アリス失踪!_06_cover_01ポスト・モダニズム時代において、オリジナルからの引用・二次創作・パラレル創作の問題は避けて通れない。ならば翻訳とはなにか、翻訳はどこまで創作の謎に近づき得るのか・・・。英文学者で演劇批評家でもある星隆弘が、『不思議のアリス』の現代的新訳に挑む!。文学金魚奨励賞受賞作。

by 星隆弘

 

 

 

 

 

第六回 子豚とコショウ!

 

 

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あのさ、1分か2分くらいかな、わたし足を止めておうちの様子見ながら、さてどうしましょって作戦を練っていたんだけど、そこにいきなり制服姿の召使さんが森から走り出てきてさ。(制服姿だったから召使さんだろうと思ったけど、顔だけ見たとしたらおさかなが飛び出してきたって言ったと思うな)

 

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その人がこぶしでドアをガンガン叩くと、開けて出てきたのがまた制服姿の召使さん、こっちはまん丸の顔で、目がおっきくてカエルみたい。でもね、気づいた、ふたりとも髪の毛がくるくるのもじゃもじゃで白粉ふったみたいな、おそろいの髪型なの。

 

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超気になる、なにしに来たんだろ。わたしこっそり木かげから抜け出て、盗み聞きしちゃった。

 

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まずさかな顏の召使さんが脇の下からでっかい手紙を取り出して、召使さんの全身がほとんど隠れちゃうくらいのやつね、それをカエル顔の召使さんに手渡して、かたくるしいあいさつをひとつ。

「公爵夫人殿へ。女王陛下よりクロッケー試合への招待状でございます」

 

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それをカエル顏の召使さんが同じようにかたくるしく繰り返すの、セリフの前後をちょっと入れ替えてたけど。

「女王陛下より。公爵夫人殿へクロッケー試合への招待状でございますな」

 

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そんでふたりとも深々とお辞儀するもんだからさ、おたがいの髪の毛がもじゃもじゃ絡まっちゃってさー!

わたしそれ見て爆笑しちゃって、ダッシュで森に逃げたんだ、もう聞かれたかと思ってひやひやしたー。

 

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もう一回のぞきに行ったら、さかな顏のほうは帰っちゃったみたい。カエル顔のほうだけがドアの前の地面にへたりこんで、ぼーっとお空を見上げてた。だからわたしもドアの前までおそるおそる近づいていって、ノックしてみたんだ。

 

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そしたら召使さんが言うの。

「ノックをしてもむだです。理由はふたつ、ひとつは私めがあなた様と同じくドアのこちら側にいるため。もうひとつは、家人があのように騒がしくしておりますので、あなた様のノックが耳に入るはずもないのでございます、ええ」

 

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たしかにね、家の中はうるさいなんてもんじゃなかった。ずーっとびーびー泣きわめく声とくしゃみを連発する音が止まらなくて、しかもガッシャーンって、お皿かやかんが粉々に壊れたみたいな音もちょいちょい聞こえるし。

 

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「えーと、じゃあ入るにはどうしたらいいですか?」って聞いてみたんだけど、召使さんは「ノックするのに意味がないこともないかもしれない」ってぶつぶつ言って、わたしに見向きもしない。

 

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「私めとあなた様がドアを挟んでおります場合、たとえばあなた様が家の中におられて、ノックをした、それならば私めが外にお出しすることもできたわけですな、ええ」

だって。そうやってぶつぶつ言いながらずーっとお空を見上げてるわけ、失礼もいいとこでしょ?

 

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でもわたし自分に言い聞かせたの。しかたないんだよ、だって目がほとんど頭のてっぺんについてるんだもん・・・でもさ、それにしたって質問されたら答えるぐらいできるよね。

 

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「入るにはどうしたらいいですか?」

もう一度、ちゃんと聞こえるように言ったら、召使さんはこう答えるの。

「私めはここに座って控えておりますが」

 

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「それも明日までになるか・・・」

そう言いかけたとき、バタンとドアが開いて、中からおっきなお皿がビューンて飛んできてね、召使さんの頭めがけて一直線で。ちょうど鼻の先をぎりぎりかすめていってさ、その向こうの森の木にぶつかって粉々に割れちゃったんだけど。

 

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なのに召使さん「明後日になるかもしれませんな」とか平然と続けてて、なんなの、今なにも起こらなかったっていうの?

