アテクシ、小説現代様の単行本丸ごと一冊分公開小説が好きなのよ。大衆文芸誌での連載って、まあ言ってみれば売れっ子作家様のペースメーカーよね。連載という形で作家様を引き付け、売れる本を先物買いする制度ですわ。作家様にとっても雑誌掲載の稿料と単行本印税の二重取りになるわけですから、これは双方にとってWin-Winの制度でございます。本が売れなくなって、連載制度も危うくなり始めている気配ですが。
ただ単行本が出る前に全編公開する文芸誌がたまにあるのよ。小説現代様は特にこのやり方がお好きでござーます。ホントに嬉しいことですわ。小説を読む楽しみって、作家様がお作りになる世界観を楽しむってことでもあるの。その世界観が一カ月ごとのぶつ切りだと、「あれ、なんの話だったっけ」になっちゃうの。一時期テレビドラマでワンクール通しての謎が設定されていて、一回ごとに事件が起こって解決されるっていう手法が流行りましたけど、小説だとなかなかそうはいきませんわね。一挙掲載長編小説だと作家様渾身の物語の世界観を楽しむことができますの。
で、今号には月村了衛さんの「普通の底」350枚が一挙掲載されております。わくわくして読んだんですが、んーんー、申しわけないのですが、んーんーんーと際限なくうなってしまひましたわ。ホントに申しわけないんですが。
第一の手紙
ただ普通でありたかった。
本当にそれだけなんです。他にはなんにもない。本当です。(中略)
とにかく、ぼくが自分の人生について書くことになるなんて、今まで想像したこともありませんでした。その意味では、機会を下さったあなたに感謝しています。
月村了衛「普通の底」
お作品の冒頭なのですが、「第一の手紙」「ぼくが自分の人生について書くことになるなんて、今まで想像したこともありませんでした」を読めば、書き手(主人公)が獄中にいることはすぐわかりますわね。ということは何かの事件を犯して収監されているということ。手紙を書くよう促したのは恐らくジャーナリスト。わざわざそんなことをするわけですから、かなり社会的に注目を浴びた事件の主犯か関係者。事件そのもので驚かすか、主人公の内面で驚かすか、もしくはその両方かといふ展開でございますわ。
気がつくと、ケーシンは女の子の一人とねっとりとしたキスをしています。高井戸の手は別の女の子の胸をまさぐっていました。他の三人も同様です。驚きの声を上げる間もなく、ぼくの視界は隣の女の子の顔で完全にふさがれてしまいました。生温かい舌の感触が唇の間から入り込んできます。あろうことか、高三のぼくが、中学生の女子のいいようにされているのです。この上なくおぞましい、でも決して不快ではない感覚。むしろ、以前別れたバドミントン部の彼女との行為などとは比較にならないほど高揚できる愉悦に満ちたものでした。
その日、帰宅したのは夜の十時を過ぎていました。帰宅する前、新宿駅から母に電話しました。「高井戸君達と勉強していて遅くなった」と。母も高井戸がクラス委員の優等生であることは知っていますから、疑いもしませんでした。
同
主人公の川辺優人はごくごく普通の男の子。目立つことを嫌い、それゆえでしょうか、勉強もトップではなく第二グループで、将来安定した生活を送るのを目標にしている子です。中学受験でもトップではなく一ランク下の学校に進学します。大学もそう。
で、そんな普通過ぎる優人はクラスの優等生、高井戸に誘われるままコンパに参加します。連れて行かれたのは新宿で、トーヨコキッズの間で有名人のケーシンさんが仕切るコンパでした。そこでケーシンさんと同級生4人と中学生の女の子たちとセックス、というか乱交するのですね。
んで、オバハンは激しくんーんーと唸ってしまったのですわ。一応女ですから、まー首を60度くらい傾げてしまったのよ。女ってへらへら笑っててバカそうでもうんと計算高いの。アテクシはやったことありませんけど、売春とか女の武器使うってのは生まれながらのおにゃのこの属性みたいなものよ。んなこたぁ女ならわかってるわけで、伝家の宝刀抜くときは絶対それなりの対価がありますわ。それが見当たらないの。川辺君、ケーシンさんと優等生の高井戸君に接待されたようにしか思えなかったわけでござーます。
ともあれこの一件が川辺君の社会的脱落の始まりになります。あとはお作品をお読みになってお楽しみくださいませ。トーヨコキッズが出てきたわけですから、大人になった川辺君が手を染めることになる犯罪もなんとなーくわかりますわね。
大衆小説では時事ネタはとっても大事な物語要素です。大衆小説は世に連れでございますから。その意味ではキッチリ世の中を騒がす事件を抑えたお作品です。クリシェがお好きなお方にお勧めよ。
ただジャーナリストが犯罪者に注目するのも頂き女子りりちゃん事件ですっかりお馴染みですわね。前から事件モノルポはありますけど。アテクシ、宇都宮直子さん著の『渇愛: 頂き女子りりちゃん』も買って読みましたわよ。事件ほど面白くはなかったといふのが正直な感想でござーますが。ルポってたいていそうなの。多少新情報はありますが、ネタ元に配慮しなきゃならないから中途半端になりがち。だけど時事ネタを扱う小説は時事ネタを超えなきゃですわね。
あ、そそ、石破首相が辞任表明なさいましたわね。翌日から日経平均4万円超えよ! こりゃ忙しくなるぞって思ってたら、石破首相辞任表明が吹き飛んじゃうビッグニュースが飛び込んでまひりましたの。石破首相が辞任表明なさった9月7日前日の6日、ネコのMaruさんが18歲でお亡くなりになってしまったのですわ。あ、Maruさんって、YouTubeの人気コンテンツI am Maru.のまるさんのことです。よそさまのネコですがMaruさんとHanaちゃんとMiriちゃんの三匹が暮らすネコ動画、アテクシのすんごいお気に入りだったの。
どの世界でのスターはいるものですが、Maruさんは不世出のネコ界のスターでしたわ。ビールの空き箱などに入りたがるネコはいますよね。ネコは狭いところが好きですから。しっかしMaruさんはそんな低レベルのネコではなかったのよ。ブランコに乗る、台車を押して遊ぶ、ほんで右手(右足かしら)を使ってお水を飲むなど、およそネコとしては考えられない行動を取るおネコ様でござーました。
ゲームやアニメだけじゃなく、個人が作るYouTubeもしっかりとした娯楽コンテンツの一つになっております。アテクシでさえそんなお気に入りコンテンツが1つや2つや20ほどありますからね。娯楽コンテンツとしての小説はますます厳しい。アテクシ、小説大好きでガンバレ小説派でござーますが。
ああっそれにしても、Maruさんロスだわぁ。
佐藤知恵子
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