偏態パズル_第83回_cover_01偏った態度なのか、はたまた単なる変態か(笑)。男と女の性別も、恋愛も、セックスも、人間が排出するアノ匂いと音と光景で語られ、ひしめき合い、混じり合うアレに人間の存在は分解され、混沌の中からパズルのように何かが生み出されるまったく新しいタイプの物語。

論理学者にして気鋭の小説家、三浦俊彦による待望の連載小説!。

by 三浦俊彦

 

 

 

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■ 桑田康介は、翌日早朝にベストテンをリュックに入れて運んできた。

 

①『もう糞出寸前』クロードアイ

 ②(補)『ベィビィ・フェイス第6集』KUKI

③『浣腸スペシャル』三和企画

④『THEウンコ vol.4』北見書房

 ⑤(補)『糞楽園』KUKI

⑥『THEウンコ vol.7』北見書房

⑦『糞虐』クロードアイ

⑧『気分は最高!』クロードアイ

⑨『THEウンコ vol.3』北見書房

 ⑩(補)『THEウンコ vol.1』北見書房

⑪『糞尿放食』KUKI

⑫『浣虐』大共社

⑬『ウォーターパワー vol.1』大共社

 

 深筋忠征は仰天した。

 その日康介が店の中をうろうろしている間じゅう、深筋は努めて真顔を保ち、

 「うむ、あとで鑑定しておく。採点は明日伝えることにする」

 康介を外へ追い出したあと、へなへなと相好を崩した。

 「……ビデオはオミットしてビニ本オンリーときたな! しかも古典ばかりではないか!」

 有名なだけのロクデモアイテムを持って来たら「この鮮渋堂に在庫のない稀少本! 暗黙の限定がわからぬか!」と叱り飛ばそうと身構えていたところへこれだ。康介は難なく心得ていた。どれ一冊としてすでにどの古本店にも出回っていない。

 「……所有しておっただけでも大したものだ。俺自身が入手しそこなって歯噛みしていた『糞尿放食』が入っておる。しかもしかもこの選び方。渋さ。ビジュアルの背後の精神性にターゲットを絞った手筋がありありだ。しかもしかもしかも、ベストテンときおったか……」

 実に深筋忠征自身がベストテンの専門家と言うべきであり、スカトロ専門主要十誌の全記事から月間ベストテンを選出し論評するコラムをしばらくの間『美尻マガジン』に執筆していたことがあったのである(自分のベストテン選出が会心であった場合は当のコラムそのものを翌月コラムのベストテンに入れることもあるという異色の自己言及的コラムだった)。

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 「……あえてこちらの土俵で挑むとはな。しかもしかもしかもしかも念入りにも〈補欠〉を三冊加えて情熱を臆面もなく剥き出しにしおって。しかもしかもしかもしかもしかも、色彩の順になっておる。モデルがピュアな餅肌ロリータ顔からだんだんケバケバエゲツナイくすみ肌へ移行していくのが明暗順になっておるのだよ、表情姿勢モノの組織、うーんむ何から何までこの視覚スペクトル。しかもしかもしかもしかもしかもしかも名のみ高く評価定まらぬところが貫禄の定番中の定番・北見書房『THEウンコ』シリーズからあえて補欠含め計四冊もエントリーしておる。この俺が商業誌で言及した名シリーズと知りながら、真向そこから挑んできおった。ふつうならリストにバラエティを持たせようと、一社一冊とか、一シリーズ一冊とかいった下手な色気に惑わされるもんだ。ましてや定番は避けがちなもの。だがこれぞ信念。逃げは打たない。正々堂々、品質本位。中学生の幼稚な無洗練な重複選択と言い捨てられたらどんなに楽なことか。俺の指令というのにアレフ創雅の本を一冊も入れとらんところがまたニクい。迎合なし。こやつは……こやつは……」

 こやつは、こやつはと二十回ほどひたすら呟いた後、深筋は

 「まてよ……、色彩の順?」

 ふと愕然と背筋を反り返らせた。

 「色彩順だと? もしや……!! もしやもしや……!!」

偏態パズル_第83回_02

 ダダダッと階段を上がって書斎の机下に潜り込んだ。わざわざ現物を持ち出さなくても頭に入っている情報ではあるものの(もしやといったらもしや……!)並べてみなくては気が済まなかったその気が急くまま、コルクのCD収納ケースを手に階下へ飛び降りるように駆け下り、桑田康介ベストテンと一対一対応的にケース中味を照合し始めた。深筋コレクションのスペクトルはこうである……

 

① 美尾洋乃『CHLOÉ』SCCD-5004

② AREPOS(れいち)『AREPOS』02

③ 蟻プロジェクト『幻想庭園』H33W20004

④ the sleeping beauty『no sound and no silence』MARE-001

⑤ midori(伊藤真澄)『AURAI』SWCS-00003

⑥ Goddess in the Morning『Goddess in the Morning』ZA-0009

⑦ After Dinner(HACO)『Paradise of Reprica』0-1289

⑧ 招き猫カゲキ団『招き猫カゲキ団第一歌曲集』ZMCD-4

⑨ サボテン『目覚める』SABO-002

⑩ パパイヤパラノイア『もはやこれまで』CAP-1012-CD

⑪ 小田島浩子『合体式組曲』3dl-01

⑫ ソープ嬢変死『ソープ嬢変死』SOAP9201

⑬ 三橋美香子『グレース』JC-003

 

