第1回 辻原登奨励小説賞受賞作 大野露井『故郷-エル・ポアル-』 講評と受賞の言葉をアップしましたぁ。辻原さんは、『人は一度は書かなくてはならない作品がある。子供時代を総括し、自分が何者であるか規定するものだ。書き切れていればデビュー作となり得る』と書いておられますが、大野さんの『故郷-エル・ポアル-』は自伝的作品です。大野さんはスペイン人のお父さんと、日本人と中国人のハーフのお母さんの間に生まれ、英語とフランス語堪能で、しかもイケメンの日本文学の研究者でありまふ(爆)。でもそんだから辻原登奨励小説賞を受賞されたわけではありません。
辻原さんは、『書き手の立場はある意味で特殊だが、それが人間の経験である以上、特殊なものなどない。ただ普遍的なものにするには、見切ることが必要だ。過去や肉親、自分の子供時代を』と批評しておられます。ま~辻原さんの出自も特殊と言えば特殊です。お父さんは和歌山の社会党系の政治家で、坊っちゃんと言ってもいいのですが、子供の頃から家出を繰り返しておられた蕩児です(爆)。上京はしたけど大学に進学せず、文学一直線の生活を送っておられた。でも一方でやたらと生活能力旺盛で、中国語をマスターして商社で働きながら作家の道を進んでゆかれたのです。他人から見ればとっても面白い人生に見えるのですが、ご本人にとっては謎など何一つなひでせうね。それは大野さんも同じだと思います。
大野さんは受賞の言葉で、『この小説の稿を起こしたのはずいぶん以前のことだ。それまで、あまり身辺から材をとることはなかった。と言うよりも、幻想を惹起するものとしての言葉と戯れることがそもそもの動機であったので、身近なものについて書くと決まって失敗していたのである』と書いておられます。大野さんの場合、〝幻想を惹起するものとしての言葉と戯れる〟ことが書く動機だと言っていいでしょうね。その意味で『故郷-エル・ポアル-』は通常の意味での自伝的作品ではありません。では大野さんが言う〝幻想〟とはなにか。『『故郷-エル・ポアル-』』の第1回目は明日アップしますですぅ。
■ 第1回 辻原登奨励小説賞受賞作 大野露井『故郷-エル・ポアル-』 講評と受賞の言葉 ■