 

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「で、入るにはどうしたらいいんですか?」こりずに、もっと大きな声で聞いてみた。

「その前に、招かれておいでで?」って召使さん。

「入る入らないの前にそこをお伺いしませんと、ええ」

 

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それは、まあそうだけど。いやそうなんだけどね、でもそんなふうに言われるのはイヤなんだよね。

「ひどくない?」わたしだってぶつぶつ言っちゃうよ。「どいつもこいつも揚げ足取りばっかり、こんなんじゃこっちの頭がおかしくなっちゃう!」

 

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召使さんは、ここぞとばかりに、また自分で言ったことを繰り返すし。もちろんちょっと変えてるんだけど。

「私めはここに座って控えておりますが、いる日もあればいない日もあるでしょうな」

 

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「じゃあわたしはどうしたらいいですか?」

「どうでもお気に召すままに」

で、この人口笛吹き出したんだからね。

 

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「なんなのもう、こんなやつとしゃべってることがむだじゃん!」さすがにウンザリした。「バカじゃないの、マジで!」

で、わたしもうかまわずにドアを開けて入っていったの。

 

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ドアを開けるとさーっと光が差し込んでね、大きなキッチンを照らし出すと、部屋中隙間なく煙がもわーって充満してた。部屋の真ん中で三本足のスツールに座ってたのが公爵夫人で、赤ちゃんをあやしてた。火につきっきりでおっきな鍋をかき混ぜてるのは料理番かな、鍋いっぱいにスープを作ってるみたい。

 

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「いくら、なんでも、コショウ、入れすぎ!」そうつぶやいて、くしゃみしそうなのをなんとかガマンした。ほんとにコショウがもわもわ舞い上がってたんだ。ほら、公爵夫人だってくしゃみしてるし、赤ちゃんなんか泣いてくしゃみしてまた泣いてで、一瞬も落ち着かないんですけど。

 

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でもキッチンにいるふたりは全然くしゃみしないの。ひとりは料理番ね、もうひとりっていうか一匹は大きな猫で、炉ばたにごろんとして、耳まで口を広げてにやぁって笑ってる。

 

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「すみません、聞いてもいいですか?」わたしから話しかけてみたんだけど、ちょっとおどおどしちゃった、勝手に話しかけたらお行儀悪いかもしれないと思ったからさ。

「おたくの猫さんはどうしてあんなにニヤニヤしてるんですか?」

 

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そしたら公爵夫人がね「チェシャ猫ですもの、当たり前でしょ・・・このブタっ!」って、最後いきなりキレるから、わたし飛び上がっちゃった。でもそれ赤ちゃんに向けて言ってて、わたしに怒鳴ったわけじゃないのがすぐにわかったからさ、気を取り直して話を続けたの。

 

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「チェシャ猫がいつもニヤニヤしてるなんて知らなかったです。っていうか猫がニヤニヤできるのもはじめて知りました」

 

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「みんなできますとも。大抵ニヤニヤしてますわね」って公爵夫人。

「わたしの知ってる猫にはそういう子はいませんでしたので」わたしも失礼のないように気をつけて答えた。けっこう嬉しかったんだよね、ちゃんと会話ができてたからさ。

 

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「物を知らない子ね、あなた。自覚なさい」

でもこういう言い方されるのはほんとイヤなんだ、だからちょっと話題を変えたほうがいいと思って。

 

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で、なんの話をしたらいいか考えてたらさ、料理番がスープの鍋を火からおろしたんだけど、突然手あたりしだいになんでもかんでもぶん投げてくるの、公爵夫人と赤ちゃんめがけてだよ。最初に火箸が飛んできたと思ったら片手鍋とか大皿と小皿とかが雨あられに飛んでくるわけ。

