大野露井さんの連載小説『新故郷』(第12回)をアップしましたぁ。最初に文学金魚新人賞を受賞した小説『故郷-エル・ポアル-』があり、次に『故郷-エル・ポアル-』の注釈、そして今回の小説『新故郷』です。〝エル・ポアル〟は作家自身による注釈を間に挟んだ2つの作品から構成されます。
「僕」や「私」を語り手とする小説は、技法的に言うと一人称一視点小説と呼ばれます。「彼」「彼女」とか「太郎」「花子」で書くのは三人称一視点小説ですね。長編小説では複数の主人公を設定する三人称複数視点小説もありますが、これはかなり高度な技術を要します。誰が主人公かわからなくなるからです。読者の混乱を抑え、かつ複数主人公の役割に軽重を付けて、最終的に1人の主人公に物語を絞り込んでゆくのは難しいのです。いずれにせよ一人称一視点小説や三人称一視点小説を技術的にキッチリ仕上げられなければ、前衛小説を始めとするチャレンジングな小説は書けません。
一人称一視点小説は日本では私小説と呼ばれることが多いです。日本文学のお家芸は私小説だと言っていいと思います。文藝春秋文学界、芥川賞系の小説の60パーセント近くは私小説です。芥川賞が後期芥川の作品を小説の規範としているのですから当然ですね。
ただ私小説はけっこう書くのが難しい。私が主人公になっているから私小説だと呼べるわけではありません。外国文学の一人称一視点小説と比較すれば日本文学の一人称一視点小説=私小説の特徴がすぐわかります。無神論的風土における人間心理の俗悪さ、醜さ、そして現世の汚泥に首まで漬かりきって、ほんの一瞬露わになる倫理を描くのが日本的私小説です。
じゃ、どうやれば一人称一視点小説や三人称一視点小説の技術的・思想的な特徴を体得できるのか。読むことですね。大量の読書でしか身につきません。アイディアがあってもそれを盛る器を作る技術がなければ中身がこぼれて壊れてしまうのは、文学に限りません。
■ 金魚屋 BOOK Café ■
■ 金魚屋 BOOK SHOP ■
■ 第7回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第07回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
■ 金魚屋の本 ■