一.ザ・バンド

 

 カタカナ五文字。たった五文字で何となく嬉しい。アリガトウ。なるほど五文字。いいけど、ちょっと照れくさい。ヒントは今の時季。春。そう、魔法の五文字は「サクラサク」。何だかめでたい。何だか華やぐ。だったら行こう。いざお花見。

 

 場所は羽根木公園。御存知、梅の名所。大丈夫、桜もちゃんとある。テニスコートも野球場もある。茶室だってある。日月庵。名付け親は井上靖。それは初耳。

 少々歩くが京王線・明大前で下車。近くに老舗の製パン店「D」がある。そろそろ半世紀になる老舗。店もパンも外観が素敵。では「タマゴパン」と「ビーフメンチ」を。表記ママ。愛らしい。名前だけじゃない。独特の甘みがクセになる。特に「タマゴパン」。頬張りながら行こう。酒はまだ。着いてからのお楽しみ。

 

 ありゃ。皆さん、まだ揃ってない。大体半分。じゃあ、ゆるゆる始めちゃおう。此処は入口にスーパーがある。向かいの酒屋も品数豊富。好立地。いる者だけで乾杯して、スタート。とりあえず音楽でも。

 せっかく外だし、ライヴ盤。しばし考え、ザ・バンドの『ロック・オブ・エイジズ』(’72)。この緩やかな出だし、長い宴の序盤にぴったり。一曲目から飛ばされちゃ、後がもたない。空気を含んだ音色が段々と馴染む。本当、野外向き。そして演奏が贅沢。幾つもの音が重なっている、という「当然」が嬉しい。

 特にスティーヴィー・ワンダー作の「Loving You Is Sweeter Than Ever」。聴く度、楽器を弾きたくなる。

 

 

【Loving You Is Sweeter Than Ever / The Band

 

 

 

二.ボ・ガンボス

 

 桜はいいけど、お花見って柄じゃない。座りっぱなしじゃ腰も痛い。そんな向きには歩行花見。中野駅北口から約二キロ、通りの両側に桜並木が続いてる。

 場所取り不要。行列は野暮。少数精鋭。二、三人でテクテク。まず大衆中華「T」か並びの台湾料理「A」でルーズに燃料補給……、ではなく買い出し。

 目指すは「サブカルの聖地」中野ブロードウェイ。物欲を刺激しまくる二、三階をスルーし四階へ。弁当屋「S」。名物の100円ナポリタンにスパサラダ、肴に嬉しいカボチャの煮付け、煮玉子、炒め物。これでやっと500円。小皿ならぬ小パック料理。地下のスーパーで酒も調達。さて、のんびり歩こう、中野通り沿い。呑みつつ食べつつ、歩き疲れたら陸橋へ。階段を昇れば綺麗な眺め。左右の枝振りが良すぎて、まるで桜のアーチ。嫌でも応でも盛り上がる。

 

 盛り上がるライヴ盤は数あれど、一年の内に三枚もリリース/全てカバー曲、なんてバンドはそういない。ボ・ガンボスはそんなバンド。

 『THE KING OF ROCK`N’ROLL』(’94)は古典ロック多め。『SHOUT!』(’94)はソウル/R&B多め、『JUNGLE BEAT GOES ON』(’94)はラテン/沖縄系多め。

 改めて思うのは選曲の良さ。元々のグルーヴが強力なので、時折り凄まじい化学反応が起きる。

 彼等の雑多なルーツ、演奏力の高さ、そして何よりサービス精神に腰が自然と動き出す。これでは座っていられない。やっぱり歩行花見向き。

 収録楽曲ではないけれど、ボ・ディドリーのカバーをどうぞ。

 

【I’m a Man / ボ・ガンボス with 山口冨士夫】

 

 

 

三.ビル・エヴァンス

 

 サク人がいればチル人もいる。励まされたら悲しいし、慰められたら腹が立つ。世界はとても眩しくて、自分以外は幸せそう。きついよね、サクラチル。

 まだ帰りたくない。あてもなくブラブラ。気付けば人形町。すき焼き、洋食、親子丼。数多い老舗。空腹だけど店に入るのは面倒。店員と話すのも億劫。どうしようかとブラブラ。ふと見えたのはパン屋。サンドウィッチパーラー「M」。懐かしい店構え。誘われてフラフラ。

 品数が少ないのは夕方だから。買ったのはツナロール。添えられたレモンスライスがたまらない。ここだって老舗。そろそろ百年。店の前には小さな神社と桜の木。期せずしてお花見。夜桜ならぬ夕桜。一口食べる前に音楽を。

 

 こんな時のライヴ盤は、ビル・エヴァンス。そもそもジャズってライヴ盤が多い。悩むのはどちらにするか、それだけ。

 『ワルツ・フォー・デビイ』(’61)か『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』(’61)。どちらも名盤。同年リリース、というか同日録音。しんみりしたいなら前者。なので、後者を。

 ピアノ、ベース、ドラム。所謂ピアノ・トリオ。その最高の形を生々しく収録。客の声やグラスが触れ合う音もそのまま。目をつぶればもう、現場にいるような臨場感。

 印象的なのはベース。リズムをキープするだけではなく、ピアノに寄り添い会話をするプレイに引き込まれる。本当に格好いい。ベースの可能性を広げた男の名は、スコット・ラファロ。この演奏を録音した十一日後に、自動車事故でこの世を去ってしまう。享年二十五歳。

 

 美味しいツナロールと素晴らしい演奏。明日も生きよう。そう思えたらなら何でも教えてあげる。本当に、何でも。

 例えば、こんなこと。すぐそこ、徒歩一分もない大通り、新大橋通りに出ると水天宮。桜並木は見事に満開。眩しくてクラクラ。

 もし呑みたくなったら人形町へ。徒歩五分。「K」酒店は角打ちOKの老舗。木製の引き戸を開け、時間が止まった店内へ。サク日もチル日も乗り越えた背広の先輩諸氏は、馬鹿っ話で大笑い。

 散らない桜は造花。生きてりゃ必ず散るもんだ。

 

【Alice In Wonderland / Bill Evans Trio

 

 

寅間心閑

 

* 『寅間心閑の肴的音楽評』は毎月10日掲載です。

 

 

 

 

■ ザ・バンドのアルバム ■

 

■ ボ・ガンボスのアルバム ■

 

■ ビル・エヴァンスのアルバム ■

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■