%e3%82%86%e3%82%81%e3%81%ae%e3%81%8b%e3%82%88%e3%81%b2%e3%81%98_no-10_cover_01おとうさんがいなくなった。あたしにはその理由がわからない。おかあさんは仕事で疲れて不機嫌で、おにいちゃんは毎日テレビばかり見て過ごしている。あたしがおとうさんに会えるのは夢の中でだけ。でも夢の中には〝やみ〟がひそんでいる。あたしは今日も夢の中でおとうさんを探し求める。

純文学エンターテイメント作家遠藤徹による、全編ひらがなの幻想的リアリズム小説!。

by 遠藤徹

 

 

 

よびだすまじょ(前編)

 

 そうしたら、またいけたのです。としょかんに。

 ねむるちょくぜんまで、またこわいゆめをみるのではないかとこわくてこわくてたまりませんでした。だから、さいしょはゆめのなかだときがついても、ぎゅっとめをつむっていました。またナイフをもったおとこや、ひとさらいがめのまえにいるのではないかとこわかったのです。でも、なつかしいにおい、かみとインクのにおいがするようなきがしました。もしかしたらと、こわごわめをあけてみると、そこは、なつかしいなつかしいとしょかんだったのでした。

 「やった」

 あたしは、こおどりしてよろこびました。ふしぎなことに、としょかんのなかでは、ばいきんのこともぜんぜんきになりませんでした。たぶん、ここまではばいきんもはいってこれないのだとおもいます。よくはわかりませんが、きっとそういうとしょかんなのです。

 さっそく、あたしはおめあてのほんをさがしにいきました。まじょのコーナーをさがしてえっちらおっちら、らせんかいだんをのぼっていきました。どういうわけか、あたしには、それがじゅうさんかいにあるってわかっていたのです。なるほど、ほんとでした。じゅうさんかいには、まほうかんけいのほん、まほうつかいのほん、そしてまじょのほんがずらりんことならんでいました。

 まほうのほんは、タイトルをみるだけでもわくわくするものばかりでした。『『『まほうつかいにゅうもん』にゅうもん』へのにゅうもん』『あなたも、あさってからまほうつかい』『ずかい サルにはわからないけど、きみにはわかる、まほうのしくみ』『まほうがっこういちらん』『ひとつをのぞいて、ほかはなんでもおもいどおりになるまほう』などの、まほうせつめいしょ。そして、あたしがしばしたちどまってしまったのは、『にくいあいつ』シリーズ全五百巻の前でした。『にくいあいつをありんこにかえてふみつぶそう』『にくいあいつがたべようとするものをぜんぶミミズにかえてしまおう』『にくいあいつのベッドがまいばんみずびたしになるってどうよ』いったタイトルのほんがずらあっとならんでいるのでした。ちょっとにくいあいつのかおがおもいうかんで、てにとりそうになったけど、がまんしました。きょうは、ちがうもくてきできたからです。ここでかんけいないほんをてにとってしまったら、ゆめがぜんぜんちがうものになってしまうっておもったからでした。

 「そうよ、そうよ、もくてきをわすれちゃだめなんだからね」

 あたしはじぶんにいいきかせながら、あちこちさがしまわって、まじょのしゅるいというコーナーをやっとはっけんしました。

%e3%82%86%e3%82%81%e3%81%ae%e3%81%8b%e3%82%88%e3%81%b2%e3%81%98_no-10_01

 「やった!」

 あたしはこおどりしそうでした。むねがどきどきしました。きっとここにはあるにちがいありません。もくてきのほんが。

 『あけがたのまじょ』『あかつきのまじょ』『あけぼののまじょ』『あさやけのまじょ』『あさのまじょ』『あさねぼうのまじょ』・・・うわあ、なんていっぱいあるのでしょう。これだけみてもまだ、あさかんけいのまじょばかりです。あ行だけでもすうせんさつはあるようでした。

