性にまつわる全てのイズムを粉砕せよ。真の身体概念と思想の自由な容れものとして我らのセクシュアリティを今、ここに解き放つ!
by 金魚屋編集部
小原眞紀子
詩人、小説家、批評家。慶應義塾大学数理工学科・哲学科卒業。東海大学文芸創作学科非常勤講師。一九六一年生まれ。2001年より「文学とセクシュアリティ」の講義を続ける。著書に詩集『湿気に関する私信』、『水の領分』、『メアリアンとマックイン』、評論集『文学とセクシュアリティ――現代に読む『源氏物語』』、小説に金魚屋ロマンチック・ミステリー第一弾『香獣』がある。
三浦俊彦
美学者、哲学者、小説家。東京大学教授(文学部・人文社会系研究科)。一九五九年長野県生まれ。東京大学美学芸術学専修課程卒。同大学院博士課程(比較文学比較文化専門課程)単位取得満期退学。和洋女子大学教授を経て、現職。著書に『M色のS景』(河出書房新社)『虚構世界の存在論』(勁草書房)『論理パラドクス』(二見書房)『バートランド・ラッセル 反核の論理学者』(学芸みらい社)等多数。文学金魚連載の『偏態パズル』が貴(奇)著として話題になる。
三浦 週刊新潮などが報じている伊東純也選手の件ですが。
小原 まったくわかんないですね、あれは。
三浦 不同意性交等罪に変わる直前の話なんですね。強姦罪が強制性交等罪、それから不同意性交等罪に変わった。だから強制性交等罪が適用されるかどうか、という案件ですよね。いずれにしても、被害者はレイプだと言っている。
小原 被害があったなら、ですけど。
三浦 法律が変わって、ちょっと声を上げやすくなったというか、一種のブームで注目されてるんじゃないですかね。意識が高まって、そういえばあのときのあれは、っていうかたちで表面化されやすくなったんですよね。
小原 ジャニーズの件とか、松本さんの件とか、続いてますよね。
三浦 不同意性交等罪という概念が認知されるきっかけを今、作ろうとしてるっていう。
小原 ほとんど時効ではありますけど、表に出ることで社会的に制裁を受ける立場の人たちですもんね。今の法では裁かれるような行為をしているかもしれない、っていうことであれば、それは載せやすくはなる。ルールの変更なんて聞いてないよ、ってのはあるでしょうけど。
三浦 不同意性交等罪に変わったことで、合法的行為のハードルが上がったわけですよ。罰する方のハードルが下がったというか。安易に性的な関係を結ぶのは危険だよっていう風潮を作った法律ですよね。それは私は賛成なんです。性的関係というものに寛容すぎたと思うわけです。
小原 そうですね。
三浦 「あの女は、付き合った男より経験人数の方が多い」みたいな言い方がある。悪口として。あんまり女性の耳には入らないかもしれないけどね。
小原 むしろ説明的な、品のいい貶め方に聞こえます。もっと単純な…
三浦 ヤリマンとかビッチとかサセコとかね。でもまあ、その都度付き合うっていうこととの比較で。
小原 それって売春とか援助交際とか、そういうことなのかな。
三浦 お金なんかもらわなくても、やらせてしまう女性っていうのはいるわけで、私もそういうのを個人的に知ってますけれども、そういう人はもう例外なく心を病んでるんですね。
小原 まあ、そうでしょうね。
三浦 まともな女性、って言い方がいいかどうかわかんないけど、普通は付き合ってもいない男にやらせることはないんですよ。で、伊東純也の場合には、そういう行為があったのかどうか。
小原 さっぱりわかんないですね。
三浦 ただ示談の話が進んでいたっていうのは、そういう行為があったのが前提、ということになりますね。もし示談の話が事実なら。
小原 うーん。でもとにかく騒がれると困る、っていうことで、とりあえずお金を包む、相手もそれが目的で、っていうことはありますよね。
三浦 示談は伊東本人は関係なくて、伊東側のマネージャーX氏と女性との間のことだったという話も出ていますが、よくわかりません。女性のスポンサーとやらが反社で、X氏が脅されていた、とも。
小原 裁判できちんとやらないことには、わかりませんね。
三浦 仮に行為があったとするならば、その時点でアウトなんですけどね。つまり付き合ってない、初対面なわけだから。初対面で行為があったっていうのは、まずまともな女性であれば同意しないだろうって、そこから直ちに出てくるんですね。
小原 実際、女性の方は同意してないって、訴えてるわけでしょう。
三浦 これがまたね、お礼のメールを送ったりしてる。また会いましょうね、という。
小原 これもですか。
三浦 ただ、それがあったとしても、そもそも初対面でセックスに至る、あるいはセックスもどきの性的行為に至るというのは、少なくとも女性のあり方としては普通じゃないっていうのが、まあ常識なわけですよ。
小原 でも女性たちは、全然意識がない状態でレイプされたって言ってるんだから、彼女たちがまともか、そうでないかっていうのは、ちょっと今の段階でわからない。
三浦 意識がない場合も、まともな性交ではないわけじゃないですか。
小原 でも、それは女性たちのせいではないわけで。
三浦 だから、いずれにしても性的行為があったのであれば、これはもう男が自動的に悪くなるわけですよ。
小原 どっちみち、ってことですね。
三浦 そう。だから、これは性行為があったという時点で、もう同意があったかなかったかっていう話にならないんですよ。
小原 自動的に?
三浦 自動的にはならない。不同意性交等罪であってもね、初対面でセックスしたからといって自動的に引っかかるわけではない。
小原 同意があれば、いいでしょう。そしたら、何がまともじゃないんですか?
