%e3%82%a2%e3%83%aa%e3%82%b9%e5%a4%b1%e8%b8%aa%ef%bc%81_12_cover_01ポスト・モダニズム時代において、オリジナルからの引用・二次創作・パラレル創作の問題は避けて通れない。ならば翻訳とはなにか、翻訳はどこまで創作の謎に近づき得るのか・・・。英文学者で演劇批評家でもある星隆弘が、『不思議のアリス』の現代的新訳に挑む!。文学金魚奨励賞受賞作。

by 星隆弘

 

 

 

 

 

第12回 アリスの証言!

 

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「はい!」

いいお返事!でも驚いた拍子に忘れちゃってた、この数分間でどれだけ大きくなってると思ってんの!あわてて飛び上がったせいでスカートの裾で陪審員席をひっくりかえしちゃったんだ。陪審員はひとりのこらず下の傍聴席まで落っこちちゃって、大の字にビターンてのびちゃって、なんかアレみたいだなって、一週間前にうっかりひっくりかえしちゃった金魚鉢。

 

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「ひゃっ!ご、ごめんなさい!」

おろおろしながらとにかくあやまって、それから陪審員たちを全速力で拾い集めた。金魚鉢でしくじっちゃったときのことが頭からはなれなくて、だからわたし早く拾い集めて陪審員席に戻さないと、みんな死んじゃうような気がして。

 

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「これでは裁判にならぬ」と王様がむっつりうなった。「陪審員が皆まちがいなく所定の席に戻らねば・・・皆、まちがいなく」

そうしつこく言いながら、わたしをじろじろ睨むわけ。

 

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陪審員席をたしかめてみたら、あわててたんだからしょーがないけど、トカゲのビルを頭から席に突っ込んじゃってたみたいで、かわいそうなチビのビル、しっぽを力無くぶらぶらさせて、ぴくりとも動けないみたい。すぐにつまみあげて、ひっくりかえしてあげた。「でもどうでもよくない?」ってブツブツ言いながら。「ひっくりかえってたからって裁判がどうなるわけでもないでしょ」

 

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陪審員たちはめちゃくちゃにされたショックからいくらか立ち直ると、黒板と鉛筆も見つかって手元に戻ってきていたから、一斉に鉛筆をとって今の出来事の一部始終を一生懸命書きつけはじめた。でもトカゲはひとり蚊帳の外。あまりの出来事に呆然としちゃってなにも手につかないみたいで、ぽかーんと口を開けて座ったまま、ぼーっと天井を見つめている。

 

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「この一件について知っていることを申してみよ」と王様。

「なにも知りません」とわたし。

「一切なにもか?」と食い下がる王様。

「一切なにもです」とわたし。

 

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「ふむ、とてもいい答弁だ」

王様が陪審員席に目をやった。みんな一斉に黒板に書きつけ出したところに、白ウサギが割って入った。「どうでもいい答弁と、陛下、もちろんそういう意味でございますな」口調は丁寧だけど眉間にしわ寄せて、王様に向けてしかめっ面。

「どうでもいい、無論じゃ、そういう意味合いぞ」と王様があわてて付け加える。でも小声で「とてもいい・・・どうでもいい・・・どうでもいい・・・とてもいい・・・」ってブツブツつぶやいて、どっちの言葉がよりしっくりくるか確かめてる。

 

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陪審員もひとによって「とてもいい」と書いたり「どうでもいい」と書いたりしてる。よく見えるの、覗きこめるくらい近づけたから。もう、なんでもいいよって感じ。

 

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そのとき、さっきから手帳に何かをガシガシ書きつけてた王様が突然「静粛に!」って叫んで、手帳の文章を読み上げたの。「法廷規則第42条 身長1マイル以上ある者は法廷を去るべし」

 

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みんながわたしを見てる。

「わたし1マイルもありません」

「ゆうにある」と王様。

「2マイル弱はあろうか」とお妃様まで。

「でも、とにかく、わたし出て行くつもりはありませんから」とわたし。「それにいまのって正式な規則じゃありませんよね、さっき作ったやつですよね」

 

