%e3%82%86%e3%82%81%e3%81%ae%e3%81%8b%e3%82%88%e3%81%b2%e3%81%98_no-11_cover_01おとうさんがいなくなった。あたしにはその理由がわからない。おかあさんは仕事で疲れて不機嫌で、おにいちゃんは毎日テレビばかり見て過ごしている。あたしがおとうさんに会えるのは夢の中でだけ。でも夢の中には〝やみ〟がひそんでいる。あたしは今日も夢の中でおとうさんを探し求める。

純文学エンターテイメント作家遠藤徹による、全編ひらがなの幻想的リアリズム小説!。

by 遠藤徹

 

 

 

よびだすまじょ(後編)

 

 「いいです。あたし、やってみます。だから、いつわりのまじょをよんでください。そのためには、なにをさしあげればいいでしょうか」

 「じゃあ、ここをはきな」

 よびだすまじょは、あたしにくまでをてわたしました。

 「はやしのなかのこのひろばは、あたしのばしょなんだ。このほんの、ひょうしでみたろう? このおちばやどんぐりのしたには、とってもすてきなまほんじんがえがいてあるのさ。はるから、なつにかけて、いっしょうけんめいえがいたけっさくだよ。ところが、おちばのまじょや、どんぐりのまじょや、あきのまじょや、かぜのまじょのせいで、はいてもはいてもすぐに、みえなくなっちまうんだ。あいつらにしてみりゃあ、ほんのいたずらくらいのつもりだろうけど、おかげで、こっちはしょうばいあがったりだよ。まったくいまいましいったらないよ!」

 なるほど、かんじんのまほうじんがなければ、なにかをよびだすこともむつかしいでしょう。あたしじしんのためにも、ここはひとつきれいにはききよめるひつようがありそうでした。

 「わかったわ、よびだすまじょさん。みてて!」

 あたしは、もうぜんとじめんをはきはじめました。ざっくざっくおとをたてて、おちばを、どんぐりをはききよめていきました。きいろいおちばも、あかいおちばも、ありふれたどんぐりも、めずらしいどんぐりも、なんでもかんでもはきまくりました。

 でも、どうしたことでしょう。

 はいたさきから、はらはら、ひらひら、ぼとぼととまいおち、ころげおちてくるかれはやどんぐりでうめつくされていくのです。

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 「いったい、どういうこと」

 おどろいて、あたしはきのうえをみあげました。いっしゅん、なにかくろいかげのようなものがひゅっとひっこむのがみえました。ああ、なるほど、そういうことか! あたしにはすぐにわかりました。きっと、やみです。やみにちがいありません。なにしろ、あたしとおとうさんをひきはなしたのは、このやみのちからなんですから。

 「どうしたらいいの?」

 くまでをうごかすてをとめると、みるまにあたしのまわりは、おちばとどんぐりでいっぱいになりました。さっき、よびだすまじょがはいていたときより、さらにひどくふりつもったのです。

 「おやおや、おまえさん、ぜんぜんだめじゃないか」

 あきれてまじょがいいました。

 「あたしよりはけてないじゃない」

 「これは、ちがうの。わけがあって」

 こまったあたしのポケットのなかで、なにかがぴくりとうごきました。おどろいてポケットにてをつっこむと、すきとおったみどりのいしがでてきました。そうです、おとうさんとさいごにゆめのなかであったとき、あたしはいしのようなさかなをおいかけていたのでした。そして、ゆめからさめたあたしは、あのさかなが、じぶんがひろったみどりのいしだったと、そうおもったのでした。

 「ちがう。さかなじゃない」

 あたしは、よくみようとしましたが、いしはするりとあたしのてをすりぬけて、おちばのなかにおちました。いえ、おちたのではありません。いしが、じぶんから、あたしのてをすりぬけて、おちばのなかへとはいったのでした。

 「リスだわ。いしみたいなみどりのリスよ」

 おちばをかきわけてすすむそのすがたは、たしかにリスのようにみえました。いえ、リスのようにしかみえなかったのです。リスにしかみえない、みどりいろのいし、あるいはみどりいろのいしのようにみえるリスでした。それは、がさがさとこのはをかきわけてすすんでいき、すごいそくどでをのぼって、えだのなかにわけいっていきました。

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 「まあ、あなた、あたしをたすけようっていうの!」

 おもわずそんなことばがくちからとびだしたのも、むりはありません。

 だって、みるまに、あちこちのはっぱのところから、くろいかげがにげだしていくのがみえたからです。でも、それはどうやらいちじてきなたいきゃくのようでした。みどりのリスがいなくなるとすぐにもどってこようとするからです。

 ひととおり、やみをおいはらうと、リスがふるるるとなきました。ふるるる、ふるるるとなきました。

 「わかったわ」

 あたしには、リスがなにをつたえたいのかよくわかりました。いまのうちにいそいで、とそういっているのです。そうとしかかんがえられないでしょう?