三浦 いろんな証拠で、現場では明らかに同意していたとしても、ですよ。
小原 それはまともな女性ではない、と。
三浦 初対面で、そういうことをするというのはね。
小原 まあ、それは我々の価値観としては、そうですよね。
三浦 ある程度、仲良くなってね。その親しみのある相手とでないとまずやらない。こうやって決めつけるのはよくないかもしれないけれども、男の場合だったら、別に初対面であろうが、親しくなかろうが、軽蔑している相手であろうが、まあ普通の男であっても、メンタルに問題がなくても機会があればやることがあるわけです。
小原 それは、お金払ってする人だっているわけだから。
三浦 女性の場合にはね、やっぱりメンタルに問題抱えているとか、何らかの普通でない状態にあるとか、そういう女性でない限り、初対面もしくは親しくない男と性的な関係になるということはまずないっていう常識がある。
小原 そんなら、そういうことをする女性がすなわちメンタルおかしいっていう定義にしたらいいじゃないですか。売春婦なら、ビジネスとしてあることだけど。
三浦 セックスワーカーは精神的にまともであっても、それは初対面の男とやりますよね。ビジネスだからね。でもセックスワーカーでもないのに、初対面の男と自由意思でセックスしましたってことは、まずあり得ないんですよ。
小原 まとも、をどう定義するかの問題ではありますよね。まあ、古来の「伊勢物語」にはいろんな女性が出てくるけど、現代の我々の感覚を前提にするならね。
もし兄弟がそういう女性を連れてきたら、もちろん大反対しますよ、わたしだって。
ただガーシーさんとか、松本さんの周りのアテンドする人たちとか、そういう世界の人たちは、ちょっと違う感覚を持っているのかもしれない。そもそも不思議なのはさ、仮に性行為がなかったとして、なんで伊東純也と一緒に飲む機会が訪れるのか、ってことですよ。わたしも呼んでよ(笑)。
三浦 その辺の仕組みはよくわかんないんだけど、報道によれば、その女性たちが所属している芸能事務所と、伊東側のマネージャーX氏とが契約を結んでいて、それが打ち切られたんでしょ。で、それは困るっていうので、芸能事務所の方からX氏に枕営業を持ちかけた、っていうことらしいですよね。
小原 仮に、枕営業ということなら、一種の売春ですよね。それなら初対面もへったくれもないし、そもそもレイプが成り立つのか。
三浦 女性の後からのメールでも、伊東選手にいい思いをしてもらう会なのかなと認識していました、なんていうのもあるわけで。あれを見ると、芸能事務所の思惑と現場の女性の認識が食い違っていて、女性が勝手に勘違いしたのかもしれない。
小原 伊東選手は釣り餌みたいなもので、ということかな。
三浦 X氏と女性との間には事件当日以前にすでに性関係があったとも言われてるし。示談はその件に関してだったとか。いずれにしてもどうやら女性も枕営業の企画に同意していた。ただ、誰に対してそれを仕掛けるのかっていうところで間違えた、と。間違えたがゆえに女性らの立場が悪くなって、それを打開するために伊東選手にレイプされたと言い始めた、っていう解釈があるようです。
小原 あー、枕営業の見返りもなかった、っていうことですかね。
三浦 その契約を続けさせるためにやったのに、伊東選手にサービスしても何の意味もないわけで。伊東さんが契約を決めるわけじゃないんだからさ。
小原 うーん。それにしても、なんか変な話。
三浦 その芸能事務所の社長が枕営業を仕掛けようとしたのではないか、と。で、その社長の思いと現場の女性の思いが食い違っていて、女性が勘違いして勝手にその間違った相手に枕営業をしてしまった、という説です。
小原 誰にするのが正しかったんですか?
三浦 マネージャーX氏の部屋に行けって言われていたのを間違えて、伊東選手の部屋に居座ってた、と言ってるね。
小原 でも女性は二人いたじゃないですか。一人は伊東さん、一人はトレーナーに、と言ってます。
三浦 でも伊東の部屋にいたんでしょ? そもそも女性二人をホテルの部屋に泊めて、何をどうするつもりだったのか、謎じゃないですか。
小原 可愛い女の子をただ、飲みに誘ったっていう。
三浦 飲みに誘って、同じ部屋で一晩過ごして、何をするつもりだったのか。
小原 トランプとか。
三浦 親しければ、そういうことはありますよ。だけど初対面の女性二人を部屋に泊めて、どうするつもりだったのか。普通は適当なところで帰ってもらう。しかも翌日に仕事というか、肝心の枕営業の目的でもある顔つなぎの場があって、それに遅刻して、女性たちが怒られたとか。
小原 うーん。その辺の細部は、なおわかんないけど。
三浦 結局、おかしな状況に身を置いている。伊東はマネージャー任せで何も考えてなかったのかな。でも肝心のマネージャーX氏に問題ありそうなんですよね。
小原 ちょっと脇が甘いかな。いくらトランプ好きでも。違うか。
三浦 それと女性の言い分に反論するのに、女性の服装が違っていると証拠を出してきている。ワンピースをたくし上げられたとかじゃない、って、ジャージを着て眠っている動画がある。そしたら、誰が何のためにそんな動画撮ったんだろう。伊東のジャージを借りて寝ている女性の姿を映した動画が存在するのも、謎じゃないですか。
小原 人間は、酔って遊んでいるときにはいろいろと説明のつかない、くだらないことをするもんでさ。
三浦 いずれにしても、示談だの告訴だのどうのこうの言われるくらいの事態を招き寄せるということが、もう伊東純也の落ち度とされてしまうんですよね。
小原 襲われた女性だって落ち度があったって言われるんだから。そりゃ、男だってそう言われればそうでしょう。
三浦 普通は刑事告訴までされるなんてことはないわけでしょ。松本人志の文春とはいきさつが違って、週刊新潮が発掘したわけじゃなく、刑事告訴が行われたものを報道しているので、意味が違うんですよ。客観的にある事実を単に書いているだけ。だから新潮は告訴されてないけれども、あれはあれで正しい。
小原 そうですね。ただ、伊東選手の弁護士さんが現在、言ってることは、何もかも根も葉もない、ということで。でも動画があって、その一晩一緒に遊んだ、そして彼女たちを部屋に泊めたってことは確かですね。
三浦 それはメールも残ってるし。
小原 で、行為があったけど同意だって言ってるのか、それとも行為そのものがないって言ってるのか。
三浦 「同意があった、なかったの問題ではない」って弁護士が言ってるから。行為は一切なかった、という前提ですよね。
小原 うん。
三浦 ただ、伊東本人が示談に応じていたと当初報じられたとき思ったんですが、無実なのに示談に応じるというのがどれほどあるのかと。確かに名を守るために、大ごとにしてもらっては困るから、しょうがない、金払って終わりにしようっていうことだったのかもしれないけれど。それであっても応じてしまうと、その事実は残るわけで、悪い噂になることはあり得るんだね。
小原 そうなんですよ。示談に応じるっていうのは本当に、非を認めちゃうことになるので、まずいんですよね。
三浦 だから示談を進めずに、これは脅迫、もしくは恐喝だとかで逆に訴えるという手を打たないと。
小原 今、虚偽告訴で訴えてますね。
三浦 伊東選手の弁護士の説明もちょっとね、関係ないこととか、濁してることとかがあって、よくわかんないですけど。
小原 わたしの知人のご主人が単身で仕事をされていて、そこに女が従業員として入り込んできて、根も葉もないことを言い出されて争いになった。で、そのご主人の弁護士から「これ認めちゃって示談にした方がいいですよ」って盛んに言われた。どうしても納得できなくて、刑事専門の弁護士さんに変えたら、「絶対認めちゃダメだ」って言われて。結局、嫌疑不十分になったんですよ。ちなみに女はそういう事案の常習犯だったんですって。
民事専門の弁護士は、刑事になると儲からないから、示談にしたがるんだって。ひどいよね。そういう弁護士の方針とかもあって、前段階では「認めて示談にしちゃいましょう」って言ってた、というのもあり得ると思うんですね。
三浦 金目的なら、示談が流れた後、わざわざ刑事告訴する、ってのはどうなの? 刑事告訴したって金は入らない。痴漢冤罪なんかを仕掛ける側は示談で金をせしめるんだけど、それに相手が応じなかったら、普通はそれでやめるんだよね。刑事告訴なんてしたって、どうにもならない。
小原 でも「告訴するぞ」と言っていたのをあっさり引っ込めたら、そこから脅迫罪とか恐喝罪になるんじゃないですか。伊東選手の抗議が強気になりすぎて、引っ込められなかったとか。それで今回は、金目当てってわけでもないですよね。枕営業ではあるかもしれないけど。
