ゆめのかよひじ_No.05_cover_01おとうさんがいなくなった。あたしにはその理由がわからない。おかあさんは仕事で疲れて不機嫌で、おにいちゃんは毎日テレビばかり見て過ごしている。あたしがおとうさんに会えるのは夢の中でだけ。でも夢の中には〝やみ〟がひそんでいる。あたしは今日も夢の中でおとうさんを探し求める。

純文学エンターテイメント作家遠藤徹による、全編ひらがなの幻想的リアリズム小説!。

by 遠藤徹

 

 

 

とげとげひめとべたべたおうじ(後編)

 

 「もういいだろう。むすめをかえしてくれ」

 のおふろにはいってきたようなきこりがたんがんしました。

 「だめだだめだ。さっきのは、おてなみはいけんしただけだからな。いっそのこと、まわりじゅうのくにのおしろをたたきわってきてもらおうじゃないか」

 「もうむりだ」

 きこりは、むねがくるしそうでした。からだじゅうからがしたたり、をすいすぎたおのはまっかにそまっていました。これまでのじんせいで、ねずみいっぴきころしたことがなかったのに、きょうになっていっぺんにあんまりおおくのいのちをうばってしまったのです。そのことで、きこりのむねはなんびゃっかいもおのできりつけられたようにいたんでいたのでした。

 「じゃあ、おわかれだな。おまえのむすめとも」

 こんどはむすめはなきませんでした。ひのついたかなぼうをあてられても、みずおけにあたまをつっこまれても、どくへびのおりにいれられても、それでもむすめはかたくくちをつぐんでがまんしました。おとうさんのくるしみがつたわったからです。おとうさんがつらくてくるしくて、なくこえがきこえたからです。おおきなこえではありません。こころのなきごえです。それが、むすめにははっきりきこえたのでした。

 「ないちゃだめだ。おとうさんがくるしいばっかりになる」

 むすめはそうけついしました。だから、おうさまがいくらむすめをいためつけても、もうむすめはひめいをあげませんでした。

 でも、きこりにはちゃんとつたわっていました。むすめのちちおやをおもうきもちが、いたいほどつたわったのでした。

 「おお、むすめよ。すまない」

 きこりは、しろのまえにひざまづきました。

 「わたしがふがいないばかりに、おまえにつらいおもいをさせてしまった。なまじわたしに、ひとなみはずれたちからがあるからいけないのだ。おおきなちからがあるから、これをりようするやつがでてくるのだ。だから、むすめよ、すまない。ちからばかりつよくて、むすめひとりまもってやれないちちをゆるしておくれ。こうするしかなかったのだ、と」

 きこりは、おのをふりあげました。しろをまっぷたつにされると、おうさまをはじめとした、いちどうはふるえあがりました。むすめだけがにっこりほほえみました。

 「それでいいのよ、おとうさま。あしでまといなあたしごと、このわるいおうさまをやっつけてちょうだい」

 おのがふりおろされました。

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 でも、まっぷたつになったのはおしろではありませんでした。なんと、きこりはじぶんをきったのです。じぶんをまっぷたつにきってしまったのでした。

 「なんと」

おうさまはあっけにとられました。じぶんのことしかかんがえないおうさまには、きこりのしたことがりかいできませんでした。

 「なんと、おろかな。なんと、もったいない」

 じぶんのためにはたらかないやつは、おろかものだとおうさまはかんがえました。すっかりはらをたてたおうさまは、むすめをそくざにすてるようにいいました。

 「こんなこむすめ、ころすてますら、もったいない」

 しろからほうりだされたむすめは、ちちおやのからだが、いつのまにかなくなっているのにきがつきました。まっかなおのだけが、じめんにつきささっていました。

 「おとうさんのかなしみ、あたしがひきうけるわ」

 たったひとつのこされたおとうさんのかたみがそのおのでした。むすめは、そのおのをじぶんのからだのなかにいれました。たくさんのいのちをうばったせいで、ふしぎなちからをおびたおのは、すんなりとむすめのからだにはいりこみました。

 そんなおのの、まりょくのせいでしょうか。むすめは、いっきにまじょとなりかわりました。うらみと、にくしみのかたまりとなった、にそまったおのそのもののまじょでした。きることしかしらないおの、にまみれることしかしらないおのでした。こうして、やみのまじょがたんじょうしたのでした。

 

