月まで_05_cover_01「僕が泣くのは痛みのためでなく / たった一人で生まれたため / 今まさに  その意味を理解したため」

「僕」は観念として世界に対峙する。孤独から滲む透明な抒情──。「僕」とは切り取られた世界そのものでもある。画像によって喚起されたペルソナ手法による、小原眞紀子の連作詩篇。 

by 小原眞紀子

 

 

 

 

 

誰もが夢見ることではあるが

見上げた木の上によじ登り

ぶら下がって暮らしたい

頭の上にはいつも空

行き過ぎる人を見下ろして

揉めごとにはコメント

嬉しいことは先を見透し

すずしく揺れている

君の言葉は

それでも僕を突き刺すのさ

なぜなら肉がある

湿気と光をぞんぶんに吸い込んだ

ふっくらと黄金に輝く肉が

僕を幻想じゃなくする

ただ日課として

夢のような夕陽に涙して

風が吹くたび乾かされ

じょじょに象徴と化す

宙ぶらりんの

それなりの実りの

食い繋ぐ希望を繋ぎに繋ぐ

現世の生りもの

君の手に落ち

薄く皮を剥かれたら

芯を割ってみせよう

君の舌に溶ける

心意気こそを

果報者とひとはささやく

ぶら下がる夢である

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覚えている気がするのは

立ち上がった日

大きな笑顔に囲まれて

僕は足もとを見た

膝がゆらゆらして

足指が涙のかたちに広がる

歩くというのはそういうことだと

誰かが言った

生まれてきた日からの

透明な涙とは違う

かなしいと

うれしいと

ふた色の涙を流しながら

左右にゆらゆら揺れて歩く

暮らすというのはそういうことだと

でも僕は知っていた

足は立ち止まるためにあり

靴は立ち止まった場所の印だと

脱ぎ捨てて

足指を干せば

陽が降りそそぎ涙も乾く

立ち上がるときに

小さくなった靴は置いていく

新しい靴は足に合わないけれど

痛くてまた涙が出るのだけれど

誰かが遠くに立っているのがみえる

手に持っているのは絆創膏だろうか

立ち止まるときを夢みて

あそこまで行かなくてはならない

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男の子は球を追っかけ

転がる方向で考える

ばかだからだと

女の子は言う

そうかもしれない

身体の外に脳みそがあって

球が転がると

あっ、と走っていく

行ったり来たり

球といっしょに目線がゆれて

日が暮れる

夜は寝る

空に黄色い球がかかると

起きてくる

じぐざぐに

大きな球の上を歩いて

小さな球を掴もうとする

その意味もない痕跡を

誰かが見つめ、記録していると

わけもなく信じ、たいてい玉砕する

女の子はいつもノートを開いているのに

男の子は砕け散ると地にまみれ

自分の身体で記すしかない

球を掴んだと思ったことを

手からこぼれて転がったことを

女の子って球と似ている

真芯で捉えて打ったと思うと

空の果てに消えてゆく

やっぱり読めない文字みたいに

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写真 星隆弘

 

* 連作詩篇『ここから月まで』は毎月05日に更新されます。

 

 

 

 

 

 

■ 小原眞紀子さんの本 ■

水の領分 メアリアンとマックイン

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■