一.ちあきなおみ

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 勘所、は元々三味線用語。弦を押さえる正しい位置のこと。これが分からなきゃ、音程は狂いっぱなし。勘所の把握こそ最初の関門かも。ちなみにギターはフレットが勘所を仕切っているので楽。チューニングだけは忘れずに。

 三味線から離れれば、勘所は「ツボ」のこと。割れる方ではなく押す方のツボ。だから勘所を押さえた店に出会うと嬉しい。通っちゃう。

 平たく言えば、何を頼んでも旨い店。細かく言えば、メニューが多い店。「売り」が明確な串カツ屋、おでん屋、やきとん屋の類ではなく、大衆酒場やカフェレストラン。

 例えば渋谷の老舗立ち呑み「F」の系列店、その名も「Fダイニングバー」。カウンターの前に立ち、酒を頼んだら黒板の品書きに目をやる。

 うさぎモモ肉のポワレ、雲丹オムレツ、かさごのアクアパッツァーー。なに、構えなくても大丈夫。立ち呑みだもの。どれも漱石未満、ゼロは二つまで。ワインと合わせるも良し。ハイボールで流し込むも良し。私は大抵後者ですが。

 

 縁遠そうなものでも、構えずに触れてみると性に合う、なんてよくある話。かといって手当たり次第じゃ大変だ。切っ掛けに恵まれる幸運、ではなく貪欲さが大事。そう、ガツガツとね。

 長期休業中の歌手、ちあきなおみ。私は彼女の作品を切っ掛けに、所謂歌謡曲との距離が縮まった。活動停止から二十年以上経っても、待望論が跡を絶たない凄い人。深みのある声と、映像が浮かぶ表現力に勘所を押さえられちゃった。

 どんなタイプの曲でも間違いない。ただ「歌が上手い」という評価は、正確だけれど随分不親切。美空ひばりと比較し得る稀有な存在、と付け加えれば少しは伝わるかしらん。

 まずはベスト盤を。人気者だけに各種あるけど大差はない。それが響いたなら、六枚組ボックス「ちあきなおみ・これくしょん ねえあんた」で思い切りどっぷりと。

 

【紅とんぼ/ちあきなおみ】

 

 

 

二.ザ・バンド

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 どんなタイプの曲でも、というのはバンドだと難しい。バンド形態のユニットなら大丈夫。曲に合わせて人を替えちまえばいい。でもバンドだと大変だ。当然各々主張がある。好みがある。同じ方向に同じ歩幅では、なかなか進めない。人間だもの。それを叶えるにはメンバー個々の能力が……、あった。そんなバンド、あった。

 バンドの名前は、ザ・バンド。バンドバンドって、何度もやかましい。これぞ灯台下暗し。

 全員がマルチ・プレイヤーでヴォーカリスト、元々ボブ・ディランのバック・バンド、解散コンサートはマーティン・スコセッシ監督により映画化……。なんて輪郭は正統派なのに、彼等の奏でる音は独特。まあ、クセが強い。私の周囲の意見は、「渋そうだけど、どこか変」「真似しても仕方ない」「上手い、とは少し違う」等々。無論全て褒め言葉。

 

 正統派だけど、クセが強い店。これはすぐ出てくる。新宿の「N」。花園神社近くで年中無休の24時間営業。ほら、頼もしい。食堂だから肴も多い。

 「100円のポテサラだけじゃ侘しいから、もう100円出してカレールー貰っちゃおう」

 「しょうが焼き四枚は多いなあ。あ、一枚から頼めるんだった」等々。また焼酎ボトルのキープは六ヶ月だし、ご飯の量は半・小・普・中・大の五択。勘所、押さえ過ぎ。そして客に寄り添い過ぎだから、ついつい甘えちゃう。何せ閉まってる時、ないんだから。

 

【Hobo Jungle/The Band

 

 

 

三.ザ・ハイヴス

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 00年代のロックンロール・リバイバル・ムーブメント。シャレてんな、と思ってた。嫌味じゃない。むしろ逆。素直に、そう、洋楽を聴きだした学生みたく「シャレてんな」と思ってた。多分、映像のせい。アップルのCM的なあの感じ。

 シャレてんな、は略語。シンプルなロックンロール「なのに」シャレてんな、が正式名称。ポイントは映像。音だけだと違う。大抵のバンドは別にシャレてない。ちょっとガッカリ。

 そんな中、勘所を押さえまくったのがザ・ハイヴス。シャレてる、とか関係ない。どのアルバムも、企みを感じる明快さに貫かれてる。結果ではなく、手段としてのクレイジー。潔い。

 

 新橋駅から少し離れた立ち呑み「B」。小さな店。シャレてんな、と前を通るたび思ってた。一枚木の特徴的な看板に、美しいU字カウンター。

 初入店の夜は微酔気味。シャレてんな、という先入観は品書きを見て変化する。マスカルポーネおかか、ピータンとザーサイの白和え、ニラユッケ。どれも300円以下。なるほど、シャレ方の種類が違った。常連率高めのU字カウンターはシャレる気ナシ。うん、とてもシャレてる。勘所、押さえてる。

 酎ハイが来た。コップなみなみ。嬉しくなったのも束の間、思わず酔いが醒める。コップの隣に置かれたのは炭酸の瓶。このなみなみ、全部焼酎だ。ちょっと呑まないと炭酸が入らない。多分これは、手段としてのクレイジー。

 だってトイレは急な階段昇って二階。結果がクレイジーじゃ怪我しちまう。

 

【Abra Cadaver / The Hives

 

寅間心閑

 

* 『寅間心閑の肴的音楽評』は毎月10日掲載です。

 

 

 

 

■ ちあきなおみのアルバム ■

ほのぼのと、切なさと、懐かしさと、ちあきなおみの“黄昏のビギン ちあきなおみ全曲集

 

 

■ ザ・バンドのアルバム ■

ザ・バンド / ザ・バンド [DVD] ザ・バンド 軌跡

 

 

■ ザ・ハイヴスのアルバム ■

ザ・ブラック&ホワイト・アルバム ティラノザウルス・ハイヴス

 

 

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