 べたべたおうじのはなしに、おしろのみなはおどろきました。どうりで、まじょがこのくににつらくあたるわけです。なんだいもまえのおうさまがこくどをひろげたのはじじつでした。でも、そのあとのおうさまは、へいわをあいし、となりのくにぐにともなかよくやってきたのです。

 「なんにしても、わるいのは、わがくにということだ」

 おうさまが、かなしげにみとめました。

 「そして、あのまじょは、としよりにみえるが、ほんとうはとしはもいかないむすめなのだ。こころのきずがいえなくて、それどころかいじわるをすればするほど、おのでじぶんのこころがきずついてくるしんでいるあわれなむすめなのだ」

 なんとか、すくってはやれないものだろうか。

 おうさまがいうと、

 「それなら、わたしにかんがえがあります」

 べたべたおうじがにっこりしてこたえました。

 「わたしのあねにきょうりょくしてもらうひつようがありますけど」

 「もちろんかまわないわよ」

 いまではいっこのきょだいなツルギそのものとなった、とげとげひめがこたえました。

 「こんなすがたになったせいかしら。あたし、なにかをさしたくって、なにかをきりたくってしかたがないのよ」

 

 おしろのてっぺんにとがっていたせんとうがとりはずされ、かわりにとげとげひめのツルギがおかれました。ながいツルギが、さんにんのこどもたちをつきさしました。

 「あれ」

 「ぜんぜん」

 「いたくないや」

 こどもたちは、ふしぎそうにいいました。

 「そりゃそうだよ。ひめのツルギは、こころやさしいツルギだからね。さしてるけど、ほんとうはさしてないんだ。きずつけてるようにみえるけど、ほんとうはきずつけてないんだよ」

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 べたべたおうじが、おしえてあげました。

 「いいえ、ちがうのよ」

 とげとげひめがこたえました。

 「あたし、ずっとずっととげとげだった。ちかよるものをぜんぶこばんで、さしてさしてさしてきた。だってこのトゲは、あたしのなかでうまれて、あたしをうんとこさきずつけてからそとにでていくんだもの。あたし、ずっとずっといたいおもいをしてきたから、そのおかえしに、ほかのひとにもおなじいたみをあたえたいっておもってた」

 こどもたちは、とがったツルギのさきっぽからなみだがあふれるのをみました。

 「でもね。それでも、おかあさまはあたしをだこうとなさった。おかあさまのからだはだからきずだらけ。おとうさまだってそう。あたし、それでもやめられなかった。ずっとずっとなにもかもがにくいっておもうきもちからはなれられなかった。だいすきなおかあさまやおとうさまをきずつけてるっておもうと、そんなじぶんがきらいになって、ますますとげとげをとがらせてしまった」

 ツルギのさきからあふれるなみだは、ますますいきおいをましました。

 「それでもおかあさまもおとうさまも、あたしをきらいにはならなかった。『いいのよ。おかあさまは、あなたにさされるのはちっともかまわない。ちっともいたくなんかないわ』『そうとも。たとえこのしんのぞうをつらぬかれて、いのちをうばわれようとも、こうかいなんかしない。だって、それはむすめのトゲなんだから』そんなふうにをながしながら、わらいかわすおふたりだったわ」

 いまやひとふりのするどいツルギとなったひめは、なきつづけ、はなしつづけました。

 「ところが、あるあさ、とくだいのいたみがおそってきたの。これまでたいけんしたことがないほどのいたみで、ひめいをあげてころがりまわってもきえないいたみだった。それもそのはず、あたしがぜんぶうらがえるいたみだったんだもの。つまり、あたしのなかからトゲトゲがうまれてくるんじゃなくって、あたしそのものがトゲトゲになりつつあったの。じぶんがかわるときって、ほんとにつらいのよね」

 ひめのなみだはすこしおさまってきました。

 「そして、いまのすがたになった。せかいのどこをさがしてもないほどするどいツルギに、あたしはなった。それいがいのものではなくなった。そうしたら、もうあたしのなかにいたみはないの。だって、あたしはいたみをあたえるがわなんだから。そうしたらね」

 ふしぎなことがおこったの、とひめはいいました。

 「もう、だれもきずつけたくないって、そういうきもちにはじめてなれたのよ。じぶんのなかのいたみがなくなったからっていっちゃえばそれまでなんだけど、ぎゃくに、じぶんがいたみをあたえることしかできないそんざいになったってきづいたことが、あたしをそういうきもちにさせたんだとおもう」

