講評 辻原登
受賞の言葉
この小説の稿を起こしたのはずいぶん以前のことだ。それまで、あまり身辺から材をとることはなかった。と言うよりも、幻想を惹起するものとしての言葉と戯れることがそもそもの動機であったので、身近なものについて書くと決まって失敗していたのである。賞を与えられたということで、それがついに成功したのだと言ってよいのかはわからない。ただ、昔日への回想をひとつの礎石としているこの物語を、いまふたたび目前にしてみると、あるいはこれを書いたのは記憶しているよりもはるかに古い、ほとんど子供の頃ではなかったかという気もしてくる。つまり、幻想が打ち砕かれていないことは確かだと思うのだ。
大野露井
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■