偏った態度なのか、はたまた単なる変態か(笑)。男と女の性別も、恋愛も、セックスも、人間が排出するアノ匂いと音と光景で語られ、ひしめき合い、混じり合うアレに人間の存在は分解され、混沌の中からパズルのように何かが生み出されるまったく新しいタイプの物語。
論理学者にして気鋭の小説家、三浦俊彦による待望の連載小説!。
by 三浦俊彦
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■ 自然な推測であるはずの印南哲治ではなく蔦崎公一を前景設定せねばならなかった根拠如何について、「憑依」という余分な仮説を付け加えざるをえない非経済は単純憑依説にとって致命的不利ではないか等々の継続的論争については措くとして、この解釈の真の難点は、印南か蔦崎か的観点ではない別のところに灯っている。
もし和尻優位の確認が本家尻嗅ぎ魔の潜在的強迫観念――
であったとするならば、中華尻や洋尻との比較対照のもとに行なわなければ意味がないということである。
科学的に言っても主観納得的に言っても比較対照。コーカソイド尻や隣接モンゴロイド尻との。機会あればネグロイド尻およびオーストラロイド尻との。
それにしてはこの時の尻嗅ぎ魔は漫然と和尻の吸引にのみ執着しつづけた。
外国人が多く住む町というわけでない辺境街路でランダムに捕獲吸着していたのであるから、出遭う確率が圧倒的に和尻オンリーであったことは尻嗅ぎ魔自身承知していたはずであるから、まったく環境的に何ら比較研究的姿勢を調えようとしなかったのはなぜかという話である。
実際、理想尻に巡り合ったときにもそれが和尻であると頭から決めつけて狂喜していたのではなかったか。しかしこれは反論にはならない。
まず第一に、尻嗅ぎ魔蔦崎公一は相対評価の必要性を客観評価できるほどの精神の平衡をすでにこのとき失っていたと見るのが妥当だろうから。
そして第二に、蔦崎はこのときすでに、ほとんど和尻のみから全面構成されていながらその根本を紛れもなく……〈天然中華尻パラダイムに支配されてきたおろち系文化全体〉……に絶望しきっており、和尻価値の相対的復権には希望的片鱗を託す気にもなれずひたすら絶対値の確認にのみ奔走し表面上の精神安定を回復せんとしていたというのもまた合理的な見方だからである。しかし痛ましいことにブラインド評価でやっと嗅ぎ当てた本物理想尻はこともあろうに中華尻だった。
――ランダムな辻吸引での遭遇確率がきわめて低いはずの中華尻――!
よりによって中華尻であったとは。(ちなみに蔦崎自身は現場で問いたださなかったとされているが、件の上海女性は上野の香港エステでエステシャンをしているという念入りなボーナス付だった)。いずれにせよ中華尻を凌駕する和尻が調達されなければならぬとしたら――それは必須であると思われたのだが――それしもう香坂美穂の尻と再会するほかはなかったはずだろう(香坂美穂の尻の谷間に蔦崎の顔が直接密着したことは一度もなかったことに注意せよ)。
注意せよ。
しかし街中のランダム交通において美穂尻の捕捉確率たるや当然のことながら中華尻捕捉確率よりもさらに3桁いや4桁以上も少ないのである。かくして理想空間への中華尻の一撃をくらって、最終的決定的に蔦崎公一は壊れ、一挙反転して
和尻全面否定へ、
和尻の頂点の全面溶解をもくろむ例の《反国家主義的科白》へ、
……と打って出たという、そんな顛末だったのだろう。
蔦崎公一の《反国家主義的科白》ならびにそれの凌駕を狙った印南哲治の《反国家的科白》については――
■ おろち史黎明期の立役者群像をキャラクター小説にして世に問う試みがおろち元年以降無数に繰り返されたことは周知の通りである。そしてそのことごとくが成功には程遠かった(商業的にも、批評的にも)こともまた、準周知の事実だろう。それはなぜか。
ドキュメンタリーや桑田康介流学術分析、あるいは前衛小説仕立てとしてならば十指に余る作品がすでに歴史遺産系殿堂入りを果たしているにもかかわらず、つまりアカデミズム的には大成功を導いてきたおろち文化が、キャラクター小説を典範とするエンタテイメントおよびサブカルチャーのいかなる素材としてのオーラも香味も発揮しえなかったのはなぜだろうか。
「なぜ」という文系的問いに分析的に答えることはおろち諸学連合をもってしても不可能と言わざるをえないのが現状だが、
「いかに」という自然科学的問いに例証をもって応ずることならばおろち諸学各々単独をもってしてもあながち困難ではない。
たとえば次の2ちゃんねるスレッド「女子トイレのブリブリ音」の一部を読もう。
683 :病院の夜④ :03/03/27 02:10
誰かがトイレに入ってきた。宿直の看護婦さんだ。彼女は俺のいる故障中の個室の隣にいそいそと入ってきた。彼女は隣が故障中だから無防備な感じで
684 :名無しさん@ピンキー :03/03/27 02:18
うんうん、それで?
