「僕が泣くのは痛みのためでなく / たった一人で生まれたため / 今まさに  その意味を理解したため」

「僕」は観念として世界に対峙する。孤独から滲む透明な抒情──。「僕」とは切り取られた世界そのものでもある。画像によって喚起されたペルソナ手法による、小原眞紀子の連作詩篇。 

by 小原眞紀子

 

 

 

 

 

さくらさく

地球の上に

枝をひろげて

さくらさく

淡雲色の蔭をかさねる

さくらさく

その花影からこの花影へ

われらは出ては入る

盃を手に

美童をつれて

美しくない子らとともに

美童はわがもの顔で

枝を揺らす

さくらちる

雲と地球の

距離をはかって

さくらちる

煩悩をたどり

八の字に舞い

盃のなかへと

さくらちる

盃のなかには

さくらさき

美童も枝にさいている

呑みほして

たえてさくらのなかりせば

しずこころなく美童ちるらむ

美しくない子らとともに

蔭のそとへと逃げてゆくらむ

 

 

 

 

まわってまわって三回転。

砂利の上に倒れこむ

その場でくるんと爪先まわり

止まればもいちど倒れこむ

声援するのは近所の小母さん

娘のかよちゃんは意地悪なのに

なんであんなにやさしいんだろう

涙は落ちずに振り飛ばされる

そのために僕はまわってる

生まれたときからたゆみなく

一瞬前を忘れつづけ

いつなんどきも酩酊して

世界はあるいは僕の目は

まわってまわって三回転。

春めぐり

夏過ぎて

秋に向かい

雪ちらつくと力つき

砂利の上に倒れこむ

弱々しくも爪先まわり

枯木の枝にすがりつく

小母さんの声援が聞こえてくる

死んじまえ、とかよちゃんの声

耳にとどくは遠い音楽

波打ち際で繰り返された

忘れた言葉がよみがえる

浜木綿がちり

磯菊がさく

まわってまわって三回転。

 

 

 

 

父さん

僕は堕ちてゆく

雲を掴みそこねて

翼が剥がれた

子供の頃は

それを支えに身体を持ちあげ

寒いときには身体を包み

父さんのくれた翼は

ほんとに重宝した

肩甲骨がすうすうする

落下の速さを

背中で受けとめて

見上げる高さを

瞳で測る

果てしなく遠ざかってゆく

太陽はだけど

その影でしか捉えられない

だから父さん

僕は堕ちてゆく

誰も見たことのない

断崖の上に

誰にも見覚えのある

天使が立っている

手を広げ

長い影を落として

だから僕は

どこまでも堕ちてゆく

とどかない高みへ

あの腕のなかへ

写真 星隆弘

 

 

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* 連作詩篇『ここから月まで』は毎月05日に更新されます。

 

 

 

 

■ 小原眞紀子さんの本 ■

水の領分 メアリアンとマックイン

 

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■ 予測できない天災に備えておきませうね ■