ツルツルちゃん_04_cover_01イケメンチンドン屋の、その名も池王子珍太郎がパラシュート使って空から俺の学校に転校してきた。クラスのアイドル兎実さんは秒殺でイケチンに夢中。俺の幼なじみの未来もイケチンに夢中、なのか? そんでイケチンの好みの女の子は? あ、俺は誰に恋してるんだっけ。そんでツルツルちゃんてだぁれ?。

早稲田文学新人賞受賞作家にして、趣味は女装の小説ジャンル越境作家、仙田学のラノベ小説!

by 仙田学

 

 

 

第二章 ふらのスペシャル★ランチボックス(前編)

 

 

「ぃけくんどぉぞ(はあと)購買部のおじさんが、特別だぞってタダでくれたんだぁ」

池王子に割り箸を差しだしながら、三日月形の目で微笑みかけているのは、兎実さんだ。

「…………なんだいったい」

昼休みのチャイムが鳴った直後だった。

いつものように、おれは自作の弁当ふたつを手に未来の机へと移動しかけていた。

おれが驚いたのは、もともとタダの割り箸をタダだと兎実さんが主張したからではない。

兎実さんの顔がいつも以上に輝いてみえたからだった。

冬の薄い光に映えた、透きとおるような白い肌。

くっきりとした瞳に、長いまつげ。

濡れたように潤う桜色の唇。

これほどまで美しくなれる余地が、まだ兎実さんに残っていたとは。

「そりゃメイクすりゃね」

未来はおれの手から弁当をひったくる。

メ、メイク……?

いわれてみりゃ。

軽くアイラインを引いて、控えめなつけまをつけ、唇の色と同色のグロスを塗って、薄くファンデをはたいている。

小学生の頃から未来のメイクを担当してきたはずのおれにもすぐには見破れないほどの、ナチュかわモテメイクぶりだった。

「いやぁ、メイクしてるとこ初めて見たけど、いい。じつに、いい。ふだんもいいけど」

「初めてではない」

未来と向かいあい、弁当を広げているのは羊歯だった。

ぐるぐるメガネの底で、切れ長の目が意味ありげに光る。

そうだった。これが初めてじゃなかった。

羊歯と一緒に覗きこんだ、マンガ喫茶のパソコン画面が脳裏に蘇る。

バイト先のメイドカフェ、萌えコスかふぇのホームページで、メイド服に身をつつみポーズを決めていた兎実さん。

たしかに一見誰だかわからないほどの厚塗りメイクで微笑んでいた。

犬猫の里親探しのボランティア活動をしているとおれたちに偽り、兎実さんはメイドカフェでバイトをしているのだ。

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超絶美白天使・兎実ふらには、想像もつかない裏の顔がふんだんにあったということをおれは思いだす。

「そうなんだよ」

「はうっっっ!」

またもやおれの尻をつねりあげてきたのは、蛸錦だ。

「おれは痔ろうなんだってばっ!」

「汚ねえなメシどきだぞ。それよかあれ見てくれよ」

蛸錦はおれの頭をねじ曲げる。

目に飛びこんできたのは、まだ池王子にまといついている兎実さんの姿だった。

「さっきから嫌ってほど見てる。頼むからこれ以上傷をえぐるのはやめてくれ」

「ふら様のおリボンにちゅーもーくっっ!!」

もがくおれの首にヘッドロックをかけながら、蛸錦は唾を飛ばした。

耳もとで大声を張りあげられ、おれはやむなく兎実さんの制服をチラ見する。

なにごとだいったい。リボンがどうしたよリボンが。リボンが……

ん? 胸のリボンの色が、いつもと違う。

しかも、どこかで見覚えのある色だ。

「そのとおり! おれがさっきキャッチした、新入生のハンカチだよ。さっき便所に行こうとしたらふら様に呼びとめられてさ、タコくんお願ぁい、ふらちょうどそんな色のハンカチほしかったんだぁ、ほら、ふらって赤似あうじゃん? なあんて、おねだりされちゃってさあははははははは」

蛸錦は一眼レフを池王子と兎実さんのほうへ向け、勢いよく連写しはじめる。

こいつはいったいなにがしたいんだ。

プリント

兎実さんが機嫌よさげに笑っていて、いい感じの写真を撮れさえすれば、それでいいのか?

おれには苦痛以外のなにものでもなかった。

わざわざメイクをして手作り弁当を勧め、蛸錦からハンカチを強奪し、池王子に媚を売りまくっている兎実さん。

目から血が噴きだしそうだった。

おまけに、その媚はいまいち功を奏していないようでもある。

朝に渡していたふらのスペシャル★ランチボックスを、兎実さんはふたたび池王子の机のなかから取りだすと、包みを解いてセッティングしはじめている。

だが当の池王子は隣の席の女子の髪型をからかってひとりでウケているのだ。

「ねーえ、ぃけくん(はあと)ふらの、おいしいょ。食べてほしぃなぁ」

胸の前で手を組んで唇を突きだし、兎実さんは上目遣いに池王子を見つめる。

それ以上見ていられず、おれは席を離れることにした。

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「映一どこ行くの?」

おれの腕を掴んできたのは、未来だった。

「ご飯食べないの? ダメだよ、今朝も食べてなかったんだし。からだもたないよ」

今朝はおまえが寝坊したせいで、髪を巻いてやるのに時間がかかって食いそこねたんじゃねえか! とはいえなかった。

未来の口からおれを気遣うようなセリフがでてくるとは……。

そのことばは端的に、未来の受けた打撃の大きさを物語っていた。

誰にでも優しい、超絶美白天使の兎実さん。

そんな親友の、富や名声やイケメンが大好物という裏面を、未来が知ったのはまだつい最近のことだったのだ。

だが、悪いがおれだってかなりの打撃を受けている。

 

