仙田学_ツルツルちゃん2 _08_cover_01イケメンチンドン屋の、その名も池王子珍太郎がパラシュート使って空から俺の学校に転校してきた。クラスのアイドル兎実さんは秒殺でイケチンに夢中。俺の幼なじみの未来もイケチンに夢中、なのか? そんでイケチンの好みの女の子は? あ、俺は誰に恋してるんだっけ。そんでツルツルちゃんてだぁれ?。

早稲田文学新人賞受賞作家にして、趣味は女装の小説ジャンル越境作家、仙田学のラノベ小説!

by 仙田学

 

 

 

第三章 Gよりコンパクト(下)

 

 

机を持ちあげて逆さに振り、前後左右の机のなかに次々と手を突っこんでは中身を掻きだしていく。

鏡を探しているらしい。

「どごだ―――――――――――っっっっ!! うお――――――!!」

髪を振り乱して教室を飛びだすと、池王子はロッカーへと疾走していった。

サッカー部マネージャーの爽やか青春系女子がいち早く後を追って駆けだす。

数人の女子たちも続いた。

「いやぁぁぁぁぁぁっ! やめてぇぇぇぇっっっっ」

すぐに女子の金切り声があがった。

野次馬根性旺盛な連中がいっせいに飛びだした。

もちろん、その先頭にはおれがいた。

昨日あてがわれたばかりのロッカーの前でしゃがみ、池王子は中身を手あたりしだい放り投げていた。

高級ブランドのロゴ入りのタオルに体操着。

高級腕時計に高級文房具。

ノートパソコンに、日本刀。

持ってきてはならないものも含まれているが、それには目をつぶるとして、注目すべきは真っ赤なボクサーブリーフだ。

ブリーフの股間の部分には、でかでかと超有名服飾ブランドのマークがついていた。こんな製品作ってたんだ。

いや、そこじゃない。

そのブリーフを頭からかぶっている、青春系女子だ。

池王子の放り投げたブリーフが、絶妙なタイミングと角度で頭にかぶさったらしい。

「やめてぇぇぇぇぇぇっっっっ」

絶叫しているのは、だが青春系女子本人ではない。

まわりに群がっている、別の女子たちだった。

別の女子たちは、寄ってたかってブリーフを脱がそうとしている。

青春系女子は、ブリーフが脱げないよう決死の形相で押さえている。

「ないないないない、ない―――――――っっっ!!!」

女子たちの人垣を崩し、転びでてきたのは、池王子だった。

髪はざんばらに乱れ、眼球は血走っている。

胸に差した青いバラは、ほとんどの花びらが散っていた。

池王子はよろめきながら疾走し、左右の廊下や窓に激突しながら、パチンコ玉のような勢いで、廊下の奥へと吹っ飛んでいった。

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……鏡がなくなったから?

想像を絶する取り乱しようだ。

もしかすると、大事な思い出の品だったりして? じいちゃんの形見とか。

なんだか知らないけど、気の毒になってきた。

未来の計画だと、皆の前でコンパクトミラーを返して辱める、ということになっていた。

だがもう充分だろう。

とりあえず鏡は見つかったと伝えて落ち着かせよう。

野次馬たちは、もう誰ひとり池王子を気にしちゃいねえ。

ロッカーから溢れでた池王子の私物に女子たちは群がり、黄色い声をあげながら検分している。男どもはそんな女子たちを遠巻きに眺めている。

あまりの騒ぎに、廊下には他のクラスの奴らまで群がり、口々に噂話をし始めていた。

――またF組? ってことは先斗町か。

――未来ちゃんなら、さっきどっかに担がれてった。

――新入生じゃん? 昨日すごいイケメンが入ったらしいよ。

――あのクラスまた問題児が増えたのかよ。

すみませんねえ、お騒がせして。

胸のなかで呟きながら、おれはひと波を掻き分けて走っていく。

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やがて視界の隅にただならぬものが映った。

男子便所の出入り口から、二本の脚が突きでていたのだ。

床に倒れている、池王子の脚だった。

「おい、しっかりしろ。なにがあった?」

膝に抱え起こすと、池王子は白目を剥いていた。

若干の恨みをこめて両頬をビンタしてみる。

すぐに意識を取り戻した池王子は、おれにしがみついてきた。

「な、ないないない、どこいったうおおおおおおっっっ!!」

「おまえの大事な鏡なら見つかったぞ」

「どこだどこだっ?!」

池王子は血走ったままの目を四方八方へ走らせる。

「きょ教室の、床に落ちてた」

「うお―――――っっっ!! あんなとこまで戻ってられるかぁ!! 鏡、鏡、鏡―――っっっっっ!!!」

「落ち着け。ここは男子トイレだ。鏡なら腐るほどある」

ごくり、と唾を飲み、池王子は恐る恐るあたりを見まわした。

おれの腕を掴む手に力がこもる。

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「なあ……頼む。おれのこと、見ててくれないか?」

いつも酷薄そうに歪められている唇は、力なく半開きになっている。

生まれたての子馬のように、池王子は脚を震わせながら、洗面台の前までよろめいていった。

鏡の隅に映ったおれの顔に、池王子は目線をあわせてくる。

おれの目から目を逸らさないまま、

ポケットからワックスとスプレーを取りだした。

小器用に手を動かして髪型を作っていく。

さらに、ファンデーションで汗の浮いた顔のテカりを抑え、軽くアイラインを引いていった。

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みるみるうちに、池王子の顔は精悍さを取り戻した。

不敵な笑みを浮かべ、池王子は振り返る。

 