 「ありがとう、みてて」

 さっきよりさらにもうぜんと、あたしは、くまでであたりいったいをはききよめました。あせをいっぱいかいて、かけまわりながら、はやしのあいだのひろばから、おちばとどんぐりをかきだしていったのです。

 ぱあんっ!

 ひかりがはじけました。

 ひかりのかぜがたちのぼりました。

 おちばのしたから、ひかりがかぜのようにふきあがったのです。ひかるかぜは、たつまきのように、うずになって、おちばをどんどんまきあげていきました。あたしののひらに、みどりのいしが、えだのううえからすとんとおちてきました。なるほど、それはリスににたいしでした。ひかりはいくつものすじになって、じめんのうえにひろがっていきます。まじょは、まほうじんをかいたといっていましたが、あたしのめのまえで、それはいままさにえがきあげられていくところだったのです。

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 どういうわけか、うえからおちてこようとしたおちばやどんぐりは、くうちゅうでいっしゅんとまってしまい、それから、まきあげられてとおくへとばされてしまうのでした。

 「まほうじんが、めをさました」

 あたしはうれしくてたまりませんでした。でも、よろこんでばかりもいられないようでした。

 「ばかだね。なに、ぐずぐずしてるんだい」

 ちゅういしてくれたのは、よびだすまじょでした。

 「すぐにまほうじんから、でな」

 かなり、つよいくちょうでした。

 「そこにいたら、あっちのせかいにつれていかれちゃうよ」

 「あっちのせかい?」

 「まかい、だよ。こわいよ、たいへんだよ」

 まかい?

 いかにも、こわそうなひびきでした。

 それがどんなものだかはわかりません。でも、こわくなって、あたしはおおいそぎで、できあがっていくふしぎなもようのえんのそとへとかけだしていきました。でも、さいごのさいご、あといっぽでひかりのからでられる、というところで、めのまえにあたらしいせんがすうっとはしりました。まほうじんをかんせいさせる、さいごのせんでした。

 「かんせいしちまったら、もうでられないよ」

 まじょが、おおごえでとなりました。

 「くまでをじめんについて!」

 まじょがさけびました。

 「そして、とぶんだ!」

 「は、はい!」

 あたしは、くまでをじめんにつきたて、おもいっきりジャンプしました。ずぶずぶとくまではじめんのしたにしずんでいきました。まほうじんにのみこまれたようでした。

 「よくもどってきたね」

 まじょが、うれしげなこえをはじけさせました。

 でも、それはあたしのぶじをよろこぶことばではありませんでした。

 「いとしい、わたしのまほうじんよ!」

 よびだすまじょが、よろこびあふれてよびかけたのは、ひかりかがやくまほうじんにむかってだったのです。

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 「さあ、いいこだから、いまのみこんだくまでをかえしておくれ」

 すると、にょきにょきっとじめんのしたからくまでがすがたをあらわしました。

 「すごい」

 あたしは、すっかりおどろいてみとれてしまいました。

 「ほんとに、なんでもいうことをきくんですね」

 「おだまり」

 よびだすまじょは、しいっとくちにゆびをあてました。

 「こいつは、まかいとのとびらだよ。そんなにひとすじなわじゃいかないさ。へたしたら、こっちがとりこまれちまうんだよ。いつだって、あやういとりひきなんだ」

 そんなふうにあたしをしかるくせに、まじょは、まほうじんがかわいくてかわいくてしかたがないというかんじでした。

 「おお、よしよし。いつものように、きれいだね。どうしてたね。そくさいだったかい。ずいぶんと、ひさしぶりじゃあないか」

 まるで、かけがえのないわがこのあたまをなでなでしているかんじでした。

 「まったく、あのいまいましいまじょたちのせいでさ」

 ちっ、とよびだすまじょは、いまいましげにしたうちをしました。

 「おちばやら、どんぐりやらにずいぶんとふさがれちまって。さぞいきぐるしかったことだろうよ。かわいそうになあ。かけがえのない、まほうじんだっていうのにさあ、おまえさんは。あたしのために、なんだってだしてくれるんだから。そりゃあ、たいせつにきまってるさ」

 さんざん、あまいことばをかけておいてから、おもむろにまじょは、めいれいしはじめました。

 「さあ、かわいいおまえ。まずは、わたしに、したがとろけるようなチョコレートをだしておくれ」

 すると、まほうじんから、ひとつぶのチョコがとびだしてきました。それをくちにふくむやいなや、まじょはとろけんばかりのかおになりました。それをみて、あたしも、そのチョコがたべたくてしかたがなくなったほとでした。

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 「よおしいいこだ。さいさきがいいねえ」

 つづけてまじょは、ごくじょうのワインやら、さいこうのチーズやら、しこうのほしにくやら、ほっぺがおちるパンやら、だれもがふりかえるドレスやら、だれでもころせるどくやら、いろんなものをようきゅうしました。そのたびに、まほうじんは、それをぷくぷくぽんぽんととはきだしてくれるのでした。