「ちょっと、食欲なくてさ。外の空気吸ってくるわ」

「ご飯いらないの?」

「あ、ああ。ちょっとやめとくな」

「そ……」

未来は目を伏せ、おれの腕から手を離した。

「……よかった」

「え?」

ふたたびおれを見あげた未来の顔には、満面の笑みが咲いていた。

未来はおれの弁当の包みを素早く解くと、蓋を開ける。

すでに半分がた平らげられた未来の弁当の横に、おれの弁当のおかずが現れた。

夕べのハンバーグの残りに、今朝方焼いた目玉焼きを乗っけたもの。

卵とマカロニのサラダ。

ほうれん草の炒め物にプチトマトが彩りを添えている。

サフランライスには粉末パセリでアントニオ小猪木の似顔絵が描かれていた。

遅刻しかけながらなかば無意識のうちにこしらえたものだったが、なんと偶然にも、未来の大好物ばかりが詰まっていた。

「いっただっきまぁっす」

口のまわりにご飯粒をくっつけたまま、未来はおれの弁当箱に箸を伸ばした。

「……羊歯にも分けてやれよ……」

おれは消え入りそうな声でいい残すと、よろめく足を踏みだした。

 

とりあえず未来が兎実さんのことではもうさほど動揺しなくなっているらしいことを知り、肩の荷が少し軽くなったようだ。

女ってなんでこんな切り替え早いんだろ。

フェンスに寄りかかり、おれは大きなため息をつく。

眼下の校庭からは、運動部や合唱部の練習する声が遠く聞こえてくる。だだっ広い屋上を吹き抜ける風は、制服をとおして肌を刺すようだった。

イケメン。

金持ち。

女の扱いの巧みさ。

どれをとっても、男からみてもほれぼれするような逸材の池王子だ。兎実さんが狙わないわけはない。

今日からおそらく毎日毎日、池王子にまといつき媚を売りまくる兎実さんの姿に、おれは苦しめられることになるだろう。

しかし解せんのは、池王子の態度だ。

あそこまで真正面から、兎実さんのラブラブ攻撃を受けながら、どうして無感動でいられるのだろう。

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「ありえん。どう考えてもありえん。まったくもってありえない」

「ひっ!!」

耳もとで不意に呟かれ、おれは小さく飛んでしまった。

おれの真後ろに立っていたのは、池王子だった。

風にあおられて髪が逆立ち、胸もとの青いバラはいまにも吹き飛びそう。

眉間には深い縦皺が刻まれている。

ついさっきまでクラスじゅうの女子たちに囲まれていたとは思えないほどの険しい表情だ。

「……おお。おまえさっきいたよな」

池王子は手櫛で髪を整えると、純白の歯を見せて笑いかけてきた。

「僕ってかっこいい?」

おれは全力で立ち去ろうとする。

「……待て待て待て」

池王子はおれの腕を掴んできた。

「おまえもう弁当食った?」

「……いや」

おれの弁当はとっくに未来の胃袋のなかだよ。誰かさんのせいでな。

「ちょうどよかった、これやるよ」

おれの手に池王子が押しつけてきたものは、まぎれもない。

ふらのスペシャル★ランチボックスだった。

「よろしく」

「待て待て待てえいっ」

すぐさま昇降口へ向かう池王子の腕を、今度はおれが掴んだ。

「まだ中身入ってるじゃねえか、そもそもおまえここでなにしてん……」

「だぁ~! めんどくせえっ」

ふらのスペシャル★ランチボックスの蓋を池王子は開ける。

おかずをひとつ摘んでおれの口に放りこんできた。

「…………っっっ!!!!!」

おれの口のなかに、兎実さんの手料理が!

やわらかで、ふんわふわで、ジューシーで。

まるで兎実さんそのもののような食感で。

「ぶほっ。おえっ。ゲー―――――っっっっ!!!!」

「汚ねえっ。吐くときは予告しろよ」

「うぎゃお! ぐほっぶほほほほほほほほほほ」

おれは喉を押さえてのたうちまわった。

食道の皮がめくれていくような激痛に、涙がとめどなく溢れだす。

鼻の穴にじかに練り辛子をつめこまれたような刺激臭に呼吸もできない。

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「ちっ」

盛大に舌打ちをすると、池王子はおれの背中をグーで殴りつけてきた。

「がごっ」

おれの口から、見たこともないような形と色の物体が飛びだしてくる。

たっぷり数分間も、おれは背を丸めて咳きこみ続けた。

「恐るべき殺傷能力だ」

池王子はハンカチをとりだし、こめかみに浮いた玉のような脂汗をハンカチで拭う。

金色のハンカチだった。

「ったくありえねーよな。どしたらこんなシロモン作れんだよ。おえっ。食いもんのにおいじゃねーぞこれ」

池王子はとつぜん、ふらのスペシャル★ランチボックスを片手で振りあげた。

そのまま地面に叩きつけようとする。

「なにすんだっ」

おれは池王子の腰にタックルをしかけていた。

「はあはあ……そ、そんなことをすれば、末代まで、た、祟られる……」

「わけわかんねえ。離せよおら、ここに棄てとけばカラスがつつきに来んだから。おうっ?!」

その瞬間、おれは池王子もろとも薙ぎ倒されていた。

すっ転がったおれたちの頭上を、黒い影が越えていく。

黒い影は、はるか離れたところで軽やかに着地した。

(第04回 了)

 

 

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* 『ツルツルちゃん 2巻』は毎月04日と21日に更新されます。

 

 

 

 

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