最新の深層学習モデルが稼働する「読書室」のコンピュータには住人の行動履歴と無意識下の深層心理から導き出された「自分史」が生成・保管されている。美化や改竄は許されない。しかし人は〝ありのままの私〟に耐えられるのだろうか。私はカフェでアルバイトしながらありのままではないあなたや私をじっと見つめている・・・。
金魚屋新人賞佳作作家・菅原美架の新連載!
by 金魚屋編集部
その「読書室」の扉を開けた瞬間、私は不意を突かれたように足がすくんでしまった。いつもカフェの窓から吹き抜けの向こう側に眺めていた光景とはまるで違っていたからだ。その場所は、西向きの窓から差し込む飴色の夕日に照らされてあたたかな静寂に包まれていた。乾いた紙とインクをこぼしたような少しつんとする匂いが胸の奥にひたひたと染みわたってきて、私はきしむ床の感触を確かめながらゆっくりと足を踏み入れ、真鍮のドアノブを回して後ろ手に扉を閉めた。
ここは多くの人にとっては近寄りたくないはずの場所だということを私は知っていた。だからもっと無機質で容赦なく、腐敗した自意識のにおいが充満しているにちがいないと思っていたのだ。地下鉄の駅舎を飲み込むように建っている古びた赤レンガ造りのそのビルは、格安のネイルサロンやドラックストア、パンケーキ専門店などが入居する二階建ての雑多な商業施設になっていた。20軒ほどの店舗が連なるなかで、「読書室」だけは入口が別になっていて、裏手にある建付けの悪い小さなアルミ製のドアの中から唐突に表れる急な階段を上らなければ行きつけない仕組みになっていた。人々が地下のホームへと吸い込まれていく喧騒の渦の中にあって、その場所だけは一種独特な異彩を放っていた。私はある種の畏怖の念を覚えながら、部屋の中をゆっくりと見まわしてもう一度大きく息を吸い込んだ。
六人ほどはゆとりで使えそうな大きな机に、一脚だけ置かれた青いビロードの座面の椅子。天井は思っていたよりもずっと低く、本棚にはよけいな装飾のない似たような色とデザインの本が整然と並び、背表紙に刻まれた無数の名前はまるで墓標のようにそこにあった。私はもうすでにここに来たことを少し後悔し始めていたのかもしれない。それでも私は本棚に向かい、背表紙に指を這わせながら、さ行のところまで行きついて自分の名前が刻まれた本を見つけると指紋認証に反応するように人差し指の腹をゆっくりと押し当てた。その本の質感はひんやりと冷たく、死者の肌のような滑らかさを持っていて、ほどなく、細く鋭いフォントでタイトルが浮き上がってきた。
「とりえのない女」
心臓が一度、冷たい音をたてて跳ねた。それは衝撃ではなく、わかりきっていたことにようやく向き合うことができた時の、卑屈な安堵に似ていた。
活字になったその文字を受け入れようとした瞬間、背後にある青いビロードの椅子が、意志を持って私を招いたような気がした。私はそれに逆らうことなく、その冷たく滑らかな感触の本を手にとってその椅子に腰かけた。その本の一ページ目を開いたとたん広すぎるほどのテーブルに斜めに差し込む飴色の光は、これから解剖される死体に向けた弔いのように輝きを増していった。

アルバイト先のカフェの向こうの吹き抜けを隔てた回廊に読書室の窓が見える。きょうのシフトは午後二時から閉店十時までだ。私は糊のきいた黒いカフェエプロンをウエストラインよりも少し下の方でぎゅっと結び、動きやすい白いスニーカーに履き替えた。ランチタイムを過ぎたこの時間帯はいつも不思議とひとりの客もいなくなる。真空管の中みたいにしんとしていて、女性オーナーもこの時ばかりはキッチンの片隅で頬杖をつきながら襲ってくる疲労と睡魔に刹那のあいだ身を任せるのだ。私はいつものように彼女の入眠の深さに合わせた音量で挨拶してから、まだランチの名残が残っている店内を一掃するためにトレーとダスターを手にしてフロアに向かおうとした。
