アリス失踪!_05_cover_01ポスト・モダニズム時代において、オリジナルからの引用・二次創作・パラレル創作の問題は避けて通れない。ならば翻訳とはなにか、翻訳はどこまで創作の謎に近づき得るのか・・・。英文学者で演劇批評家でもある星隆弘が、『不思議のアリス』の現代的新訳に挑む!。文学金魚奨励賞受賞作。

by 星隆弘

 

 

 

 

 

第五回 イモムシさんのアドバイス!

 

 

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イモムシさんとわたし、しばらく見つめあってたの、話を切り出せないまま。そしてやっとイモムシさんがくわえてた水キセルを離したと思ったら、ぐだぐだした声で眠たそうに言うの。

「で、あんた誰?」

ずいぶんなご挨拶でしょ、これからおしゃべりしましょっていうのに。

 

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わたしも気まずくなっちゃって「えぇと、よくわからないんです、今はよくわかんなくて、でも今朝起きたときはわかってたんです、わたしがだれだったか、でもたぶんそれから何回も変身しちゃったっぽくて」って、おろおろしちゃって。

 

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「なにが言いたいの?」イモムシさんこわい顔で言うんだ「あんたが誰かって聞いてんの!」

 

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「わたしが誰かは言えません、キョーシュクですが、だってわたしはわたしじゃないんですよ、ね?」

 

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イモムシさん「さあね」

 

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「モーシワケないのですけど、わたしこれ以上はハッキリ言いようがありません」わたしは礼儀正しいったらないでしょ。

「と言いますのも、そもそも自分でもハッキリしてないわけですから。一日のうちに何度も何度も大きさが変わっちゃうんですもん、混乱して当然です」

 

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イモムシさん「どうだかね」

 

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「それはたぶん、まだご存じないからでしょ。でもあなただってサナギに変身することになるわけだし、いつかは変身するでしょ、そしたらちょうちょにも変身するでしょ、そのとききっとヘンな気分になりますよ、そう思いません?」

 

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イモムシさん「ぜんぜん」

 

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「あなたは感じ方がちがうのかもしれませんけど、それは知りませんけど、とにかくわたしにとってはすっごくヘンなんです!」

 

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イモムシさん「で?誰なのあんた?」

 

なにこいつバカにしくさって!

 

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これでまたふりだしにもどっちゃったわけ。わたしムカついてきちゃってさ、だってなんで向こうはボソッとしかしゃべんないわけ?だからね、わたしぐっと背伸びして、びしっと言ってやったの。

「先に名乗るべきなのはあんたのほうじゃないの?」

 

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イモムシさん「なんで?」

 

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なんでってなに、わけわかんない。でもわたしもいい返しが思いつかないし、イモムシさんもなんか超イヤそうにしてるし、もういいや行こうと思って。

 

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なのに「ちょい待ち」って引き止めて「大事な話があるから」とか言いだすからさ。

わたしも、あ、これはマジな話っぽいなと思って、回れ右で戻ってみたんだけどさ。

 

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「イライラしないこと」

だってさ。

 

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「は?それだけ?」

これでもマジでキレそうなのをぎりぎりガマンしたんだから。

そしたらイモムシさん「いんや」って言うの。

 

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あ、そう、じゃあもう少し付き合ってやるかと思ってさ、他にすることもないし、なんだかんだで聞いといてよかったってことが出てくるかもしれないし。

 

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それから何分待ったかな、イモムシさんはだまって水キセルをプカプカしてたんだけど、やっと腕組みをほどき、くわえてた水キセルを離して、こう言うの。

「で、あんたは変身しちまったと思うわけね」

 

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「だと思います。前には覚えてたことも思い出せないし、10分間だって同じ大きさでいられないんですよ!」

 

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「思い出せないって、どんなことを?」ってイモムシさんが聞くからさ、「ちびっこミツバチはたらいて」を歌ってみようとしたんだけど、なんか詞が全然ちがうんですって話をしたの。自分で言うのがすごいユーウツ。

 

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そしたらイモムシさんが「ウィリアム父さん、いい歳こいて」ならどうかって言うから、手を組んで歌ってみたんだけどね。

 

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「ウィリアム父さん、いい歳こいて

髪の毛だって真っ白い

なのに年中逆立ちしてて

年甲斐もなくって思わない?」

 

父さんせがれに「若い時分にゃあよ

脳みそつぶれるとびくびくモンでも

こちとらおつむがからっぽだとよ

そんならやるわい、いくらでも」

 

「何度も言うけど、いい歳こいて

こんなデブちんはふたりといない

なのに戸口の出入りにバク宙決めて

ねえ、そりゃどういうわけだい」

 

父さん白髪乱して仙人ぶってさ

「若え頃から全身しなやか

一箱1シリングの軟膏ぬってな

お前にも二箱売ってやろうか?」

 

「いい歳こいて、あごもがくがく

脂身より硬いのは食べられない

なのにガチョウは骨ごとがつがつ

ねえ教えてよ、どうやったんだい」

 

「若え頃にゃあ法律かじって

なにかにつけてはカミさんと議論だ

おかげであごが鍛えられて

いまだにがっしり達者なもんだ」

 

「いい歳こいて、ふつうはさ

昔ほど目が見えねえもんだよ

なのに鼻先で鰻を立てる離れ業

見事なもんだがどこで覚えたよ?」

 

「三つも答えた、まだ聞くってか?

