%e6%9c%88%e3%81%be%e3%81%a7_09_cover_01「僕が泣くのは痛みのためでなく / たった一人で生まれたため / 今まさに  その意味を理解したため」

「僕」は観念として世界に対峙する。孤独から滲む透明な抒情──。「僕」とは切り取られた世界そのものでもある。画像によって喚起されたペルソナ手法による、小原眞紀子の連作詩篇。 

by 小原眞紀子

 

 

 

 

 

光と影の境に生きる

言い換えれば

外縁をすべってゆくから

そこにある巨大な影がうかぶ

僕も掌をひろげて

空間をなぞる

すると闇に

吸い込まれた指が何度か羽ばたいて

世界に沿って飛んでゆく

行き先を指さして

目を左右に据えて

バランスがすべてだ

それを保つことだけが

自身を失わずにいること

奈落の底へと

堕ちていった者たちを見た

頭をわずかに持ち上げて

太陽を見た者たち

瞬間、くるりと回転して

光と影が入れかわる

下が上へと変わるのだ

だから太陽は

背に負わなくてはならない

いつも光は

影の影として見いださなくてはならない

羽ばたく自らの姿が

海面に映る

波ひとつない

おだやかな鏡の上に

%e6%9c%88%e3%81%be%e3%81%a7_09_01

 

 

 

 

美は時によりそい

  時を超える

ときどきつまずいて

  音を立てる

ボォーンとかチクタク

あッとか

つまり流れそのものが

美であると

遠くから理解する

僕は掌を額にかざし

けぶる山とくっきりした雲の向こう

柱時計の脇の

ドレッサーの抽斗にあった

口紅のひとつで

いたずら書きをした

埃をかぶった日々に

ひとつの顔がうかぶ

生まれてこのかた

見つめていた顔

見つめられていた顔

それに似てない顔は忘れた

一瞬で

僕を振り向かせる声は

あッとかめッとか

背後から叱る

流れゆくエクリチュール

美を握りしめたまま

僕は堪えていた

いつまでも終わらない母の仕度に

%e6%9c%88%e3%81%be%e3%81%a7_09_02

 

 

 

 

出来不出来

頭があって

腰がすわる

ひょろり手がのびて

足がたがいちがいに

ぶつかりあって

ころぶ

人間だもの、とか

トイレに貼ってある

日めくりをはがし

ご飯をたべる

ひとりでも

おおぜいでも

ため息をつきながら

ときどき顔を見合わせて

口あんぐりする

なんでこんなに似てるのか

目がふたつに

鼻ひとつ

出来不出来

はあるにせよ

ついと立ち上がって

食堂を出てゆく

ついと立ち上って

地球を出てゆく

僕に会った誰かが

びっくりする場所へ

それがたんなる

月の兎だとしても

%e6%9c%88%e3%81%be%e3%81%a7_09_03

写真 星隆弘

 

* 連作詩篇『ここから月まで』は毎月05日に更新されます。

 

 

 

 

 

 

■ 小原眞紀子さんの本 ■

水の領分 メアリアンとマックイン

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■