アリス失踪!_11_cover_01ポスト・モダニズム時代において、オリジナルからの引用・二次創作・パラレル創作の問題は避けて通れない。ならば翻訳とはなにか、翻訳はどこまで創作の謎に近づき得るのか・・・。英文学者で演劇批評家でもある星隆弘が、『不思議のアリス』の現代的新訳に挑む!。文学金魚奨励賞受賞作。

by 星隆弘

 

 

 

 

 

第11回 タルト盗み食い犯をさがせ!

 

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王様とお妃様はもう席についていた。まわりはすごい人だかり。っていうかいろんな小鳥や小動物。それにトランプたちも1から13まで勢揃いしている。

 

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王様たちの前にぽつんと立っているのはハートのジャック。鎖にかけられて右と左に一人ずつ兵隊がついてて、がっちりガードされている。王様のかたわらに白ウサギ。片手にラッパ、もう片っぽの手には羊皮紙の巻物。法廷の真ん中にはテーブルがあって、大きなお皿にタルトがいっぱい盛られている。すごくおいしそう!

 

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見ているだけでわたしもうおなかペコペコ。裁判が終わったら配るのかな?配るよね?なんかそういう空気じゃないかもだけど。わたしはじっくりあたりを見回す。ヒマだしね。

 

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法廷入るのははじめてだけど、本で読んでたからさ、自慢じゃないけど誰がなんなのかだいたい知ってるんだわたし。まずあれが裁判官。でっかいカツラをかぶるんだよね。王様が裁判官を務めるみたい。カツラの上に王冠を乗せてる。(画像を見たらどんなだったか想像できるかな)なんかしっくりきてないみたい。似合ってないもんなー。

 

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あっちにあるのが陪審員席。12名の生き物が席についている。(「生き物」でひとまとめにするしかないよね、動物も鳥も混ざってるんだもん)陪審員名列者っていうの。ばいしんいんめいれつしゃ、つい何度も言いたくなる言葉だよね、知ってるとかっこいいもん。

 

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だって考えてみて、わたしと同い年くらいの女子でこの言葉の意味を知っている子なんていないよ、まじで。まあ、陪審員だけでもわかるからいいんだけど。

 

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12名の陪審員名列者はみんな一心不乱に手元の黒板になにか書き付けている。

「あれ、なにをしているの?」

グリフォンにこそっと聞いてみた。

「まだなにもメモすることないでしょ、裁判始まってもいないのに」

「自分たちの名前をメモしてるんだよ」

グリフォンはそっと教えてくれた。

「万が一裁判の途中で名前を忘れるのが心配なんだな」

 

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「バカ丸出しじゃん!」

つい大きな声になっちゃって慌てて口を閉じた。「法廷内は静粛に!」って白ウサギに叱られちゃって。王様はさっと眼鏡をかけて不安そうにきょろきょろ見回して、いましゃべったのが誰か探してる。

 

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ここからでも、後ろから肩越しにのぞいたときみたいによく見える。陪審員名列者がみんな一斉に「バカ丸出しじゃん!」と黒板にメモしてる。しかも一匹は「丸出し」の字がわからなくて、隣にきいてる始末。こんなんじゃ裁判が終わるまでに黒板がメモでめちゃくちゃになっちゃう。

 

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鉛筆の音がきーきーうるさいやつもいるし!わたしそれが我慢できなくて、法廷をぐるっと回ってきーきー犯の席の後ろまで行ってさ、隙を見てさっと鉛筆を取り上げてやったの。それが早業すぎて、小さなきーきー犯は(しかもこいつビルだったの!あのときのトカゲ!)今なにをされたのかわかってないの。そこら中ひっかき回しても鉛筆はないし、もうしょうがないからあとは指で書くしかなくなって。でも指じゃちっとも役に立たないよ、黒板にあとが残らないもの。

 

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「紋章官は起訴状を読み上げよ」

王様が口を開いた。それを合図に白ウサギがラッパを3回吹き鳴らして、羊皮紙の巻物をほどいて読み上げた。

 

「妃殿下の御手製タルト

 夏の1日掛かりのお料理を

 ハートのジャックが見つけると

 まるごといただき毎度あり!」

 