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「なにを、最も古くからある規則ぞ」と王様。

「だったら第1条じゃなきゃおかしいじゃないですか」とわたし。

王様の顔が青ざめて、パッと手帳を閉じちゃった。「評決を」陪審員に向かって言う声が、小さくふるえてた。

 

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「お待ちくだされ、陛下!まだ証拠が残っております」白ウサギが大慌てでピョンピョン飛び跳ねる。「ここにひとつ見つかったばかりのものが」

「なんじゃそれは?」とお妃様。

「まだ開けておりません」と白ウサギ。「しかしどうも手紙のようです、被告人から・・・誰かに宛てられた」

 

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「無論そうであろう」と王様。「誰でもないものに宛てたものでないのなら。そういった手紙は普通ありえぬものよな?」

「で、誰宛なんです?」と陪審員のひとり。

「誰宛でもありませんな」と白ウサギ。「事実、おもてにはなにも書かれておりません」そう言いながら手紙を開いた。「おやおや、手紙じゃない・・・こりゃ詩です」

 

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「被告人の手書きですか?」と、別の陪審員。

「いや、違いますな」と白ウサギ。「ふむ、そこがキミョー奇天烈このうえない」(陪審員席はみんな頭を抱えちゃった)

「だれかの筆跡を真似たに決まっておろう」とお妃様。(陪審員たちの顔がパッと明るくなった)

 

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「おそれながら陛下!」ハートのジャックが口を開いた。「私は書いておりません、それに私が書いたという証拠にもなりません。あとがきの署名もないではありませんか」

「署名をしていないとなれば」と王様。「ことが悪くなる一方じゃ。心にやましいものがあったのであろう、さもなければ正直者らしく署名をしたはずだ」

 

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これには法廷中が拍手喝采だった。王様、今日はじめて冴えてるみたい。

「有罪の動かぬ証拠じゃな」とお妃様。「さあ首を」

 

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「それのどこが証拠なの!」とわたし。「待ってよ、まだ詩の内容も聞いてないのに!」

「読み上げよ」王様が命令する。

白ウサギが眼鏡をかけた。「どこからはじめましょうか、陛下?」

「頭からだ」王様はどっしり構えている。「そして終わりまで読み上げたのち、やめるがよい」

 

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法廷は静まりかえって物音ひとつしない。そんななか白ウサギが詩を読み上げはじめた。

 

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「あの子に会ったって連中に聞いたよ

 ぼくのことあいつに教えたそうだな

 あの子ぼくの評判を立ててくれたよ

 でも泳げないことまで言うとはなあ

 

 ぼくが居残ってるってあいつが広めた

 (みんなわかってたけどさ実際)

 もしあの子があれを推し進めたら

 きみはどうなっちまうんだい

 

ぼくがあの子にひとつやり、連中があいつにふたつやり

きみからはぼくらにみっつ以上

連中があいつから取り返し、受け取ったのはきみひとり

だがもともと全部ぼくのだろう

 

ぼくかあの子が偶然のきっかけで

この件に関わることになったとしよう

あいつはきみを頼るさ、連中の自由をかけて

まったくあの頃のぼくらのよう

 

ぼくの考えじゃ君なんだわ

(あの子が癇癪を起こす前に)

割って入ってきたおじゃま虫は

あいつと連中とそいつの間に

 

あの子の一番が連中だってこと

あいつに言うなよ、これは秘密だ

他のだれにも気づかれぬこと

ぼくときみとで隠し通すんだ」

 

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「これぞまさしく証拠の中の証拠!」王様が手を揉みながら言う。「かくなる上は陪審員に・・・」

「だれかいまの詩を解釈できたの?」と口を挟むわたし。(この数分の間にまた大きくなってたから、もう王様の話をさえぎるのも全然へーき)「できたら6ペンスあげたっていい!わたしには1ミリだって意味があったとは思えない!」

 

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陪審員がまた一斉に黒板に書きつけていく。『Alice♡氏は1ミリだって意味があったとは思えないという』

でも実際だれひとり詩の解釈をしようとはしない。

 