「あなたが来てくれるようになってから、本当にお店の中がきれいになって助かるわ。掃除が行き届いていると気持ちがいいものね」
オーナーの眠りはまだ浅いようだった。
「だから迷信でもなんでもなく、運も上向きになってきていろんなことがうまくいくようになってきた気がするの。ほんとよ。お客さんも一割がた増えてきたのよ。ほら、うちのランチで提供しているクロックムッシュと野菜たっぷりスープのセット、『月刊パンと珈琲』の美味しいもの百選で年間一位に輝いたこと、あなたも知っているでしょう? それにうちの娘もね、今年超難関大学にストレートで合格して、冗談で受けたモデル事務所のオーディションにもあっさり受かってしまったのよねぇ。子どもの頃からちょっと、よその子とは何か違うものを持っているとは思っていたけれどね。ま、勉学第一だから、モデル業はアルバイト程度にしておきなさいよって言っているんだけれどね。どれもこれも皆、あなたがよい運を連れて来てくれたからだと思っているのよ。辞めないでね。あそうそう、そんなことよりも参ったわよ、うちの夫がね・・・・・・」
私はオーナーのきらびやかな話しに要所要所で適切にうなずきながらどの単語も聞き漏らすことなく最後まですべて聞き切り、そして最後に彼女が望んでいる完璧な感嘆と質問をトレーの上に載せて与えた。
「まぁ!本当に素晴らしいですわ。オーナー、もう最強ですね。どんなふうにしたらあのような美しくて賢いお嬢さまを産み育てることができるのか、その一端でもいいから教えてほしいですわ。オーナーにそっくりですものね」
私は冷蔵庫の扉に宝石みたいにキラキラしたマグネットで留めてある彼女の娘の何枚ものスナップ写真を見ながらそう言った。
彼女はにっこり笑うと同時に、キッチンの椅子に腰かけて調理台に頬杖をついたままの姿でまたゆっくりと目を閉じた。
「月刊パンと珈琲」は私も見た。人口三十万人ほどのこの地区の、パンとコーヒーを扱うカフェやレストランの紹介や街のイベント、話題などを拾い上げて掲載している情報誌だ。写真もレイアウトも洗練されていておしゃれで、イラストも銀座の老舗タウン誌のようにあえてレトロチックに仕上げているのが広い年代層にも受け入れられている要因だろう。
この雑誌の最後の方に、「読書室」についての記事が掲載されていた。本文とは違い白黒の小さい文字だけで構成されている見開き2ページの片隅に、ほんの数行だけ記載されていた。よほどでなければ見落としてしまいそうだが、もしかするとできれば目に留まらない方が区民の心身の秩序を保つことができると考えての配慮のようなものがあるのかもしれない。
それはまるで「区民会館のエレベータ点検のお知らせ」かのような無機質なトーンで書かれた「読書室システム更新」についての記事だった。
【地域アーカイブ施設「読書室」解析ユニットの更新について】
「読書室」にて稼働中の記述管理システム「LOGOS―Ⅳ」が最新の深層学習モデルへと完全移行いたしました。これによって区民の行動履歴および無意識下の深層心理から導き出される「自分史」の記述精度が飛躍的に向上します。そのため従来生じていた「当事者の主観による美化」や「記憶の改ざんによる本人特有の認知の歪み」は即座にエラー感知され、新アルゴリズムによって0・1%以下の誤差まで「ありのままの自分」が自動記録されることとなります。
地区広報課
私の目の前でつかの間の眠りを貪るオーナーの自分史のタイトルはなんだろう。
「よき社会人でありよき家庭人」
「真の幸福を手中にする賢き女」
彼女の自慢の娘はどうだろう
「知と美を兼ね備えた全きミューズ」
「選ばれし者、守られるべき者」
だろうか、きっとそんなところだろう。
