四万十川に行ってきました。野田知佑さんと夢枕獏さんが出られるイベントがあったのがきっかけですが。こういうときに思い切らないと、一生行かないかもしれないし。
急に決まったので、イベント前日の10日夕方の飛行機しか取れず。高知はときどき豪雨、よさこい祭りの真っ最中で、ちょっとヒドイ目に。お祭りはヤンキー祭りと言うべき奇祭でした。正調よさこい踊りに戻さなくては、とホテル・リムジンの運転手さんは言ってたけど、いいえっ、ぜひあのままで。
四万十川までは、ま-、遠かった。中村市まで、高知から特急で1時間40分。でも、とってもいいとこでした。まずはお昼を食べようと、アーケードの中のご飯屋さん、自分でお盆におかずを取っていくっていう、学食みたいなとこなんだけど、きんぴらも酢の物も、鮎の甘露煮も、冷や奴までもが超絶美味しい ! 他のお店も、ホテルでくれた案内とかに載ってないとこがよかったです。
ところで、小説すばる8月号に、椎名誠さんが四万十川への旅について書いてます。このイベントとは無関係にいらしたようですが。昔、椎名が撮った映画『ガクの冒険』( 野田知佑と犬のガク主演) は四万十川が舞台でした。
長めのエッセイで、川周辺の今昔の変化について触れています。川とそれを取り巻く自然そのものはあまり変わっていない。ただ、折からの雨で川は増水し、濁っている。四万十川が初めてという人たちを連れていて、本来はどれだけきれいな水かを説明しきれずに悔しい思いをする。
ただ、私が聞いたところによると現在、四国一の清流と言えば「仁淀ブルー」などと呼ばれる仁淀川で、四万十川は水質の低下が目立っているとのこと。アウトドアに通じた椎名誠さんが、それを知らないはずもない。最も四万十川の汚染は主にケミカルなので、見た目はまあ、極端には変わってないそうですが。
水質の数値はさておき、ゆったり、とうとうと流れる四万十川の雰囲気はまったく昔のままなのかもしれません。ロケ地となった口屋内の辺り、透き通る支流が流れ込む辺りなどはきっと、局地的に昔を彷彿とさせるんでしょう。映画を撮ったという身であれば、なおのこと。人口密集地を通らない川では、美しい支流がたくさん流れ込む下流になればなるほど、透明度を増すことがあるとも。
で、車でちょっと上流まで連れて行ってもらい、皆で川下り。あたくし、カヌーは先月、野田知佑さんご自宅のプール池で二日間にわたり大特訓、御大将自らご指導くださったという華麗なる経歴を持っておりますの。とはいえ自前の舟もなく、他人さまの前に乗せていただいたのでした。四万十川のゆったりした流れは初心者にも最適で、ときどきの早瀬が心地よいぐらい。
「あまりうるさいことを言わない野田さんが」(椎名誠)、波消しブロックだけは注意しろ、とのこと。ブロックの隙間に水が激しく流れ込んでおり、カヌーの先が入り込んで大破する。同時に流れ込む水によって身体がブロックに押し付けられ、死亡事故に繋がる。
ひとくちに水の事故と言っても、水と身体との間の様々な力学が働いているものなんですね。わりと多いのが低体温症だそうで。川遊びで身体が冷えてしまうなんて、意外ですが。
椎名さんによると、自然の風景は結構しぶといが、人々のあり様は脆くも滅びやすい。たしかに、人間の肉体も人心のさまも、状況の流れに簡単に押しつぶされたり、景気の冷え込みで凍えたりする。水質汚染の、環境破壊のと言ったところで、そうこう騒いでいる自分たちの方が先に変わってしまうというわけでしょう。
映画を撮っていた頃の知り合いもいなくなり、また物珍しげに出てくる人々も見られなくなったことに比べ、川は昔のままだ、というのが椎名さんの印象です。けれどもこういったエッセイを読むかぎり、椎名さん自身は昔の椎名さんとあまり変わらないみたい。孫とのやりとりを描いた私 ? 小説を雑誌に連載しておられますが。
ところで、あたくし、高知は今まで行った中で一番気に入ってしまいました。人心はさっぱりして、観光ずれしていないのに田舎くさくなく、なぜか東京以上にスマートで合理的な感じ。老いも若きも人間デコトラのごとき出で立ちで整列したヤンキーの方々も、話しかけると必要十分に親切です。高知駅前では、市場と称するところでお総菜を肴に、皆さま当たり前のように平日の昼間っからビールというのも、素晴らしい光景でした。
ぜひまた高知に、少なくとも仁淀川と黒尊川には、今度は仲間もいっしょに行きたいものです。川とか旅とか、流れるものは苔むすことなく、結果として変わらないことになる・・・ならば、あたくし一生旅させていただきますわ。紫外線と疲労で若干、老ける気もいたしますけれども。
小原眞紀子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■