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「意味がないのなら」と王様。「なにをてこずることがある、なんの発見もいらんのだからな。とはいえ・・・」そう言って王様は膝のうえに詩を広げ、片目をこらしてじっと眺めた。「どうも、意味がまったくとれぬというわけでもなさそうだ。『泳げないことまで言うとはなあ』とある、つまり貴様は泳げぬのだな?」王様がジャックに向き直って尋ねる。

 

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ジャックは悲しそうに首を振って言う。「そんなふうに見えますか?」(まあ無理でしょ、だって厚紙でできてるんだし)

 

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「順調、順調」そう言って、王様は詩のつづきをボソボソつぶやいた。「『みんなわかってたけどさ実際』・・・むろん陪審員のことよな・・・『もしあの子があれを推し進めたら』・・・これは我が妃に相違ない・・・『きみはどうなっちまうんだい』・・・どうなっちまうのか、まったく!・・・『ぼくがあの子にひとつやり、連中があいつにふたつやり』・・・なるほど、つまりこれこそ貴様がタルトにはたらいた所業であろう、どうじゃ・・・」

 

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「でもその続きは『連中があいつから取り返し、受け取ったのはきみひとり』でしょ」とわたし。

「ゆえに、いまそこにあるわけだ!」王様は一本取ったって顔でテーブルのタルトを指差した。「これほど明白な事実もあるまい!どれ、続きは・・・『あの子が癇癪を起こす前に』・・・癇癪を起こしたことなどあるものか、なあ?」とお妃様に問いかける王様。

 

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「無論じゃ!」そう言いながらお妃様はカンカンになって、インク壺をトカゲ目がけて投げつけた。(かわいそうなビルはもう指で書くのをあきらめてたんだけど、だって書いたって跡が残らなかったからね、でもインクが使えるようになってまたあわてて書き出したの、顔から垂れてくる分でがんばるみたい)

 

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「言葉通りにはいカンシャク」王様はニヤニヤ法廷を眺めまわす。しーーん。

 

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「ダジャレだ!」機嫌を損ねた王様がそう言うとみんな笑い出した。「さあ陪審員諸君、評決を」と王様。このセリフ、たぶん今日20回目だと思う。

 

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「ならぬ!」お妃様がさえぎった。「判決が先じゃ!評決はあとでもよい!」

「わけわかんないこと言わないでよ!」わたし叫んじゃった。「判決が先ってどういうつもり!」

「おだまり!」と顔を紫色にしたお妃様。

「だまんない!」とわたし。

「こやつの首をはねよ!」お妃様が叫び倒す。でも誰ひとり動かなかった。

 

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「だれがあんたの言うことなんか」(わたしはもうすっかり元の大きさに戻ってた)「ただのトランプのくせに!」

その瞬間トランプたちが一斉に高く飛び上がったと思ったら、わたしめがけて降り注いできたんだ。わたしは、ビビったのとムカついたのが混ざった小さい悲鳴をあげて、バシバシはたき落とそうとしたんだけど、気がついたら岸辺に寝そべってた、お姉ちゃんが膝枕してくれてて、それから落ち葉をそっとはらいのけてくれてたの、梢からひらひらわたしの顔に落ちてきたのを。

「起きて、アリスったら」お姉ちゃんの声だ。「ったくもう、いつまで寝てると思ってるの!」

「うん、なんかすごく変な夢見ちゃった」

 

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それからアリスが話してくれたんです、思い出せる限りの不思議な冒険の数々、あなたもご存知のね。アリスが話し終わると、わたしアリスにキスをして、「ほんと、変な夢。でももうお茶の時間だからね、急がないと遅刻だよ」するとアリスはむくっと起き上がって走っていきました。走りながら、ほんとにすごい夢だったなぁなんて、思い返しているんだろうなあ。

わたし座ったままアリスを見送ってから、頬杖ついて沈む太陽を見つめて、幼いアリスの不思議な冒険の数々のことを思い浮かべていたんですが、なんだかわたしまで夢を見てたみたいで、それっていうのもね・・・

最初に現れたのは幼いアリスで、さっきのように小さな両手を膝の上で握りしめて、きらきら輝く眼で私の目を見上げていて、声はアリスの声そのもので、首をさっと振って乱れた前髪を払うちょっと変わった癖まで目に浮かんで、あの子いつも髪の毛が目にかかっちゃうから。それからじっと耳を傾けていると、聞こえるような気がするだけですかね、幼い妹の夢の中のヘンテコな住人たちの息遣いが、ほら、そこかしこに。

