ゆめのかよひじ_No.07_cover_01おとうさんがいなくなった。あたしにはその理由がわからない。おかあさんは仕事で疲れて不機嫌で、おにいちゃんは毎日テレビばかり見て過ごしている。あたしがおとうさんに会えるのは夢の中でだけ。でも夢の中には〝やみ〟がひそんでいる。あたしは今日も夢の中でおとうさんを探し求める。

純文学エンターテイメント作家遠藤徹による、全編ひらがなの幻想的リアリズム小説!。

by 遠藤徹

 

 

 

こうつうじこびょうとう(前編)

 

 つぎにとしょかんのゆめをみたのは、それからみっかごのきんようびでした。

 さいしょにおもったのは、あくむじゃなくってよかったということでした。こんやはいやなおもいをしなくてすみそうです。だって、またとしょかんにこれたんですから。

 

 もしかしたら、かなさんとなかなおりできたせいかもしれません。あのひから、かなさんとはおはなししていなかったのですが、きょう、こうがいがくしゅうでいっしょのはんになったのです。

 こうがいがくしゅうのもくてきは、あきをみつけることでした。「あきひろいたい」にはいったあたしは、きれいなあかやきいろのはっぱをあつめたり、いろんなしゅるいのどんぐりをひろったりしました。いちばんのおきにいりは、すごくきれいなきいろをしたイチョウのはっぱでした。おとこのこたちは、あきのむしをつかまえるんだとはりきっていましたが、アカトンボやコオロギくらいしかみつからないようでした。かなさんは、どういうわけか、「むしみつけたい」にはいらされていました。

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 「ねえ、あれ」

 どんぐりをひろっていると、かなさんがあたしのせなかををちょんちょんとつつきました。

 「なあに」

 みると、くさのうえにおおきなカマキリがいました。

 「ねえ、カマキリってあきのむしかな」

 かなさんがきいてきました。そういえば、あきになるとあたしのいえのまわりで、カマキリがたいりょうはっせいするのでした。ときには、みちでしんでいるのをみかけます。おしりから、くろいいとのようなものがでていることもあります。おとうさんにきくと、

 「ああ、あれはハリガネムシだよ」

 とおしえてくれたのをおもいだします。

 「ハリガネムシ?」

 「うん」

 「むしのなかに、むしがはいってるの?」

 「そうなんだ。おもしろいだろ」

 きせいちゅう、っていうしゅるいのむしなんだ、っておとうさんはおしえてくれました。むかしは、にんげんのからだのなかにも、よくきせいちゅうがくらしていたのだそうです。

 

 そんなことを、おもいだしたので、あたしは、うなずきました。

 「うん、そうだとおもう。たぶん、あきのむしだよ」

 「でも、あたしこわい」

 かなさんは、やっぱりむしがにがてなのです。それに、たしかにカマキリはやっかいです。かまではさまれるといたいし、ほんとうにかむのです。あたしもちいさいころ、ゆびをかまれてちがでたことがありました。でも、おにいちゃんにカマキリのとりかたをおしえてもらったのをおもいだしました。おとうさんがいなくなるまえは、おにいちゃんだって、おとうさんとおなじようにむしずきでした。いつも、くらくなるまでそとであそんでいたのです。

 

 「みてて」

 あたしは、そおっとカマキリにちかづくと、せなかのほうにてをのばしました。くびのうしろのところをつかむのです。そうしないと、あのギザギザしたはさみにつかまります。けっこうちからがつよいので、こわいむしなのです。でも、そのいちだけは、どうしたってかまもとどかないし、くちもとどかないのです。

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 ちょっとひやひやしましたが、あたしはなんとかカマキリをつかまえました。すぐにおとこのこたちがきづいて、