私は手に持ったままのトレーとダスターに気が付いてそのままフロアに出た。いつものように玄関のガラスドアと、その横壁に水平に走る細長い窓のフレームを儀式のようにダスターで磨く動作をしながら吹き抜けの向こうにある読書室の窓を眺める。窓越しに確認できる琥珀色の輝きは、サーバーユニットの排熱効率を最大化するために生じる化学反応だ。「パンと珈琲」のお知らせに記されていたとおり、記述システムの精度が向上したことで、これまで以上に人間の浅はかな「美化」や「改ざん」を一秒間に数億回も検知してエラーとしてはじき出せるようになり、その莫大なデータ処理によって発する熱を逃がすため、あの場所はあんなふうにいつも夕暮れ時のような不気味な光を絶えず放ち続けているのだ。本来、サーバーユニットというものは、光も音も漏らさぬ沈黙の箱であるべきなのに「LOGOS―Ⅳ」は違う。あえて大きな窓を設置し、完璧なシステムによる「審判の熱」をわざと暴力的なまでに外部へ知らしめるように設計されているのだった。

マイナンバーカードの普及に伴って二〇三〇年度の完全実施を見据えて義務化が決定した「国民生涯事績・人間性客観評価制度」。
AIが国民ひとりひとりの過去から現在までの行いやプロフィール、そして人格査定までをも適正に行い、公式な「事績」として自分史を作成し各自治体の読書室に保管する画期的なシステムとして国会の承認を得た。その全国展開に先駆けたモデル地区として、この区が選ばれたのが2年前だ。ほんの短い期間にこのAIシステムはバージョンアップを繰り返し、個人の思い込みや捏造によって改ざんする行為をエラーとしてほぼ完全に排除できるようになったのだ。
近い将来、この国の全生命がこのシステムで正しく査定され、一文字の嘘も許されない「自分史」として記録される。その壮大な人体実験の最前線が、あの窓の向こうで琥珀色に光る「読書室」なのだ。
磨き上げられた水平な窓のフレームの中を滑るように、その女性客はきょうもやってきた。大きな黒いレッスンバックを肩から下げ。不自然に口角を上げて進行方向を一点に見つめている。腰まで伸びたムダに長い髪、肩甲骨を開いて両肩を下げて、ここではないどこか違う浮世を生きているかのような自信に満ちた足取りでこちら側のカフェへと続く空中廊下を歩いてくる。到着するといつものように一瞬だけ店内を伺うようにしてから勢いよくガラス扉を開け、外気のよどみを含んだ空気の対流を巻き起こしながらさっそうとフロアに足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
私はいつものように少しだけ語尾をはずませながら、一点の曇りもない歓迎の笑顔と、数多くいる客の中でもあなたは特別であるという尊敬と憧れの念をうまくミックスさせながら彼女を迎えいれた。
彼女は股関節から脚全体を外旋させるバレエの基本アンディオールを不自然なほど誇示しながら、いつもの定位置であるカウンターの一番端に腰かけ、背もたれに散らばってしまった髪の毛を救いあげて改めて美しく広げなおした。
「きょうもおきれいですね」
ひねりのない単純な誉め言葉で十分に満足するのが彼女だ。
「あはっ」
彼女は、あはっ、と言った。本当にいつも、あはっ、と笑うのだ。私は、ケッ、と思った。
「いつも思うのですけれど、本当にきれいにアンディオールに開いていますね。バレリーナだってこと、すぐにわかりますわ」
「あら? アンディオールって、あなた知ってるの? バレエ鑑賞がご趣味とか?」
「いいえ、私、子どもの頃にほんの少しだけバレエを習っていたことがあるんです。だからエリカさんに一番最初にお会いした時、あ、この方バレリーナなんだわ、ってすぐにわかりました。しかも主役級を演じてこられた方だと」
「あはっ」
彼女は満足そうに微笑んだ。
「やめちゃったの?」