「ぼくってかっこいい?」

「……頭痛くなってきた」

おれは脱力して座りこんだ。

池王子はおれの前にしゃがみ、肩を叩いてきた。

「いまさら隠してもしょうがねえ。おれはな、鏡を定期的に見ないと生きてけないやつなんだ。見れなくなると、さっきみたいになっちゃう」

「いろいろたいへんだな。まあ頑張れ」

「おいおいおい。待て待て待て」

全力で立ち去ろうとしたおれの腕に、池王子はしがみついてきた。

「聞いてるだろ。おれってかっこいいか? なあ。なあっ」

おれの両肩を、池王子は激しく揺さぶってくる。

「うぐっ……か、かっこ」

「いいよなあ! だよなあ!」

急に手を離され、おれは便所の床にすっ転ぶ。

つい最近、誰かにも似たようなこと聞かれた気がする。

ごく身近にいる、ミではじまる名前の女に……。

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「わかったわかった。かっこいいなあ。嬉しいなあ。好きなだけ鏡見てていいんだぞ」

「待てってば。だからさ、おれが鏡見るとき、そのおれを、おまえ見ててくれ」

意味がわからない。

「もしかして優越感に浸りたいとか? おまえがイケメンで大金持ちで、家には萌え死にしそうなメイドさんが待ち構えてて、耳掻きしてくれたり、あんなことやこんなことしてくれる、なんて、羨ましくもなんともないんだからねっ」

「なんの話だ? まじでおれが羨ましくないのかよ」

「ええい、おまえといると、おれがみじめになんだよっ!」

振り切って足を踏みだしたおれの前に、池王子は滑りこみ……、

土下座をしてきた!

「すまん! 許してくれ! おれは、おれは、ほんとは……イケメンじゃねえんだよ!」

軽く泣いている。

大きな目。鼻すじの通った端正な顔立ち。酷薄そうな唇。

「いやいやいや。どっから見てもイケメンだし」

「イケメンじゃねえよ」

「イケメンだよ」

「イケメンじゃねえっつーの」

「イケメンだっつーの」

さらに二十回ずつくらいは、イケメンイケメン繰り返しただろうか。

さすがに会話の内容のアホらしさに気がついたのか、ふたりとも口をつぐんだ。

「もう行こうぜ。昼休み終わっちゃう」

この隙に逃げようと背を向けたおれの耳に、池王子のつぶやきが聞こえた。

「おれさ、鏡依存症なんだよね」

「え?」

「鏡依存症。鏡中毒。どんだけイケメンイケメンいわれても、自分じゃそう思えなくてさ。でも鏡を見りゃ安心するんだ。ああやっぱおれって、宇宙一イケメンなんだって」

「宇宙一おめでたいんだって」

「なんだって?」

「なんでもない」

「同時におれは鏡恐怖症でもある」

「は?」

池王子はがっしりとおれの腕を掴んだまま、引きつった顔で鏡を振り返った。

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「なんつーか、怖くなってくんだよ。鏡を見りゃ、正真正銘百パーおれイケメンなんだけど、鏡見てんのがおれだけだと信用できねえっての? 他のやつらにはどう見えてんだよって。おれもしかして裸の王様じゃね? とか考えちゃってさ」

「あれだけ女子にわーきゃーいわれてるのに?」

「マイ・コンパクトミラーならひとりでもへーきなんだよ、保育園の頃から使ってるから。けどそれ以外の鏡じゃ……。家ならメイドが見ててくれるんだけどさ。いっとくけど、この話したのおまえがはじめてだからな。みんなにはぜってー内緒だぞ」

「ありがたみなさすぎて泣けてくる」

「頼むっ」

池王子はまたもや土下座をした。

「学校にいるあいだ、僕チンがひとりで鏡見なきゃならないとき、見守っててくれっ」

僕チンって。

「ぃけくんだいじょーぶ? きゃあっおトイレ★」

とつぜん男子便所の扉が開いた。

出入り口に立ち尽くし、両手で顔を覆っているのは、兎実さんだった。

指のあいだからこっち見てんのがバレバレだ。

「なになに、池様がどしたって?」

兎実さんの後ろから、先ほど未来を担いでいった女子たちが首を伸ばしてきた。

ゴンッ。

未来のダイヤモンドヘッドが、いっせいに手を離され床に落下する。

未来の屍を乗り越え、女子たちは男子便所になだれこんできた。

「池くん、大丈夫だった?」

「みんな心配したんだよぉ」

「Gが怖いなんて、かわいすぎ(はあと)」

「ギャップ萌えやばっ」

囲まれた女子たちに揉みくちゃにされ、頭といい顔といい撫でまわされながら、池王子は目を点にして固まっている。

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女子たちの群れのど真んなかから、ずい、と足を踏みだしたのは、兎実さん。

「Gがでたってゆわれて、びっくりして逃げちゃうなんて、ぃけくん、ちっちゃい子みたぃ★かぁわぃ」

えっ?!

池王子にからだをすりつけるようにして、兎実さんはその頭をナデナデしはじめた。

鏡依存症にして鏡恐怖症、という池王子の弱点は、女子たちにはいっさい伝わっていないようだった。

なんと母性本能をくすぐる系のキャラにすり代わっている。

「ぼ、ぼくってかっこ……」

「かーわい―――――――(はあと)」

池王子の決めゼリフは、女子たちの大合唱に掻き消された。

(第08回 了)

 

* 『ツルツルちゃん 2巻』は毎月04日と21日に更新されます。

 

 

 

 

 

■ 仙田学さんの本 ■

盗まれた遺書 ツルツルちゃん キャラ設定画付kindle限定版 (NMG文庫)

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■