おとうさんがいなくなった。あたしにはその理由がわからない。おかあさんは仕事で疲れて不機嫌で、おにいちゃんは毎日テレビばかり見て過ごしている。あたしがおとうさんに会えるのは夢の中でだけ。でも夢の中には〝やみ〟がひそんでいる。あたしは今日も夢の中でおとうさんを探し求める。

純文学エンターテイメント作家遠藤徹による、全編ひらがなの幻想的リアリズム小説!。

by 遠藤徹

 

 

 

ゆめくい

 

 「おはよう」

 こえをかけてくれたのは、かなさんでした。

 「ああ、おはよう、かなちゃん」

 あたしは、なんだかほっとしました。いっそのこと、かなさんにそうだんしようかとおもったくらいでした。でも、どうして、ゆめのことをひとにわかってもらえるでしょう。だって、それはたかがゆめなのです。ゆめでおとうさんにあっているっていって、いったいだれがしんじてくれるでしょう。じょうだんだとおもわれるにきまっています。わたしだって、じぶんがおかしいとおもうことがあるくらいなのです。ほんとうのおとうさんとつながっているっていうほしょうなんて、どこにもないのです。

 でも、ぐうぜんのいっちとでもいうのでしょうか、かなさんが、いきなり、

 「あのね、きのうこわいゆめをみたんだよ」

 なんてはなしだしたので、あたしはびっくらこきました。なにしろ、ゆめのはなしなんかしだすんですもの。あたしが、あんまりゆめのことばかりかんがえているから、かなさんにもでんせんしたのかもしれません。

 「へえ、どんな?」

 もちろん、あたしはきょうみしんしんでした。いま、あたしはじぶんのゆめのなかにくらしているようなものだからです。

 「それがね、せっかくいいゆめだったのにね」

 「うん」

 「たべられちゃうんだ」

 「え、かなさんが?」

 かいじゅうでしょうか。もうじゅうでしょうか。どんなモンスターがたべるというのでしょう。ケムシやクモのかいぶつとかだったらいやだな、なんてあたしはおもいました。まだしも、ティラノサウルスとか、オオクジラみたいのに、ぱっくりいかれちゃうほうがましです。

 「ううん、ちがうのよ」

 かなさんは、まがおで、くびをよこにふりました。

 「ゆめそのものは、とってもすてきだったの、だってね」

 それは、たんじょうパーティーのゆめだったのだそうです。じぶんのなのか、だれのなのかはっきりしないのだけれど、それでも、とってもたのしくてゆかいなゆめだったっていうのです。

 「まさか、おしろで」

 もしかして、とあたしおもったんです。きのうのゆめのなかで、とおくのおしろでやっていたかもしれないたんじょうパーティがそれじゃないのかなって。

 「いいえ、ちがうわ。あたしのいえだった」

 「ああ、そうか」

 ちょっとがっかりしましたが、そりゃあそうです。いくらなんでも、ゆめとゆめがつながってるはずなんてありません。

 「でもまあ、あたしのいえじゃなかったかもしれないけど」

 とにかく、ひろくてごうせいだったのだそうです。すてきなおんがくがながれてて、ごうかなしょくじがならんでて、たくさんのおきゃくさんがきてたのだそうです。

 「ステージで、てじなや、ダンスのショーもあったわ」

 そういってから、かなさんはあははとわらいました。

 「そうよね。あたしのいえじゃなかったにきまってる。だって、わたしのいえのなかにあんなにおきゃくさんがはいるはずないし、ステージをせつえいするばしょもないもの」

 そうです。かなさんは、マンションぐらしなのです。そんなにおおきなおうちではありません。うちだってそうだけど。

 「まあ、ゆめだからね」

 あたしは、こころにもないことをいいました。ほんとうは、ゆめをそんなふうにばかにしちゃいけないっておもってたし、おとうさんをすくうといういみでは、ゆめはとってもだいじなのです。

