一.ザ・ローリング・ストーンズ

 

 勿論、好きな曲だけ聴くのは楽しい。組合せ自由のバイキング式。パエリアに納豆かけても、刺身をチョコにディップしてもOK。好きなんだから仕方ない。ストレスないし効率的だし、そもそもあんまり時間がないし。

 でもね、と食い下がるのは老婆心。アルバム単位で聴くのが一番。せめて好きな音楽家くらいはね。そりゃあ駄作もある。でもアバタモエクボ。いや、もしかしたら好きなのはアバタの方かも。

 

 ストーンズには名盤が多い。理由は単純。時代ごとのコンディションが、良くも悪くも生々しく嗅ぎ取れるから。好き嫌いは様々。健康体に惹かれる奴もいれば、病んだ姿にのめり込む奴もいる。だから、ストーンズのベスト盤はどこかしら虚しい。

 『ア・ビガー・バン』(’05)は、メンバーの平均年齢が六十を越えてからのリリース。ちょっと嘘みたい。別に若々しいわけではない。言うならば、いい感じにルーズ。一曲目「Rough Justice」のイントロのギターからルーズ。確かに全盛期と較べだすとキリがない。まあ、嫌なら全盛期のアルバムを。張り切り過ぎた瞬間に垣間見える「皺」が、微笑ましくも格好いい。

 

 創業約半世紀、銀座の大衆割烹「S」銀座店は、場所が分かりづらい。まず迷う。しかも近くに「銀座一丁目店」。巧妙なトラップ。何とか辿り着けばそこは人気店の性、相席上等。カウンターが空いてなければ、笑顔で一礼、即退散。此方にはのんびりしに来る。

 オネエサン方の接客はルーズ。いい感じにね。白木のカウンターで日本酒。肴はこのわた、ウズラの卵入り。一人だから遠慮なくズズッとすすれちゃう。周りの諸先輩方はフライの定食。張り切ってる風でもない。多分、腹減ってるだけ。

 

 

【Rough Justice / The Rolling Stones

 

 

 

二.ムッシュかまやつ

 

 新宿は中心を少し外れた方が好み。今夜は三丁目の方へ。末廣亭界隈はいつもザワザワ。仕事終わりの一杯、商談中の一杯、労働直前の一杯。

 軽く腹に入れておこう、と創業六十余年の焼き鳥専門店「E」へ。渋過ぎない庶民的な外観。扉をガラリ。嗚呼満員……と思いきや、少しずつ詰めて頂きカウンターへ。多謝! ホイス割りと焼き鳥一人前をタレで頼むと、目の前には鳥スープ。これが旨い。隣の二人はどうやら商談中。細くても末永いお付き合いを、と笑顔で何度も乾杯。呂律の怪しい常連さんは、大将と店の歴史を確認中。色々思い出せなくても気にしない。その掛け合いだけで一杯呑んじゃった。当然、おかわりを。

 

 ムッシュかまやつの歌声は独特。どことなく掴みどころがない。モダーンな音楽人、そして華麗なキャリア、多彩なエピソード。何となくフランスを連想するのは、名曲「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」と、エルメスのニット帽のせい。

 小西康陽プロデュースの『我が名はムッシュ』(’02)は、そんな彼の歴史に触れられる文字どおりの「アルバム」。当時六十三歳の本人や盟友・堺正章のトークも交えつつ、の軽妙な構成がとてもムッシュ的。知らない人にこそ聴いてほしい、意義あるリミックス。そして最後を締め括るのは本人の「たいしたもんだ」という一言。(これは意味あるサンプリング。約半世紀前、テスト走行中の事故により、二十五歳で亡くなったパリ生まれのレーサー、福沢幸雄。親友のムッシュが彼を偲んで作った曲「ソー・ロング・サチオ」の歌い出しが「たいしたもんだ」)

 

【ゴロワーズを吸ったことがあるかい / ムッシュかまやつ】

 

 

 

三.カエターノ・ヴェローゾ

 

 ブラジルのポピュラー音楽、ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ。なんて綺麗な響き。その代表的な音楽家、リオ五輪の開会式にも登場したカエターノ・ヴェローゾ。或る時は伝統的に、また或る時は実験的に奏で続けた音楽はとても刺激的。それは昔から変わらない。素晴らしい。

 六十三歳からの九年間、活動を共にしたバンド、バンダ・セーは息子と同世代(ギタリストは息子の友達)。それだけでも凄まじいが、肝心の音は更にエグい。ざっくり言えばロックバンド的。曲によってはノイジー。

 バンダ・セーと制作したアルバムは三枚。最終作の『アブラサッソ』(’13)の時点でなんと七十歳。しかし音は瑞々しさと刺々しさが混在し、「若々しい」という印象の斜め上を行く。翌年のライヴ盤『アブラサッソ・ライヴ』(’14)には、拍手や歓声、大合唱で応える楽しそうな聴衆の姿。ただただ羨ましい。

 

 朝から定食屋で一杯。普通浮かぶのはテーブル席。瓶ビールとコップにポテサラだけの、頼りない景色。だらしなく椅子にもたれて、ぼんやり天井見上げてる。いや、それもいい。とても贅沢。でも、たまには背筋伸ばして朝から呑もう。そんな時は恵比寿の老舗、創業六十年の定食屋「K」。先人曰く「味も雰囲気も昔と変わらない」。素晴らしい。十時半開店。カウンターのみ。丸椅子ずらり。背もたれなんてない。

 目の前には剥き出しの厨房。見ているだけで楽しい。背筋伸ばすより前のめり。名物の肉豆腐でコップ酒。時折、御新香と紅生姜もポリポリ。客はやはり食事組多数。飲酒組は下手すりゃ私だけ。年齢層は色々混在気味。ラフな格好の学生さんに、還暦前後のタクシーの運ちゃん。どちらも常連らしく流れがスムーズ。実は密かに羨ましい。

 

【Funk Melódico / Caetano Veloso

 

 

寅間心閑

 

* 『寅間心閑の肴的音楽評』は毎月10日掲載です。

 

 

 

 

■ ザ・ローリング・ストーンズのアルバム ■

 

■ ムッシュかまやつのアルバム ■

 

■ カエターノ・ヴェローゾのアルバム ■

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■