 「すげー、すげー」

 とさわぎました。

 「かなさんがみつけたんだからね」

 あたしはそういって、かなさんのむしかごにカマキリをいれました。

 「ありがとう」

 そういって、かなさんはにっこりあたしにほほえんでくれました。

 「このまえはごめんね」

 あたしのくちからも、しぜんにそんなことばがでてきました。

 「ううん、あたしこそ」

 かなさんもあやまってくれました。

 「たすけてあげられなくてごめん」

 「いいよ、ぜんぜん。あたしきにしてないし」

 うそでした。うそでしたけど、あたしはもうだいじょうぶなきがしていました。かなさんと、こうしてまたなかよしにもどれるなら、なにもこわいものはない、そんなきがしたのでした。

 

 「うん、こんやはだいじょうぶ」

 ゆめのなかでも、あたしはちゃんとようびをおぼえていました。そう、こんやはきんようび。あしたはどようびで、がっこうがおやすみなのです。

 「おかあさんもおこしにこないし、いくらねててもだいじょうぶ。おにいちゃんみたいなねむりびょうになってもだいじょうぶ」

 うふふ。あたしうれしくなりました。きょうはおもいっきりぶあついほんをよんでやろうっておもったのです。

 いろんなほんがありました。

 『そらをとぶほうほう』『ぞうのならべかた』『おじぞうさんとあそぶのにうってつけのばしょ』『にじのわたりかた』『しっぱいしない、きょうりゅうのかいかた』『かみさまにれんらくをとるには』『そらをとんだはいいとして、どうやっておりるのか』といったタイトルのほんが、ずらりとならんでいました。どうやら、そこはいろんなことのやりかたや、ほうほうについてかいたほんをあつめたコーナーのようでした。

 あたしは、じぶんがなにをさがしているのかわかりませんでした。でも、このコーナーにしかないとはわかっているのでした。

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 「なんだっけ」

 おもいだそうとしても、むりでした。

 「でも、みればわかる。そくざにわかる」

 あたしは、じぶんにいいきかせました。

 『がんせきのおいしいたべかた』

 がんせき、ってあのかたくておおきないしのことかしら。これはちがうわね。

 『ひきだしのりょうりほう』

 って、どんなのがあるのかしら。ちょっときになったけど、ひらくのはやめました。だって、さがしてるほんじゃなかったからです。

 『みみずりょうりにゅうもん』

 ぜったいちがう!

 りょうりぼんのコーナーがやっとおわりました。

 「このへんかも」

 あたしのかんは、なんてすぐれていたことでしょう。だって、そのほんは、『おともだちのとりかえしかた』というほんのとなりにあったんですもの。ちなみに、『おともだちのとりかえしかた』というほんにはみおぼえがありました。もしかしたら、さくやゆめのなかでよんだのかもしれません。

 「だから、きょうかなちゃんとなかなおりできたのかも」

 ってあたし、はっときづきました。

 いずれにせよ、

 さがしていたほんはそのとなりにあったのでした。

 

 「ああ、これだわ」

 あたしがとりだしたそのほん。タイトルは、

 『おとうさんのたすけかた』

 でした。

 そうなのよ。あたしはずっと、このほんをさがしていたのよ、ってきづきました。

 だって、たぶん、あのひ、かわで、おとうさんは、やみにくわれてしまったのです。あたしをたすけるために、かわりにじぶんがやみのぎせいになったのです。

 あのゆめのいみを、あたしはずっとかんがえていました。そして、あるときそのことにはたときがついたのでした。

 だから、なんとかたすけださなければなりません。

 なにしろ、いま、おかあさんはおとうさんのてきなのです。おとうさんがじこにあったのをよろこぶような、そんなおかあさんなのですから。それに、おにいちゃんはおとうさんのことなんかわすれてるみたいです。いいえ、わすれようとしているのです。ずいぶんと、むりをしているのです。

 となると、おとうさんをたすけることができるのは、あたししかいないじゃないですか。

 

