一.モグワイ

 

 あまり呑んだつもりはない。けれど身体は正直。嘘ツケナイ。午前八時、布団の上。頭と胃が微かに軋む。突っ伏して数分、何やら外が騒がしい。拡声器でがなる声、不規則な歓声と静寂、音の割れた「クシコス・ポスト」。そうか、近所の学校、そろそろ運動会か。もぞもぞ動いて腕を伸ばし、どうにか耳にイヤホンを。聞きたいのは音楽、というより音塊。外のノイズを遮る塊。その名はモグワイ。基本インスト。

 二枚目『カム・オン・ダイ・ヤング』(’99)の切れ目のない音に、身と耳を委ねる。ミミミ。今何曲目、とかどうでもいい。静と動の振幅にひたすらゆらゆら。言葉はなくても様々な景色が浮かんで消える。消えなければ重なるだけ。不思議なのは音色。それぞれ厚み/深みはある。けど絡まっても重くない。どこかふわふわ。だから、すっと夢に落ちる。記憶をたどる夢。ノンフィクション。

 クソにもならないガキの頃、お世話になったロックバー、下北沢「ベルリン」(閉まった店は実名表記)。マスターはモグワイを流しながら一言。「これ聴きながらさ、大通り公園で一服したら気分いいよなあ」。まっちゃん、今頃天国で一服やってる?

 

 起きてもまだ片足は夢の中。クソにもならないガキの気分でぶらりと外へ。頭と胃の軋み、治らないけど慣れてきた。水飲みながら無計画にブラブラ。身体は正直だし現金。腹、減ってきた。久々に寿司。廻らない方。新宿「M」のランチは十一時半から。店名を冠した丼は、寿司ネタの切り落としがどっさり。しかもプラス50円で大盛りに。

 カウンターには続々勤め人たちが。さすが人気店。そんな中で一人、ちょっと神妙ぶりながら、所謂アタマを肴に瓶ビール。贅沢。でも、とても大盛り。なかなか減らない。当然アタマの下にはシャリがある。昔はもっと食えたのに、なんて弱音を吐きながら瓶をもう一本。こいつは別腹。

 

【Christmas Steps/Mogwai

 

 

 

二.ラモーンズ

 

 パンクと云えば英国。ロンドンパンクのスピード、攻撃性、情熱にやられてた。ピストルズ、クラッシュ、ダムド。耳の奥が唾塗れになるくらいイヤホンで大音量。無論、今だってこれさえありゃ飯が何杯でも……、と言いたいけど情熱はハイカロリー。結構胃にくる。昔はもっと食えたのに。

 その代り、ではないけれど年々馴染んできたのが米国産、ニューヨークパンク。英国よりもクールでアート、そしてルーツ。ガキには少し難しかった。背伸びしてたけどね。でも光陰如箭、時は飛ぶ。パティ・スミス、テレヴィジョン、ジョニー・サンダース。この辺りはクリア。最後の難関がパンクの始祖、ラモーンズだった。抑揚も振幅もない精進料理。裏を返せば一手間二手間かかってる。無表情の裏に豊富なルーツ。それが分かればこっちのもの。記念碑的デビュー盤『ラモーンズの激情』(‘76)から三枚目『ロケット・トゥ。ロシア』(‘77)までの偉大な金太郎飴を今もしゃぶってる。万物流転。彼等のTシャツ、ようやく着られる。

 

 両国駅がリニューアル、駅ナカ施設がオープン、その中に角打ちがある。ん、角打ち? と半ば懐疑的に来訪。いちゃもんつける気満々。大体だな、角打ちってのを目的にした時点でよ……。いちゃもんの練習もバッチリ。

 さあ着いた。真ん中に土俵、それを囲んで店がぐるり。寿司、天ぷら、ちゃんこには目もくれず、目標の店「T」に直行。ほら、内装小洒落てる。大体だな……と言いたい気持ちを堪えて店の奥へ。利き酒用自販機が三台ずらり。都内十酒蔵の銘柄が三十種類、どれも300円。十もあるのかと近寄り、知らない銘柄を一献。なるほど、とすっかり骨抜き。店名入りの猪口もいい、とデレデレ。選べるおつまみ三種盛りも300円。豆腐味噌漬け、おかか生姜、そして卵黄の醤油漬け。あ、旨い。思わず呟くほど。短めの割り箸もいい。さて、もう一献、何にしよう。練習したいちゃもんはどこへやら、改めて店内を見渡し御満悦。いい歳してふわふわ。まあ、仕方ない。これもひとつの万物流転。

 

【Blitzkrieg Bop/Ramones

 

 

 

三.フィッシュマンズ

 

 酒の自販機で思い出したのが、茅場町「N」。あそこにはトリスのもあった。久々セルフで焼き鳥焼きながら一杯……、と店の近くでようやく気付く。この時間、まだ開いてない。ビジネス街だもの。こんな時間から呑む奴が悪い。移動しなきゃと踵を返して数歩。閃いた。ある意味角打ちの最先端が近所にある。コンビニ「K」。あそこは店内で呑めた。亀島川を渡ってすぐ。二、三分。

 当たり前だが店内は明るい。コンビニだもの。コロナの缶を片手に肴を物色中、また閃いた。レジ脇にホットスナックがある。60円のハッシュドポテトを頼むと「温めてからお持ちします」。オニイサン、ありがとう。座れるイートインスペースでは勉強中の学生さん。さすがに並べないので、一本足のテーブルへ。そこへハッシュドポテト到着。割り箸、ナプキン、ケチャップ&マスタードまで。オニイサン、本当にありがとう。シチュエーションのせいか不思議な呑み心地。コンビニで立ち尽くして飲酒。野蛮で孤独で滑稽。奇妙な浮遊感に包まれてぼんやり。

 

 フィッシュマンズのヴォーカル、佐藤氏が天国に旅立って二十年弱。クソにもならないガキの頃、夜の下北で数度お見かけしたので何となく親近感。忌野清志郎に似た彼の声は、浮遊感と切なさで出来ている。後期の難解かつ複雑な楽曲だと、より分かりやすい。あの声は柔らかい背骨。すぐふわふわと舞い上がっちゃう。

 今もよく口ずさむのは、三枚目『ネオ ヤンキース ホリデー』(’93)の頃の曲。深夜に呑んで徘徊してても、翌朝布団で後悔してても、口ずさめばすぐ舞い上がれる。

 

【いかれたBaby/フィッシュマンズ】

 

 

寅間心閑

 

* 『寅間心閑の肴的音楽評』は毎月10日掲載です。

 

 

 

 

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