っていうか、もし枕の相手を間違えたことぐらいなら、落としどころがありそうなもんだけど。芸能事務所が契約を結び直すなり、あらためて枕をしてもらうなり、勝手に仲直りしたらどうなんだろう。そこが決裂したってことかもしれないけどさ。でもX氏はスタッフなんだから、少なくとも伊東選手を巻き込まないように守らないと。
三浦 そのあたりの事情がわからないので推測するしかないんだけど。いずれにしても、これは不同意性交等罪による意識改革に乗っかった一つの報道だと思いますね。
だから今、松本事案と伊東事案の世論の違いは印象的ですね。松本に対しては女性側に立った意見が大半だし。
小原 証人の人数が多いですもんね。多勢に無勢ですわ。
三浦 伊東に対しては、やっぱり女性側に厳しい意見が多いですね。
小原 女性の住所がわからないとか、いろんなこと言われてますね。それで告訴状が出せるのかとか。
三浦 職場とか、他の住所を使うのは、特に性犯罪の場合には普通だということだけど。ただ、それは問題だってわざわざ弁護士が言ってるのが、単なる印象操作でないとするなら、架空の住所を使っていたとか、ちょっと特殊なやり方なのかもしれないね。
小原 それで時間がかかった、と言っている。勤め先とかだったら、そんな苦労はしないはずなので。
三浦 そうそう、ただ、あの弁護士のスタンス見るに、かなり印象操作をやっている可能性もあると思います。
小原 それは仕方ないんじゃないですかね。伊東選手は特別な存在だし、たとえ裁判で勝ってもスキャンダルになってしまえば、ものすごい損害が出るわけだから。まずは名誉回復に努めるっていうのは、単に法廷で勝つ以上の仕事をしようとしてるって、優秀な弁護士かもしれない。
三浦 まあ根も葉もないことで被害を受ける男ってのは確かにいるんですが、伊東選手の場合には、あまりに状況がおかしなことになっていて、あまり文句言えないんじゃないか。だってトラブルが起こることが当然、予想されるわけじゃないですか。翌日に仕事を控えている女性だし、騒がれてしまう可能性がある。
小原 有名なスポーツ選手ですから、人任せのところはあるんじゃないかな。女性たちが翌日は仕事だって、それに配慮する立場はX氏なんだろうし。このX氏がどういうつもりで、というのは、もう全然わかんない。本当にわかんない。
三浦 裁判になっているわけで、我々が判断するための情報は少ないよね。
松本案件は、文春が何年もかけて取材して、その取材したことを出しているわけだから、当然わかるように書いてある。今回は、とにかく争っているっていう事実が報じられただけなんだから。
ただ結局、世間があらためて確認させられたことは、普通にセックスしたつもりであっても、いや、セックスまでしていなくても、性的接触はとにかく女性側が一方的に被害を受けたことになるんだっていう原則です。
小原 そうですよね。もう言い出されれば、被害じゃなかったとは誰も言えない状況ですね。
三浦 ちょっとしたパラダイム変換というか、ゲシュタルト変換というか、被害でなかったはずのものがいつでも被害に変わり得るという話です。
小原 だから、いいとか悪いとか、正義とか悪事とか、あまり言う気にならないんですよね。特に伊東さんのケース、まあ、松ちゃんのケースでも、X氏とか周りの芸人たちとかが積極的に動いている。そうすると本人はその人たちとの関係性で、ある意味で巻き込まれている。自ら命令した、あるいはオファーに乗っかるのはどうなの、とは言えても、その友人たちもサービスしたがっている面もあるでしょ。彼らにとっても一種の営業なんだから。仕事を増やしたい弁護士の口車に乗るみたいなもんで。
三浦 松本は一般女性を求めていたわけじゃないですか。高校の教師だとか、事務員とか、CAだとか。会ったその日にやらせてくれる女性が、普通の女性だと思い込んでるのかな。女性観がもしかしたら狂ってるのかな。
小原 だから特殊な業界なんだと思います。芸能界でいえばガーシーさんの話を聞いて、アテンダーっていう人たちがいるんだって、びっくりじゃないですか。松本さんについては、配下の若い芸人たちがその真似事をしていたってことなんでしょう。
三浦 やっぱり意識が違うのかな。
小原 有名芸能人の自分だったら、ぜひ、って女がいくらでもいるって思い上がっている。っていうか、そういう思い込みがないと勢いを失う商売なんじゃないですか。
スポーツ選手は、まだまともなはずで。結果に直面しないといけないし、何しろ毎日練習しなきゃいけない人たちなんだから、遊んでばっかりいられない。だからこそ段取りは人任せで、女性をアテンドさせても当たり前に思うのかも。もちろん伊東さんがそうだったかはわかりませんし、アテンドというか女性の紹介自体は、まあ、どこかで出会いを、という意図なら悪くないと思いますけど。
三浦 そもそも風俗とかでは満足できない人が、初対面でやらせてくれる女性を期待すること自体、矛盾してるんですよね。
小原 期待させるような存在が、アテンダーなんでしょう。有名で特別な存在だ、という幻想を本人にも、女性たちにも信じさせようとする。
三浦 それ専門の、セミプロみたいな女性の一群がいると。素人のふりをして、松ちゃんだから特別に寝たい「普通の女性」を演じて、アテンダーの得点にもなると。
小原 そういうことだと思うんですよ。港区女子とかいうんですかね、半分水商売、半分素人みたいな。
三浦 完璧な水商売ではもう満足できないし、しかもトラブルは怖いって有名人たちのニーズに応えるような。
小原 そういうのを集められるのが、アテンダーの実力なんでしょ。アテンダーというのも商売ではなくて、芸能人の周りにいて信頼されて、なおかつ自分で役得を作り出すことができる人ですよね。気の利くコバンザメというか。ガーシーさんもそういうスタンスで、有名人に会わせてやるからってお金を詐取するようなことと、もともと紙一重だったんじゃないかな。
三浦 それはそれで割り切れればね。そういう一群の女性たちがいて、その資源からピックアップするんだって意識が松本にあればよかったんだけれども。
文春の記事によると、松本の場合には本当に素人を求めていたようです。しかも一回会った女性はもうダメ、初めてじゃなきゃいけないらしい。だからアテンドにも苦労していたわけで。その辺の意識が、一般女性が簡単に初対面で応じてくれる、それが芸能人の普通なんだと思っているんじゃないか。その辺はフリーなのが当たり前だと。
小原 そう考えたいというニーズに応えている、ということなんでしょう。それ自体、いいとか悪いとか決めつけるものでもないのかもしれない。
『ティファニーで朝食を』のホリー・ゴライトリーっていう女性が、たぶんそういう女なんですよね。高級娼婦であるような、普通の、むしろ純粋な女性であるような。でも、そういう曖昧さこそが商売女の極意なんですよ。
三浦 セックスに関する常識って、環境によってかなり変わるからね。
小原 地域的にも六本木、いわゆる港区近辺ではね。
あのね、わたしね、学生のときに六本木のクラブに行って、外人男性のマンションに泊めてもらったことがあるの。
五月の気候のいい宵でさ、ついフラフラ出かけたのよね。いつも六本木を庭みたいにしてる友達がいて、彼女を呼び出そうと思ったら捕まらなかった。それで一人でちょっと遊んで、すぐ帰ろうとしたら、外国人のおじさんに声かけられて。おしゃべりしてたら終電なくなっちゃった。そしたら「僕は近くにマンション持ってるから、そこ使っていいよ」って。で、ありがとう、ってマンションに連れていってもらったら、なかなか帰らないのよ、その人が。それで結構、迫ってくるんで、もう眠いからって、横向いて寝たふりしたら、キミには自由な精神がない、とか文句言いながらも、鍵を置いて出て行ってくれた。
紳士だったので、その気がない人に無理やり、っていうのはプライドが許さなかったんだね。あとから呼ぼうと思っていた友達に言ったら、あんた、なんでそんな危ないことするのさ、って。比較的まともな人でよかったね、って。
三浦 それはもう常識だよね。そのあたり女性はわかんないものなのかな。
小原 まだ学生だったからね。その人は青山で画廊をやってる人で、わたしも知っている有名な芸能人カップルの仲人をした、とも言っていた。ただ親切に、泊めてくれるんだと思って。
三浦 普通は考えなくてもわかるじゃない。初対面でそんなに親切にするっていうことがあると思ってるの?
