
永遠がほしいなら
特急列車に乗り続けるしかない
リリアナ・エクスプレス・トレイン
もしくはリリアン・エクスプレス
わたしは空っぽの器なのだから
世界がわたしの中に雪崩れ込む
世界とはすべてであり
できるだけ遠くにあってほしいから
他言語の
異言語の響きで列車は走る
女の名前がいい
わたしの国語に女性名詞はないけど
女言葉はある
女たちだけの言葉
車内はロココ風で
十九世紀の豪華列車のようだけど
客席にはちゃんと小さな液晶ディスプレイが付いている
器用に編み針を動かして
白髪のおばあさんが赤いマフラーを編んでいる
ディスプレイの中で
若い男の子と女の子がセックスしている
深く愛し合っていて
とても幸せそうに笑って
とてもきれい
「意味はないのよ」
おばあさんが言う
「意味ってなんですか」
「正しいこと
人は性に惹きつけられ
死を怖れる
死から目をそむけるの」
これもお定まりの
外は闇
少し開いた車窓から水の匂いがする
流れの速い大きな川だとわかる
時間の流れが変わる
わたしの恋人は古本屋だった
古美術商だった
汚れた服から
いつもテレピン油の匂いを発している
画家だった
なにもしない詩人だった
客車を移動すると彼がいる
「やあ」と言って薄く目を開き
瞼を閉じてまた眠ってしまう
彼はいつも眠っている
何時間でも眠ることができる
絶望は死に至る病だけど
眠ることでそれを引き伸ばしている
彼の手から草稿がすべり落ちる
床にばらまかれる
「いつも最新作が最高傑作で
ほんの少し先の駄作」
ママがいないのでまるでこの世の終わりのように泣く
ママは死んでしまった
でもわたしは知っている
苦しい肉体から解き放たれて
ママは若返る
でも十代や二十代の女ではなく
子どもたちの将来がまだ見えず
輝かしいものとしてあって
朝から夕方まで駆け回り
働いて
親切な友人たちに囲まれ
意地悪な同僚に悩まされた
四十代の女になっている
「二十で死にたいなんて
子どものたわごとよ」
あの冷たい顔で笑う
みんなどこに行ってしまったのだろう
祖父も祖母ももうこの世にいない
何人かの顔を思い出し
その数百倍は忘れてしまう
走り続ける列車の中を歩く
わたしには異和が必要だから
わたしと同じ列車に乗った
わたしとは違う人たちと話し
「さよなら」と言って歩いてゆく
列車の先端まで歩く
わたしが世界になってしまわないように
空っぽのわたしに世界が満ちるように
人は毎日少しずつ壊れてゆく
わたしは少しずつすり減ってゆく
永久機関などないのだから
この列車もいつかは停まる
遠い土地がいいのならロンドン
テルアビブ ブエノスアイレスでもいい
でもたぶん列車は一本道で停まるだろう
生家の前に
まっすぐに伸びている一本道で
そこが行き止まり
列車の終着点
くすくす笑う
そうよ
わたしに無限の自由など与えてはいけない
列車の通路にも
暗い窓にも
客席にも
路線図が見える
地図が見える
家系図のように複雑に入り組んでいる
ときおり模様が変わる
でも消せない
どんなことをしても
わたしのたどる路線図が
わたしの地図が
わたしの家系図が
わたしのいない世界をどこまでも広がってゆく

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