月まで_03_cover_01「僕が泣くのは痛みのためでなく / たった一人で生まれたため / 今まさに  その意味を理解したため」

「僕」は観念として世界に対峙する。孤独から滲む透明な抒情──。「僕」とは切り取られた世界そのものでもある。画像によって喚起されたペルソナ手法による、小原眞紀子の連作詩篇。 

by 小原眞紀子

 

 

 

 

 

夜は透きとおっている

僕の躰と同じに

ときどき震えて

空の遠くに声を響かせる

なんと言っているのか

聞こえはしない

ただ 思い出したことがある

掌に落ちてきた白い羽

二枚、三枚と降り積もり やがて

こんもりした自由の墓のように

僕を眠らせる

目覚めれば白い闇

あまりにも静かな嵐と

あまりにも冷たい窓に

僕の記憶は無意味となる

君と交わした

意味のない言葉

意味のない約束

意味のない時間が僕を作り上げ

荒れ果てた土地へと踏み出させる

誰もいないのは

何も言われないこと

安心して耳を澄ますと

風が鳴っている

僕の躰を震わせて

どこまでも蒼く

透きとおる夜だけが

声を鎮め

僕を世界に溶かし込む

月まで_03_01

 

 

 

 

君の顔を見ている

無言のまま

僕を見つめる君を

庇を目深に

僕の言葉を食べてしまう

優しさをよそおう言葉

訴えつつ足りない言葉

抜け出し回避する言葉

それらの残骸が闇にのまれ

世界の波打ち際に

いつか打ち上げられるのを

鳥がついばんでいる

僕はそれを見ている

無音のまま

飛び去ってゆく鳥を

世界は小さな箱に

(回収される

言葉は朱印を押されて

(拡散される

僕は待っている

ただ一人立ったまま

白い紙に黒々と

書かれた僕の名が

金属の音を立ててここに届くのを

君がはじめて赤い口をひらき

永遠の言葉を囁くのを

僕はそれを握りしめて

郵便局へ行き

不足分の切手代を支払う

月まで_03_02

 

 

 

 

紙コップを手に立ったまま

僕らは話し続けていた

吹き溜まったように片隅で

友達のことや単位のこと

   田舎のこと就職のこと

女の子のことだけは話さなかったけれど

わかりきっていたからかもしれない

好きになるような子は

誰にとっても好きな子だし

話がとぎれたら

宙を見つめるしかない

木々の向こうで

風が渦を巻いているのを

覚えているだろうか

彼らはそんな日々を

頭上で鐘が鳴って

僕らは吹き散らされ

それからも日々は過ぎて

僕の中ではいつも

風が渦を巻いている

僕を空っぽにして

過去に今を巻き込んでゆく

寒空の下で

コーヒーを手に立ったまま

話す相手はいなくて

僕は宙を見つめている

木々が散らす葉ほどのものでもなかった

数多くの言葉を落とした

一本の骨として

月まで_03_03

写真 星隆弘

 

* 連作詩篇『ここから月まで』は毎月05日に更新されます。

 

 

 

 

 

 

■ 小原眞紀子さんの本 ■

水の領分 メアリアンとマックイン

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■