私がバレエを習っていたことや、すぐにやめてしまったことなど全く興味もないのに、彼女は私のふくらはぎが張り出した不格好な足を無遠慮に眺めながらそう聞いた。

「はい、母に連れられて少しだけ習いましたが、私、飽きっぽいものですからすぐに行かなくなってしまって」
口の中に苦いものが広がった。本当は大好きな習い事だったのに、父の事業の失敗で母が私を置いて家を出てしまったことで続けられなくなってしまったのだった。私は嘘をついているという自覚があった。それはまだまともなのだと思った。たった今読書室の「LOGOS―Ⅳ」が、私の作り話を即座にエラー検知して、鈍く光を放ったに違いない。
彼女は私の湾曲した脚から視線を外すと、まるで視界に入ってしまったエラーをリセットするかのように、優雅にかがんで自分のまっすぐで細い足首を愛おしそうにさすった。それからスマートフォンを取り出して踵をわずかに持ち上げた状態を片手で器用にカメラに収めた。いつものようにインスタグラムで、美しくオシャレな30代の価値ある女の子の日常生活を発信するためだ。
「そう、飽きっぽいのね。だけどそれは賢明な判断だわ。中途半端に続けていたら後々苦労するだけ。バレエは結局身体の条件がそろってこそなの。そしてあの舞台のまばゆいばかりのスポットライトは選ばれた人にしか光を当ててくれないのよ。私はね、こう見えてもお尻が小さすぎるという欠点があるの。だからそのせいでアンディオールやジャンプ、アラベスクとか、すべてのパをきれいに見せるためにどれほど深層部を鍛えるエクササイズを重ねてきたことか」
そう言って彼女は形ばかりのため息をつきながら首を何度か左右に振った。
「きょうはレモンティーをいただこうかしら」
「はい、かしこまりました」
私はカウンターに入り、口角に微笑みを絶やさないように注意をはらいながらサイフォンでセイロンティーを淹れた。アルコールランプで熱せられたフラスコの中のお湯が、こぽこぽと音を立てて上部のロートに向かって足管を通って吸い上げられていく。一定のリズムを刻み気泡をはじかせながら踊る音、ロートの中で茶葉が広がる濃い夕焼けみたいな小宇宙。紅茶の注文が入ると、私はいつもこの一連の儀式のために最初に少しだけ心を落ち着かせる。この美しい飴色は読書室の窓から漏れる光と同じ色だからだ。紅茶を淹れるという神聖で息をひそめるような行為の最中なのに、彼女は早く垂れ流さないと息が止まってしまうというように口を開く。
「来月に大きな舞台があるものだから、きょうはスタジオに男性ダンサーが大勢来ているのよ。皆、私の姿を見つけると必ずハグしてくれて、振り付けの解釈で意見が合わなくなっても、皆〝エリカの言うことだから〟と言って結局は私の考えが採用されるのよ。私の体調を気遣ってくれたり、舞台前は特にメンタルが大事だから、私が参ってしまわないようにさりげなく食事やお茶に誘ってくれるのよ」
開いた茶葉を躍らせながら輝きを増した紅茶が足管を通って一気にフラスコに戻ってきて、深く香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。私はペティナイフで美しくみずみずしい断面のレモンをカットしようとするが、きょうはどうしてもうまくいかない。彼女の歪んだ自己愛のせいでいつにも増してこのカフェの物理法則が狂い始めたからだ。ペティナイフがまるで鉛のように重くなる。美しい放物線を描くレモンがアメーバのように形を変える、壁掛け時計が泥の中に沈められたように秒針が同じ場所で小さく震え始める。

「エリカさん、ほかの女性ダンサーの方もたくさんいらっしゃるでしょうに、そんなふうにエリカさんばかりが特別扱いされたら群舞の女性たちに恨まれちゃうじゃないですか?」
