第2回 辻原登奨励小説賞受賞作家・寅間心閑(とらま しんかん)さんの連載小説『証拠物件』(第06回)をアップしましたぁ。第三章後半です。父親を詐欺にかけた高校生の清美がパニクっています。小説はフィクションなので、殺人事件などの重大犯罪を入り口にすることが多いです。しかし現実には『証拠物件』で描かれるような、ちょっとした冒険というか、出来心の犯罪によって生じた出来事の方が、当事者の心を大きく揺さぶるでしょうね。

 

 でも、とシュンジが口ごもった。三食パンを食べ終わり、缶コーヒーを飲んでいた俺は「でも?」と訊き返す。

 「でもさ、あいつのお母さんは、ちょっと精神的に参っちゃってて、何ていうか、まだ会話とかあまり出来ない状態らしいんだよ」

 本当だったら何か言いたかったが、一つも言葉が見つからなかった。そして沈黙が続いた。(中略)朝のワイドショーは適度にうるさくて助かった。でも、コメンテーターが無難な話を自信満々にしているのは苛立つ。

 こいつら死ねばいいのにな。

 ちょっと前までならそう言えたが今は無理だ。本当は「助けてくれよ」と目の前の幼馴染みに泣きつきたかった。俺たちが軽い気持ちで実行した悪ふざけは、あまりにも大きくなりすぎている。きっと、もう手に負えない。俺もシュンジも清美も、好きなように振り回されている。ボスとサキエさんはどうだか分からない。

(寅間心閑『証拠物件』)

 

とんがっていた時期の村上龍や中上健次のような文章ですね。人間は生きていれば必ず試金石のような時期を経験します。いつも試練を乗り越えることができるとは限りませんが、問題を避け続けると、社会からフェードアウトしてしまうことも珍しくありません。また若いうちは、仲間といっしょに試練を経験することもある。そこで各々の人生が決まることもあります。『証拠物件』の主人公コウタは、その人生の岐路に立っているのであります。

 

 

寅間心閑 連載小説『証拠物件』(第06回) pdf版 ■

 

寅間心閑 連載小説『証拠物件』(第06回) テキスト版 ■

 

 

第04金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項

第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。

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