口の減らねえ無駄口小僧!

こんな問答で一日つぶせってか?

しっし、階段から蹴落とすぞ!」

 

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イモムシさん「まちがってるねえ」

 

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「まちがってますよねえ、たぶん」わたしも自信なかった。

「ところどころ言い間違えちゃって」

 

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「というより、まるでちがってるよ、頭から終わりまで」イモムシさんがそうずばっと言うから、しーんとしちゃったよ。で、何分かして、口を開いたのはイモムシさんのほうだった。

「どのくらいの大きさになりたいの?」

 

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「えっと、はっきり決まってるわけじゃないんですけど」わたしあわてて答えたの。

「とにかく、あんまりしょっちゅう伸び縮みしないほうがいいかなって、そう思いません?」

 

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イモムシさん「思いません」

 

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もうさ、言葉に詰まっちゃった。こんなふうにわたしがなに言っても否定されるのって生まれてはじめて。だからわたしまたムカついてきちゃって。

 

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「で、今の大きさでは足りてるわけ?」

「えぇっと、もう少し背が高いほうがいいです、できればですけど。だって身長8センチってあんまりみじめじゃないですか?」

 

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そしたらね「どこがみじめだ!立派だろ!」って、イモムシさん怒り出しちゃって、怒鳴りながらむくっと後ろ足で立ち上がったのね(それがちょうど8センチなの)。

 

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「でもわたしはこの大きさに慣れてないので!」こんなふうに言い訳するかわいそうなわたしは、やっぱりみじめだよね。でもって、ほんと思う、なんでここの人たちはみんなこんなにすぐ怒るんだろう。

 

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イモムシさんは「じきに慣れるもんよ」とか言って、また水キセルをくわえてプカプカし始めた。わたし今度もじっとガマンして何か言い出すまで待ってた。で、1分か2分くらいプカプカしたあと、イモムシさんは水キセルを離して、ふわぁーほわぁーってあくびして、ぶるっと身ぶるいして、

 

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それからきのこを降りて、草むらにのそのそ入っていっちゃった、これだけ言い残してね。

「大きくなるならかたっぽ、小さくなるならもうかたっぽ」

かたっぽとか、もうかたっぽとか、何のよ?

 

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わたしがそう思ったときに「きのこの」ってイモムシさんの声。まさかわたしの心の声聞こえてた?つぎの瞬間にはもうどこにも姿が見えなくなってたけど。

 

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わたし、そのまま1分間じーっときのこを見つめて考えたんだ、どこがイモムシさんの言うかたっぽともうかたっぽなんだろうって。でもきのこまんまるじゃん、超難問なんですけど。

結局、腕を思いっきり広げてさ、きのこのかさのはしっこを両手の先でちぎってみた。

 

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で、どっちがどっち?ってわたしブツブツ言いながら、ためしにまず右手のきのこをちょこっとだけかじってみたの。そしたらいきなりあごの下をガツーンってぶつけちゃって、何にぶつけたのかと思ったらわたしの足だった!

 

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これはマジでビビるでしょ、いきなり縮みすぎ!でもぐずぐずしてる暇はないの、どんどん縮んでいってたから。だからすぐに左手のきのこをかじろうとしたんだけど、あごが足にぎゅうぎゅう押し付けられちゃってて全然口を開けられないの。

 

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それをなんとかやっとこじ開けて、左手のきのこを一口かじって飲み込んだんだ。

 

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「ふいー、やっと首が楽になった!」って喜んだのもつかの間、ひいぃっ!って悲鳴に早変わり。だってわたしの肩がどこにもないの、下に見えるのは首だけ、しかもめっちゃながい!ずーっと下のところに広がってる緑の葉っぱの海の中から、わたしの首だけが煙突みたいににょきっと突き出してたんだ。

 

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なに、なんで一面緑色なの?わたしの肩どこいったの?あれー、わたしの手は?どうしていなくなっちゃったわけ?