 「あじゃないわ、い、よ、い!」

 そうです。い、のところをみなくちゃなりません。

 『いかすまじょ』『いかしたまじょ』『いけずのまじょ』『いけないまじょ』・・・どんどんみていきました。『いつかのまじょ』『いつものまじょ』『いつわらうのまじょは?』『いつわらないまじょ』・・・さあ、いよいよです。どきどきしながら、あたしはほんのタイトルをじゅんばんにみていきました。『いつわるのかなまじょ』『いつわれるまじょ』『いつわをかたるまじょ』『いてつくまじょ』・・・。

 「あれ?」

 よくみると、いっさつぶん、すきまがあいていました。そうです、『いつわらないまじょ』と『いつわるまじょ』のあいだにです。あるとすれば、ここにあったはずのほんがみあたらないのです。

 「こまったわ、かしだしちゅうなのかしら」

 そうなるといちだいじです。だいたいこのとしょかんのかしだしきかんはどれくらいなのでしょう? もしひゃくねんとか、せんねんとかだったりしたら、あたしにはそのほんをみることができないではありませんか。

 「どうしよう、どうしよう」

 あたしは、としょかんのかしだしカウンターまで、あわてておりていきました。カウンターには、あいにくだれもいませんでした。

 カウンターにははりがみがしてあって、

 「ほんじつ、かかりいんはきゅうかをとっています。ですから、かしだしはありません。かんないでの、えつらんのみでおねがいいたします あしからず。かしこ」

 とありました。

 「ええっ」

 あたしは、たいへんにこまりました。こまったことになりました。せっかく、おとうさんをたすけようといきごんできたのに、さいごのてがかりだったほんがみつからないのです。

 「どうしたらいいのかしら?」

 あたしは、じぶんにといかけました。

 「なにか、いいかいけつさくはないのかしら?」

 そうしたら、おもいついたのです。ほかのほうほうを。

 「そうだわ。それしかない」

%e3%82%86%e3%82%81%e3%81%ae%e3%81%8b%e3%82%88%e3%81%b2%e3%81%98_no-10_02

 あたしは、もういちど、じゅうさんかいまで、えっちらほ、おっちらほとのぼっていきました。そうです、まじょのほんがあるところまでもどったのです。そして、こんどは、あぎょうも、かぎょうもすっとばして、なぎょうも、はぎょうもかっとばして、やぎょうまではしっていきました。それぞれのひらがなごとにすうせんさつのほんがあるわけですから、やぎょうまでたどりつくのに、あたしはあせをかくほどはしらねばなりませんでした。

 「や、ゆ、よ・・・・、ここだわ」

 あたしは、よではじまるほんのタイトルをじゅんばんにみていきました。『よあけのまじょ』にはじまって、『よいまじょ』『ようふくのまじょ』『ようふくをすてたまじょ』なんかがあって、『よこめでみるまじょ』『よさげなまじょ』『よたよたまじょ』『よなかのまじょ』なんかをつうかし、ついに『よびごえのまじょ』『よびすぎるまじょ』ともくてきにちかづいてきました。『よふけのまじょ』。ああ、これはいきすぎです。すこしもどりましょう。

 「あった!」

 こっちは、かりられていませんでした。

 「これよ、これ!」

 あたしがてにとったのは、『よびだすまじょ』というほんでした。ひょうしには、まほうじんというきみょうなずけいがかいてあって、そのむこうにまじょがいます。まじょがだれかをよぶと、そのまほうじんから、もくもくとけむりがでて、そのけむりのなかに、だれかのすがたがうかびあがっている・・・、そんなじょうけいがえがいてありました。

%e3%82%86%e3%82%81%e3%81%ae%e3%81%8b%e3%82%88%e3%81%b2%e3%81%98_no-10_03

 「おねがい、いいひとでありますように」

 あたしは、おいのりをしてから、ひょうしをめくりました。

 とたんに、あたしは、あきのはやしのなかにいました。

 じめんには、あかやきいろのおちばがいっぱいおちています。どんぐりも、いろんなしゅるいのがありました。いつものあたしだったら、よろこんでどんぐりをあつめにかかるのですが、きょうはさすがに、そんなことをしているばあいではありませんでした。