 

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なのに公爵夫人はちっとも気にしてない、物ぶつかってんのに。赤ちゃんははじめからびーびー泣きまくってるから、ぶつかったのが痛いのかどうかもわかんないしさ。

「ちょっと何してんのかわかってんの!」わたしはあっちこっち逃げ回って、もうこわくてしょーがなかった。

 

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「だめ!大事な鼻が!」って叫んだときには、ありえないくらいでっかい鍋が赤ちゃんの鼻のぎりぎりのところをかすめていって、あと少しで鼻をはじき飛ばしちゃうとこだったんだから。

 

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「だれもが自分のするべきことをよくわかっておるならば」公爵夫人はガサガサな声でぶつぶつ言ってた。「世界は今よりずっと速く回りますわね」

「それも困りものじゃないですか?」わたしも言い返してみた。せっかくだし、わたしの物知りなとこをちょっと披露しちゃおうかなと思って。

 

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「考えてみてくださいよ、そんなことになったら昼と夜がどうなっちゃうと思います?ご存知のとおり、地球は1回転するのに24時間かかります、地軸ってのがありまして・・・」

 

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「手斧がありまして、ですって?」って公爵夫人。「小娘の首をはねよ!」

わたしぎくっとして、ほんとにやる気なのかなって、料理番のほうをちらちら見たんだけど、スープをかき混ぜるのに忙しくて聞いてなかったみたい。

 

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だから話を続けることにしたんだけど。

「24時間かかりますよね、たしか。あれ、でも12時間かな?えっと・・・」

そしたら公爵夫人がね「もうやめて!」って。

「数字にはガマンがなりませんの!」だって。

 

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それだけ言って、公爵夫人は赤ちゃんをあやし始めたんだけどね、いつも歌ってる子守唄なのかな、なんか歌って聴かせてるんだけど、ワンフレーズ歌い終わるたびに赤ちゃんをめちゃくちゃ揺さぶるんだよね。

 

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小さい子にはガミガミ言うの

 くしゃみをしたらひっぱたけ

嫌がらせに決まっているもの

 イライラさせようとしてるわけ

サビ(ここは料理番も赤ちゃんもいっしょ歌うんだ)

 おー!おー!おー!

 

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歌が二番に入ったら今度は赤ちゃんのこと乱暴にポンポン放り投げるし。かわいそうな赤ちゃんはずっと泣きわめいてる、おかげで歌詞がほとんど聞き取れないくらい。

 

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わらわもこどもはきびしくしつけ

 くしゃみをしたらひっぱたくの

だってこの子ときたら好きなだけ

 コショウを味わえるんですもの

サビ

 おー!おー!おー!

 

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「ほれ!あやしたければ少しあやさせてやってもよくってよ」公爵夫人、わたしに赤ちゃんを放り投げてきた。

「こうしちゃいられませんの、女王陛下とのクロッケー試合の支度をせねば」

そう言って部屋を飛び出して行った。料理番がその背中めがけてフライパンを投げつけたけど当たんなかった。

 

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赤ちゃんを抱きとめるのはちょっと大変だった、だってこの子ちっちゃいのにヘンな格好してるんだもん。手と足を四方八方にぐーんと突き出してるから、なんかヒトデみたいだなって思った。

 

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かわいそうな赤ちゃん、抱きとめると蒸気機関みたいにシューシュー鼻息立ててさ、体をぎゅうぎゅう折り曲げたりまたぐーんと伸び上がったりするから、もうほんと、最初の1分か2分くらいは抱っこしてるのもやっとなの。

 

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まあでも、ただしいあやし方を見つけたからさ(ひもを結ぶ感じで体をぐるっとねじりあげるの、あとは右耳と左足をぎゅっとつかんでおくとほどけないからいいよ)赤ちゃんを家の外まで連れ出してあげた。

 

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もし置き去りにしたら、この子きっと今日明日にでもあの人たちに殺されちゃうと思って。そしたら見捨てるのも人殺しするのも同じでしょ?