小原 思ってた。
三浦 だから、そこが男と女が違うところなんで。男が何を考えてるか、女が知らなさすぎるって、そういう意味ですよ。下心がないわけないじゃない。男の側だって、なんか盗まれるかもしれないしさ。見返りがないのに、見知らぬ女を泊めるなんてあり得ないですよ。
小原 自宅じゃないから、空っぽの部屋だったよ。テレビぐらいかな。
三浦 どんな損害を受けるか、わからないじゃない。
小原 そんな今、怒られたって。泊めてくれるって言ったから、そうですか、ってだけなんだから。「あなた、私にものを盗まれるかもしれないでしょ」って言い返すべきだったんですかね。そんなの知らないよ。
初対面が非常識なら、翌日、二度目ならいいのかって話じゃないですか。その人とはクラブで何時間も、絵とか詩とかの話をしてたんだよ。カワイイとは言ってたけど、それはわたしの手元を見て、イタズラ描きに対して言ったんでさ。
三浦 考えているのは肉体関係のみですね。そりゃ男は頭に来る。ただ純粋に、本当の親切でしょ、なんて女性が言うとは思ってないから。
小原 人間はさ、幼少期や若い頃を振り返ると、よく無事だったな、ってことがいっぱいあるんだよ。生き残ったのは奇跡かもしれない、って。だけど、どんなに未熟でもカンが働くことはあるじゃない。女をむりやり襲えるような人じゃなかったよ。もちろん今年、大学に入る姪っ子には絶対、そんなことさせないけどさ。
三浦 部屋まで行ったんでしょ。行った場合には、普通は応じてくれるというのが男の期待ですよ。
小原 その「普通」がわかんない。それが港区ルールなんだ、って言ってるだけじゃないですか。県庁所在地の横浜から来た女子大生には通じないんだよ。大田区住みの姪っ子には厳しく言っておくよ。
三浦 たくさん女性がいるんだから。都会なんだから手当たり次第。個人的に知ってるナンパ師が言うにはね、成功は三桁に一回だって言うよね。
小原 だから応じなかったんじゃない? フツーに。別に怒ることない。
三浦 部屋に来るのが三桁に一回っていう意味。ついて来たらもう次の段階だよ。
小原 そりゃ道で声掛けたら、そうでしょうが。六本木のクラブでさ、皆で自由に朝まで遊んでるような、そういう雰囲気の時代だよ。
三浦 だけど部屋に泊めてあげるよって言われて応じる女性は、まず少数派でしょ。六本木でも。
小原 知らない。そんなの状況による。
三浦 そして、その女性のうち、小原さんみたいに追い返す女性もいるだろうけど、じゃあ朝まで過ごしましょうって言う女性が四割ぐらい、その四割のうち半分以下が肉体関係になる。
小原 一緒にビデオ見るだけなら朝までいてもよかったよ。で、その数字によると、どこまでいっても、肉体関係に応じる女性は常にそこからの何割かに過ぎないんだから、「部屋まで来たのに」って怒る理由にはならないじゃない。そもそも「泊めてあげる」って言葉の意味を勝手に変えられてもさ。外人だから日本語よくわかってないんだよ。
三浦 だから、それは男の意識と女の意識が違うってことだよ。
小原 まあ、見るからに学生だし、あきらめたんじゃないかな。
三浦 だって、そんなのさ、学生であろうが男友達と話してればわかるじゃない。話さなくても普段観察していれば。まあ、なんていうか、小原さんの興味がたぶん別のところにあったんですよ。数学とか、そういうことにさ(笑)。
小原 そんなことはないけど、わたしの周りにいた男の子たちとだって、夜中にドライブしたり、朝まで部屋で試験勉強したりしていたけど、別にそんなことはぜんっぜん。
三浦 いや、だから仲良くなればそうなのよ。さっきも言ったけど、仲良くない人にわざわざ親切にするっていうのはそういう意味だって話だから。
小原 仲良くなったつもりでいたのよ。それに仲良くなる過程では、最初の一日って必ずあるじゃない。
三浦 うーん。一緒にドライブしてたお友達であってもさ、親しい女性に対して親切にするのと、親しくない女性に親切にするのとでは全然、意識が違うに決まってるじゃない。
小原 そんな度胸があるやつだとは、到底思えない。
三浦 男のそれを見くびっていると危険なの。
小原 それはほんとにそう。わたしも若い子にはそう言う。自分はたまたま大丈夫だっただけだと思う。
ただ三桁に一人とか、四割×四割とか数字を出されると、そうか?と考えてしまう。定量的な評価をするなら、きっちり前提条件を揃えないとダメでしょう。ナンパ師が道で声をかけるのと、クラブで何時間も話し込んだ後では違って当然だし。そこをざっくり一般化するなら、「万に一つでも危ないよ」というごく普遍的なことしか言えないし、それならわかるけど。リスクは徹底的にゼロにすべきって意義もあると思う。
で、これも小耳に挟んだ数字にすぎないけど、男でもいわゆるレイプができる人っていうのはかなりの異常者、数百人に一人だって聞いた。
三浦 いや、そのレイプの定義によるわけですよね。今は不同意性交等罪になっちゃったから。同意がないのにそこに持ち込むっていう男は、これはもう多数派だから。どっちかっていうとイヤっていうフレーズは、エロティックな意識を表わしているだけって思ってる男が多いからね。女性がイヤっていうのは、ゴーのサインだって。
小原 へー。
三浦 イヤよイヤよも好きのうち、っていうのは誇張だけど。行為の最中にイヤ、とかさ。そういう否定的な言葉を言うじゃない、女性は。
小原 それはアダルト・ビデオの中の話じゃないの。
三浦 そんなもんじゃないよ。そんなのは私だってある程度、経験あるから。イヤとか、恥ずかしいとか、そんな言葉も頻繁に言うじゃない。
小原 (そりゃ、あんたのニーズに応えてるだけなんじゃ、と思ったが言えず。)
三浦 女性のその本能的な言葉を本当の否定だと捉えたら、もう不同意性交等罪に引っかかるわけよ。
小原 今後はそうなりますね。
三浦 ただ、イヤとか恥ずかしいとかやめてとか、そんなことはもう頻繁に女性はもう反射的に口にする。それが双方のエロティックな意識を高めて楽しみに寄与する。女性が肯定的な言葉ばっかり言ったら全然、楽しくもなんともないわけ。
小原 そうかい?
