世界(異界)を創造する作家、遠藤徹さんの連載小説『贄の王』(第09回)をアップしましたぁ。今回は八角鹿に取り憑かれたというか、寄生されて一体化した遊斉の物語です。遊斉は八角鹿に操られて、どうやら大恩人の五幽の娘・芽衣をさらってしまったようです。芽衣もまた艶媚孔を持つ少女で、〝鍵〟のために必要な能力を持っています。なんの鍵かはまだ明らかになっていませんが、もちろんそれも古き方々と新しき者たちとの戦いに関係しているのでせうね。
今回の第9章の冒頭で、遊斉は一種の母胎回帰をしますが、芽衣の能力が明らかになる後半でもそれが繰り返されます。「夢見心地に陥っていた遊斉には、けれども自分が何を言ったのかすら定かではなかった。朦朧としたまま包み込まれ愛される感覚に浸った。それは、今や深蔭の中ですらなかったのかもしれない。遠い昔に喪ったままの母の内部に戻っていたのかもしれなかった」とあります。遠藤ワールドの独断場的記述です。
『贄の王』ではただ一人の主人公が活躍するのではなく、複数の魅力ある登場人物が入れ替わり立ち替わり現れ、入り組んだ関係性を構成してゆきます。その全体像が遠藤さんのテーマといふか思想の反映であるわけです。こういった作家は少ないなぁ。まぢで世界(異界)を創造する作家であります。テイピカルな遠藤ワールドである『贄の王』の世界の法則は明確ですが、そのシステムは遠藤さんにしかわからないのでありますぅ。