アイスクリーム
子供のころね
ちょうどこんなふうに
木々にかこまれた噴水のある
公園に遊びにきて
アイスクリームを買ってもらったの
きっとなにかに夢中だったのね
気がついたらすっかり溶けちゃって
お気に入りのワンピースを汚してた
六月の夜明けのように淡いブルーで
ピンクや黄色のお花がプリントされた
お気に入りのお洋服だったんだけど
それでどうしたの?
わぁわぁ泣いたわ
人だかりができるくらい
そしたらお散歩に連れていってくれた
叔母さんがあわててかけよって
ハンカチ濡らして
ていねいにふいてくれた
でも染みがのこっちゃって
おうちに帰ってから
ママにお洗濯してもらったの
なんどもなんども
きれいになった?
染みはとれたけど
もう元の色じゃない
あのあざやかな色は戻らないんだって思うと
また悲しくなっちゃって
もとどおりにしてよって
ママに泣きながらうったえたの
そのワンピースはどうなった?
どこかに消えちゃった
きっと着古して
捨てちゃったんだと思うわ
でもあの色は忘れられない
あの日の悲しさも
あの日の公園の緑も
思いだすと
いてもたってもいられない
かけだしたくなっちゃう
忘れ物をしてきたような気がして
あそこにいちばん大切な
なにかがあるような気がして
ダメだよ君はここにいなさい
ほら はやくたべよ
アイスクリーム
溶けちゃうよ
画家のおじさん
おじさんの家は長方形
お弁当箱のうえに
赤い三角お屋根がのっている
広いお庭には
僕の背たけくらいの木が三本
「これはトゲトゲの葉の
いちねんじゅうミドリの木
ただのミドリじゃないよ
お日さまがあたると
クロミドリからキイロミドリにかわる
こっちは葉っぱがおちる木
すこしずつ赤くなって
土の色にちかづいていく
ほら まだ枯葉がのこってる
あれはむしっちゃいけないよ
左端はデコボコの木
幹も枝も節だらけ
でも白くてちっちゃな花が咲く
ミツバチがすっぽり入っちゃう
それは春のことだから
今度はわすれないで
ミツバチのシマシマを見においで」
おじさんはうれしそうに説明してくれる
朝日とともにおきだして
ごはんを食べると
おじさんはアトリエにこもる
庭に面した大きな窓がある
北向きのお部屋
ムツカシイ顔をして
子供みたいな絵をかいている
天井に電球はないから
日が沈むと
お仕事はおしまい
ときどき立派な背広を着た
男の人がやってくる
その人を見るとおじさんは
いつもちょっと困った顔になる
「階段をのぼってあるきはじめる
綱渡り師の絵ですが
やっぱり空の色がダメです
夕暮れのピンクと
雨あがりのブルーをためしましたが
どれもしっくりきません
波の絵も完成にはほどとおくって
引き潮がちがうでしょう
それに堤防でうずまく波は
ぜんぜんこんなじゃない
波はタテでなきゃダメなんです
今度は八つにわけて
形をとらえたいと思います」
「先生もう半年たちますよ
そろそろお手放しになったら」
男の人が帰ると
アトリエから数枚の絵がきえている
「さみしくなったね」
画用紙にデッサンをかきながら
おじさんは言う
僕が生まれるずっとまえに
大きな大きな戦争があって
おじさんはアトリエで
子供が縄跳びをする絵
ばかりかいていた
「いまはもうああいう絵はかかないよ
あのころより幸せになっちゃったからね」
壁にかけたむかしの絵を見ながら
おじさんはそう言った
お散歩にいくと
おじさんは石や木や針金や
こわれた時計なんかをひろってくる
それで人間のような形をつくり
見たことのない動物をつくりあげる
「ほんとうは僕は彫刻家なんだ
線が手でしっかりつかめて
色に重さがあるといいんだけど」
昼には家政婦さんが
お盆にごはんをのせてくる
おじさんはパクパク食べるけど
なかなか食器を返さない悪いクセがある
「汚れない食器はさみしいよ」
そう言ってパンクズがちらばったお皿
をいつまでもながめている
部屋のすみにデッサンの山があって
おじさんはときどきハサミをもって
チョキチョキ切り貼りする
「これとあれがつながって
こちらの世界があちらにいって
うわぁすごい!」
おじさんはいつもなにかを発見しつづけている
「僕も画家なれるかな」
「もちろんなれるよ」
紙きれにラクガキする僕に
おじさんはいつもそう言ってくれる
「にゃあにゃあがお家にかけていく時間」
おじさんは夕暮れをそうよぶ
魔法がとけてしまうから
「あしたも今日とおなじ
すばらしい一日でありますように」
おじさんはそう言って
玄関で僕に手をふってくれる
贈り物
冬の夜に僕は君のための詩を書く
僕は贈り物が苦手で
相手の嬉しそうな顔を想像しながら
クリスマス・プレゼントを選ぶなんて
とってもできやしない
むしろ受けとった人のつまらなそうな
ありがた迷惑といった
困った顔つきが頭に浮かんで
ショッピングにいく前から
憂鬱になってしまう
でもそれは僕が人一倍わがままで
欲張りだからじゃないんだろうか
ずっと昔からクリスマス・ツリーは
子供の背丈の二倍以上
なきゃいけないと決まっている
子供はいつも地面を見ているか
ぽかんと口をあけて空を眺めているかだから
ツリーの天辺の星が目にはいると
どうしてもほしくなってしまうからだ
うんと背伸びしてつかんだ星は宝物だけど
そんなことすると
空から光がなくなってしまう
だから星は
手の届かないところにあったほうがいい
君は立派な星を取りつけるよりも
ツリーの飾りつけを作る方が楽しいと言う
材料は紙とクレヨンとハサミ
紙にスケッチして
切り抜いて色をつける
たくさんの猫と果物と野菜
描くのが簡単で
猫は果物や野菜は食べないからだ
それに天使も必要だ
チョコレートの銀紙をとっておいて
ボール紙の型に貼りつければいい
飾りつけがおわる頃には
もうとっぷり日が暮れている
イヴの夜にはもちろんごちそうを食べる
味は間違いないけど
誰もそんなこと気にしちゃいない
家族と仲間が集えばそれで十分だ
でもそれが過ぎ去ると
また僕らの毎日が戻ってくる
君だって時々は泣くことがある
「大人なんだから泣いちゃダメ」と言うと
「大人になりすぎたら涙が出るんだ」と君は答える
僕はこれからも贈り物を選ぶのが苦手だろうけど
君のプレゼントはいつだって素敵だ
毎年新鮮な驚きをくれるのは君の飾りつけで
取り外されて木箱にしまわれた僕の星は
色褪せて見える
縦書きでもお読みいただけます。左のボタンをクリックしてファイルを表示させてください。
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■