 「つまり、おねえさまは、せかいいちやさしいツルギになったってことだね」

 べたべたおうじはうれしそうでした。

 「こばむトゲトゲじゃなくって、うけいれるトゲトゲってことだね」

 「そんなかっこいいもんじゃないけど」

 ひめはすこしてれたように、けんさきをゆらしました。そこにはもう、なみだのしずくがすこしのこっているだけでした。

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 べたべたおうじは、さんにんのこどもたちにいいました。

 「でもだめだよ。いたいふりをしてくれなくちゃ。これまででいちばん、つらかったとき、かなしかったとき、くるしかったときのことをおもいだして、せいいっぱいのこえでないておくれよ」

 「わかってるさ」

 いちばんしたのおとこのこがいいました。そのこは、しんぞうをつるぎにつらぬかれていました。

 「ぼくはよくおぼえてる。おとうさまとおかあさまが、ひどいけんかをなさったときのことを。それをみたりきいたりしているとき、ぼくのしんぞうはこわれそうだったんだ」

 「わかっているわ」

 まんなかのおんなのこがこたえました。そのこは、おなかをつるぎにつらぬかれていました。

 「あたし、ちいさいころにおなかのびょうきになったの。いたくていたくて、まいにちないてた。びょういんでしゅじゅつをしてもらってやっとなおったんだけど、あのときのいたみはいまでもおぼえてる」

 「ばぶぅ」

 いちばんうえにつきささっていたのは、あかんぼうでした。そのこは、いまはわらっています。でも、そのこはだれかにすてられたのでした。このくにのさるきぞくのいえのまえに、あるあさ「もうしわけございません」というてがみといっしょにすてられていたのでした。さいわい、そのきぞくにはこどもがなかったので、このこはそのいえのこどもとなることになったのです。でも、いつだってそのこはすてられたときのことをおもいだすのです。そして、どんなにあやしてもなだめても、なきやむことができなくなるのでした。

 

 「じゃあ、はじめようか」

 いまではおしろであり、このくにのりょうどすべてでもあるべたべたおうじがいいました。

 「ええ」

 ツルギになったとげとげひめがうなずき、こどもたちもいっせいになきさけびはじめました。

 ひつうなこえ、むねがはりさけそうなこえ、かなしみできがくるいそうなこえが、よぞらにひびきわたりました。おしろのまわりのひとびとは、それをきいて、むねがくるしくなり、ふさぎこんでしまいました。だって、こどものなきごえほど、きいてあわれをもよおすものはありませんから。

 しばらくすると、とおくのそらがくろいくもにおおわれました。じんじょうのくろさではありません。ひるだというのに、やみがふくれあがったのです。そのやみのなかから、ハゲタカたちがすがたをあらわしました。

 「いいこえだ」

 「しょくよくがそそられる」

 「たまらないねえ」

 しゃがれてかすれたこえがそんなふうにささやくのがきこえました。みれば、ひときわおおきなハゲタカにのっているのは、あのやみのまじょなのでした。

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 「とうとうけっしんしたんだね。こどもたちのどちらかをあたしにささげるけついができたってわけだ」

 まじょは、かなしいかおにほほえみをうかべていました。そういうわらいかたしかできないのです。いつもむねがつかえていて、かなしみとにくしみでむねがいたいからです。

 「さあ、おまえたち、すきにくらうがいいよ」

 まじょは、おしろのやねにおりたち、ハゲタカたちにしょくじをはじめるよういいました。でも、ハゲタカたちはとまどっているようでした。

 なぜって、ふいにこどもたちがツルギからとびだして、げらげらげらげらわらいだしたからです。けたけたけたけたわらいころげはじめたからです。

 「なんだいこれは。いったいこれはどうしたことだ」

 おどろいたハゲタカたちがにげさってしまい、まじょはいかりました。

 「おまえたち、そんなにわらってばかりいるなら、トイレのふたにかえちゃうぞ。それとも、ミミズやゴキブリがおこのみかな」

 あいかわらず、いじのわるいおどしでした。でも、こどもたちはへっちゃらなようでした。

 「へーんだ、おまえなんかこわくないよーだ」

 「かなしいのか、おかしいのかはっきりしてよ、そのかおへんだよ」

 「ばぶーばぶー」

 「なんてこった、このこたち、あたしをこわがらないなんて。それにどういうことだい。このこたちは、おしろのさきっぽにつきさされていたってのに、きずひとつついてやしないじゃないか」