三浦 女性はそういう否定的な、防御的な言葉で、双方の性欲を高めるんだよね。
小原 ほー。
三浦 それでムードも盛り上がるわけ。女性のイヤとか、やめてとか。それはあくまでイエスの意味なんだよね。「ドント、ストップ」だと「しないで、やめて」だけど、「ドントストップ」だと「やめないで」っていうことになる。だから結局、同意か不同意か男女双方がわかってない、わかってなくてOK、っていうのが実はデフォルトなんですよ。
小原 そんなふうに思いたがる人がいるなんて、 初めて怖ろしさがわかった。
『告発の行方』って映画、あったじゃないですか。ジョディ・フォスター演じる女性が酒場で複数の男にレイプされるんだけど、彼女自体がマリファナ吸って、酒を飲んで、いわゆるアバズレ女なので、裁判では不利なんだけど。で、すごく印象的なシーンがあって、証言席で「その最中のあなたの気持ちを言葉で表すと」と、あらためて訊かれて、目を見開いて「イヤ!」と言った。そのとき皆、目が覚めたみたいになって。野次馬だった被告たちも、傍聴席も、たぶん観客も。ああ、イヤだったんだ、って初めて理解するんですよね。
三浦 でも、イヤなんてさ、頻繁に口にするよ。女性は。
小原 だから、そういう意識でいたわけですよ、皆。イヤって言ったって、真に受ける必要はないっていう意識で。それで、それが行われて、でも彼女はとにかくイヤだったんだ。
三浦 そうそう。だから「ノーミーンズノー」っていう断わり方あるけど、そこまでの構造を持った長い文を言われればわかるよ。だけど、単に「ノー」と言われても女の反射的な反応としか思えないから、NOの意味で受け取れない場合って、すごく多いよね。
小原 それ、わかんない。
三浦 いや、例えば、本当に親しい仲でだよ。親しい仲でイチャイチャしてるときでもイヤだとか言うじゃない、女性は。
小原 やーだぁ、やめてよぉ、とか?
三浦 笑いながら言ったら冗談だってことになるけど、エロティックな関係でムードを壊すような笑顔にはならないんだよ。イヤだとか、恥ずかしいとか、やめてとか、何すんの、とか。そんなことされたら、そんなとこ触ったら。とか。そういうの、頻繁に女性は口にするって。それ、もう常識だよ。
小原 ふーん。知らなかったよ。一種のプレイなんじゃないの。
三浦 意識して言うもんじゃなくて、自然にそう反応するわけよ。
小原 本気でイヤって言ってるのか、そうでないのか、マジで見分けがつかない男って、一種の障害者だから仕方ない。でもその曖昧なところを突いて、訴えられたら障害があったフリをするやつはいるよね。
わたしが知る男性はみんな知的で気が小さいから、たぶん本気でダメって言ったら、さっと手を引いちゃう。だってそれを押したら、犯罪者になっちゃう。ボクちゃんが犯罪者だなんて、ママに何て言えばいいの(笑)。
三浦 もちろん初期段階でイヤとか言われたら、離れるだろうね。
小原 初対面うんぬんの流れで言えば、そういうことですよ。相手の意図を尋ねるべき立場、確認しなくてはならない関係性であれば、リテラルに解釈するしかないでしょう。
三浦 霊長類の交尾なんか見たってさ、その最中に雌はもう悲痛に叫びまくるわけよ。だからそう言えるのよ。
小原 わたしは犬語も猫語も知らないからさ。イヤ、って叫んでるのかどうか、わかんないよ。同意・不同意を認識できるのは人間だけ、というのが法の前提だよね。
三浦 私は不同意性交等罪の成立は、いいことだと思っているんですよ。イヤと言い続けて、でも暗黙の同意はあった場合、どっちとも取れるわけだから。その後、二人の関係が良好、あるいは問題がなかったなら、「同意」のままで推移する。だけど、その後にトラブルがあったら、女性側から訴えることができるんですよ。そもそも現場では同意があったかなかったか、決まらない。その後の長い期間、二人の人間関係の全体を見て、あのときの性的関係に同意があったかなかったか、って決めることができるようになったわけ。これは大変良いことで、これは昔の強姦罪、強制性交等罪ではできなかったんだけど。
これで男の側も非常に慎重になる。つまり、これからずっと良好な親しい関係を続けていけるだろうか、その確信がない場合、この女性とはトラブルがありそうだ、人間関係が上手くいきそうもないって場合には、たぶん控える。後からやっぱり同意がないって言われそうじゃない。
小原 なかなか大変ですね。
三浦 同意・不同意は現場限りで決まるのではなく、長いスパンで決まるんだ、という意識は全く正しい。これはいい法律ができたと思ってますよ。泣き寝入りする女性がかなり減ると思うしね。
小原 戦後、性行為の意味がどんどん軽くなっていきましたよね。
三浦 そう。軽くなったら良くないですね。
だからこれは極論かもしれないけど、避妊に期待するな、と思うんだよ。避妊具をつけない、コンドームつけないのは優しくない、って言うじゃない。それは逆だと思う。そういう偽物の性行為で満足できる程度であれば、やるなって言いたいよね。覚悟を持ったセックスのみやるべきであって。この相手とだったら子供ができても構わないというときにのみやればいい。
小原 確かに「女性の身体を大切にしない男とは避妊をしない男」という標語みたいなもの、ちょっと違和感を覚えることはあります。結局はエンタメとしての性行為を前提としているというか。で、避妊の決定権を男性が握っているとするならば、それは男性寄りのエンタメなんでしょう。
三浦 子供ができてもいいというだけの覚悟を持ってやる方が、むしろ信頼できるでしょう。
小原 できたら逃げるか、下ろさせればいいと思ってるか、まーったく何も考えてない、っていうのは論外として。
三浦 今、不同意性交等罪ができたことによって、避妊具の意味は非常に重くなった。真面目なセックスの割合が増えると思うんだよね。不真面目なセックスの割合が減るのは、非常にいいことだと思うね。付き合っていたらやるのが当たり前みたいな風潮になってるけど、付き合ってたって性的な関係になるっていうのはさ、少しハードルを上げるべきだと思うんだよね。
小原 そうね。付き合ってたらそうしないのがダサいとか、遅れてるとかっていうのが進みすぎましたよね。そうしたところで、より深く知り合えるわけではないし。
三浦 そうそう。これは皮肉なことに、女性解放の名のもと、女性も男性並みにセックスを楽しめるんだというスローガンのもとに、女性誌が煽ったわけです。楽しんでセックスできるようになろう、とかね。
小原 「an・an」みたいな、当時のイケてる雑誌に煽られるとね。