 「あのお」

 そろそろ、あたしのおねがいもきいてもらいたいとおもって、あたしはよびだすまじょにちかづきました。

 「いいから、まってなって」

 よびだすまじょは、さらにも、さいしんがたのそらとぶほうきやら、ほかのまじょたちがぜったいうらやむ、りゅうこうのさいせんたんのまじょぼうしやらをようきゅうしました。

 「そろそろ、おねがいできませんか」

 あたしは、もういちどこえをかけました。

 「あれ、なんだっけ。そして、おまえさんはだれだっけね」

 じぶんのものをとりだすのにむちゅうのよびだすまじょは、あたしのことも、あたしとのやくそくのことも、すっかりわすれてしまっているようでした。まるで、バーゲンでわれをうしなっている、おくさまがたのようでした。

 「ですから、いつわりのまじょを」

 「え、なんだって、いつわりのまじょ?」

 「ええ、よびだしてほしいんですけど」

 「どうしてだい。そんなやっかいなもの、なんだって、わたしがわざわざよびだすひつようがあるんだい」

 あたしは、あきれてしまいました。なんてことでしょう。このまじょときたら、じぶんのまほうじんを、じぶんのよくぼうをみたすためだけにつかおうとしているのでした。それにむちゅうになって、あたしがここをはききよめて、まほうじんをよみがえらせたことすら、わすれてしまっているようなのでした。

 「やくそくしたじゃないですか」

 「そうだっけか?」

 「あたしが、ここをはいたんですよ。あなたのまほうじんをふっかつさせたんです」

 「ああ」

 ふいに、よびだすまじょは、

 「おつぎは、ふわふわのねどこをおねがい。どんなにねぐるしいよるでも、どんなにさむいよるでも、じつにじつにここちよくねむれる、ベッドじゃなきゃいやだよ」

 といいながら、あたしのかおをじいっとみました。

 「そうだったっけねえ」

 しばがくかんがえこみました。

 「ああ、そうだったね」

 あらかた、ほしいものがそろったせいだったのかもしれませんが、ようやく、よびだすまじょは、あたしとのやくそくをおもいだしてくれたようでした。

 「さいごに、いつわりのまじょをたのむよ」

 きがるにそういいました。が、すぐさま、

 「あ、いや、ちょっとまって」

 てのひらをさしだして、まほうじんをせいしました。まほうじんからは、すでにまじょのとんがりぼうしがすうっとつきだしてきたところでした。

 「まだださないでおくれ。あたしは、めんどくさくて、いけすかなくて、あつかいにくいあのばばあにはあいたくないからね。まずは、おまえさんにだしてもらったものを、カラスたちにはこばせるから、いましばらくまっておくれよ」

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 よびだすまじょが、まほうじんからだしたさいしんがたのまじょくまでをふると、まっくろいきずが、そらにきざまれました。そらをひっかいて、きずをつけたのです。なんというくまででしょう。そのきずぐちから、なにやら、くろいものが、ずんずんわきだしてきて、そらがいっしゅんでよるになってしまいました。たくさんのカラスのせいでした。そらのいたるところを、まっくろいカラスがすきまなくおおって、ひるをよるにかえてしまったのです。

 「さあ、おいで。かわいいこどもたち」

 まじょのことばとともに、よるがはがれました。よるのしたからまた、ひるがふっかつしました。まいおりてきたカラスたちは、やまのようにつみあげられたモノをてんでにつかんでまいあがりました。

 「いいかい、ていねいにあつかうんだよ。ああ、こらおまえ! それは、あたしのたいせつなハンドバックだよ。そんなぞんざいなつかみかたはきにいらないねえ。いいかい、おまえたち、これをぜんぶ、あたしのすみかまできちんとはこぶんだよ。そしたら、こどもたちのたましいをうんとこさたべさせてあげるから。そうとも、とりたてのほっかほっかのやつだとも」

 さいごにじぶんもかごにのりこみ、そのかごをすうひゃく、すうせんのカラスたちにもちあげさせました。

 「いっちゃうの?」

 あたしは、すこしふあんになりました。あたしひとりで、だいじょうぶでしょうか。いつわりのまじょと、はなしあったりできるのでしょうか。

 「あたりまえだよ。ほんとはさ、おまえさんのたましいとか、いのちとかもらったってよかったんだけどね。こうしてねがいまでかなえてやるんだ。もんくをいわれるすじはないよ」

 「うん、そうだね」

 なっとくせざるをえませんでした。

 「ありがとう。よびだすまじょさん」

 「きをつけなよ。いつわりのまじょのことばにしんじつはないからね。そのことをわすれちゃだめだよ」

(第11回 了)

 

* 『ゆめのかよひじ』は毎月03日に更新されます。

 

 

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■ 遠藤徹さんの本 ■

贄の王 姉飼 角川ホラー文庫

 

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■