 

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そうやって、最後のほうなんかはぶつぶつつぶやいてたんだけどさ、すると赤ちゃんはぶうぶう言い返してくる(もうさすがにくしゃみは止まってた)。

 

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「ぶうぶう言わないでよ。言いたいことがあるなら言いかたってもんがあるでしょ」

でも赤ちゃんはまたぶうぶう言う。わたしなんかすごく不安になって、赤ちゃんの顔を覗き込んでみたの、どうしたのかなって。そしたらなんか鼻が超つり上がってるっていうか、ほとんど豚の鼻みたい、人間の鼻じゃなくて。

 

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あと目もさ、赤ちゃんにしてはちっちゃすぎるしさ。よーするにこの子、わたしは全然かわいいと思えなくって。

 

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でもほら、泣いてばっかりいるからかもしれないし。そう思い直して、また目を覗き込んでみた、泣いてるんだよねって。

 

うそ、涙一粒流してない。

 

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「きみさ、もし豚に変身しようとしてるんだとしたらさ」真剣に語りかけるわたし。「わたしはもうかまってられないからね、わかった!?」

そしたらこのみじめな赤ちゃん、またぐずぐず泣き出しちゃって(いや、ぶうぶう鳴き出したのかな、もうどっちが正しいのかわかんない)。

 

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だからもう、しばらく何も言わずにとぼとぼ歩いたの。

 

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わたしは今後のことをあれこれ考えてた、だってどうすんのこの子、うちまで連れてくのはいいけどさぁ。

そのときまた赤ちゃんがぶうぶう鳴き出したんだけど、すごい大声だから、びっくりして顔を覗き込んだらさ、今度はもうまちがいない。豚なの、それ以上でも以下でもない、子豚なの。

 

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さすがにばかばかしくなっちゃって、なんでわたし豚を抱っこしてんだろ。

 

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そこで子豚ちゃんを地面に下ろしてあげたら、おとなしくトコトコ歩いて森に入っていっちゃったから、もうほんとにほっとした。

「あの子があのまま成長したら」って思わずひとりごと。「人間の子どもとしてはものすごいブサイクになっただろうけど、子豚としてはイケメンになったりして」

 

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それから顔見知りの子たちのことを思い出した、あの子たちも豚としてなら全然ありだしね。

「だれか変身させるいい方法だけでも知らないかなあ」

 

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またそんなひとりごとしかけたところで、ぎくっとした、だってあの家のチェシャ猫さんが木の枝に座ってたんだもの、ほんの数メートル先のとこ。

 

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こっち見てもニヤニヤしてるだけだから、わるいやつではなさそう。でも爪はすごく伸びてるし歯もぎっしりはえてるし、これは失礼な真似はできないって気がした。

 

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「チェシャーのにゃんこさーん」おそるおそる話しかけてみた、だってこんな呼び方じゃ気にさわるかもしれないしと思って。でも猫さんはもっと口を広げてにんまり笑うだけ。よかった、いまのとこ機嫌良さそう、そう思ってつづけて聞いてみた。

「あのー、すみません、ここからはどっちに行くのがいいですか?」

 

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「そればっかりはどこに行きたいのかによるねえ」と猫さん。

「どこでもいいっちゃいいんですけど・・・」とわたし。

「じゃあどっちに行こうとかまやしないだろ」と猫さん。

 

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わたしが「それでどこかに着くならね」って言い足すと、猫さんは「ああ、どこかにゃ着くから安心しろい、とにかく歩き続けりゃあな」だって。

 

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そりゃまあそうだけど。だから質問を変えてみた。

「このあたりに住んでいるのはどんな人たちですか?」

 

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「あっちの方にゃ」って猫さんは右前足をくるくる回すの。「帽子屋が住んでる」

「でもって、あっちの方にゃ」今度は左足で。「三月ウサギが住んでるよ。好きなほうを訪ねたらいい、どっちにしたってアタマ狂ってらあね」

 