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「評決を申せ!」

王様が陪審員席に向かって言う。

「いえまだ!まだです!」

白ウサギがあわててさえぎる。

「その前にまだたくさんすることが!」

「最初の証人を喚べ」と王様。白ウサギはまた3回ラッパを吹き鳴らすと、「最初の証人は前へ!」と声を上げた。

 

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最初の証人って、あの帽子屋さんだった。片手にティーカップ、もう片っぽにはバターを塗って食べかけのパンを持ったまま法廷に入ってきた。

「おそれながら陛下、このようなものを持ち込みましたのはですね、召喚された折はまだお茶の途中だったもので」

「そこで切り上げてくるべきだったな」と王様。「いつからやっておる?」

 

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帽子屋は三月ウサギを見る。ヤマネと腕を組んで法廷までついてきてたみたい。

「たしか3月の、14日からかと」と帽子屋さん。

「15日だ」と三月ウサギ。

「16日かも」とヤマネね。

「書き留めよ」

王様が陪審員席に命じると、一斉に3つの日付を黒板にガリガリと書き付けて、さらに足し算してお金に換算する。

 

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「まず頭の帽子を取れ」

王様が帽子屋さんに命じる。

「これは私のではないんです」と帽子屋さん。

「盗んだのか!」

王様が声をあげて、陪審員席に振り向いた。あっという間に証言記録が取られていく。

 

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「いえ、これは売り物でして」

帽子屋さんが説明する。

「私は帽子など持っておりません。帽子屋ですから」

ここでお妃様が眼鏡をかけて、帽子屋さんをじーっとにらむ。帽子屋さんは顔色がみるみる青くなって、そわそわしちゃって。

 

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「証言を述べよ」と王様。「そうびくびくするでない、この場で処刑されたくなければな」

これじゃちっともはげましにならないよね。帽子屋さんはそわそわと足を踏み替えながら、お妃様のほうをちらちらと見て、ほんと気が動転しちゃったみたいでティーカップをばくっと噛みちぎっちゃった!パンはそっちじゃないよ!

 

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そのとき、わたしもなんだか体がムズムズしてヘンな感じだったの。はじめなんだかよくわからなかったんだけど、ハッと思い出した。わたしの体また大きくなりだしてるんだ。やばい、立ち上がって外に出ないと。最初はそう思ったんだけど、別の考えが浮かんでさ。出来る限りねばってみる。余裕のあるうちは!

 

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「そんなにギュウギュウ詰めないでよ」

隣に座っていたヤマネが言う。

「息がつまるって」

「ごめん、どうしようもないの」

わたしはしずかに答えた。

「わたしおっきくなってるから」

 

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「何の権利があってこんなところでおっきくなってんだよぉ」

まだ文句を言うヤマネ。

「権利とか関係ないでしょ」

わたしははっきり言い返した。

「あんただっておっきくなるんでしょ!」

「そうだけど、無理のないペースってもんがあるだろ。こんなバカみたいに急がなくてもさぁ」ヤマネはそう言うとムスッとして法廷の反対側に移動した。

 

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そうこうしてる間もお妃様は帽子屋さんを睨みつづけていた。ちょうどヤマネが法廷を横切っていくときに、法廷官をひとり呼んで「先の音楽祭の歌い手のリストを持って参れ!」と命じた。
かわいそうな帽子屋さん!これを聞いて震え上がった拍子に、靴が両方とも脱げちゃった。

 

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「証言を述べよ」

王様がムッとして繰り返す。

「さもないと処刑だぞ、びくびくしようが堂々と居直ろうが」

「陛下、私はみじめで貧しい男なんです」

帽子屋さんがブルブル震える声でうったえた。

 

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「お茶会もとんとご無沙汰だったもので、一週間かそこらはやっていませんでしたし、やったらやったでパンが薄くなるばかりですし、キラキラ光る紅茶の・・・」

「キラキラ光る何だと?」と王様。

「紅茶です。糸へんにエの」

「綺羅綺羅が糸へんなのはわかっとる!」

王様が怒鳴ってさえぎった。

「愚弄する気か、貴様。して、続きは!」

 

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「はい、私はみじめな男でして」

帽子屋さんは証言を続けた。

「いとヘンなものなんてのはたいていキラキラ光るもんですから、まあそれもこれも三月ウサギが言ったことでして」

「はあ!?おれじゃないよ!」

三月ウサギが大慌てで割ってはいる。

「言っただろ!」と帽子屋さん。

「言ってない!」と三月ウサギ。

「言ってないと申すぞ」と王様。「まあ、そこはもうよい」

 