 おおきなくまでで、ぶつぶついいながら、おちばをはいているおばあさんがいました。

 「まったく、おちばのまじょときたら、ひとのしごとのじゃまばかりして」ぶつぶつ。

 「ことしはずいぶんとさむいね。あきのまじょのやつ、ふゆのまじょとばかりあそんでるにちがいないよ」ぶつぶつ。

 「どうもこのところ、つきがみえないね。よるのくものまじょが、つきをかくしてやがるんだろうけどさ」ぶつぶつ。

 ぶつくさぶつくさいいながら、おばあさんは、くまででおちばをはきつづけます。でも、はいたそばから、はらはら、はらはらとおちてきたおちばが、じめんをおおっていくのでした。

%e3%82%86%e3%82%81%e3%81%ae%e3%81%8b%e3%82%88%e3%81%b2%e3%81%98_no-10_04

 「あの、こんにちは」

 あたしは、できるだけはきはきとこえをかけました。だれだって、いんきなこどもより、あかるいこどものほうがきにいるにきまっているからです。

 「おや、だれだい、おまえさんは」

 おばあさんは、うたぐりぶかそうに、あたしをじっとみつめました。

 「ははあ、へんしんのまじょが、こどもにばけてきたかな。それとも、あやつりまじょの、くぐつむすめかな。あるいはあるいは、いつわりのまじょの・・・」

 「そうそう、それですそれです!」

 あたしは、おもわずさけんでいました。

 「そのいつわりのまじょです」

 「おまえさんがかい? みごとにばけたもんだねえ」

 あたしは、あわててのひらをふりました。

 「いいえ、ちがいますとも。そうじゃなくって」

 あたしは、もくてきをつたえようとしましたが、おばあさんがごういんにくちをはさんできました。

 「ははあ、いつわりのでんごんでもつたえにきたというわけかい。あのおんなのいうことが、ひとつでもほんとだったためしはないからね。いつわりのまじょのかんけいしゃだってことは、おまえさんもなにかのいつわりだね。ほんとはミミズだとか、ほんとはただのけむりだとか、ほんとうはもうろくしたじじいだとか、そういうことかい」

 「ちがうんです、きいてください」

 あたしがおおごえをだしたので、まじょはりょうてでみみをおさえました。

 「なんだい、いきなり。いつわりのおおごえはやめておくれよ」

 「だから、ちがうんです。あたしは、いつわりのまじょのかんけいしゃじゃありません」

 「っていう、いつわりだね。もういつわりがはじまってるんだね」

 まじょは、はなから、あたしのいうことをしんじるつもりがないようでした。

%e3%82%86%e3%82%81%e3%81%ae%e3%81%8b%e3%82%88%e3%81%b2%e3%81%98_no-10_05

 「そうじゃなくって、あたしがいつわりのまじょをさがしてるんです」

 「そんなこといって、あたしはいつわりのまじょじゃなくって、よびだすまじょだよ。すでに、たずねびとのことまでいつわってるってわけだね」

 「いいえ、まじょさま、よびだすまじょさま、あたしは、あなたをたずねてきたのです」

 まじょは、にがわらいしました。

 「ほらもういつわった。さっきは、いつわりのまじょをさがしてるっていったくせに、こんどはあたしをたずねてきたっていいだすしまつだ。ほんとに、まともにあいてしたら、こっちのあたまがおかしくなっちまうよ」

 「いいからきいてください」

 あたしは、しつこくしつこくおねがいして、これまでのけいいをはなしました。おとうさんがいえをでていってしまったこと。それで、いえのなかにやみがはいってきたこと。おにいちゃんや、おかあさんがおかしくなってて、あたしじしんもだいぶおかしくなってること。