685 :病院の夜⑤ :03/03/27 02:20
個室に入るなりいきなり「あぁ~、もうだめ限界、あ~」的なことを小声で呟くというか囁きながらシュしゅっと裾をまくり、パンストと下着を下ろす音が聞こえた。俺は息を殺して下から覗いた。彼女がウンコ座りになったときには肛門がまん丸に全開になっていて山吹色の輝かしいウンコが顔を覗かせていた。
686 :病院の夜⑥ :03/03/27 02:33
極太ウンコが「ニチニチニチ、ニチッ、ニチニチニチ」とゆっくり出てきた。物体の斜めのよじれ具合が生活感たっぷりというか、そのあと「プウゥ~~ッ、プッ、プッ」と甲高い屁を押しのけるようにして次なる柔らかめのウンコが「ビチビチビチッ、ビチビチ、ビチビチビチッ」と勢い良く出てきた。
765 :病院の夜⑦ :03/03/27 02:35
それから彼女は肛門をパクパク、まるで俺を笑わせて正体暴露させようと謀っているみたいと言いたいほどのパクパクぶりで、俺が笑いをこらえていると「ふんっ」とふんばって「プ~~ッ、ブッ、ブッ、プ~ッ」と高音の屁を絞り出したかと思ったら、アナルが拡大してきてもっと軟らかい、だけど不思議と水気のないウンコが顔を覗かせた。「ブッ、ブッ、ブリッ、ニチニチニチニチッ、ブッ、ニチニチニチッ、ニチッ、ミチミチミチミチッ」と
770 :名無しさん@ピンキー :03/03/27 02:49
はやく、はやくつづきを
688 :病院の夜⑧ :03/03/27 02:51
ミチミチミチミチッ。大量の極太ウンコがまだ残っていたのかいやこっちが本番じゃないかというほど勢いよくひり出てきた。彼女は安心したのか「う~ん、ふーーっ、うぅん、あはっ、ふーっ」と吐息を漏らした。まだ水を流さない。そのあと「シャーッ、シュワーッ」と
690 :病院の夜⑨ :03/03/27 02:55
オシッコをした。だけどまだティシュを手に持たない。まだ「ううーん、んーん、うーん」とふんばっている。そしたら「ブ~ッ、ブッ、ミチミチミチミチッ、ビチビチビチッ」とまた軟便が出てきた。
691 :病院の夜⑩ :03/03/27 03:03
彼女はまだ水を流さない!だから個室の排泄行為の匂いが充満していて俺の入っている個室まで下から匂いが入ってきてる。匂いは言葉に言い表せないぐらいキョーレツに臭い!!今度は臭いで笑いそうになってしまった。また肛門パクパクが始まっていたし。俺は膝が痛いのと笑いが横隔膜を突き上げるのとを我慢してまだ下から覗いている。
692 :病院の夜⑪ :03/03/27 03:12
それから五分ぐらい彼女はウンコの付いたアナルをヒクヒクさせて頑張っていた。屁を二、三発こきながら…。あんなに出したのにまだ出し切らないのかと俺もいい加減呆れかけたころ、やっとティシュで後始末をしてそこで初めて水を流した。