 

 「ようこそ、やみのまじょさん」

おしろがふいにしゃべったので、まじょはおどろきました。でもすぐにそのりゆうにきづきました。

 「ああ、おまえさんか。あたしがべたべたにしてやった、あのおうじだね。そうかい、とうとう、おしろとまでくっついちまったっていうわけかい。まったくごしゅうしょうさまだね。あたしにたべられるっていうんなら、からだじゅうにくっついたよぶんなものをぜんぶとってあげるけどね」

 「それにはおよびません」

 おうじのこえは、どこまでもおちついていました。

 「ほお、なにができるっていうんだい」

 まじょは、おうじをばかにしきっているようでした。

 「ぼくはべたべたおうじです」

 「だからなんだい」

 「だれとでも、なんとでもべたべたできるんです」

 「おお、いやだいやだ。そんなみさかいのないもたれあい、みてられないよ」

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 ほこらしげにいったのは、おうじ。さむイボがでる、とばかりきみわるがったのはやみのまじょでした。

 「あたしゃ、ずっとひとりでいきてきた。だれもしんじず、だれにもたよらず、じぶんだけをしんじて、じぶんだけのちからでいきてきたんだ」

 「さびしかったですね」

 しんそこどうじょうしたこえで、おうじがいいました。

 「つらかった。ほんとうにさびしかった」

 いいえ、まじょのこえではありませんでした。

 たしかに、おうじのこえでした。

 でも、まじょのこえだったのです。

 

 どういうことでしょう?

 

 「おまえ、まさか!」

 まじょのこえはどうようしていました。

 「くそ、こいつめ、はなせ!はなせ!」

 いかりくるってまじょは、つえでおしろのやねをばんばんたたきました。でも、さんかいめにたたいたときに、つえはおしろのやねにべったりくっついてはなれなくなってしまいました。

 そうです、まじょのからだはいつのまにかおしろとべったりくっついていたのです。あしもとから、とてもあたたかいものがずんずんずんずん、ひえきったまじょのなかにはいってきたのです。とてもあかるいひかりが、ぴかぴかぴかぴかしながらまじょのやみをけしさっていったのです。

 そうです。べたべたおうじは、まじょとくっついたのです。そして、まじょのきもちをじぶんのきもちとしてかんじとったのです。だから、まじょじしんがみとめまいとしてきたほんとうのきもちが、おうじのくちからでてきたのでした。

 「ああ、ここですね。あなたのむねのまんなかだ。ここにおおきなおおきなおのが、まみれのおのがささっている。おのはないています。かなしみで、くるしみで、くやしさで、そしてあなたへのいとしさともうしわけなさで、のなみだをながしつづけています。そのおののせいで、あなたのこころはまっぷたつにきりさかれている。こころがこころでなくなっているのです」

 「くそ、あつい、まぶしい。わたしをはなせ。このべたべたやろう。わたしをわたしにもどしてくれ」

 「かしこまりました」

 こたえたのは、おうじではなく、ひめでした。あのとげとげひめです。いまではとぎすまされたいっぽんのツルギにまでするどくなっていました。じぶんをきょくたんにまできりつめたすがたになっていたのです。

 ずぶり、とツルギがまじょのせなかにささりました。

 「うわっ」

 まじょがひめいをあげました。でも、つぎのしゅんかんにはめをぱちくりさせました。

 「あれ? いたくない」

 「そうです。わたしのあねは、もうだれもきずつけないトゲなんです。いたみをとりのぞくトゲなんです」

 とくいげにおとうとのべたべたおうじがこたえました。

 ずぶりずぶりとまじょのなかにはいっていったツルギが、なにかをおしました。おされて、それがまじょのからだからでてきました。あたまのてっぺんから、あしのさきまで、いいえでてくるほどに、それはきょだいになって、ついにはまじょのからだのさんばいもある、きょだいなおのになりました。まみれの、いいえ、のいろのなみだをながすおのでした。