 おとうさんは、ときどきゆめのなかであいにきてくれたのに、たぶんだけど、あたしをやみからまもろうとして、おおけがをしたこと。

 だから、そんなおとうさんをたすけようと、へんてこなびょういんまでいったけど、いつわりのまじょにつれさられたあとだったこと。

 きょうとしょかんで、いつわりのまじょのほんをさがしたけれど、だれかにかりられていたこと。

 などなどです。

 「ふうん」

 はんしんはんぎ、というかんじでまじょはうなりました。

 「それは、どこからいつわりなんだい」

 「だから、ぜんぶほんとです。ひゃくパーセントほんとのことなんです」

 「だとすると」

 まじょは、くまででまたおちばをはきました。

 「なんで、あたしんとこなんかにきたんだい?」

 「だって」

 あたしは、いきごんでいいました。

 「あなたは、だれでもよびだせるんでしょ。なんでも、よびだせるんでしょ? だから、おとうさんを、もしそれがむりでも、いつわりのまじょをよびだしてもらいたいっておもったんです」

 「うーん」

 よびだすまじょは、うなりました。

 「もちろん、あたしはよびだすまじょだから、なんだってよびだせるさ」

 「ですよね」

 「だけどね」

 まじょは、ふいにぞっとするようなえみをうかべました。

 「あんたは、だいじなことをわすれてるよ」

 「なんでしょうか」

 「あたしがまじょだってことさ。まじょってのは、じつによくぶかいそんざいなんだよ。みかえりがなくっちゃ、ようきゅうにこたえたりなんかしないんだから」

 「おかねですか」

 おかねなら、・・・ありません。だって、あたしはこどもですもの。

 「いいや、そんなもんじゃない。もっともっとたいせつなものだ」

 「もっと、たいせつなもの?」

 「わかるだろ、あんたがもってるものでいえば、あれだよ。いのちとか、わかさとか、いっしょうぶんのこううんだとか、そういうもんだよ」

 「ああ、それは!」

 こまります。そんなものをあげてしまったら、あたしはこれからどうすればよいのでしょう。

 「とくに、おとうさんをよびだすとなると、かなりたかくつくね。じゅみょうのうちのごじゅうねんぶんくらいはいただかないとさ」

 「それほどですか」

 「ああ、それほどさ。そのわかさをもらって、あたしはしばしのわかがえりをたのしめるってわけさね」

%e3%82%86%e3%82%81%e3%81%ae%e3%81%8b%e3%82%88%e3%81%b2%e3%81%98_no-10_06

 ああ、どうしましょう。そんなことをしたら、あたしはすぐにしんでしまうのではないでしょうか。おとうさんにあえたとしても、それではおとうさんもかなしむのではないでしょうか。

 「でもまあ」

 こまっているあたしをみて、まじょもすこしあわれにおもったのでしょう。

 「まじょどうしなら、かんたんだから、やすくしとくよ」

 「ほんとですか?」

 「どうるいをよびだすのは、あんたたちのせかいでいう、でんわをかけるていどのことだからね」

 「じゃあ、いつわりのまじょを」

 ほんとうは、ちょくせつおとうさんをよびだしてほしかったけど、しかたありません。てごわいあいてみたいだけど、いつわりのまじょにあうしかなさそうです。

 「でも、あんた、あんなのよびだしてどうするきだい」

 「おとうさんをかえしてもらうんです。すくなくとも、いばしょをおしえてもらいたいんです」

 まじょは、ふかいためいきをつきました。

 「おばかさんだね、やっぱりこどもだよ、あんたは」

 「どうしてですか」

 「だって、あいつはいつわりのまじょだよ。ほんとのことなんか、たったのひとつだっていいっこないんだよ」

 「どうして?」

 「そりゃ、いつわりのまじょだからさ。そういうふうにうまれついているんだから、しょうがないよ。あたしが、よびだすまじょにうまれついちまったのと、いっしょのことさね」

 それでも、あたしには、ほかのかいけつさくはおもいつかないのです。なんとか、いつわりのまじょから、てがかりをみつけるしかないのです。

(第10回 了)

 

 

c‘縦書きでもお読みいただけます。左のボタンをクリックしてファイルを表示させてください。

 

 

* 『ゆめのかよひじ』は毎月03日に更新されます。

 

 

 

 

■ 遠藤徹さんの本 ■

贄の王 姉飼 角川ホラー文庫

 

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■