三浦 本当は渋々やってる女性が大半でさ。付き合ってるからといって実は、やりたいとは思ってない女性が多いんだよね、ハグしたりキスしたりとかね、そのくらいの接触を女性を好むので。それ以上のことに付き合えって言ってるわけよ、リベラルフェミニストは。ラディカルフェミニストの方が正しいと、私は思うんだよね。挑戦より防御をしろと。男の言いなりになるなって。対等になろうとしたって絶対無理なんだから。男の性欲の暴走をとにかく遮断する、はねのける、付き合っちゃいけないという方向に、フェミニズムは進むべきだよね。性欲まで男と対等になろうとしたら、男の思うツボだよ。
小原 そんなつまんないことで対等になろうというのはどうかしてる。そもそもの身体的負担の差異をそのままに、性産業的なニーズに応える、消費に加担することにしかなってない。
三浦 それはたいてい、男の側のニーズでね。だからちゃんと、お金とか愛とかの見返りがない限り、女性はやるべきではないっていうのは原則だと思うんだよね。男の場合には、実はセックスそのものが楽しいので。男はとにかく射精することがものすごい快楽で、やりたくてしょうがないわけですよ。男は金を何万円出してもやりたいわけだから、男と女のセックスっていうのは非常に非対称的で不公平なんですよ。女性はまずオルガスムに至ることが非常に難しい。愛がないとね。だから、もうそのぶん、お金をもらうかなんかして補わないと割に合わないですよね。
小原 男性の実感として、そうなんでしょうね。それで、アプリオリに全男性がそうだとしか思えない、ということなんですね。
三浦 だからさ、松本の件で、渡したタクシー代が少ないという批判が多かったじゃないですか。たった三千円か、みたいな感じで。それじゃ浜田みたいに三十万円払ってれば問題なかったのか、っていうのあるじゃない。お金さえもらっていれば問題なかったっていう認識があるわけでしょ。
小原 三千円なら、ふざけんなって後からでも言えるけど、三十万円を受け取ったのなら、まあ売春と同等と見做すことができるというコンセンサスですね。だから無理やりにでも渡すべきかもしれない。
三浦 これは不思議なことでね。本来、行きずりのセックスは別に違法じゃないわけですよ。だけど売春は違法とされている。だから売買春の方が悪いって、普通はされているでしょ。
ところが問題は、その行きずりのセックス、お金を媒介としないセックスの場合には、なんも咎めないのに、何でお金が介在すると咎めるのかって話ですよ。
小原 法的には、ですね。
三浦 それが松本問題に対する世論を見ると逆なんですよ。お金がちゃんと払われていれば問題なかったのに、と言ってる。だから法律で言っている善悪と世間が本能的に感じている善悪が逆転しているわけ。
小原 善悪の対象が違っていて、松ちゃんが非難されているのは女性たちの立場を代弁してのことでしょう。一方、女性たちがお金を受け取っていれば、女性たちも悪いのだから、松ちゃんの悪事は相殺されて、善に近くなるよねっていうのは松ちゃんの立場を代弁してのことで。
でも意に反する性行為は、そもそも売春にすり替えることはできないですよね。
三浦 意に反してだったら、もうこれは悪であることが決まりなんだけど。文春で報じられたうちの何件かは、意に反して、とまでは言えないわけ。けれども、それも批判されているわけですよ。タダで性的関係を持ったということで。
小原 昔、宇野元首相が、首相になってすぐに女から刺されて退陣することになったじゃないですか。そのときもお手当付きの愛人がいたことじゃなくて、そのお手当があまりにも少ない、っていうのが問題でさ(笑)。だから刺される。刺されるような扱いをしてたことが恥なんだよね、我々の感覚では。
三浦 そうそう。だから売買春を非合法化していて、一般の初対面でのセックス、不特定多数とのセックスを合法にしていること自体が不合理なんですよ。本来、不特定多数との、まあ行きずりの性的な関係を違法にしなきゃいけない。ただそれをするとあまりにも自由を束縛することになる。その代替として売春を違法にしてるんですよね。
小原 今回の不同意性交等罪っていうのは、行きずりでも自分はそれでいいんだって本当に思ってる女性以外には、それが適用される感じになるんでしょう。あとから後悔したっていうのを含めて、取り締まれるから。
三浦 普通の女性は、行きずりの行為なんてしないって。する女性は、もともとメンタルに問題があるんですよ。
小原 まあね。何人か知ってるけど、メンタルに問題ないかっていうと、やっぱりそうとは言えない。ていうか、そういう行為をする女性すなわちアタマオカシイ、って我々は感じてしまう。自殺したからうつ病認定、みたいに。
三浦 松本が裁判で不利だと言われてるのもそれですよ。初対面なのにどういう経緯で、どういう話を交わして、どう相手は同意したんですかって言われたら説明できないんです。
小原 それは難しそうですね。もとよりそういった性的嗜好がある、つまり先に言ったアタマオカシイ女性を集めたわけじゃないですもんね。
三浦 裁判官がよほど松本的な意識を持っている人でない限り、厳しい。
小原 そういう女性が一般的に多いか、っていう常識のレベルで裁判は争われるでしょうからね。もちろん文学的にはそういう思想はよく描かれるし、女性がそういうふうなこともあり得るんだけど。そんな人が続けざまにいるわけがないですもんね。
三浦 だから私は、これはいい刑法改正ではないかと思っています。
で、よく言われるのが伊東純也選手の件がそうだけど、悪い女にハメられるということが起こるんじゃないかって心配されているでしょ。冤罪が増えるという、それが唯一の問題ですね。でもこれは別に不同意性交等罪に限らず、どんな罪状でもあり得た話ではあるので。
小原 でもまあ、ちょっと怖ろしいですね。考えてみたら、いろんなことが起こり得ますもんね。
三浦 痴漢冤罪の場合には、これはもうほぼ男が不利になるので。法律をどのように変えても、ちょっと防ぎようがない。
小原 法律で対応できないところはテクノロジーで、防犯カメラを張りめぐらせて、虚偽告訴罪を厳格に適用するしかないですね。
それでね、わたし、思い出すたびに申し訳なくなることがあって。横浜の中田元市長が女性から訴えられたっていうのがあったでしょう。わたしは別に、それについてどこかに発言したわけでも書いたわけでもないんだけど、やったに決まってるとどこかで思っていた。それがまったくの冤罪だった。で、中田さんが「ほら僕、人相も悪いしさ」とか言ってて。つくづく悪かったと思いました。皆、そうだったんじゃないの。反省しないと。
三浦 まあ普通は、男が悪いって自動的に思うよね。