 「どひゃあああ……」

 深筋忠征は溜息に溺れた。

 「見事に対応しきっておる……」

 (色彩の順になっておる……歌い手がピュアな餅肌ロリータ声からだんだんケバケバエグエグくすみ肌声へ移行していくのが明暗順になっておるのだよ……数まで合っておる……)

 (一つ一つ番号順にぴったり一致している……雰囲気が……色合いが……臭気が……)

 (うううぬ……あの小僧は……いかにして知った……いかにして俺のこの女声愛聴盤の並びを知ったのだ……)

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 (いや知るわけがない……これは俺だけの秘密のズリネタだからな……夜更けのオカズだからな……防音二重窓だからな……外へ漏れてはおるまい……)

 (これも……素質なのか……波動か何かを感知する素質……)

 (しかも負けている……俺自身はバラエティを醸し出そうと、アーチストのダブリがないようにちんまり妥協している……。小賢しくバラケさせている……。本来なら歌姫〈れいち〉の再出現を厭わずウニタ・ミニマ『世界の縁』をサボテンを落としてでも入れるべきであったし、招き猫カゲキ団とのメンバーカブリを避けずに名曲「真暗闇――ある日の光景――」を含むZELDA『ZELDA』は決して外してはならなかった、たとえパパイヤパラノイアを省略してでも。バラエティより品質を優先すべきであった……小僧の信念に及ばぬとは……ああ……)

 (しかも小僧はメジャー中のメジャー『THEウンコ』シリーズをあえて避けなかった。品質本位に徹した。俺もここはインディーズ系で統一などせずに、たとえば川村万梨阿『「春の夢」――サンクタス――』と薬師丸ひろ子『シンシアリー・ユアーズ』は外してはならなかった……代わりにソープ嬢変死やthe sleeping beautyのような目利き路線を手放さねばならぬとしてもだ。マイナー好みを誰に対して誇ろうと? 決して他者に見せぬ自分用コレクションに見栄を張ってどうする……日記に嘘を書いてどうする……小僧ですらその誘惑に負けなかったのに……俺の方が負けた……誘惑にも小僧の率直さにも負けた……自信の度合いで負けた……)

 まがりなりにもおろち学の任意の分野を志す読者諸氏はすべからく、桑田-深筋一対の13項目リストを見比べて、スカトロビニ本、女声アルバムという二大芸術分野のクオリア的一致同化ぶり、スペクトル対応ぶりに感嘆すべくして感嘆していただきたい。

 一対の濃淡変化・見事完璧相似ぶりを。

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 このような感性深部からの「質的納得」こそが、おろち学諸分野を窮めるための必要条件となるのであってみれば。

 (悔やまれる……ズリネタ的正直にパッキングしてさえいればかくも綺麗な対応が整いはせずかくも小僧の素質に動揺せずに済んだものを……せめて洋モノを壱枚、ケイト・ブッシュかメレディス・モンクでも投入していたら……いやいっそのこと懐かしきカーペンターズを正直に壱枚入れておったら……生涯封印覚悟であのあたりをここに登録していたら……)

 いずれにせよ(ううむ……小僧……)

 この深筋忠征の桑田康介への脱帽ぶりは、まさに――

 印南哲治が袖村ビジュアル体質と蔦崎クワサレ体質に愕然としたおろち史大蠢動の――

 ささやかな予兆であったと言いうるかもしれない。

 蔦崎事件、印南事件という二大本番本体の当日においておろち派がいかなる波及を見せたかはまだ未解決領域をなしているが、この「古豪深筋忠征発新鋭桑田康介着脱帽事件」という地味に隠れたそのじつターニングポイントの当日に、日本列島・千島列島・奄美群島・琉球諸島・伊豆諸島・樺太島・台湾島・朝鮮半島・アリューシャン列島および中華人民共和国沿岸部全域に居住の全老若男女における排便量が日間平均の四倍半を記録したという事実が後に桑田康介自身の主宰したおろち考古学共同研究チームにより突き止められている。

偏態パズル_第83回_05

 なお、「せめてケイト・ブッシュ……」という深筋的反省的弁明については、もしそうなされていたのであれば、桑田康介持参のベストテン『糞楽園』の位置に『奴隷キャサリン』(大共出版)が入っただけだろうとの結論がおろちシミュレーション学の今や定説である。ビニ本時代には希少な白人モデル起用の脱糞写真集『奴隷キャサリン』は、M字開脚も見掛け倒しきわまる極細軟便垂れ流しにとどまっており、そんな激ショボ駄作にあえてベストを名乗らせることに「洋物一点配置という一致」への康介的感応素質をまさに見て取り、さらにさらに弩衝撃を駄目押し的に受けまくる深筋忠征だったことであろう。

 ちなみに――

 音楽においておろち文化性を最も高濃度含有するジャンルがアンビエントミュージックであることが証明されて久しい今となってみれば――

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(第83回 了)

 

* 『偏態パズル』は毎月16日と29日に更新されます。

 

 

 

 

 

 

 

天才児のための論理思考入門  下半身の論理学