと、と思うかもだけど、デザイナーや文筆業、つまりクリエイターって意外と大学に縁がある。少子化で各大学が学生の取り合いになって、ちょいと面白そうなクリエイティブっぽい名称の学科が増えたってこともあるんだな。
ほんで何を隠そう、文学金魚も若きインテリジェンスの巣窟、もといワンダフルコミュニティなわけで、この2023年問題はほかでもない、その皆さんの将来にかかわることなんよ。文学金魚も無関心ではいられない。ってもニュースを追ってくことぐらいしか、できないと思うけど。ただそれだけでも結構、複雑で根深い、先々の社会の姿を先取りしてるとこがあるってわかるよ。
ざっくり説明すると、派遣等の非正規雇用が連続5年続くと、その労働者は無期転換というものを申し込めるようになる。そうすると、それまで1年ごとの契約だったものが、以降は雇用者側からは契約更新しない、と言えなくなる。その労働者が自ら辞めると言わない限り、契約は打ち切られない。給与等の条件は同じでも、簡単にクビにできなくなるところは、正社員と同じになるわけよ。
これって画期的みたいだけど、実は今までだって、問題なく形式的に契約更新をしてきた場合には、たとえほんの数年でも「次も更新できる」という期待感が生じるって認識のもと、そう簡単に契約を打ち切ることはできなかったらしい。だけど、やっぱりそれは裁判なんかで争って初めてはっきりすることだから、「来年は更新できない」って言われれば、たいていそのまま引っ込んでたんじゃないか。
だから無期転換の規定ができたことは、労働者にとってはまぁ、よかったんだけど。ただ、これが施行されたのが、2013年。それまでどれだけ長く勤めていた人も、2013年から数えてさらに5年経たなければ、無期転換の権利は得られなかった。そこで2013年から5年目を目前にして、大量の「雇い止め」が全国各地で発生した。つまり無期転換の権利を与える前に、その労働者を企業が解雇してしまうわけ。あちこちで訴訟が起きたと思うんだけれど、無期転換の直前解雇なんて、社会倫理的にも許されないって、しっかり争えばわかるよね。だけど、やっぱり裁判っていうのは、一人ひとりにはすごく負担になると思うんだ。それぐらいだったら、別の仕事を探したほうがいい、ってなっちゃうよね。
ほんで、2013年から10年目の今年、2023年になんで再び問題になるかっていうと、例外的に研究者等については、無期転換になる権利が発生するのが、5年後じゃなくて10年後って規定がある。なんでかっていうとプロジェクト自体、10年ぐらいをめどに計画する場合があるし、多様な人材が必要だとか、人材確保のためだとか、まぁ、聞いててもよくわかんないし、個別に精査しないと、それに該当するかどうか難しい感じ。〈特例〉というだけあって、本来は一律に適用できるようなものじゃないと思う。
で、それはそれとして、やっぱその10年満期の直前に「雇い止め」が起きることになりました。りょんさんが一番ヒドイ、まじ日本の将来にかかわると思うのが、理化学研究所のケースで、これには世界中から呆れたの声が上がってる。なにせ研究所の研究員たちが満期10年を目前に300人以上「雇い止め」されて、てか、もともと優秀な研究者たちなんだから、それ全部海外に流れちゃうよね。日本の科学研究はこれからどうなるんだろう。これって「雇い止め」される側の問題ってより、国家レベルの大問題じゃ? 一研究所の経営の安定と日本の科学技術の未来を引き換えにするわけ? そんなことしなくてもいいぐらいに研究所を経済支援した方が国家のためなんじゃない?