小原 だからその「普通は」ってのが曲者だと思うんです。たまたま市長さんなら行動記録もあったろうけど、会ってないのを証明するのだって、それこそ普通は困難です。狙われたら終わりじゃないか。
三浦 強制わいせつとかまで広げれば、何々されましたっ、て言われればね。これは実はどんな罪でも同じだけど。
小原 でもいろんな犯罪は、やっぱり物的証拠みたいなものがあるもので。
三浦 まあね。傷害罪だったら実際に怪我をしたという医師の診断書とかね。
小原 物的証拠もなくて、訴えた側の一方的な言い分で、っていうのは性的なもの以外、あんまりないじゃないですか。性的なものはじゃあ何で一方の訴えで認められるのかって言ったら、それは女性には羞恥心があるから、何もされてないのに言うはずがないって、そういう前提があってのことだったわけですよね。
三浦 そうね。わざわざ声を上げて、恥を忍んでという意識は逆に、声を上げたからには本当に違いないとなるわけでね。
小原 互いに関係のない十人近くもの女性が声をあげるのは証言として重くなるけれど、伊東さんの件になると、その女性たちも誰かの身内みたいな感じだし、まだ何がなんだかわからない。
三浦 何が目的だったかも、わかんないね。もし嘘だとするならば。本当に何かされたんだったら、わかるけど。
小原 だから、意味がないことを申し立てるわけがないから、やっぱりあったんじゃないかっていうふうになりがちですよね。でも人ってさ、いろいろと意味のないこと、するじゃない。
三浦 それでも、誰得なんだと。動機を解明するところからしか判定できないんでしょうね。今、松本の件の影響で、やたら暴露が続いてるじゃない。あのプラスマイナス岩橋が、真木よう子にエアガンで撃たれたとか。ああいう暴露をしても岩橋自身が何の得もしてないので、そうすると信憑性が出てくるわけですよ。
小原 なるほどね。真木よう子の動機もわかんないけど。
三浦 酔っ払ってでしょ。酒癖が悪いみたいだから。
小原 だからそういうことはあるわけよ。若かったり、酔ってたり。真木よう子さんの動画見てると、そんな感じね。すごく好きな女優さんだけど。ただ女優ってアタマオカシイぐらいの方が華があるんだよね。落ち着いちゃうと、ちょっと。
で、真木よう子に撃たれるんならいいじゃん、なんて思ってたけど。エアガンってキツい、とうてい洒落にならないんだってね。
三浦 うん。まあ最低限、やはり動機だよ。痴漢冤罪もそうだけど、はめる方はだいたい金目的だからさ。金がゲットできなかった場合でも告訴したかどうか、ですよね。だから伊東選手の話はほんとにわかんなくてね。あれ、たぶんわからないですよ。最後までね。
小原 だから悪意があって、いわば賭けに出た場合には、告訴を引っ込めてしまうと逆に恐喝罪で訴えられるかも。そうなると引っ込みがつかない、泥沼の中でなんとかフィフティに持ち込もうとする。その場合、伊東さんは真っ白が証明されることなく、嫌疑不十分ということになる。灰色が残るだけだって、有名人にとっては被害甚大ですよ。
三浦 松本の件はもうだいたい状況はわかって、要は松ちゃんと文春との争いだから。でもまあ、文春を責める声も結構、多いね。週刊誌のああいうやり方が正しいのかという。書かれる方からしたら、理不尽なところはあるよ。私も去年、「週刊女性」に書かれた。
小原 そうでしたね。
三浦 「週刊女性」からの通告はメールで、一日ぐらいで返事をしろっていうんですよ。
小原 メールだったら、その日のうちに見るかどうかもわからないじゃないですか。
三浦 そう。ほぼ二十四時間ぐらいですよ。で、「返事がなかった場合には、返答がなかったというふうに書きます」っていう通告ですよ。だからあれ、答えられない人も結構いると思うんだよね。むしろ、ほとんどの人は答えないんじゃないかな。
小原 考える時間だって必要だし。ちょっと一方的ですよね。
三浦 文春側が一方の言い分だけを聞いたって、松本も苦情を言っているけど。それはある意味、その通りで、松本にいきなりマイクを向けて、そして吉本に文書を送って、これも時間的な余裕が一日か二日、それぐらいだと思うんだよね。それで返事をよこせ、と。記事を出すたびにやってるわけでしょ。毎週毎週、回答を要請しているわけですよ。でも、そんなの短時間では答えられないんでさ。
そうすると、答えられなかったから怪しいとか、答えない方が悪いとかって言われちゃうわけだけど。でもそれは結果として一方の言い分、つまり女性側の言い分だけを聞いたことになるわけだよね。形式的には両方に聞いてるけど。
小原 なんで時間的な余裕は与えないのか。その間に手を回されて、ってことを怖れているんでしょうか。
三浦 うーん。よく練れた回答が来てしまうと、書こうと思っていた記事の予定が狂ってしまうので、あまり緻密な、賢明な回答が欲しくないんですよね。不利な穴だらけの回答をもらいたいわけですよ。
小原 記事がもう、ほぼ出来上がった状態でパッと出す。そこに影響を与えてほしくないんですね。いちおう相手にも聞いたって、アリバイを作ってるだけ。
でもそれはマスコミとして、何をしたいんだろう。事実を伝えるより、自分たちの引いたストーリーを知らしめたい、しかも公平なふりをしたいってふうにしか見えないけど。もしそうなら、マスコミに裁判所みたいな力を持たせるのは、やっぱり危険ですよね。
三浦 だからね、私も週刊誌からやられたのは経験が少ないけど、対策は考えておいた方がいいね。対策の一つは「その情報源について、そちらはどのくらい知ってますか?」って訊くのがいい。
私もそのときには、この動画の情報源はなんなんだ、情報源について、あんたたちはちゃんと知ってるのか、って反応したんですよ。そしたら、情報源を守るため言えませんって言うんだけど。もうちょっとね、「あなたがたはこの情報を提供した人物の住所氏名その他の情報をちゃんと知ってるんでしょうね」というふうに、「私が訴訟を起こした時にあなた方不利になりますよ」と言うべきだった。つまり、この記事を出す時点で、ちゃんと情報源の詳しい身元をご存知でしょうね、と。その辺を確かめといた方がいいね。週刊誌側が答えられなかったら、情報源とちゃんとコンタクトを取ってないっていう証拠になるんですよ。そうすると、いわゆる真実相当性がなかったってことなんですね。
小原 「週刊女性」の該当記事のサイトを見ると、一部訂正が出てますね。
三浦 うん。真実相当性の「相当性」っていうのは、情報提供者が真実を言っていると信ずるに足るだけの根拠があったかどうか、ってことなんですね。そうすると、情報源とろくに接触もせず、どういう人物であるかってこともちゃんと調査せずに記事にしたってことになる。そうすると真実相当性が認められないことになって、訴えられたときに週刊誌は負けるんですよ。