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「ではここはヤマネが言ったということにしまして」

帽子屋さんは先を続けながら、ヤマネも否定するんじゃないかときょろきょろ様子をうかがってた。でもヤマネは黙ってる。ていうか寝てる。

「そういうわけでして」と、帽子屋さん。「私はパンをもう少し切り分けてバターを塗りましてね・・・」

「ヤマネはなんて言ったんです?」

陪審員席から質疑がはいった。

 

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「記憶にありません」と帽子屋さん。

「記憶になければ処刑だぞ」と王様。

追い詰められた帽子屋さん、ティーカップもパンも落っことし膝からくずれ落ちちゃった。

「陛下!私はみじめで貧しい男なんですよ!」

「たしかにお粗末な話しぶりだな」と王様。

 

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この切り返しに一匹のモルモットがはしゃいで野次を飛ばしたの。そしたらすぐに法廷官たちに征圧されちゃった。(征圧って難しい言葉だよね、つまりなにをしたのかっていうと、法廷官たちがキャンバス生地の布袋を持ってきてね、紐で口がしばれるやつ、そこにモルモットを頭から押し込んで、その袋の上にドカッと座りこんだわけ)

 

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すごいもの見ちゃった。新聞によく書いてあるやつだ、裁判の終わりになるといつも「歓声の野次を飛ばしたものは即刻法廷官の手で征圧された」っていうくだりがあるけど、どういうことなのかやっとわかった!

 

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「他にはなにも知らぬというのならそこから降りよ」と王様が続けた。

「降りようにも降りれませんよ」と帽子屋さん。「床に立っておりますので、ほら」

「ならば腰を降ろせ」と王様が切り返す。

また一匹モルモットが野次を飛ばして征圧された。

 

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もうモルモットは残ってないし、これで裁判がさくさく進みそう。

「お茶会に戻ってもよろしいので?」と帽子屋さん、チラチラとお妃様の様子をうかがってる。お妃様はまだ歌手のリストを見てた。

「かまわぬ」

王様のお許しをもらうと、帽子屋さんは靴を履く間もなく法廷を飛び出していった。

「外で首をはねておけ」

お妃様が法廷官に言いつけた。でも法廷官が外に出たときにはもう帽子屋さんは影も形もなかった。

「次の証人を喚べ」と王様。

 

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次の証人は公爵夫人の料理番だった。手にコショウ入れを握って入ってきたんだけど、入る前からピンときてたよ。だって扉の近くにいた人たちが一斉にくしゃみし出したからね。

「証言を述べよ」と王様。

「やなこった」と料理番。

 

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王様は気まずそうに白ウサギを見た。白ウサギが小声で伝える。

「こやつを反対尋問なさいませ、陛下」

「うむ・・・せねばならんというならするが」

王様はユーウツそうに答えて、腕を組んだり、しかめっ面で料理番を睨んだりしてるけど、そんなに目を細めてちゃんと見えてるのかな。重々しい声でようやく言った。

 

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「タルトの材料はなんだ?」

「コショウ、ほぼね」

あと水あめ、と料理番の背後から眠そうな声がした。

「あのヤマネを捕らえよ!!」と、お妃様がキンキンわめく。「首をはねよ!つまみ出せ!ふんづかまえろ!つねりあげろ!ヒゲをむしり取れ!」

 

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それからはヤマネを追い出すのに法廷じゅう大騒ぎして、ようやくみんな席に戻ったと思ったら、料理番の姿もないの。

「ほうっておけ!」と王様。なんか心底ほっとしているみたい。

「次の証人を喚べ」

それからお妃様にひそひそと耳打ちしてた。

「ねえ頼むよ、次の証人への反対尋問は代わりにやってよ。しかめっ面のせいでおでこがズキズキしてきた!」

 

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白ウサギが証人のリストをガサゴソとひっかき回すのを見ながら、わたしも次の証人が誰なのか考えてドキドキしてた。まだまともな証言も出てきてないし。そしたらさ、おどろくよ、白ウサギが甲高い声をはりあげて誰の名前を読み上げたと思う?

 

「Alice♡!」

 

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(第11回 了)

 

 

* 『アリス失踪!』は毎月09日に更新されます。

 

 

 

 

 

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■