694 :病院の夜⑫ :03/03/27 04:06
そのあと彼女は独り言で「あ~~、すっきりした! 我慢するもんじゃないわねっ、○○さんにはまいっちゃうわ、あんなことでナースコールを押さないでほしいわ!」と言っていた。なんか呼ばれてトイレを
695 :病院の夜⑬ :03/03/27 05:23
かなり我慢してたらしい…。これで終わりかと思ったら、またまだ完全に排泄を終わりきってなかったらしく、また下着をズリ下げてお尻をだして「ブブゥ~ッ、ブッ、ブッ、ブ~~ッ」と屁をして「ジョーーッ、ビチビチビチビチ、ビチビチビチ、ブリッ、ブリッ~~ッ」と
697 :病院の夜⑭ :03/03/27 08:38
軟便というか、ほとんど水みたいな下痢便をしていてアナルをヒクヒクさせて尻の筋肉をピクピク動かしていた。アナルが盛り上がっていて穴が広がっていて「うん、うぅ~ん、ん~ん、ふぅ、」とふんばっていた。やっと終わったのか、ティシュで尻を拭いて流して
このあたりで引用を終えよう。そこで重要な問い。
以上の引用のところどころに、掲示板に来ている聞き手たちが合いの手を入れるのだが、次の書き込みはどこに入るだろうか?
「いい感じだったのにな。ここで萎えたな。ネタっぽくなっちゃった。あ~あ」
……そう。
さよう。
そのとおり。
おろち文化の申し子ならば一目でおわかりだったろう。
正確には次のような書き込みである。
696 :名無しさん@ピンキー :03/03/27 08:28
>>694
いい感じだったのにな。この独り言で萎えたな。ネタっぽくなる。あ~あ。
この印象は的確である。美的判断には個人差があるというのは神話であり、直観的即時反応と熟慮の上の反応は万人共通だ。個人差は、その中間の中途半端な部分でのみ生ずる。
「……すっきりした!……もんじゃないわね……にはまいっちゃうわ……あんなこと……ほしいわ!」的類型描写がブチコワシであることについては、おろち文化人はむろんのこと、反おろち派エクセントリックですらほぼ全員が同意するというおろち心理学アンチ性格類型学実験結果が普遍的に確かめられているのである。
そう。
おろち美学の格率で表わすなら、
〈おろちにおいてキャラ化は萎える〉のだ。
下腹いっぱいにウンコを我慢しながら走っている最中だというのに、路地の曲がり角で遅刻寸前の転校生(しかも異性)と衝突などしている余裕のあるやつなんているだろうか?
無口美少女キャラだからといって、クダっているときに肛門が饒舌な破裂をまくし立てるのを抑えられるとでも? 逆にいじられドジっ娘は優良太長便を端正に済ませてはならないとでも?