で、この「研究者に関しては、特例として5年での無期転換が認められない。10年ね」ってのを最大限に拡大解釈したのが大学だそうな。各大学の語学や何かを中心とした非常勤講師の先生たちも研究者だから、10年経たないと無期転換が認められない、って大学は解釈してるわけ。まぁ、そう言うならさぁ、6年とか7年とかで契約を打ち切るっていうならまだわかるんだけど、なぜかやっぱり10年満期のギリ直前で大量の「雇い止め」が起きているわけですね。大学ってバカなの? この先生たちが実は必要でした、って言ってるようなもんじゃんか。
てか、そもそも「研究者だから」ってのが無理スジなわけで。たしかに非常勤の語学の先生たちも皆、修士号を持っていたり、博士号取得に向けて論文書いてたりするけど、それは別に大学のプロジェクトに組み込まれたり、大学から研究に予算が出たり、研究室を与えられたりしているわけじゃない。自分の趣味で釣りしてます、と変わらん。だから語学の先生たちは、たとえば大学でお掃除担当する人とか、そういうのとおんなじに、5年での無期転換が認められるべき。そうするとだな、9年11ヶ月31日目で「雇い止め」されようとしてる先生方は、実はとっくに、つまり約5年前に無期転換の権利を得ていたのだ、と主張できるってんで、今、裁判で争っている。大学の中でも、まぁこれはほんとに大学によるんだけど、旗色が悪いのを察して、早々に5年での無期転換を認めたとこもあるから、裁判そのものは労働者側、この場合は先生方が勝つんだろうね。
それはそうなんだけどね。5年での無期転換がどんどん認められれば、文学金魚の大学院生スタッフや若い非常勤講師もちょっと安心するのかもしれないけどね。なんか、でも複雑な気もするんだよね。自分たちは「研究者」として遇されてない、掃除のおばちゃんとおんなじ労働者として働いているだけだから5年の転換が認められるはずだ、って、そういう主張はさ、裁判上の戦略としてはもちろん正解なんだろうけど。
大学は、彼らが自腹を切って続けてきた研究キャリアを利用して、「自分たちの教員は一人残らず研究者なのだ」って、いかにも〈尊重しているイメージ〉を売り物にしてきた。そして、これを今度は逆利用して「彼らは研究者なんだから、無期転換に10年を要する」と言う。そーゆーのは許しがたいし、先生方の雇用実態が明らかになれば、当然5年での無期転換は認められるだろうけど。実は最大の問題は、そういう先生方の自助での成果を無償で吸い上げてきた大学の体制なんじゃないかな。
一方、先生方の方も、大学が学会へのパイプぐらいにはなるし、心の支えにしてきたって面があるんだろうね。〈尊重されている〉のがイメージに過ぎなくても、ぶっちゃけ先生方にとっての〈世間体〉にもなった。それで実際の待遇には目をつぶって耐えてきたという面もあるんだろう。今回、背に腹は変えられないから「普通の労働者だから、5年での無期転換を」という戦略をとったわけだけど、ほんとは複雑な気持ちじゃないかな。
良識がある(からか? 小さい大学が多いかも)大学はどんどん5年転換を認めて正常化しているけど、マンモス大学等はまだまだ裁判で争っていくところもあって、この3月31日を過ぎたら契約解除で、自宅待機みたいになる先生も多いという。といっても裁判に勝てば、未払い賃金はすべて支払われるだろうから、長い有給休暇だと思えばいいんだろうけど。ただ、その先生方が復帰した頃には、もしかしたら大学のあり方そのもの、雇用の骨格そのものが完全に変わっている可能性もある。
この日本は、正規と非正規の区別がつかない社会へ近づいていくらしいのだけれど、大学はそれに先んじて、令和7年にはそうなるらしい。さらには職員と教員もごっちゃになる(どうすんだ? お掃除担当もか? みんなで雑巾がけは身体にいいかも)体制に移行するんだって。実際には混乱しまくりでうまくいかないと思うんだけどね。ただ、その混乱の中で、結局は天下りの特権ポストを得るとか、うまいこと経営合理化するとか、ようは全体の仕組みが早く見えた強い者に利益が入って、弱かった者は同じく弱い立場に置かれるのかもしれない。
たださ、りょんさんが見てると、文学金魚の若いスタッフは、とてもとても知的な人たちです。そりゃそうだよね、博士様になろうってんだからさ。その知性を、大学であれなんであれ、くだらない組織に吸い上げられずに最大活用してほしいな。そしたら今、現在の社会では想像もつかない道筋で、大成功を収められるんじゃないか。自分たちが社会の仕組みを骨抜きにつつ、好きなことするって方が、ストレスなくて建設的なんじゃないかなぁ、と思うのであります。
りょん
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