 「さあ、いくわよ」

 あたしは、いきごんでほんのひょうしをめくりました。

 あ、ひょうしはとてもさっぷうけいでした。しろいあつがみのうえに、タイトルがかいてあるだけだったのです。きっと、あれです。だれかとくていのおとうさんのかおをのせたら、とまどうひとがでるからでしょう。だれのかおものせないことで、だれのおとうさんでもないことになります。そして、だれのおとうさんでもないということで、だれのおとうさんでもありうるということになれるのです。そうやって、だれでもが、じぶんのおとうさんをたすけられるようにしてあるのだとおもいます。

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 ひょうしをめくったとたん、あたしはもうほんのなかにはいっていました。そこは、びょういんでした。

 「ここににゅういんしているのだわ」

 あたしはそうおもいました。なにしろ、こうつうじこにあったのです。びょういんいがいにおとうさんが、いるばしょがあるとはおもえませんでした。

 でもそれは、へんなびょういんでした。だって、おいしゃさんたちはみんなトラやら、ライオンやら、オオカミやらといった、どうもうなどうぶつのかおをしていたからです。かんごしさんたちも、あたまにはつのをはやし、くちからはきばをむきだしていました。そして、どのへやからもかんじゃたちのひめいや、なきごえがきこえるのでした。

 「いやだ、やめてくれえ」

 「たすけて、だれかあ」

 これがびょういんでしょうか? どうも、だれもが、ここからにげだしたいとねがっているとしかおもえませんでした。

 「ああ、きみね」

 ひとりのヤマネコのかおをしたドクターが、あかいかおにつのをはやしたナースにいっていました。

 「とてもつよいどくがかんせいしたんだ。ためしに、かんじゃたちにこれをあたえて、くるしむかおをみてやろうじゃないか」

 「それはいいですね」

 あかおにのようなナースはすぐにさんせいしました。わらったくちもとから、とがったきばがにょきっとつきだしました。

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 「で、どんなどくなんです、ドクター?」

 「ああ、そうだね。さんだんかいのこうかがあるんだ。まずとてもつよいいたみがぜんしんをせんぼんのやりのようにつらぬく」

 「まあ、すてき」

 「それから、みにくいイボイボがからだじゅうからふきだしてくる」

 「じょせいむけですわね」

 とくに、きどった、よんごうしつのマダムになんかいいですわとナースはにかにかっとわらいました。

 「でもおもしろいのはそこからなんだ」

 「へえ」

 まだあるんですかと、ナースはきたいしてドクターのぎざぎざしたはがならんだくちもとをみつめました。

 「うん、そのイボがだんだんよりあつまってね」

 「はい」

 「くっつきあって、おもちみたいにふくらんで」

 「はいはい」

 「かおになるんだよ」

 ブラボーと、かんごしはパチパチてをたたきました。

 「ああ、つまり、じんめんそですね」

 「そうそう、それそれ、じんめんそだよ」

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  いいこというねと、ドクターはナースのつのをなでてやりました。そうされるときもちいようで、ナースはうっとりしたかおつきになりました。

 「それで、からだのあちこちにできたじんめんそが、びょうにんにむかってわるくちをいうんだ」

 「それはそれは」

 「うん、それはもうくちをきわめたわるくちでね。そのかんじゃにとっていちばんいわれたくないことばを、からだのなかからすくいあげてきて、つぎつぎといいまくるのさ」

 「ブラボーです。べらぼーにブラボーです」

 きばのはえたくちをおおきくひらいて、かんごしはぱちぱちてをたたき、ぴょんぴょんとびはねました。

 「おほん」

 ドクターはせきばらいしました。

 「わたしがかいはつした、あたらしいくすりってわけさ」

 ドクターはとくいげでした。

 「さっそく、しょほういたしますわ。ちゅうしゃきでぐびぐびいれてやります」

 まずはよんごうしつのマダムからと、かんごしはよろこびいさんでさっていきました。

(第07回 了)

 

* 『ゆめのかよひじ』は毎月03日に更新されます。

 

 

 

 

 

■ 遠藤徹さんの本 ■

贄の王 姉飼 角川ホラー文庫

 

 

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