 「たべものもさ」

 「うん」

 「すっごいきょだいな、ピンクいろのケーキがまんなかにそそりたっててね」

 「そそりたつって、やまみたいに」

 「そう、やまだったわ。ケーキのやま。ほかにも、とりのまるやきみたいのが、どっさりもりつけてあったり、サンドイッチのやまがあったり、そのばでステーキをやいてくれるコーナーもあったし、すきなをいれてオムレツをつくってくれるコーナーもあったわ」

 「すごいわね。いちどいってみたいわ」

 かなさんは、おきにいりのワンピースをきて、パーティーかいじょうをあるきまわり、いろんなひとにえしゃくしたり、おはなししたりしたのだそうです。

 「ところがね、ふいにじしんがあったの」

 「へえ、ゆめのなかでじしん?」

 「そうなの、なにもかもがぐらぐらってゆれて、それから、ゆめのてっぺんがかじられちゃったのよ」

 「かじられた?」

 きみょうなひょうげんでした。どうして、ゆめがかじられたりするのでしょう。

 「そうなの、パーティーかいじょうのてんじょうのいちぶが、ぱっくりきえたの。そこだけが、まっくらになった。むしゃらむしゃらって、なにかをたべるおとがしたわ。つづいてふたくちめ、てんじょうからゆかのいちぶにかけてがぱっくりたべられちゃった。

 「うわあ、かいじゅうだ」

 「ううん、ちがうの」

 どんどんゆめがたべられていって、さいごにそのけものとかなさんはめがあったのだというのです。

 「あたしをじっとみてたわ。あたしもじっとみちゃった。はなのながい、くろいいろをしたどうぶつだった」

 「で、たべられちゃったの、かなちゃんも」

 「ううん」

 かなさんはくびをよこにふりました。

 「ゆめはほとんどたべられちゃって、おきゃくさんも、きょだいなケーキもなくなっちゃったけど、あたしのにげこんだひとすみだけがのこったの。そのどうぶつもまんぞくしたのか、それともあたしとめがあっちゃってきまずくなったのか、ぷいってすがたをけしちゃったのよ」

 しくしくなきながらめざめたのだそうでした。やさしい、かなちゃんのおとうさんとおかあさんが、しんぱいしてなぐさめてくれたのだそうでした。あたしは、ずいぶんそれがうらやましかったけど、くちにはだしませんでした。

 「そうか、あたし、そのどうぶつをみたことあるとおもうよ」

 もちろんゆめのなかでですが。

 「へえ、なんていうどうぶつ」

 「うーん、わからないけど」

 おとうさんが、こわいっていっていたあのどうぶつだわ、ってあたしきがつきました。あたしもかなさんとおなじように、あのどうぶつをみました。でも、あたしのゆめはたべられなかった。かわりに、たべられたのは、じゃあいったい?

 「まさか」

 おもわずあたしはこえにだしてしまっていました。とつぜんにきがついたからです。あのとき、あたしのゆめがまったくきずつかなかったのは、かわりにあのひとがぎせいになってくれたからだったのです。おとうさんが、あたしをまもるために、あのどうぶつに・・・。

 「え、なに」

 かなさんがおどろいて、たずねましたが、あたしは、

 「ううん、かんちがいだった」

 ってごまかしました。でも、こころのなかでは、つよくけついしていたのでした。

 こうしちゃいられないわ、ってあたしおもいました。ぜったいにたすける。こんどはあたしがおとうさんをたすける、って。

 

 それからは、なかなかゆめをみませんでした。あんまりゆめをみないので、もしかしたらあのどうぶつにぜんぶたべられちゃったんじゃないかって、しんぱいになりました。こわいゆめをみないのはよいのですが、おとうさんのゆめや、としょかんのゆめをみれないのはこまります。

 「かみさま、おねがいだから、よいこにしますから」

 って、まいばんあたしねるまえにおいのりしました。

(第13回 了)

 

* 『ゆめのかよひじ』は毎月03日に更新されます。

 

 

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■ 遠藤徹さんの本 ■

贄の王 姉飼 角川ホラー文庫

 

 

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