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「えーでも、アタマ狂ってる人たちに会うのはちょっと・・・」ってわたしが言うとさ、「はは、そりゃ無理だ」って猫さん。

「ここらじゃみんなアタマ狂ってんだ、おれも、お嬢ちゃんもな」

 

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「わたしも?どうしてわかるんです?」と、わたし。

「狂ってねえとさ」って、猫さん。「こんなとこには来られんよ」

 

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そんなの全然説明になってないって思ったけどさ、とりあえず先を続けたの。

「でも、じゃあ、あなたもアタマが狂ってるっていうのは?」

 

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「その前に」と、猫さんが返した。「犬のアタマは狂っちゃいねえ。こいつは認めるね?」

「そう思いますけど」わたしも答えた。

 

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「それなら、だ」と猫さんは続ける。「犬は怒るとワウゥーと唸るもんだな、で、嬉しいときには尻尾振りやがるな。おれっちは嬉しいとグルルゥと唸る、腹が立つときにゃ尻尾を振るのさ、ってことはつまり、おれのアタマが狂ってるわけだ」

 

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「それは、のどをゴロゴロ鳴らしてるって言うんです、唸ってるんじゃなくて」

「言い方なんざ人の勝手さ。ところでお嬢ちゃん、今日は女王とクロッケーをやんのかい?」

「できたら光栄ですけど、招待されてないですし」

「じゃあまたそんときに」

って言って、猫さんは消えちゃった。

 

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でもね、そんなに驚かなかった、もうすっかりアリエナイ事に慣れちゃったのかな。

 

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そのまましばらく猫さんがいたところを見つめてたら、またいきなり現れたの、猫さん。

 

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「ところで、あの赤ん坊はどうなった?聞き忘れちまうとこだった」

「豚になっちゃいました」わたしも、猫さんがふつうに引き返してきたみたいな感じで、平然と答えた。

「だと思った」そう言って、猫さんはまた消えちゃった。

 

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また出てくるかもって半分期待してちょっと待ってたのに、猫さん今度は現れなかった。だから1分か2分待ったところで、三月ウサギが住んでるっていうほうへと歩き出したんだ。

 

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「帽子屋さんなら見たことあるし」またひとりごと。「三月ウサギのほうが断然おもしろそうだし、それにもう5月だし、いうほど狂いまくってるってこともないでしょ。最悪でも3月よりはマシなはず・・・」

ひとりごとしながらふと見上げたらまた猫さん登場、こんどは小枝につかまってた。

 

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「さっきの、『豚』だっけ?それとも『服』だっけ?」

そんなこと聞きにきたんだ、わたし「豚です」って答えてから言ってやったの。「お願いですから、そんなふうに突然出たり消えたりしないでください、こっちは頭がくらくらしちゃいますから!」って。

 

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「はいよ、そんじゃ」

そう言って、今度は猫さんゆっくりと消え始めたんだけど、まず尻尾の先からはじまって、ニヤニヤ笑いが最後まで残ってたんだけど、そのニヤニヤは体が全部消えちゃってもしばらく残ってたの。

 

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なにそれ!ニヤニヤしない猫ならたくさんいるけど、ニヤニヤしてるのに猫がいない!こんなヘンなの、いままで見たことない!

 

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三月ウサギのおうちはそんなに遠くなかった。おうちが見えた瞬間まちがいないと思った。だって煙突が2本ウサギの耳みたいに立ってて、屋根も毛皮でできてるんだもん。けっこう大きいおうちだし、へたに近づく前に、左手のきのこをもう少しかじって身長60センチくらいまで伸ばしとかないと。

 

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「やばいくらい狂った人だったらどうしよう!帽子屋さんにしとけばよかったかなあ!」

そんなふうにぶつぶつ言いながら、わたしはついにおうちへと近づいていったの、かなりびびってたけど。

 

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(第06回 了)

 

 

* 『アリス失踪!』は毎月09日に更新されます。