 どしんどっすーん。

 ついに、そのおのがおしろのやねのうえにたおれました。まじょは、こころがかんぜんにやぶれてたおれそうになりました。

 「だいじょうぶです。ぼくがあなたをささえます」

 おうじがいいました。

 「だいじょうぶです。わたしがあなたのこころをぬいます」

 ひめがいいました。

 ひめのツルギは、こんどはながいハリとなって、まっぷたつにさけていた、まじょのこころをきれいに、じょうずにぬいあわせました。

 するとどうでしょう。あんなにしわくちゃでみにくかったまじょのからだにおおきなへんかがおこったのです。

 からだがちぢんで、ちぢんでちいさくなりました。しわがなくなって、はだがツルツルになりました。そうです。まじょはこどもにもどったのです。こどもにもどったまじょのから、おおつぶのなみだがつぎつぎとあふれました。ひめいのようななきごえが、とぎれることなくあふれました。

 おんなのこになったまじょは、まみれのおのにすがりついてないたのです。

 「おとうさん、おとうさん、おとうさん、おとうさん、おとうさん」

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 いつまでもいつまでも、おんなのこは、そういいつづけました。

 するとどうでしょう。あのまみれだったおのから、のいろがすうっとひいていったのです。そして、おのがふいっとたちあがりました。

 いいえ、それはきこりでした。おおきなおおきなからだをしたきこりでした。いいえ、おおきなおおきなからだをした、おとうさんだったのです。

 「おとうさん」

 むすめは、おとうさんにとびつき、おとうさんはむすめをぎゅっとだきしめました。つよくつよく、いつまでもだきしめました。

 でも、そのうちにおとうさんのすがたはだんだんぼんやりしてきて、うすくなり、とうとうきえてしまいました。おのもいっしょになくなっていました。

 

 「ありがとう」

 むすめは、つぶやきました。

 「あいにきてくれたのね、おとうさん」

 なみだの、さいごのひとつぶが、むすめのほっぺたをながれおちました。

 「よかったね」

 おんなのこのこえがしました。

 「ほんとうによかった」

 おとこのこのこえもきこえました。

 むすめがふりかえると、おなじとしごろのおんなのこと、おとこのこが、にっこりわらいかけました。むすめも、おもわずえがおになりました。

 おとこのことおんなのこが、むすめにいいました。

 「いっしょに、あそぼ」

 むすめはもちろん、こうこたえました。

 「うん、あそぼ」

 

 あたしもいっしょにあそびたいとおもいました。

 「あたしもいれて」

 そういうと、ひめと、おうじと、むすめがこっちをむきました。そうです、それはもうとげとげひめでも、べたべたおうじでも、やみのまじょでもなく、ただのひめと、おうじと、むすめだったのです。さんにんが、

 「いいよ」

 いっせいにこたえてくれました。わたしたちはかくれおにをしたり、かんけりをしたりしてあそびました。

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 どこかから、よぶこえがきこえました。

 「あ、おかあさんだ」

 あたしはいいました。

 「かえらなきゃ」

 「またきてね」

 「うん」

 あたしはてをふりました。

 「さよなら、またね」

 めをさますと、めのまえにおこったおかあさんのかおがありました。

 「どうしたの、あんたまで」

 どうやら、あたしも、おこしてもおこしてもなかなかおきなかったようなのでした。もうがっこうにちこくするすんぜんでした。あたしは、あわてて、かおをあらってきがえをすませ、おおいそぎでがっこうへいきました。あわてすぎたせいで、きゅうしょくぶくろをわすれてしまい、せんせいにしかられました。

 でも、おにいちゃんは、あたしがいえをでるときも、まだねていました。

 「もうおてあげだわ」

 おかあさんは、ためいきをついていました。

 「どうしたらいいのかしら」

 このところ、がっこうもやすみがちなのだそうです。おきたらがっこうがおわってるじかんってこともときどきあるようです。おにいちゃんはどうしちゃったのでしょう。ねむりびょうでしょうか。

 でも、ひとのことばかりいってもいられません。あたしだって、としょかんっていうすごいところをゆめのなかでみつけてしまったからです。

 あそこへいったら、もしかしたらかえるきがなくなってしまうかもしれない。じゅぎょうちゅう、うわのそらでこうていでたいいくをしているじょうきゅうせいをみながら、あたしはそんなことをおもいました。としょかんには、おやすみのまえのばんにだけいくことにしよう、ときめました。

(第05回 了)

 

* 『ゆめのかよひじ』は毎月03日に更新されます。

 

 

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■ 遠藤徹さんの本 ■

贄の王 姉飼 角川ホラー文庫

 

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■