私は一度ペティナイフを置いて時間を稼ぐ。そうすると彼女は大きく息を吸ってこれから重大なことをあなたに教えるから聞き漏らしてはダメよ、というように少しの間うさんくさい静寂を作った。
「私はね、子どものころから皆によくしてもらってここまで来たの。本当に、みんな私によくしてくれたのよ。だから人を恨むとか、そういう感情がわからないの」
ほどなくして氷河期のような冷気があたりを支配した。それでも私はすぐに気を取り直し、やっとカットし終えた不格好で薄っぺらいレモンをレモントレーにのせてそれを供物のように彼女に差し出した。
「舞台の演目はなんですか?」
「白鳥の全幕よ」
「まぁ! それじゃあエリカさんはオデットとオディールですね」
彼女はあいまいな笑顔を浮かべた。
「前回の舞台コッペリアでスワニルダを踊ったんだけれど、その時に足首を痛めてね・・・・・・。今回はすごく自信がないのよ。直前の怪我で皆に大変な迷惑をかけることになりはしないかと日々プレッシャーと戦っているわ」
彼女はいびつなレモンを口に含んで瞼をきゅっときつく閉じた。
「もし・・・縁起でもないですけれど、直前に出演不能となったらどうなるんですか」
「それはもう、代役が待機しているから穴をあけることはないんだけれどね」
その代役というのが今回の本当の主役だろう。彼女の幼稚な伏線はわかりやすくて私にはお見通しだ。
空中回廊の向こうの読書室の窓が一瞬、焼けるように点滅したのが見えた。まるで彼女の一連の作り話しをエラー検知し、自分史の数行を事実確認したかのようなチリチリした光だった。
「20xx年x月x日、舞台コッペリア群舞村人X、前日捻挫により欠場」
事実はそう刻まれているはずだ。
その時、厨房で蛇口をひねる音がしたので、私は少し新鮮な空気を吸いたくてカウンターを離れた。なかではオーナーがアイスコーヒーを淹れるために大きなネル地を洗っているところだった。
「どなたかみえているのね? 留学生?」
と彼女が言った。私は事務的に、その留学生という隠語をあたかも業務連絡の流れのように「ええ、留学生です」と答えて古いダスターをオーナーに任せて洗いたてのダスターを取ってカウンターに戻った。
彼女は、彼女を知る人たちの多くに「留学生」と呼ばれてしまっている。そのことを知らないのは本人だけだ。エリカは十代の頃にイギリスに一年間バレエ留学した経験があると私たちに説明した。しかし、それは事実とは大きく異なるということをほどなくして私たちは知ったのだ。彼女と同じバレエ団に所属するダンサーたちが以前何度かこの店を訪れ、偶然その話題になった時に驚きと失笑をもってそんな事実はないと告げた。真相は、たった2週間の休暇旅行でロンドンのコヴェント・ガーデンにあるパイナップルダンススタジオでオープンクラスを受けただけということらしかった。結局彼女たち本物の美しいダンサーたちは、留学生とここで出会うことを嫌って、以来来店することがなくなってしまった。
「ね、あなた、今度のお休みはいつなの?」
「明日です」
なんのためにそんなことを聞いてきたのかはすぐにわかった。私は格好の「聞き役」なのだ。たぶん、彼女が今まで出会ったどんな人間より私は優秀な観客のはずだ。賞賛という名の酸素が切れると彼女は途端に立ち行かなくなる。その根底にあるのは恐ろしい形相をしたコンプレックスという名の怪物だ。彼女はいくらでも事実を捏造できると思っている。その道具はたったひとつ、言葉だ。重ねて飾って組み立てなおし、安いメッキを塗って上書きすれば即席で事実が完成する。それが彼女の真実なのだから。第三者に向けて理想の自分をプロデュースし、完璧なパッケージにして周囲に配り歩き、偽りの賞賛という報酬を受け取ることでしか、彼女の心臓は動かないのだ。
(第01回 了)
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