月まで_04_cover_01「僕が泣くのは痛みのためでなく / たった一人で生まれたため / 今まさに  その意味を理解したため」

「僕」は観念として世界に対峙する。孤独から滲む透明な抒情──。「僕」とは切り取られた世界そのものでもある。画像によって喚起されたペルソナ手法による、小原眞紀子の連作詩篇。 

by 小原眞紀子

 

 

 

 

 

君は布でできている

一枚か数葉か

縫われているのか重なっているのか

それをただ気にするだけだし

互い違いに色を変えるけど

ようは布でできている

君の気分も

君の言葉も

だからいつも軽くて

僕もいっしょに舞う

くるくると

あちら側とこちら側にはためく

君がいるとき

僕はいなくて

僕がいるとき

君はいなくていい

冬から春へ

紐がほどけて

四分の一ほどずり落ちる

スカートの裾をたくし上げたら

風がそよいでいる

君のいたところに

スミレとたんぽぽが咲いている

花模様のギャザーが寄った

野辺の小道を僕はゆく

ニットのような日の温もりに

シルクのような川のせせらぎ

店に着いても誰もいない

幸福な空っぽの君が待つばかり

月まで_04_01

 

 

 

 

この星には陽が射す

何億年も前から

地は白く晒されて

すべてを剥ぎとられ

僕は目を細める

水平線にはためく帆のような

洗濯物を遠方にみとめ

おーいと呼ぶ

その家はどんな船

どこへ向かっている

人々は指さしてわらう

キだ

キの印が浮かぶ

きいろい顔が輝き

手足をばたつかせる

脳が焼きつくと

窓ガラスがくだけ散る

空いっぱいに輝き

降りそそぐ

枯枝の先で

歳月は墓碑銘を刻み

僕は脇目もふらず

壁を叩いている

船に乗るために

陽のあたる桟橋は僕のために

僕を地の果てに連れてゆくために

僕は叫んでいる

輝きながら

キの形に貼りついて

月まで_04_02

 

 

 

 

猫はだいたい丸でできている

耳だけが尖っている

丸でできているのは

転がるためであるが

消えるためでもある

まずは中心を見つめ

目玉を寄せてゆく

輪郭があやふやになって

耳のとんがりがぎざぎざする

ふちが点線になると

自分で自分を切り抜くみたいに

猫型の穴になる

塀の上に

残っているのは僕の顔

にたにた笑って

穴に肩まで突っ込んで

猫を探す

僕の猫 君の猫 貴殿の猫 手前の猫

先の猫 右の猫 足元の猫 宙に浮く猫

なべて猫だらけ

なべて◯だらけ

見つめて目が合うと

どちらかが消える

僕か猫が点滅しはじめて

にたにたする

曇り空の下

地面の上と塀の上に

点線でなぞられた

存在が二つある

月まで_04_03

写真 星隆弘

 

* 連作詩篇『ここから月まで』は毎月05日に更新されます。

 

 

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■ 小原眞紀子さんの本 ■

水の領分 メアリアンとマックイン

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■