文春はこれはもう、A子さんB子さんと綿密にいろいろ話をしているので、当然身元もわかってるわけだから、真実相当性が認められるでしょう。だけどこの間の「週刊女性」の場合は、私の動画の切り取りを提供した人物の名前とか住所とか、知らないんですよ、たぶん。勝手に送りつけられたものを記事にしてるから。もし私が訴えたら、勝てるんですよね。
小原 Zооm 討論会の動画でしたっけ。
三浦 レクチャーの本体が終わって、夜中までずっと雑談をしていた。午前三時過ぎぐらいになって、もともと百数十人いたんだけど、その時刻になった時点では数十人ぐらい。
小原 すごい盛会ですよね。それって。
三浦 で、そのときに私がふっと言ったこと、それはチャットに書かれたことに反応してなんだけど。つまりチャットにDVについての発言があって、それについて私が応答したことの一部を切り取って、週刊誌に送りつけた人がいるわけですよ。そんなの勝手にコピーすること自体、違法ですからね。著作権にも違反してるし、肖像権にも違反しているしね。で、「週刊女性」も、ただそれを記事してるだけなんだよ。切り取る前に、どういう文脈でのどういう発言だったのかってことを確かめてないからね。
小原 一部のDV被害者にはマゾヒズム的な面がある、といった発言ですよね。ただDV被害者といっても、今現在、被害を受けているのに逃げられずにいる人と、かつてDVを受けていてPTSDに悩まされている人とは、まったくフェーズが違うと思うんです。後者は、とにかく自分は何も悪くなかった、完全な被害者なんだと考える必要がある。だからマゾヒズム的だ、という言葉に過剰反応してしまう。
だけど我々の関心は主に、今現在、DVから逃げられずにいる人たちで、この人たちに自分の状態を客観的に、早急に把握させる必要がある。
DV被害者は、子供じゃないのに、二本の足があるのに、なぜ逃げられないのか。そこには複雑な心理が絡み合っていて、テレビドラマでも結構よく描けているものがありますよね。長澤まさみ主演のもよかったし、江國香織原作で木村多江と真木よう子が出てたのもすごくよかった。
DV被害者は一刻も早く逃げるべきだし、目が覚めるべきだと思うけど、なぜそれが簡単にできないのかって、本人も周囲も深く理解しないと、また元へ戻っちゃうよね。マゾヒズムって概念が誤解されているのかもしれないけど、そういう側面も含めて検討しないと、マジで命にかかわる。
三浦 とくに、パートナーが変わるたびに常にDVに遭うという常習的なDV被害者がいるわけでね。基本は多様性を認めるっていうことで、加害者にも被害者にもいろんな人がいるっていうことなんですよ。個別の支援のためには、マゾヒズム障害をはじめとしていろんな症例の存在は理解しとかなきゃいけないんだよね。
小原 そしてDVカップルは、世界の中で自分たちは特別で、誰にも理解されない関係性だ、と思っているんです。
三浦 世間的には、もう出来合いのストーリー、ナラティブがあってさ、そこから外れると叩かれるという風潮があるので。
小原 週刊誌が売り切れになって、だから金儲けのために暴露しているのだ、というのも的外れ。編集部には編集部の文脈があって、それに乗っかることでスムースに仕事が進む。毎週、刊行するって大変だもん。で、文脈がずれると、にっちもさっちもいかなくなるから、その恐怖はあると思う。だから予定を変えないために、反論や回答をしにくくする、ということもする。
三浦 「週刊文春」も、小さい記事なんかは嘘が結構ある。何ページもあるような大きな記事は違いますけどね。
小原 社運をかけた記事には、さすがに気合が入ってると思う。
メディアに限らず、どんな仕事でもフォーマットっていうか、効率よい流れに乗せていくように脊髄反射する。お金以前に、持続可能性を重視するので。
三浦 渡邊センスとかたむらけんじとかさ、何人かの芸人が反論してるじゃないですか。松本の報道に関して、自分はこんなこと言ってない、とかね。でもそれは基本「フライデー」に対してだけなんだよ。「週刊文春」に対しては言ってない。
小原 裁判になってるかどうか、ってのもあるかも。
三浦 でも、あの「たむけんタイム」なんて言ったことないって、それは本人からしたらやっぱり恥ずかしいよね。言葉を否定したって意味ないんだけどさ。
小原 そうね。
三浦 アテンドしていたかが問題なんで。アテンド芸人が一番被害者かもしれないな。一番恥ずかしいじゃない。松本はもういいんだよ。あそこまで突き抜けちゃったらさ。ほんとに悪いやつだなぁ、どうしようもないな、って、もうスタンスが決まる。でもアテンド芸人はみみっちいというか、惨めというか。
小原 松ちゃんはこれで、いいかどうかは別として、さらなるファンも醸成されるかもしれないけど。アテンドするような人は、芸能人としてはちょっと見切られちゃうかな。
三浦 だってさ、松本はこの一連の報道を見ると、四十歳そこそこの頃からボスだったわけじゃない。人にアテンドさせてさ、ふんぞり返ってたでしょ。ところが今、アテンド芸人って盛んに叩かれている人たちは、当時の松本の年齢をはるかに超えてもアテンドやって、へこへこしてる。
小原 それだけ松ちゃんの長期政権だった、ということでしょうね。
時代をさかのぼると、例えば江戸期にもいわゆる「かぶいてる」連中がいたり、女郎さんの文化があったりして、時代時代であったことだと思うんですね。性的なものをある種のカルチャーに置き換えて、堅気の性的なあるべき姿から外していくのが文化だと。「不倫は文化」かどうかはわかんないけど。
三浦 女性も、男の権力関係のコマになることに率先して、そういう役割を果たす人たちもいたわけでね。
小原 権力とか嫉妬とか、社会的な味付けで、きっと初めて意味がある行為になるんでしょうね。人間の性行為はたいてい生殖目的じゃないから。
だからさ、「俺の子供を産め」って裸で叫ぶってのが、やっぱり松ちゃんのジョークに思えるの。大笑いしてあげればよかったのに、って。
三浦 正常な状態で何をするか、しないかってことに関しては、男女ではっきりと差が出るからね。
小原 何が面白いのか、という認識も変わってくるということですね。結局はあまりに微妙なケースバイケースというのが実態だと思いますけどね。
で、わたしはサッカー知らないので、伊東選手って今回、初めてよく見ましたけど、ステキな人ですよね。それで世界的プレーヤーならば、もう掛け値なしに、とにかく頑張ってほしい。やっぱり人を見て、そう思ってしまう、ということです。
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