 

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ブツブツ言いながら、腕をぐるぐる振り回してみたんだけど、別になにも変化ないし、ずっと下の緑がかさかさ鳴ってるだけでさ。手を頭の高さまで持ってくるのは無理っぽい。じゃあもう頭を手のところまでつっこんでみるしかないよね、さいわい首は前後左右にくねくね動くの、なんかヘビみたい。

 

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頭を降ろすのはなんてことなくて、首をくねくね曲げたらするするいけた。でも、ちょうどわたしがうろうろしてたあたりの森の真上から葉っぱの中に潜ってみたときだったんだけど。

 

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突然シュバッて音がしたもんだから、びっくりして首を引っ込めちゃったんだけど、そこに大きな鳩が顔めがけて飛んできてね、羽でバシバシ叩いて「ヘビめ!」って叫ぶの。

 

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だから怒鳴っちゃった。

「わたしヘビじゃない!」「こないで!」って。

 

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鳩はまだ「ヘビでしょ、ヘビ!」って騒ぐんだけど、でも急に声が弱々しくなったなって思ったら、こんどは涙声。

「全部試したの、全部うまくいかないの!」だって。

 

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「ねぇちょっと、わかんない、なんの話なの?」わたしがそう聞いてみてもさ「木の根のかげも試したし、土手も試したし、垣根だって試したけど」って鳩はうったえるばっかで、わたしの言うことはちっとも聞いてないし。

「なのにヘビってやつは!どこまでしたら気が済むの!」

 

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わたしはますます困っちゃった。でもなにを言っても始まんないなと思ってさ、鳩の気が済むまで待つことにしたの。

 

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「卵を抱くのがたいした苦労じゃないとでも言うの、ヘビがこないかずっと見張ってなきゃならないのよ、夜も昼もないの!アタシなんて、アタシなんてもう3週間、一睡もしてないんだから!」

 

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「かわいそうに、つらかったんだね」

やっと話が見えてきた。

 

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「森で一番高い木に巣を作ったの、そこにさ」って鳩は続けて、声がキンキンするほどがなるわけ。

「ああこれでやっとヘビの心配をしなくて済むわって思ったの、そこにさ、こんどは空からにょろにょろ下りてきて、どうしてもつきまとうっていうの!?この、ヘビやろう!」

 

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「ヘビじゃないって言ってるでしょ!ちがうの、わたしは」

「は!じゃあなんだっての?口からでたらめでごまかそうったって無駄よ!」

 

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「あの、わたしは、わたしは女の子なの」

やっとそう言えたのに、わたしも自分で信じられなくなってた、だってわたし今日だけで何度変身したのか思い出しちゃったから。

 

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「へぇー、よく言うこと!」

わたしのこと最高に軽蔑してるよね、これ。

 

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「女の子ならアタシもごまんと見てきたわよ、でも誰ひとりそんな首のにょろにょろした子はいなかったわよ!バカ言うんじゃないよ!あんたヘビでしょ、否定したって無駄よ、どうせ次は、卵なんて食べたこともないの、とか言うつもりでしょ!」

 

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「卵は食べるでしょ」

わたしってほら、嘘つけないひとなんだよね。

「でも女の子ってヘビに負けないくらい卵食べるもんでしょ」

 

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「知らないわよ!」鳩が言うの。「そうだってんなら、女の子もヘビと同類よ、アタシに言わせればね!」

まさに目からウロコってやつ。なるほどなーと思って、1分か2分、しばらくなにも言えなかった。

 

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そこで鳩がまたしゃべりだして「あんた卵探してるんでしょ、わかってんだから。あんたが女の子でもヘビでも、この際どーでもいいのよ!」って言うの。

 

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「わたしにはどーでもよくないの」わたしもとっさに言い返した。

「あいにく卵なんて探してないしね。それに、もし探してたとしたって、あなたの卵なんていらないし。生卵は好きじゃないもん」

 

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「じゃあ早くどっかいってよ!」って怒鳴って、鳩は巣に帰っちゃった。

それからわたし、なんとか木の間をすり抜けてかがみこんだの、じゃないと首が枝にからまって、しょっちゅう立ち止まって首をほどかなきゃいけなかったからね。

 

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でもそんなこんなしてるうちに思い出したの、手にきのこをにぎったままだったこと。わたしもうめっちゃ慎重になってね、まずかたっぽのをちょびっとかじってみて、それからもうかたっぽのをまたちょびっと、そのたび伸びたり縮んだりしたけど、やっと元通りの身長に落ち着いたんだ。

 

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もうほんと久しぶりに元に戻ったからさ、最初はなんかむしろヘンな感じがしたの、まあでも何分かしたら慣れてきてね、いつもみたいに一人でおしゃべりしはじめた。

 

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ほら、これで計画の半分は達成じゃん!もうやばすぎ変身しまくりだよ!つぎはどうなっちゃうんだろう、さっぱりわかんない、1分先のことすらちっともわかんない!でも、やっと元の大きさに戻ったし、次こそあのかわいいお庭に出なきゃ、でもどうしたらいいんだろ?

 

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そうやっておしゃべりしてるうちに、突然ひらけたところに出たみたいで、そこにちっちゃいお家があったんだ、屋根のてっぺんまでで1メートル半もないくらい。

 

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で、わたし思ったの、誰が住んでいるにしたって、この大きさのまま会うのはやめとこう、だってびっくりしすぎて頭のネジが吹っ飛んじゃうかもしれないし!

 

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というわけで、右手のきのこをまたちょびっとかじって、身長を20センチくらいまで縮めてから、お家に向かって一歩を踏み出したんだ。

 

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(第05回 了)

 

 

* 『アリス失踪!』は毎月09日に更新されます。