白ウサギがいそいで駆け抜けていく草むらのカサカサ鳴る音とか、こわがりのネズミがすぐそこの池をバシャバシャ渡る音とか、三月ウサギとその友達がいつまでも終わらない食事をつづけてカチャカチャ立てるティーカップの音とか、かわいそうな客人に次々と処刑を命じるお妃様の甲高い声とか、ほらまた公爵夫人の膝の上でブタの赤ちゃんがくしゃみしてる、ガシャンガシャン砕ける音はお盆やお皿ね、ほらまたギャアギャアうるさいグリフォン、キーキー鳴るトカゲの黒板と鉛筆、制圧されたモルモットのキューキュー鳴く苦しそうな声、そんな音がいっぱいに響いて、どこか彼方から聞こえる哀れなウミガメモドキのすすり泣きが絡み合う。

座って目を閉じると心の半分は不思議の国にいるような気がする、でもわかってる、閉じた目はまた開けないと、そしてすべてが退屈な現実に早変わり、でしょ。草むらのカサカサは風の音、湖に波紋が浮かぶのは揺れる葦のせい、カチャカチャ鳴るティーカップはチリンチリンと鳴る羊の鈴、お妃様の金切り声は羊飼いの呼び声、赤ちゃんのくしゃみもグリフォンの喚きも、不思議な音のざわめきはぜーんぶ(そうでしょ)ごちゃごちゃうるさい農場の大騒ぎ、ウミガメモドキのおおげさなすすり泣きだって遠くの牛の鳴き声よ。

最後にわたしが想像するのは、夢の中の幼い妹が、将来どんな大人の女性になるのだろうっていうことでした。この子がどんなに大きくなっても、素直でやさしい少女の心をわすれないでいてくれるだろうか、と。そしてこの子は自分の幼い子どもたちに囲まれて、みんな目をきらきら輝かせる不思議な物語の数々を話して聞かせるの。たぶんそれは遠い昔の不思議の国の夢物語。子どもたちの素直な悲しみを一緒に悲しみ、素直な喜びを一緒に喜び、思い出すの、子どもの頃、あの幸せな夏の日々

 

 

 

きらきら輝く昼下がり

 舟はゆったり水面をすべり

少女らオールを手にとって

 ばしゃばしゃはしゃぐ船長気取り

幼いおててで、面舵ー!取り舵ー!

 気ままな船路はみぎひだり

 

 

おお、残酷な三人姉妹!

 夢見のひとときかくもはかない

お話ししてよとお願いされて

 物語の息吹そよとも吹かない

だってみじめなこの声ひとつじゃ

 3人のおしゃべりに歯が立たない

 

 

一番えらい長女はせっかち

 「はやくはじめて!」とのご命令

次女はもう少しやさしいけれど

 「とびきりおかしなやつをお願い!」

三女はお話のじゃまばかり

 ちっともだまっちゃいられない

 

 

でもね、それも今にピタッと止んで

 夢中になって追いかけていく

夢で織られたあの子と巡る

 なんでもアリの不思議の王国

鳥や動物とおしゃべりしてると

 ウソもマコトになっていく

 

 

やがて物語が底を尽き

 不思議の井戸も枯れてしまえば

くたくたの語り部はあの手この手で

 なんとか話を変えねばと

「つづきは次の」「1分後ね!」

 きゃっきゃと騒げば逃げ場なし

 

 

こうしてひとつずつ実っていった

 不思議の国の物語

奇妙奇天烈に仕上げた数々も

 これにてめでたく締めくくり

陽気な舟乗りさん、帰りましょう

 沈みゆく夕日を頼りに

 

 

アリス!子どもっぽいお話だけど

 どうか優しく受け取ってちょうだい

そして幼心の夢で編んだ

 思い出の帯にしまってちょうだい

まるで遠国で摘んで萎れた

 巡礼者の花輪みたいに

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(第12回 最終回 了)

 

 

* 『アリス失踪!』は毎月09日に更新されます。

 

 

 

 

 

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■