まさか。
キャラクターものとしておろち史をアレンジするには、波動の崇高が厚すぎて、強弱濃淡いかなるポピュリズムの余地をも残せない。既定キャラを能率的に配置しながらのメタの台詞(「ツンデレのテンプレ乙」by橋田至@『シュタインズ・ゲート』「これも萌えの重要要素の一つなのよ!」byハルヒ@『憂鬱』等々)で括弧付き手法へとベタを乾かす手口はおろち系にとって下品すぎ非内臓的すぎるのだ。結局、数知れぬおろちアニメやおろちゲームが最大でもプチローカルヒットにとどまったゆえんである。
辛うじて「なぜ」に肉薄する答えとしておろち文化史は、性格ではなく体質でうねってゆく。正確には体質と非体質でのたうってゆく。体質者も非体質者もともに無性格サイコパス体質を基盤とした〈とっかかりナシ〉でめいめい連ねられるほかない。主体は人間ではなくおろちという理念であるというマルチバース全般の超情緒的実相が明らかになった瞬間こそが、
――おろち元年――
と呼ばれているのであるから……。
■ きさき【機先】 前兆。きっさき。前触れ。
きせん【機先】 事がまさに起ころうとする直前。また、事を行なおうとするやさき。きさき。
きせん-を-せい-する【機先を制する】 先手を打って人より有利な立場に立つ。相手より先に行動して、その計画・気勢をくじく。
きせん-を-せい-される【機先を制される】 体質者に先を越される。満を持した挽回のチャンスを無効にされる。非体質者の営々たる自覚的努力が体質者の天然閃光によって台無しにされる。
ぎめい【偽名】 身元を隠すための、いつわりの名。仮名によって相殺されうるが、虚名、筆名、雅号、異称などと相互作用することはない。また、通称によって本名へ変色することがある。
その日、永畠秋吉(蔦崎公一が用いた最後の偽名とされる)は床屋でにわかアフロヘアの手入れをし、行きつけのスナックが混んでいたため、やはりなじみの寿司屋に入りナマコで冷酒を飲んだ。一時半過ぎ店を出ると、愛車のコスモで駅南口の駐車場に駐め、ワイシャツにネクタイ、黒いジャンパーの上にハーフコート、ミラーグラスに黒いチロルハットという格好に着替え、ジャンパーの内側にダイナマイトを巻きつけ、内ポケットにサバイバルナイフを差し、ニッサンミクロMODEL1800SW上下二連式ショットガンと七月二十六日付猟銃所持許可証を携え、標的の三栢デパート城石店7階まで階段を歩いて上り、下見で確認しておいた三人の警備員が下階に降りる瞬間を狙って中央レジの前で猟銃を構え、天井に二発発砲してから「一億円を出せ」と要求した。
「ここは銀行ではありませんので」と応対したベテラン女子従業員の陰で携帯ベルを押そうとした男子従業員の胸を永畠は至近距離から撃ち抜いて射殺。従業員らに命じてただちにエレベーターとエスカレーターを停止させ、上階レストラン街と下階に続く階段・エスカレーターのシャッターを閉めさせた。
脱出した客と携帯電話・メールおよび従業員の通報で、警官が階段を固めた。「ダイナマイトがあるで!」という怒号に、警官隊は凍りついた。
従業員と客は健康食品売場のロビーに集められ、下階から拡声器で響く説得の声に、シャッターへの発砲で応えた。
「責任者は誰だ」という永畠の声に、売場責任者代表の大橋功販売課長が前に出る。永畠は「こうなった責任をとれ」と大橋の頭部を吹き飛ばした。
子ども連れの客と妊婦、計二十九人が解放された。
さらに客のうち、女性連れでない男性と、五十歳以上の女性(清掃員含め)と、その連れの男性が解放された。
残るは、恋人・友人八組、夫婦五組、父娘二組、姉弟二組、兄妹一組、叔父姪一組の男女計十九組と、連れのいない女性七名、従業員二十一名(男十名、女十一名)となった。
永畠は男性従業員を全員床にうつぶせに寝かせて、女性従業員に手足を縛らせた。
女性は全員全裸になるよう命じられ、男性全員に目隠しをするよう命じられた。そして男の中に連れのいる女は、そろいの番号を書いたカードをパートナーと自分の後頭部にゴムでくくりつけさせられた。これら作業は主に女性従業員が命じられた。こうして、ペア1からペア19までの組み合わせが一目でわかるようになった。永畠は、万一どちらかが逃げたり行方知れずになったりしたらそのパートナーを射殺すると宣告した。
(第90回 了)
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■ 三浦俊彦さんの本 ■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■